第13話:インテリジェンスの泥沼、キリア王都暴動
キリア王都では、帝国の流した偽情報による市民暴動「ハイブリッド戦(認知戦)」が勃発。
常夜の霧が立ち込める、海洋大国キリア王国の王都。
その美しい港湾地帯は、今や赤く燃え盛る松明と、暴徒たちの怒号で埋め尽くされていた。
「パルミアンとの同盟を破棄しろ! 穀物の暴落はパルミアンの陰謀だ!」
「王家は帝国と結び、我らにパンを与えよ!」
帝国のインテリジェンス(情報戦)によって完璧に洗脳された群衆が、王宮の門へと押し寄せていた。地政学における『ハイブリッド戦(認知戦)』。偽情報を流して他国の世論を操作し、政府を内側から転覆させる、リュシアン王子の最も得意とする悪魔の手法だ。
「カーク! よく来てくれたわ!」
王宮のテラスで、避難してきた第2王女エレノア(十七歳となり、さらに華やかさを増した姿)が、駆けつけたカークの胸に飛び込もうとした。だが、カークは一歩下がり、大剣の柄を握ったまま冷酷に一礼した。
「エレノア王女殿下、我が主君ミリア王女の命により、同盟国の危機を救いに参りました。抱擁は結構です」
「な、なによ相変わらず堅物ね! だけど、事態は最悪よ。暴徒のフリをした帝国の工作員たちが、我が国の魔導兵器庫を狙って動いているわ! ここが破られたら、我が国の無敵海軍は沈黙する!」
カークは港湾の地形を鋭く見つめた。
地政学において、キリア王国の港は大陸の物流の『ハブ(中心核)』。ここが帝国の手に落ちれば、パルミアンへの補給線は永久に消滅する。
「第二中隊、戦闘配置。武器の破壊を最優先とし、一般市民への殺傷は厳禁だ。これは戦いではない、『治安維持』という名の政治交渉だ!」
カークの号令とともに、五十名の魔導剣士たちが闇の中へと飛び込んだ。
彼らの振るう大剣から放たれた衝撃波が、暴徒たちが掲げる武器や、帝国の工作員が隠し持っていた魔導爆弾を正確に狙い撃ちし、爆破していく。
「チッ、パルミアンの抑止力め! なぜこれほど正確に我が方の配置を知っている!?」
闇の中から、帝国の工作員の悲鳴が上がった。
彼らは知らなかった。カークの影には、パルミアンの『月光』の副首領セリカ率いる密偵たちが張り付いており、大陸全土の情報網を駆使して、帝国の通信をすべて傍受していたのだ。
「そこだ!」
カークは電光のごとき速度で突撃し、暴動を裏で指揮していた帝国の特級工作員を大剣の腹で叩き伏せた。
「首謀者を確保した! 暴徒たちに告げる! お前たちが踊らされていたのは、帝国の偽情報だ! 証拠はここにある!」
カークが工作員の懐から奪い取った、帝国の作戦書を掲げると、群衆の間に動揺が広がった。
完璧な戦術的勝利。
しかし、その様子を王宮の屋上から魔法の遠隔視で見つめていた青年がいた。帝国の第2王子、リュシアン・ド・アルデバルンだ。
「ふむ、さすがはカーク・マクタリアン。キリアの暴動をたった一晩で鎮圧するか。……だが、それも計算内だ」
リュシアンは冷たい青い瞳を輝かせ、不敵な笑みを浮かべた。
「カークがキリアへ釘付けになっている今、パルミアン王国の本陣は完全に空っぽだ。ミリア王女、君の最強の『駒』を盤面から引き剥がした。……さあ、動乱の本番を始めようか」
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