第6話 新人魔法少女と食事処巡り
「さて、カシュウちゃん! 行ってみようか。」
「お、おう。」
生意気ザコ騎士君との模擬戦を終え身支度を整えた後、僕は魔法少女カシュウちゃんと統強の街に繰り出していた。
今からはうちの義妹が掛けた迷惑のお詫びに、彼女と食事デートに行く予定なんだけど。
「あんなことが有ったし…、どうする? ご飯は後にしてどこか観光地に案内しようか?」
「え? 全然大丈夫だけど…。何のこと?」
「ん? 目の前で年の近い男の首がえげつないことになって、食欲落ちてないかな、って。」
「ああ、別に…。それにあいつ助かったんだろ?」
「うん。とりあえずは。」
重ね掛けた回復魔法のおかげで彼は一命を取り留めた。今は閣下達が泊まる一室に移動し、リタちゃんが側に付いて経過を観察してくれている。
まあ命が繋がっただけで日常生活が送れるかは未知数だけどね~。いくらリタが優秀だからって、本職の医者や聖女じゃないんだから。まあ、閣下も機能していればいいって考えだから問題はないだろう。
「なら気にしねぇ。
それよりも、よ…。」
「うん?」
「…、」
顔をほんのり赤らめもじもじしだしたカシュウちゃん。俯き加減で無言である。
「…、え、な、なんで返事しねぇの?」困惑…
「? あ、もしかして心の中で念を送ってた?
ごめんね、今は魔眼閉じてるから。」
「あ。あの模擬戦で…、」疲れが…
「ああ、違う違う。
だって、心の声、聞かれたくないでしょ? これ、デートなんだから。」
「~ッ!!」かあああっ…
真っ赤に熟れたトマトみたいな顔になった彼女がウガー!と声を荒げた。
「でデでどっ、デート、じゃねぇ!! オレイマイリ──飯を奢ってくれるだけだろ!! あとナッツも居るし!!」
「ジチュー。」出番亀ご飯ですわー!
「でばがめって何だよ!?!」なんかおちょくってるだろ…!?
「うんうん、心行くまで楽しんでね~。」
「当ったり前だ! お前を破産させるまで食ってやる!」
「ジチュチュー!!」盛り盛りですわー!!
「良いね~。
あ、ここからは魔法少女と悪魔じゃなくて中学生と社会人で行くから、活動名ちゃんじゃなくて本名ちゃんって呼ぶね?」よろしく~…
「フぇえ!?!?」
──────────
「」がつがつがつがつ!
「」もぐもぐですわー!
「朝イチなら市場の人気店の海鮮丼にありつけたけど、まあここもなかなか良いね。
ん? あ、マグロのカマ焼き残ってるんです? ラッキーだな。スザクちゃん、食べる?」
「かま焼きって何?」
「部位で言えば、エラ? 首? 大きな骨に付いてて食べづらいけど身が引き締まってて美味しいところ、かな。」
「食う!」
「なら、カマ焼きくださーい。え? 2人で食べきれるのか? 大丈夫大丈夫、だい・じょ~ぶ。持ってきてね~。」軽く催眠ミンミン~…
──────────
「あ、美味。これすげー美味い。」
「」もぐもぐかじかじっ♪
「うん、シンプルだけどこのカラシの効かせ方が絶妙だよね~。」カツサンドは公園で食べるに限る…
「美味ぇー!」2個目頬張り…
「あの量の魚料理を食べきってよく入るね…。」流石は暴食の契約者…
──────────
「へぇー、おつゆが濃いのに味はそうでもない…。」でも悪くねぇな…
「」ちゅるちゅるちゅる~♪もっもっもっもっ♪
「関西と関東の差って大きいよね。うどんは特に。」海老天単品ぱくぱく…
──────────
「チュチュチュー♪♪♪」ドデカパフェ天国ですわー♪♪♪
「よくこんなところ入れるよな。」内装、ピンクのフリフリエグ過ぎ…
「ん? 周辺に認識阻害の催眠掛けたら周りの目なんか関係ないよ?」カメラにすら映らない…
「悪魔かよ…。」そんなことしてまで…?
「悪魔だよ?」僕はソフトクリームオンリー~…
──────────
「王坂のたこ焼きと全然違う…。」でもうめぇー…!
「」あつあぐあつ! ふぅ~!ふぅー!ですわー!?
「表面を油でカリッと揚げてるからね~。持ち運びも安心だしお土産とかに人気らしいよ。」
「へぇ~!」
──────────
「」ごっごっごっごっ…!
「」もっもっもっもっ…!
「──美味ぇ…。」サイコー…
「──チュウ…。」夢見心地~…ですわぁ~…
「凄い食べっぷりだね。」ずるずるずる…
「ああ…、これならあと3杯は余裕…。」
「ジチュー…。」5杯はいけますわー…
「そんなに…。
なら次は辛口の北海道味噌でいく? 今食べた江戸前味噌は甘口だから、変化を楽しめるよ。」僕は今日は遠慮するけど…
「ジチュー♪♪」素晴ら提案ですわー♪♪
「いいのかよ…。」
「うん? いいよ?」
味噌ラーメンを食べていた途中でスザクちゃんが元気無さそうに呟きを漏らす。
「何か気になる?」
「いや、だって…、ずっと食べっぱだろ? オレたち…。
支払いとか、その、毎回5千円とか6千円とか表示してたし…。」
「あれ? 僕を破産させるんじゃなかった?♪」
「あ、あれは言葉のアヤッ、ってか…。」
「食べれるんでしょ? なら問題ないよ、何も。」
「…、」
「ジチュー…?」どうしたですわー…?
