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魔を掴む  作者: volare
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第七話

 朝日が木枠の窓に差し当たり、小鳥の小さなさえずりが当吾の耳朶を叩いた。

 当吾はゆっくり目を開けると、背の壁を支えに立ち上がり、気付けば掛けられてた毛布を寝台の上に戻した。勿論寝台の上には誰もいなかった。

 その光景をみるとまるで昨日のアイリンシアは幽霊だったのかと思えてしまう。

 彼は一度大きく伸びをすると、鼻腔を刺激する匂いに気付いた。

 台所から匂うそれは、起き抜けの当吾の体の食欲を呼び覚ますのに充分だった。

「おはようございます」

「あら、随分遅い起床ね」

 台所につくとそこには既に昼食の仕込みを始めているマルシェルカがいて、彼女の手は香草に肉を挟み込み、それを鍋に敷き詰めていた。

「軽いものなら、食卓の上に置いてあるわ。それを食べたら、外で子供たちの相手でもしてくれないかしら。アイリンシアさんだけだと流石に子供たちの相手は厳しいと思うから」

 台所から見える外の様子はとても簡単だった。子供たち5人が大人1人と遊んでいる。しかも鬼ごっこだ。走るたびに靡くその金髪はいやでも目立ち、明らかに手加減して、いや足加減をして走っている女性がいた。

 その表情は実に柔和で、見てるこっちも思わず微笑んでしまいそうになる。

「見てるだけじゃなく混ざればいいのに」

「いいんですよ。たぶん彼女俺相手だと加減をしなさそうで」

 この家の子供たちと大黒柱は自他共に認める負けず嫌いだ。ましてや血縁のアイリンシアは言わずもがなだろう。

 当吾はこうして見ている方がいいと判断したが、見ているということは見られているということ。

 アイリンシアはこちらを認めると、にこやかに手招きした。とんだ強制力を持った笑みだ。あんな笑みを昔母がしていた気がする。

 観念してそばまで寄ると、触れられた。

「交代だ。私は逃げる。君は追いかける。いいかい?」

 間髪なく当吾の手は彼女に向かった。が、無論外す。

「君相手は真面目に逃げようかな。ああそう、チビどもは全員触らないと交代できないからな。しかも10数える間にだ」

 酷い規則もあったものだ。

 一足で彼女の間合いに這入る。流石の彼女も面食らったらしく簡単に触ることが出来た。自分でも少し驚いている。

「…やるじゃないか、トーゴ」

 彼女はとてもいい笑顔だった。まるで力を出すに値する獲物を見つけたかのような、そんな笑み。背筋が冷える感覚を充分に味わった。

「いくぞ、楽しませてくれよ」

「いや、たかが鬼ごっこだろ」

 鋭い突きが繰り出された。まるで武器を持っていると勘違いしてしまいそうな、人を殺せるのかもしれないと勘違いしてしまいそうな突き。

 風切り音を鳴らしながら、それは当吾の頬を掠めた。

「…鬼ごっこですよね?アイリンシア」

「鬼ごっこに決まってるだろ、トーゴ」

 後ろに飛ぶ。勿論、魔力での強化を施して。

 低空を飛ぶように10尺。約3メートルは飛んだはずだった。しかし、彼女は一歩進むだけで彼我の距離を簡単に詰める。

 刺突が繰り出される。主にそれは顔を狙っていたが、連続的に繰り出される手に腹部が混ざっていた。とっさにそれを防ぐも、これは鬼ごっこの類だ。つまり、交代である。

 彼女が逃げの体制を作る前に触れる。それが当吾の作戦だった。しかし、先ほどの一手で警戒しているのか、隙が見当たらない。そのため彼女との距離は開いてしまった。

「流石にまた負けられないのでね」

「子供たちには負けてあげてたようだけど」

「私とて相手は選ぶさ」

 軽口を叩きながらもなんとか食らいつこうと駆ける。オリンピックの選手など歯牙に掛けないほどの瞬発力で彼女に追い縋る。

「おおっと、思った以上に粘るなぁ、君は」

 足を小刻みに動かし急な方向転換に対応する。彼女の足さばきは何の迷いもなく、まるで踊っているかのように優雅だった。

 それから四半刻、30分この不毛な争いは続いた。その間、蚊帳の外に置いて行かれた子供たちはその場で当吾たちの勝負を観戦しており、マルシェルカに至ってはそんなことも意に介さず昼食の仕込みをしていた。

