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第29話 黒幕

 

 

 

 

 龍楽が魔物退治から戻った犬神神社。彼からの報告を受けると犬神月代と姉の千鶴は抱き合い、そして涙を流して喜び合った。姉妹とその両親を交えて歓喜の声が響く境内。少しして神社へと続く階段の方からバタバタとたくさんの人が押し寄せる足音がした。「来たか。」気配を察知した龍楽は「さて」と呟く。彼は月代に「客人のようですよ」と伝えると襟を正して彼女が来訪者を迎え入れる事に備えた。



自作小説『Dime†sion』 =第29話=



 目の前にはニコニコと人の良さそうな笑顔をたたえた男が座っていた。男の名前は“江成=えなり”。この村の村長である。「この度は、この村に災厄をもたらしていた2匹の化け物を退治していただきありがとうございます。」深々と江成が龍楽に頭を下げると続いて後ろに控えていた村の男衆も伏した。「いえいえ、感謝いただくには及びませんよ。」龍楽が彼らを御すると顔を挙げた村長の江成が彼に言う。「龍楽様。今宵は祝いの宴を催しますのでぜひご参加下されませんか。」江成は龍楽の偉業に、村を挙げた宴を行うと言う。月代と千鶴、そしてその両親も「それは良い」と龍楽に参加を促した。


 穏やかに微笑む江成を平静を装いながら冷ややかな視線で見据える龍楽がここにいる。龍楽がその疑問を抱いたのは金剛の一言だった。金剛は確かに言ったのだ。「私は“陸の物を喰わぬ”」と。途端、龍楽の心中にこの薩摩の国の生贄騒動への疑惑のさざ波がたった。


 龍楽は悪業と金剛、三人でひらかれたあの夜の宴の中で二人に聞いた。「悪業と金剛よ、尋ねたい事があるのだが。」夜も深まった泉のほとりで酒を酌み交わす手が止まる。「なんだ、龍楽よ。」悪業と金剛が声を合わせて問うと龍楽が返した。「この近くにお主達へ生贄を捧げる風習のある村があるが心当たりはあるか。」龍楽が質問すると悪業と金剛は「生贄など知らない」と答えた。金剛が言う。「そう言えば、私の住む入り江には毎年、夏に若い娘の亡骸が必ず一度浮かんでいる。哀れに思って弔ってやっているよ。」金剛に続き、悪業が答えた。「ワシの住む山には毎年、冬に女の死体が打ち捨ててある。食料が乏しい季節だ。無駄にはできんとワシはありがたくいただいたよ。」龍楽の質問に答えたそれぞれの経緯は違えども共通して言える事は二人とも“生贄を要求した事はない”と言う物であった。


 村長の江成が龍楽の顔色を窺っている。黙っていても問いただしても仕方がない。龍楽は口を開くと「ありがとうございます」と答えた。「ですが、宴への参加はご遠慮いたす。」龍楽の返答に一同が目を丸くした。「なぜですか。」江成が問うと龍楽がゆっくり答える。「私は僧侶にて、肉も酒も食べません。それに少し疲れていますので。」龍楽が述べた理由は「なるほど、それでは仕方ない」と皆が納得する物であった。「そうですか。それは仕方ない。」江成は執拗な誘いはすまいと身を引く姿勢を示した。するとその瞬間、神社の敷地から小太郎のけたたましく吠える声がした。「おや、何事でしょうか。犬が激しく吠えていますね。」龍楽が白々しく言うと江成のにこやかな瞳の視線が鋭く変わった。「はて、どうしたのでしょうね。」そう言うと江成はさっさと立ち上がり付き添いの者達にも帰り支度をさせる。そして去る寸前、少し立ち止まり江成は龍楽に1つ質問をした。「龍楽様、1つお聞きします。魔物達は生贄となった娘達の末路を話しましたか。」江成の問いに龍楽が答えた。「いやいや。左様な魔物が人を喰らう話など聞きたくはなかったので尋ねませんでした。」江成は質問の答えを聞くと「そうですか」と答えた。そして身を翻し、「では、失礼いたします」と去って行く。外では小太郎が何かを追い回し吠えていた。


 事の顛末を見届けると月代の母は龍楽に食事を勧め風呂の支度をした。龍楽は「ありがたい」と言うとその施しを受ける。外の景色は夕暮れとなり真っ赤に染まっていた。風呂に入った龍楽は準備された寝床に早々に入ると「明日は早いので」と言い残し、就寝の態勢に入った。遠くで小太郎の鳴く声がする。「人とは、時におぞましき者よ。」龍楽は呟くと激戦の疲れからすぐに眠りに落ちた。外では小太郎が勇者を守る為の戦いを続けていた。それは事実を知られる事を恐れ、真相を隠蔽する事に執念を燃やした悪鬼達の最後の抵抗であった。



自作小説『Dime†sion』 =第29話=



つづく




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