第7話 完全オフの日と人生の終着点
「おはようございます! 相田先輩!」
「お早う、求道さん。」
わちゃわちゃしただけの統強遠征の翌日。王坂へと帰ってきた私は後輩魔法少女と落ち合っていた。
件の遠征は元々彼女が望んだ模擬戦だったが、色々有った為に有耶無耶になってしまったのでその穴埋めである。
しかし、日曜日の早朝だと言うのに求道さんは元気だ。
「それにしても、本当に良かったの? せっかくの休日を私と過ごすなんて。」
「何を言うんですか、先輩と過ごせるなんてとても有り難いです! 光栄です!」
「そう。なら良いけれど。」
私は若い魔法騎士君の首を治療しながら六堂院閣下と談笑していただけだが、彼女は戻ってきたスクルと短いながら濃い戦いをしたはず。かなりボロボロだったから相当激しいぶつかり合いだったと思うのだけど…。
若いって良いわね。
「それでどこか行きたい場所は有るかしら?」
「お邪魔してる身ですし、普段通りの過ごし方で大丈夫です!」
「うーん、高校生のあなたには退屈だと思うけれど。」
「そんなこと有りません! 普段の先輩を知れる良い機会ですから! 先輩と一緒ならどんなことでも大丈夫です…!」
「また安請け合いして…。後悔することになるわよ?」
「後悔なんてしませんとも!」
下衆悪魔を苦しめたことで気が晴れたらしい。いつになくテンションが掛かっている。
まあ、悪魔退治をしなくていい貴重な休日だ。お言葉に甘えてやりたい様にやらせてもらおう。
──────────
「流石に柔らかいわね、求道さん。」ぐ~っ…
「ええ、まあ…!」ぐ~~~っ…!
まずは馴染みの整骨院で骨格矯正、からの関節伸ばし。これをやるのとやらないのとでは、普段の動きに結構な差を出る。
「へぇ、アーチェリーをされてるんですか~。凄く鍛えてらっしゃいますね。」ぐい…ぐぐ…
「はい…、なんとか…、強く、なりたい、ので…!」
「なるほど~。でも、肩の左右でバランスのズレが大きいですね~。その辺り、もう少し意識した方がいいかもしれません。」
「普段は左で弦を引いたり──」
「腕立て伏せを左に傾けて負荷を強めるのも──」
「ありがとうございます、飛び入りで彼女の施術もしてくださって。」
「いえいえ。ご新規さんは大歓迎ですよ~。
相田さんもアーチェリーされてたんですか?」ぐぐ…ぐ…!
「いえ彼女は近所に住む知り合いでして。」
「そうなんですね~。(親戚じゃないみたいだし、一緒にお出掛けする高校生ってどんな関係なんだろう…??)」
なんか不審がられている気がするわね。
後でスクルに催眠をお願いするべきかしら。
まあ面倒事にはならないだろうし、いいか。
──────────
「外食のオムライス、美味しいですね。」初めて食べた…
「ええ。チェーン店だけれど悪くないでしょう?」よく来るのよここ…
体を解した後は軽くウィンドウショッピングをしてから早めのお昼ご飯だ。
ふわふわ玉子のオムライスはやはり店に限る。
2人で同じものをと言うことでSサイズを注文したが、求道さんの表情が微妙に暗い。
「もしかして、物足りなかった?」
「いえ、そんなことは…。」
「遠慮しては駄目よ。育ち盛りなのだし、普段の運動量も相当でしょう、しっかり食べないと。」
「そ、そうですかね…?」
「ええ、魔法少女も結局は体力勝負だしね。食べれるなら食べないと。」無理する必要はないけどね…
「じゃ、じゃあ、チーズデミグラスのLサイズを…、」
「…若いって、良いわね…。」Sを食べてさらに…?
「い、いや…!? 先輩だってお若いじゃないですか!」
お世辞が胸にちくちくする。
「私は…、食べても伸びない、もの…。」胃の容量も背丈も…
「ああ、いやそんな意味じゃ…!?」
「…いいわ、私も食べる。」良質たんぱく質…!
「無理はしない方が…!?」
「無理じゃない。」
こうなったら久々に自棄食いと洒落込もう。
これでも結構健啖な方なのだ、私も。
──────────
「…、今日はここにしましょう…。」
隠蔽術式を展開して、近くのタワーマンションの屋上へと魔法飛行でやってきた私は、次元収納から展開済みのハンモックを2台取り出し設置、早速横になった。
「ほ、本当に、ここで寝るんですか…?」
「ええ、この時間は、日光浴しながらのお昼寝。」ついでに亜空間へと日光を収納…
普段なら転移門を使って、次元門が有る人気の無い山中へと移動してから寝るところだが今はなるべく動きたくない。流石に食べ過ぎた。
「あ、あの、食べてすぐは、その…、体に悪いんじゃ…。」
「大丈夫。動く方が、胃に悪いもの。それに太るのではなく、成長するってことだもの。問題は、無いわ。」
(違うと思います、先輩…。)内心ツッコミ…
とりあえず結界魔法で人払いも寒風遮断もできている。求道さんには悪いけれどここは腹休め1択。
「………お休み、なさい…。」自己催眠発動…Zzz…
「ほ、ほんとに、寝た…。」魔法まで使って…?