「いやあ、そろそろ疲れ始めたんじゃないか?」

 余裕の表情で金髪の麗人は言う。

 確かに当吾は疲れ始めた。脇腹も痛いし、足も重く感じ始めた。しかし、これまで休まずに全力疾走していたことを考えると随分持った方だと思う。

「まだ、いけるさ」

「よく言った」

 満足げに微笑み、アイリンシアは後ろ向きに飛び逃げる。それをさらに追う。

 体の魔力を集中して足に送り、さらに加速。一瞬だけ追い越して見せるが、彼女は差し伸ばした手をすり抜けていく。

 いたちごっこもここまでくれば病気だろ。

 足を止め、深呼吸する。このままでは埒が明かない。対策なしで彼女に追い付くのは現段階では不可能と判断し、当吾は思考する。

 追い付くのではなく、足を止めることに重きを置くことにしよう。速度では互角だとしても結局は追い付けないのは目に見えている。ならば、彼女が止まればこちらが触れる機会があるはずである。

 足を止める。しかし、どうやって。

「ほら、どうした?このまま終わるのか、君は」

「抜かせ」

 相変わらず手は空間をすり抜けるだけ。

 強化以外の魔法は創製魔法による針一本のみ。なんとだらしないことか。

 なら、あの時使えなかった魔法を今ここで使おう。魔力が目覚めてなかった時に習った魔法を。

 使えるのは一度きり、乱発すれば簡単に対策されてしまうのは想像に難くないし、何より意地汚い。

「さて、頑張りますか」

 思わず口から声が出る。

「何かするのかい?」

 先ほどから笑みを消さずにこちらを窺うアイリンシアであったが、そこには何をされても問題ないという自信が全身から溢れていた。

「まあ、見てろよ」

 足を強化し、彼女の間合いに這入る。これまでより速い速度で駆ける。

「それが君の手か」

 彼女は少し残念そうな表情をしていた。こちらの手が触れる前に彼女の体は動き、すぐに手の届かない位置に移動していた。

 追撃は緩めない。

 また一足入れる。手はまた彼女に届かない。彼女は呆れたように後ろに飛ぶだけだった。

 それは当吾にとって充分なまでの隙だった。

『土よ。動け』

 魔法を発動させる。魔力が体から足を伝い、地面へと流れ、アイリンシアの後方に小さな段差が作られる。

「お?」

 後ろを確認していなかった彼女はそれに躓くが、なんとか平衡を取ろうとする。しかし、それは大きな好機であった。

「はい、触っ…がぁっ」

 彼女の肩に触れる。という安易な事にはならなかった。

 彼女は上体を大きく反らし、まるで体操選手のように後ろに回転しながら跳んだ。その際に蹴りが見事に当吾の顔に直撃した。俗に言うサマーソルトキックである。

 無論、彼女は一般的に非力な女性ではない。その蹴りの威力で軽く宙を舞い、背中から地に伏した。

「ああ、すまん。躱そうとしたらつい蹴りも入ってしまったな」

 少しだけ悪びれながら、彼女は謝るが半ばしてやったりな顔をしていた。

