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第25話 逃げの一手

 

 

 

 

 怒りに我を忘れた大猿は辺り構わずその二本の豪腕を振り回した。周囲にあった岩の塊達は粉砕され砂となる。激闘を繰り広げる龍楽と大妖、“悪業=おごう”の場は、直径“1町=約110m”ほどの平地に変わっていた。


 「グオオオオオォッ。」雄叫びを上げた悪業が全てを破壊するかのように右腕を大地に突き立て、爆音と共に大穴を空けた。だが、龍楽はまたも悪業の猛烈な攻撃を交わすとトントンと距離をとる。このような追いかけっこの攻防がもう“一刻=2時間”も続いていた。「おのれ、龍楽とやら。逃げるばかりではワシには勝てんぞ。」恐ろしい声で「忌々しい」といった感情を龍楽に吐き捨てる悪業。龍楽が返した。「いやいや、悪業よ。自慢の豪腕も当たらねば私には勝てぬよ。」またも龍楽が鼻で笑いながら挑発混じりに言う。さらに続けた。「どうやら、身軽さならば私の勝ちのようだが。どうかな、のろまな悪業殿。」罵られた悪業がさらなる怒りをあらわにし、怒声をあげて再度龍楽に襲い掛かる。だが、そこからまた“半刻=1時間”過ぎても悪業の攻撃が龍楽に当たる事はなかった。


 「観念しろ、龍楽。逃げてばかりではワシに勝てぬとわかっておるだろう。」息を切らしながら悪業が龍楽に言う。龍楽が言い返した。「あいにく、私は斬った張ったをする腕は持ち申さん。それに力に力で応ずるは愚の骨頂。逃げの一手に勝機を見出すは兵法の極意だ。悪業よ、お主こそ私に勝てぬと悟り観念いたせ。」龍楽は弾む息を押し殺してさらに悪業を挑発した。「ほざけぇっ。」吠えた悪業の口から炎がほとばしり龍楽に直撃した。メラメラと炎上する龍楽の体が前のめりに倒れる。「ガハハハ、ざまぁみろ。くそ坊主。」必殺技を繰り出した悪業が高笑いを上げた。


 火の山に悪業の笑い声がこだましていた。悪業は胸をドカドカ叩いて勝ち名乗りをあげている。すると声が響いた。「悪業殿、えらくご機嫌ですな。」突然の声に悪業は龍楽の倒れた場所に目を移す。そこには確かに燃える龍楽の亡骸があった。「こっちだ。」悪業は後ろから声がしたので慌てて振り返る。すると眼前には龍楽が立っていた。「なんだ。どういう事だ。」混乱する悪業に龍楽が答えた。「悪業よ、よく見ろ。燃えているのは私の法衣だけだ。“空蝉の術”という技だ。私はお主が火を操ると聞いておったから何かして来るだろうと警戒していたのだ。」奥の手をよけられた悪業がブルブルと震えていた。すると龍楽はついにかぶっていた龍骨の兜を脱ぐと悪業に言った。「さて、悪業殿。そろそろ降参なさらんか。でなければ、私も次は兜を脱いで本気を出すがそれを捕らえる事がお主に出来るか。」これまで必死に追い回していた龍楽が本気を出していなかった事実は悪業に衝撃を与えた。負けを認めまいとする悪業は龍楽に抱いた恐れを振り切りさらに攻撃を加えようとする。しかし、足がもつれて無様に龍楽の目の前に倒れた。「成敗。」力なく平伏す悪業の頭を龍楽は殴るでもなくワシャワシャと撫でくった。この瞬間、龍楽の完全勝利が確定。火を噴く山の主、大妖、悪業は白目を剥くと泡を吹いて気を失った。




自作小説『Dime†sion』 =第25話=



つづく




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