第14話 隻眼の岩鉄
「つっ、強すぎる。この坊主、何者だ。」海賊達は戸丸の鬼神のような強さに震撼していた。圧倒的な腕力を武器に海賊達をなぎ倒す戸丸はカッカッカッと高笑いを続けている。「よぉし、じゃあ次は俺が相手だ。」たった今、腕相撲で15人抜きを達成したばかりの戸丸に新たな挑戦者が現れた。戸丸は下ろした袖を再び捲り上げると腕を突き出し「来い」と迎え撃つ。彼の後ろに控えた小太郎は戸丸の元気な姿を喜んでいた。
戸丸が小舟の上で気を失ってから少しして、彼はどこぞの小島にある海賊達の拠点となる洞窟の中で目を覚ました。戸丸も小太郎も、牢に閉じ込められてさえいなかった。薄い煎餅布団に寝かされていた戸丸は起き上がると自分を手厚く介抱してくれていた女性にお礼を言った。
洞窟の中の海賊達は陽気であった。「おぅ、坊さん。起きたか。坊主だけにケガなくて良かったな。」気軽に戸丸に声を掛けてくる海賊に敵意はなかった。何も言われないのでしばらく散策していると海賊達が群がって盛り上がっている。執り行われていたのは力試しの腕相撲大会であった。腕力には自信がある戸丸は鼻息を荒くし、勇んで参加を申し込んだ。
はしゃぐ戸丸をよそに小太郎は内心、少々複雑だった。戸丸は船上で気を失う直前、小太郎に「良いか、小太郎。何があっても唸り声一つ上げるな」と指示を出していた。小太郎は彼の言い付けを守り失神した戸丸が乗る小舟に海賊達が乗り込んで来ても置物のようにピクリとも動かなかった。だが、それでもしも戸丸に何かあれば自分はどうすれば良いかと気がかりでならなかった。
「せいやっ。」戸丸が声を張り上げるとバシンと大きな音がして海賊がまた一人崩れ落ちた。ハッハッハと腕をブンブン振りながら大笑いする戸丸。彼の強さに海賊達は戦意を喪失し、次に挑む者はいないかに思えた。
「おい、坊主。ワシがやってやるよ。」洞窟の奥から巨漢の老人が現れて戸丸に言う。老人はギラギラと光る隻眼で戸丸を睨みつけるとドカンと台の反対側へ座った。「うぉお。岩鉄さん、俺達の仇を討ってくれ。」老人が座ると周囲の海賊達が大熱狂を見せた。岩鉄と呼ばれる老人は丸太のような腕を台にゴツンと置くと「かかって来い」と戸丸に差し出す。戸丸はその手を見据えるとにこやかに「お願いします」と言い、そっと握り締めた。「始め。」海賊の1人が開始の合図を告げると2人が闘う舞台がズシンと地響きを上げた。
自作小説『Dime†sion』 =第14話=
つづく