「……ああ、畜生。うまくいくと思ったんだが」

「まあ、普通の奴には問題ないだろうさ。残念ながら私には通じなかった。それだけのことさ」

 確かに目の前の女性は、普通の人間ではないのはその雰囲気からも充分に感じていたことだ。この世界の戦いに身を置く人たちがこのような雰囲気だとは思いたくはなかった。

「しかし、魔法はほとんど使ったことがないんだろう?少しだけ驚いた」

「できればもっと顔に出るくらい驚いて欲しかったが」

 差し出された手を、せっかくだから掴み立ち上がる。

「流石に疲れた。もうかけっこは一生分した気がするよ」

「えー、じゃあ僕たちとどうやって遊ぶの?」

 傍観者に徹してた子供たちから声が上がった。声を上げるのは元気余りまくりのレイヨールとニーケ、大人しめのアリュンは何も言わない。女の子たちは既に母親に呼ばれていなかった。子供でも年長のアドニアと次女のメルティナはこの兄弟の中でもしっかりしている。その分、ませている面もあるが、年齢の所為だろう。

「……今みたいのじゃなきゃ付き合うさ」

「えー、トーゴ兄ちゃん本気でやってよ。さっきみたいに魔法も使っていいならそう簡単に捕まらない自信あるからさ」

 この兄弟の中で魔法の素養があるのはアシュレイとマルシェルカの血を継ぐレイヨールと長女のアドニアだけだった。他の兄弟たちもまだ発現していないらしいが、やや絶望的だとアシュレイは言っていた。魔力の使い方は子供のころに掴めなかったら大人になっても掴めないのがこの世界の常識らしい。稀に大人になって魔法が使え始める人もいるらしいが、年齢を考えるとそれを鍛えるのは難しい。

 異世界人はまた別らしいが、アシュレイは詳しく教えてくれなかった。

「それだと兄弟間で差が出るだろ。不公平感が大きすぎる。俺が魔法を使ったのは使わないとアイリンシアに触るなんて永遠に無理だと分かったからだ。容赦ないしな」

 そう言いながら蹴られた顔をさする。まだひりひりした。

「それじゃあ、より容赦なくやろうか?」

 そう口にしながら、彼女の目は剣呑なものになっていた。

 獣の目。

 例えるならそれである。

 血の気の多さは分かっていたが、ここまでだと逆に慣れてくるものだ。しかし、何がここまでさせるのか、当吾には分からなかった。

 彼女は所謂、臨戦態勢に入っていた。これは鬼ごっこどころではない。命を懸けた勝負にまで引き上げられてしまう、決闘だった。

「終了だ」

 アイリンシアの後ろからにゅっと褐色の偉丈夫が現れ、彼女を羽交い絞めにしていた。身長差のためか、彼女の足は地についていない。

「お、叔父上!何を?」

 じたばたと子供のように暴れる彼女だったが、アシュレイの力はやはりその上を行くのか全く譲らず、そのままアイリンシアは大人しくなった。その様子をみて、本当に獣のような女なんだな、と思ってしまう。

