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第0話 転生への望み

 

 

 

 

 この引き金を引けば世界の真実が知れるはずだ。そう信じた私は、己のこめかみに当てた銃口に答えを求めた。どうしようもなく知りたくて、力の限り追い続けた。今、その真相が明らかになる。そう思うと歓喜に震える心理と同時に、裏腹な代償となる死に奥歯が鳴った。直後、私の右側で乾いた音が響いた。そして、力無く銃を握りしめ横たわる自身の亡骸を見つめる薄い存在だけの私がいた。答えは私の求めたがままの真実で得られた。そして、それは旅立ちの時間の訪れであった。


 『Dime†sion』


 2人でなら生きていけると思っていた。2人でならどんな苦難も乗り越えられると信じていた。重ね合わせ続ける唇が何よりも幸せだった。だけど、そんなあなたはもういなくなってしまった。1人ではどうしようもなくて、1人ではなにも出来なくて、辛さに身を引き裂かれる毎日。登りつめた階段の先にある高台から見晴らす景色が美しかった。青い、青い、あの景色。もしもこの体があの青に溶け込めたなら、私はまたあの時間に戻れるのだろうか。そう考えた直後、私の意識は宙に舞った。


 『Dime†sion』


 あいつは、何をしても俺より上だった。勉強は俺より出来るしルックスだって俺よりずっと上だ。しかし、この風のように速く走る足だけは俺の方がずっと上だった。けれど、そんな唯一自慢の足は失われた。猛スピードで襲いかかった鋼鉄の車体に俺の両足はズタズタに引き裂かれ、今はもう付いていない。心の寄りどころを無くした俺はこれからどうすれば良いのかわからない。わからないまま生きていく。この先、ずっとずっと、ずっと。


 『Dime†sion』


 金が全てだ。金こそが全てなのだと信じていた。俺は金の為ならばがむしゃらになんでもやった。世間では俺を守銭奴だとか悪党だとかぬかし、軽蔑の眼差しを送る者達ばかりだった。だが、それは弱者の戯れ言だ。俺のような生き抜く力を身に付けた強者になれない敗者達の遠吠えなのだ。俺は俺を信じ続けた。されどあの日、俺が信じた力は、金は全て泡のように消えた。何が悪かったのか。何を間違えたのかさえわからなかった。迷いは絶望の中、鋭い刃となり俺の肉体は暗い海の何処かへと泡と流され散って消えた。


 『Dime†sion』


 見よ。地平の彼方に何百と群れなす敵騎が見える。あれは、あの者達はお前の器量に恐れをなした実の兄が送り出したる侍達だ。さぁ、逃げよ。お前はまだこの場で死ぬる事を許されぬ男だ。私、龍楽がお前の代わりとなり奴らにこの身を捧げよう。だからお前はあの荒れる大海原を渡り彼の地に旅立つのだ。泣くな、泣くな義経よ。私はお前の友として生きた日々を誇りに思う。だからこそ、今さらば。私はこれよりお前となってあの愚兄にこの首を捧げよう。そう、そうよ。これはまた私が私である為になければならない生なのだ。なぁ、義経よ。もしも生まれ変わりと云う物があるならば、今はそれを信じたいな。来世と云う時で再度、会いまみえられるならばまた向かい合って美味い酒でも酌み交わそう。


 今生の別れを告げる言葉を最後に私は跨がった馬を走らせた。目指すは源頼朝が軍、敵方の侍、数百騎。だが、今の私に一縷の迷いさえなく、心中は不思議な幸福感で満たされていた。


 「やぁやぁ、我こそは源氏が棟梁、源頼朝が実弟、源義経なるぞ。寄らばよって目にも見よ。この世に悔いなき者はこの首をとって武功を上げる夢に散れ。いざ、かかって参れ。」


 たった1人の戦場に荒武者の雄叫びが響いた。それはこれから幾度となく繰り返される魂の輪廻が渦の幕開けとなった。




自作小説『Dime†sion』 =序章=


つづく



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