──────────
昼寝から起きた後は、今度こそ山の中に移動。
一般人が入ってこれない穴場スポット一帯に結界を張り、テントを展開設置。
着火剤代わりの松ぼっくりを火魔法で燃やし、ストックしていた薪へと放り込む。
パチパチパチ…
上空に煙の筋が出来ない様に風魔法で気流を操作しながら、静かに焚き火を見つめる。
「こうして、ぼーっと火を眺めるとね。無性に心が落ち着くの。」
「さ、流石です、先輩…。渋いです…。」
「面白くないならそう言うべきよ?」
「いや、そんなまさか、ははは。」
あと少しで日が沈む頃合い。半日近く私と行動を共にした後輩の顔は、流石に煤けて見えた。
「これが、怠惰の魔法少女・相田理多の本当。
どう? 憧れは尽きた?」
「…、そんなことはないです。そりゃ少し面食らいましたけど…。先輩も、普通の大人をしているんだなぁ、って思えましたから…。」
「………、」
普通の大人、か。
彼女はしみじみと、私が「まともな人間」で良かったと感想を漏らす。
──パチパチパチパチパキン…
「──求道さん。」
「なんですか?」
「………、いえ。ごめんなさい。なんでもないわ。」
「えっ、ちょっと気になるじゃないですか。」
「うん、思わず口が動いちゃって、ひどいことを言うところだったの。気にしないで。」
「も、もしかして、あの悪魔野郎と仲良くしてほしいとかそう言う…?」
「いいえ、貴女がスクルを嫌うのは望ましいことだからそのままで良いの。」
「え──。」
焚き火に照らされた顔が、ぽかんと呆ける。
「あら、そんなに意外?」
「い、いやそれは、そうです、よ…。だ、だって、先輩は…、あの男のこと…、好き、なんですよね…??」おずおず…
「まあ、──そうね。」
「…、」ぐっ…
求道さんの顔に、明らかな失望と小さな不満の色が滲んだ。
日が沈みはじめ、周囲に街灯もない山林の中は急速に闇に包まれる。
「求道さん、今日1日付き合ってくれたのだし、スクルのことや私のこと、聞きたいことが有るならお礼代わりに答えましょうか? 貴女にとって、気分の良い言葉は出てこないだろうけど、ね。」
「…、聴いても、いいんですか…。」
「ええ。」
「…、なら、先輩は…、……どうしてあの悪魔と…、一緒に居ようって、思えるんです…?」
彼女の顔は、親とはぐれて抱えきれない不安を必死に押し殺している、子どもの様だった。
「そうね………、」
「…、」
「求道さん、あなた『いくつ』になった?」
「は、はい???」高校2年ですよ…??
突然の脱線に目を白黒させている。少し面白い。
「年齢じゃなくて、身長の話。あなた、どこまで背が伸びた?」
「え、えーと、ひゃくななじゅ──」
「私は135センチ。
貴女と出会った時からずっと、いえ。16歳の時からず~っと、同じ身長のまま。」
「か、可愛らしくて!良いと思いますっ!」
「ふふ、ありがとう。
でもね、その前は120に届かないくらいだったのよ?」
「そ、それも、か、かわいいと、思います…。」最小サイズの子ども用弓くらい…
「──9歳の時に怠惰の魔王に取り憑かれて。それからずっと小学生体型で。
そして16歳の夏。身長が15センチも伸びたの。」
「…、え………?」
どう言うことなのかと混乱している彼女に、ぽつぽつと胸のうちを語る。
「強すぎる悪魔の力が正常な成長を阻害してて、それでも私は諦めきれなくて、食べたり動いたり知識を集めたり努力して。でも何も変わらなくて面倒臭くて。
そんな時……、あの幼児趣味の色欲悪魔に出会った………。」
(先輩も、下衆だって思ってたんだ…。)なのになぜ…
「それでスクルに、まあ、下僕奴隷にさせられたと言うか、邪悪な悪魔の力を注がれてね、変質した結果、私の体は今の身長まで急成長したの。」
(あンの悪魔っ…!! やはり許すまじ──ッ!!)
「──うれしかったなぁ…。あの時は、本当に──。
今でも…そう思う………。」
「──…、」絶句…
上を見上げれば、ぼんやりと星が輝きはじめていた。
ほんの少しだけ近くなった、憧れの天空を視界に収める。
「そ、それじゃ、先輩は…、成長させてくれたから、感謝してるから、奴と、一緒に居るんですか…??」
「まあ、そうなるわね。他にメリットも多いけれど。
あいつの洗脳が便利だとか、完全敵対するには消耗・損失が激し過ぎるとか、ま~あ飽きない刺激を次から次に与えてくれるとか、色々とね。」
「」嫉妬…ッ!