「今、本気でやろうとしただろう?姪子」

「……申し、わけありません」

「謝るのは俺じゃない。青年にだ」

 アシュレイはアイリンシアを下ろし、彼女はどこか照れながらなのか、ゆっくりと頭を下げる。

「…済まなかった、トーゴ」

 言い終えると彼女はゆっくりと顔を上げ、やや憮然とした表情をしていた。そのまま居たたまれないのか、子供たちの所に行ってしまう。

 残されたのは当吾とアシュレイ。

 アシュレイは当吾を横目で何度も見ながら頭を掻き、そしてポンと当吾の肩に手をおいた。

「…まあ、あれだ。殺されなくて良かったな、青年」

「……うん」

 アシュレイはそのまま家の中に入る。

 残されたのは当吾のみ。手にはじっとりと汗をかいていた。背中も汗で服にひっつき、先ほどまでとまた違った冷たい汗を皮膚が感じ取っていた。

 恐怖の汗。

 アシュレイが止めてくれなければ、当吾はここにいなかったかもしれない。

 昨晩、ここに骨を埋めてもいいと思っていたから、覚悟はあった。でもやっぱり、死は怖い。

「……」

 空を見上げ、一筋汗が顎を伝って地に落ちた。

 ただ、あの時当吾は同時に思っていたのだ。

「惚れた女になら殺されてもいいかも、な」



 家に戻り、冷たい手拭いで顔を拭き終わると、食卓が出来上がっていた。

 そこには大きな鍋に中心に野菜とパンなど、昼食としては豪華なものがずらりと並んでおり、子供たち、特に男衆は口元から涎を流していた。

 そういう当吾も先ほどの鬼ごっこという名の別ゲーをした後では空腹の所為か、随分と鍋の中身が気になってしょうがなかった。

「ようやく弟も来たみたいなので、食べましょうか」

 家の母は随分と弟と姉という関係が気に入ったようだ。このようにからかわれて、特別悪い気はしない。

「トーゴ兄ちゃん、遅い!」

 レイヨールの大声に耳がキーンとなったが、ここまでの食事を前にしては子供たちの気持ちも分からないわけでもないので、素直に謝って当吾は席についた。

「さて、今日の主役を獲ってきてくれた人も来たことだし、いつもの祈りを」

 家長がそういうと、皆料理の前で手を合わせた。

「いただきます」

 いただきます、と皆復唱し、各々は食事を始めた。

 この風景を前に見たとき、一瞬だけ元の世界に戻れた気がした。食への感謝の祈りも、それを与えてくれたという祈りも、結局どの世界でも共通の事柄なんだと実感した。

「これおいしい」

「美味いよ!」

 子供たちが絶賛していたのは、熊の肉であった。当吾もそれを手に取り、それを口に運んだ。口の中で咀嚼しながら、当吾は思った。

 __美味い。

 この一言に尽きた。

 本来熊の肉というのは筋ばってとても噛み切れるものではないのだが、それを時間をかけて煮込むだけでここまで柔らかくなって旨味が出るものなのかと思ってしまう。

「おいしい?」

「おいしいです」

 間髪なくマルシェルカに答えた。隣の、この熊を両断したアイリンシアに至っては、口にリスのように肉を頬張っていた。

 いやいや、食い過ぎだろ、と言いたくなるのを必死に抑えながら、当吾も獅子熊の肉に手をつける。

 ものの数分で鍋の中身はなくなり、食卓の上の食材も全部腹の中に収まっていった。この家族のエンゲル係数は随分高いだろうな、とやや他人事のように考え、当吾は口に水を含んだ。

 食事を終えて、子供たちはいつもの仕事に戻る。男は畑の手伝いに、女は裁縫と赤ん坊の面倒。マルシェルカも外に収穫の準備があるからと、家を出て行った。

 無言のまま、卓を囲んでいるのは三人。

 アシュレイとアイリンシア、そして当吾。

 何もない、というわけでもなかったが、アシュレイが目配せだけで残れと言っていたのでここに残っているだけなのだ。いつもの当吾ならば適当に外に出て空いている手を貸そうと色んな仕事を手伝ったり、簡素な訓練を行っていたが、今回はどうも様子がおかしかった。

「朝方、討伐組合から派遣された傭兵が来て、早速森に調査に出た」

 口火を切ったのはアシュレイだった。

「あ、来てたんだ」

 寝ている間にそれらしい人物が来ていたのか、と当吾は少し残念がったが、起きれなかったものは仕方ない。

「ああ、しかし、だがなぁ」

 口ごもるアシュレイ。顎鬚を擦りながら、どう言おうか悩んでいるようだ。

「…帰ってこなかったの?」

「い、いや。帰って来たんだが、正直最も困ったことになってな」

 アシュレイの説明によれば、4人の派遣された傭兵は帰って来たはいいが報酬の引き上げを要求してきたらしい。当初村が出せる報酬は金貨10枚だったそうだ。金貨と言っても流通している種類も多々あるが、アシュレイが用意したのはその中でも最も価値の高いマキル金貨。この世界での金を獲り尽くしたとも言われている古代の国の金貨である。それが一枚あれば2カ月は遊んでいけるらしい。しかも家族単位でだ。

