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第26話 修羅

 

 

 

 

 「“悪業=おごう”よ、勝負の判定に不満があるようだな。」意識を取り戻した悪業はすっかりふてくされていた。むくれる悪業に龍楽が問う。「悪業よ、なぜ負けを認めない。それでは大猿王の称号が泣くぞ。」龍楽の物言いに悪業が声を荒げた。「龍楽、貴様は逃げ回っていたばかりだ。ワシは決して負けてなどいない。力ならワシの方が遥かに強いのだ。」鼻息を荒くする悪業にため息混じりに龍楽が答える。「わかった。もう一勝負してやろう。それで負けたら観念しろよ。」始める前からの龍楽の勝利宣言に悪業のこめかみ辺りからブチブチと音がした。「やったらぁ。」怒髪、天を衝いた悪業が勝負を受け、今、第二回戦が始まる。


 「勝負は簡単だ。より大きな岩を、より遠くに投げた者の勝ちだ。」龍楽が内容を伝えると悪業は大声で笑った。「なんだ、そんな簡単な勝負で良いのか。では、受けてやろう。」身の丈“2丈=6m”の悪業は自分の半分にも満たない龍楽を見て勝利を確信した。「では、ワシからやってやる。」そう言うと悪業は近くにあった重さ“2000貫=7.5トン”はあろうかという大岩を持ち上げて投げ飛ばした。岩が地面に落ちるとドゴンと地響きが鳴る。「ガッハッハ、どうだ。」自慢の腕力を存分に見せつけ、勝利を確信した悪業はドカドカと胸を叩いて高笑いをした。


 「それでは、次は私の番で良いか。」平静を崩していない龍楽の言い方に悪業の顔色が変わり手が止まる。「貴様、あれ以上の大岩を持ち上げられると言うのか。」ワナワナと悪業が小刻みに震えながら問うと龍楽は「さぁ、どうかな」と言い返した。


 「悪業よ、私がどれくらいの岩を持ち上げられると思う。」不意に龍楽が問うと悪業は少し考えてすぐ横にあった重さ“20貫=75キロ”ほどの岩をひょいと持ち上げた。「いや、まだまだだな。」龍楽が否定したので悪業は少し離れた所にあった先ほど持ち上げた岩の倍くらいの岩を持ち上げた。「では、これくらいか。」悪業が聞くので龍楽が「いや、まだまだ」と答えた。そんな問答が4〜5回続いた頃、悪業が持ち上げる岩は最初に悪業が持ち上げた2000貫の岩に近くなっていた。そんな時、龍楽が悪業に言った。「悪業よ、私を侮っているだろう。私が持ち上げられる岩はもっと大きいぞ。」龍楽の物言いにムキになった悪業が怒りを爆発させた。「では、貴様が持ち上げられる岩はこれぐらいか。」そう真っ赤な顔で叫ぶ悪業の頭上に持ち上げられた大岩は優に“3000貫=約11トン”はある物だった。


 「それくらいで良いだろう。」悪業が大岩を頭上に高々と上げたのを見計らって龍楽は彼のもとに歩みよるとその脇腹をくすぐった。「うわっ、何をする。」突然、脇腹をくすぐられた悪業から力が抜ける。すると頭上から3000貫の大岩がのしかかった。「ぐわっ、あっ、危ねぇ。」悪業は頭上から襲い来る大岩の重みを踏ん張ると渾身の力で「どりゃあっ」と投げ飛ばした。途端、大岩が地に落ちると周囲の地面が激しく揺れる。「おのれ、龍楽。何をする。」龍楽の行いに憤慨した悪業が怒鳴った。そんな彼をよそに龍楽が言う。「おぉ、よく飛んだなぁ。」龍楽が指を指し示すので悪業がそちらを見ると先ほどの3000貫の大岩は悪業が投げた2000貫の岩よりも遠くに投げ飛ばされていた。「どうやら、この勝負も私の勝ちのようだな。」ニコニコと龍楽が言う。「ふざけるなっ。」悪業が今の勝負に物言いを付けた。「ふざけるなと言われても、どう見ても私の勝ちだろう。」龍楽が困り顔で悪業に答えた。


 「悪業よ、勝負は私の勝ちで間違いないぞ。」龍楽はアゴを指先で掻きながら言う。「認めん。認めんぞ。」悪業は怒り狂って答える。龍楽が言った。「悪業よ。私はどちらがより大きな岩を遠くに投げ飛ばせるかを勝負の決め手にしたのだ。どちらが重い岩を持ち上げられるかは問題ではなかったぞ。」条件の抜け道を取った龍楽の言い草に悪業は口ごもった。龍楽が続ける。「私は私が出来ない事を手段はともかくお主を頼って成し遂げたのだ。それは批判されるような物ではない。自身が出来ないなら出来る者に任せるのは立派な方法の一つだ。」悪業に反論の余地はなかった。そして龍楽はこの勝負を締めくくるように最後に言う。「それに気付け、悪業よ。お主は私の助力を得て限界を超えた大岩を持ち上げられたのだ。これは私がいたゆえだ。感謝こそされても、恨まれる覚えはない。」悪業が唸った。言い返す言葉はもうなかった。


 「ワシは負けてはおらぬ。」この場に及んでも悪業は自身の敗北を認めなかった。龍楽はもはや悪業の諦めの悪さに呆れ顔だ。龍楽は言った。「悪業よ。お主は勝負の決着を生死でしか決められない男なのか。」龍楽の言い方に悪業の表情が険しくなる。そんな悪業を睨みつけると龍楽が言った。「お主がまだ勝負を望むなら私は受けて立とう。次の勝負は鬼ごっこでもやるか。貴様が逃げて、私が追いかけてやろう。一瞬で捕まえてやる。それが3回目の貴様の敗北だ。」悪業が龍楽の言葉に表情を変えたじろいだ。「それとも、貴様が望むようにお互いの生死を決め手に殺し合いを勝負とするか。ならば、私も己の禁を破りその勝負を受けてやろう。ただし、その勝負を申し出るなら貴様が本当に私に勝てるかよく考えてからにしろ。もう容赦はしない。さぁ、どうする。」龍楽のいつも温厚の顔が憤怒の表情に変わっていた。悪業は龍楽の言葉が終わると即座に「殺し合いで勝負だ」と言おうとした。だが、声は喉でつまりその身はブルブルと震えていた。悪業は自身の身の丈の半分にも満たない人間に恐怖している自分に気付いてしまう。そしてついにその口から最後の言葉を告げる。「龍楽、ワシの負けだ。」悪業が負けを認めると龍楽はニコリと笑って高らかに宣言した。「これにて、大妖、悪業の退治完了だ。」龍楽は名ばかりとはいえ、志は僧侶である。例え、魔物と言えども無益な殺生はしないという気高い思いは間違いのない物であった。その日の夕刻、火の山の麓に狼煙が上がった。龍楽からの合図を受けて待ち合わせ場所に出向いた大妖、“金剛=きんごう”は驚愕の光景を眼にする。「まったく、たまげた奴だよ。」金剛を出迎え、彼に手を振る龍楽はいつものように無邪気な笑顔であった。ただ一つ、異様であったのはその後方に恐ろしい魔物を従えていた事。それは龍楽が殺魔の国の魔物を完全調伏した証であった。



自作小説『Dime†sion』 =第26話=



つづく




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