凄い顔してるわね、求道さん。
貴女は、相田理多に憧れている。
そして、その理想のヒロインを汚し歪ませ隣に立つ悪魔に、絶大な嫉妬を抱いている。
悪魔殺しの毒を操る、魔法少女として目覚めるほどに。
いつか、色欲魔王子様や怠惰適当魔王が人間世界を脅かす存在になった時。
彼女の毒は、その邪悪な生命を止めてくれることだろう。
まあ、面と向かって言ったら酷いショックを与えてしまうから口にはしないけど。
「ありがとう求道さん。」
「な、なんですかまた急に…。」今日の先輩は掴めない…
「私はもうスクルに甘くなってしまったから。私の欠けた人間性を貴女が補完してくれてるみたいで、嬉しいの。」
「先輩…。」
私はもう、普通ではない。彼女達から見ても明らかに理を逸脱した存在だ。一般人からしたらなおのこと。
だから、人外の側で生きることを選んでしまった。孤独は、耐え難いから。
でも、こんな出来た後輩のおかげで、私はまだ魔法少女のままで居られる。人間社会の中で、正義の側に立っていられる。そして、踏み外した時は終わらせてくれる。
本当に、有り難いことだ。
「さて。少し話し込み過ぎたわね。そろそろご飯にしましょうか。」明るいランタン点灯…
「え、あ、そうですね…。」
「有り合わせのバーベキュー料理になるけど、パパッと作るわ。大丈夫かしら?」テーブル、取り出し…
「はい。大丈夫です。」何かお手伝いを…
そこで私は1つ頷き、後ろを振り返る。
「──エリザベートさんも、一緒にどう?」
「え…、」
背後に広がる漆黒の闇の中からゆらゆらと黒い影が形を成し、幼い銀の子どもが出現した。
珍しく、バツが悪そうに俯いている。
「う、嘘…、いつの間に…?」気配が、全然…
「多分、ずっと私の影の中に潜んでたのよね?」
「…、」ぶす~…っ
「え!?」もしかして朝から…!?
「お昼寝の時かしら。求道さんも仮眠したタイミング…、ああ、姫華莉さんも一緒だったのね。」
よくよく影の中を探れば、青猫さんのとても薄い気配が有った。スヤスヤと寝ているらしい。
「悪かったよ…、ごめん…。」
「!? (あ、謝った…!?)」あの最低悪魔が…!?!?
「あら、素直。」
昨日肩代わりした悪魔退治の腹いせに、ちょっかいを掛けようと仲間に協力してもらって全力で潜んだのだろう。
それで私の独白を偶然見聞きしてしまい、居たたまれなくなって気配が漏れた、と言ったところか。
素はツンツンしてるのに、随分と人間らしいことだ。
「…、頭腐ってるの?」
「ええ、そうよ。今頃気づいたの?」調理器具、鉄板かまど、展開セット…
「…、」
魔力路が繋がっていれば、闇の力を介して相手の思考感情が読み取れてしまう。お互いに。
まったく以て便利な力だ。
「やっぱり食べるならお肉かしらね?」コマ肉、ステーキ肉、と…
「正気?」
「あなたも、少しは人間らしい食事をするべきだわ。」野菜に、キノコ、と…
「何それ嫌味?」
「事実でしょう。あなたは人間よ。『私』と同じくらいに、ね。」
「…、」
超常の力を持ち、歪んだ思想を抱え、他人の温もりを求める。
彼女も、私も、そう違いの無い「怪物」だ。
──ばぐちゅ!
「うそっ!?」
「生肉はともかく。発泡トレーごとは体に毒じゃない?」
「いや!生も駄目ですよ…!?」
もぐもぐごっくんっ!
「…うっせ!」
「まったく。次はちゃんと焼いたものを食べること。」追加お肉取り出し…
「…、キモ…。」
「肝も有るわよ。」鉄板乗せ乗せ…
「ふざけてんの?」
「大真面目だけど?」ふっ…
「…、ッ!」黒蛇触手召喚!噛み付き!
「ん。」『光盾』展開、物理反射…!
「こんのっ…──!」きもちわるい女…!
「まだまだね──。」私の手を使わしてみせなさい…
──わいのわいの!やんややんや!
「…、(先輩…、笑ってる…。楽しそうだなぁ…。私の力じゃやっぱり、お役に立つにはほど遠い──)
──ああ!? 肉! 肉焦げてます先輩っ!?!」
「いくわよ──?」食材の貯蔵は十分…!
「うがああ!」キモいキモいキモイッ!
「せんぱーいっ!?」戻ってきてー…!?