 討伐組合の手練れは調査の結果、報酬を引き上げた。つまり、それくらいしないと割に合わないと判断したためである。当初の10枚は上位個体たる獅子熊が一匹、あるいは二匹に対して懸ける賞金であったが、それを彼らは倍の20枚に引き上げた。つまり、三匹以上いたというわけである。

 その中で一人が言うには、「金色」を見たという。

「金色?」

 当吾は思わずそれを聞き返した。あまり慣れ親しんだ単語ではない。

「……獅子熊にはな。俗に頭領、まあ親玉っていうのがいるらしくてな。それが金色の鬣や毛色をしているからそう呼ばれているらしい」

 つまりは昨日の夜に戦ったあの熊とは完全に別格の存在なのだろう。

 当吾は横のアイリンシアをちらっと見やった。そこには、小刻みに震える戦乙女が、犬歯を剥き出しにして鎮座していた。鎮まっていないのに鎮座という表現はおかしいと心で思ったが、彼女は恐ろしく冷静に見えた。だからこそ、この女性は怖いのだ。同じ人種だというのに。

 戦いたくて仕方がない。

 凡そ、元の世界の人間が表せる心情ではなかった。

「……どうにか、金貨15枚で話はまとまったが」

 アシュレイの口調は重い。

「こちらから助っ人を出すことで合意した。まあ、俺なんだが」

 それで向こうが納得したとは思えないのだが、そこはこの男の過去を利用したのかもしれない。この男が金貨5枚分の働きをすればいいと向こうが見出したのなら、それでいいのかもしれないが。

「向こうが2匹。こっちは最低でも一匹。気の重い話だな。金色がもしいた場合の話なんて怖くて出来なかったしな。まあ、その場の雰囲気でどうにかするしかないか」

 なんて行き当たりばったりな。

「俺は?」

 当吾は切り出した。前に獅子熊が目を覚ましたのは自分の所為だと言われた事もある。それに昨夜の熊は明らかに自分を狙ってきたため、どうしてもこの問題に自分を切り離せないでいた。

「…青年。気持ちはありがたいが、荷が勝ち過ぎてる。剣を握って一週間も経っていないお前に、獅子熊の討伐は無理だ。青年が魔法士として充分な実力があれば、また話は変わってくるんだが」

 アシュレイは本当に心配そうな顔で、そう言い放った。お前は足手まといだから大人しくしてろ、ともの凄く婉曲に、優しく言われた気分だ。

 普通の人間なら、安心するべきところだった。しかし、当吾はその言葉に逆に焦っていた。自分でも分からないくらい、この件は関わらなければならないと思っている。

 身勝手な責任感もあるが、本能的なものもあった。

「なら、私がトーゴの世話を見ようか?」

 金色の目の女性が助け船をだしてくれた。無論、そうすることで彼女が獅子熊と戦えるという名目が立つ、つまりは当吾をダシにして戦いだけだというのが簡単に伝わってきたが、ここは素直にうれしい。

「……お前がいれば確かに助かるが、目立つぞ」

「その時はその時ですよ。相手が決まっていない金色と戦うのは私に任せてもいい」

 アシュレイは思案する顔を作り、当吾とアイリンシアの顔を交互に見比べた。アシュレイのその黒ではない、灰色がかった視線は、初めて会ったような、父親のような目ではなかった。単純に、戦力になるかならないかを武人として推し量っている目だった。

「…いいだろう。二人とも俺の弟子扱いで付いてこい。その代わり、覚悟はしておけよ」

 要するに、死んでも恨むなよ。とアシュレイは言っている。

「そんなこと聞くなよ。それに、もう死にかけたよ」

 当吾は軽口のように言って、席を立った。


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