良識有る彼女は、ここまで食べてきた合計金額を想像でもしたのか申し訳なくなったっぽい。
「そうだな~…、スザクちゃん。君に2つ言っておこう。
まず1つ、僕は割りとお金は持ってます。」
辛い思いをしながら食べられても僕も面白くないので、彼女の気持ちを軽くさせる為に言葉を掛ける。
「多分、1千万円は口座に入ってるよ?」
「いっせ…!?」
「チュウ?」おいくらですわー?
「本腰を入れて『仕事』をすれば臨時収入だってそれなりに見込めるしね~。」
臼田会長の所でマンガアシスタントもしているが、あれはほぼほぼ趣味だ。魔法少女達への支援もそっち寄り。
本業は色欲の力を使って、凶悪な悪魔犯罪者を取り締まること。裏の治安維持と言うことでなかなかのお金が動いている。
「ははは。僕の能力忘れた?
そこらの犯罪者を洗脳すれば、罪の自供、証拠の確保、隠し口座の番号、何でもござれだよ? 悪魔に取り憑かれた奴も大概どうにかなるし。結構、頼られてるんだよ? 僕。」
まあ、女の子以外に催眠掛けるの気が乗らないから、よほどの案件じゃないと動く気しないんだけど。
「んで、2つ目。こうして君と食事をすることは僕にもメリットが有る。
僕は君の感情を食べてるんだよ?」
「か、感情…?」
「もっもっもっ♪」ちゅるちゅるちゅる~♪
「君がご飯を食べて満たされて『幸せ~♪』ってなった感情。身体から迸るキラキラしたエネルギー。それが僕の活力になってる。
僕が『色欲の悪魔』だってことは当然聞いたでしょ? 別名は、夢魔、淫魔。異性の快楽を糧にする種族だ。まあ、この場合の快楽は性的な接触で生まれるものを指すけど…。別にそれだけしか食べられない訳じゃない。」
(せ、性…的…。)
「ご飯を食べた幸せ、泣ける話を読んだ感動、仕事を頑張った達成感。そんな、気持ちエネルギーも僕らには美味しいご飯なのさ。
まあ、もっとも、負の感情、痛いとか苦しいとかも食べれるし、中にはそっちが好みの最低野郎とかも居るから、気をつけた方が良いけど、ね。」
「っ…!」ゾッ…!
僕も当然両方食える。まあ、快楽由来の方が断然好きだけど。
にしてもスザクちゃんの恐怖顔、相変わらずそそるな~。
「君がご飯に対して思う感謝も、悪魔の本性に触れて抱いた恐怖も。僕にとってはご馳走なんだよ。スザクちゃん。
だからいっぱいいっぱい、心揺れ動いてね。」
──────────
「さて、そろそろ良い時間だし戻ろうか。」
「う、うん、ごちそうさま、でした。」
「ジチュー♪」うまうまでしたわー♪♪
「ふふ、こちらこそ。」
「あ、あのさ…。」
「うん? 何かな。」
「なんで今日、付き合って、くれた、の…?」
「…? ごめん、ちょっと質問の意図が分かんないかな。」
はて? 動機、メリット、金銭的余裕、全て説明したはずだが…?
「あ、あんたには、さ。これ、デ、デート、だったんだろ…?」
「うん、そうだよ。可愛い可愛い魔法少女ちゃんとの楽しい時間だったよ。」
「なっ──からかうなッ!!」
「ははっ、最初の生意気盛りからしたら本当、丸くなったよ~。」
うぐ~…!! と言葉に詰まったスザクちゃんは、大きく息を吐いてから言葉を続けた。うん、成長したね~。
「…、あ、あんた、その…、リタ、先輩と付き合ってるんだろ…?」
「うん。」曇りなき眼…
「な、なのに、さ、オレ…、と、デートとか言っちゃってさ…。」
「ああ、ちゃんとリタちゃんから許可は出てるよ? って言うか発案はリタからだし。」
「それも、さ…。
オレ、子ども扱いされてんのかな、って…。」
ん~…? これ、怒りとかじゃなくて戸惑いとか悲しみに近い感情が出てるな。
「リタはスザクちゃんのことを真剣に考えて、提案してたよ? 間違いなく。君を軽んじてはいない。」
「いや、おかしいだろ。普通、彼氏が他の『女』とデート行くとか許可する訳ねぇじゃん…。」
ああ、スザクちゃんは自分が「眼中にない子ども」だと思われてると考えた訳か。
僕が色欲悪魔とか、リタちゃんが寛容だとか、そんな説明じゃ納得しなさそうだな~…。
でも、リタがそんな小さい嫌味な女だと思われているのは心外だ。
「信じられないかもだけど。リタは、君のことをちゃんと想って、僕と2人っきりにしたんだよ。」
「…はあ…?」
「ちょっと座って話そうか。話、聞いてくれる?」
──────────
「ん~…、そうだな…。唐突だけどスザク…いや、魔法少女・火朱。君はどんな将来を思い描いてる?」
「しょ、将来…?」
「君は。いつまで魔法少女を続けるつもり?」
「──。」
「リタは今25歳で、会社に勤めながら魔法少女を続けてる。セイレンちゃんは、高校を卒業したら女性魔法騎士として裏の治安維持に貢献しようとしてる。
君は? 今中学生の君は、『魔法少女の自分』をいつまでやる?」
「そ、そんなの…、考えたことねぇ…。」
「まあ、そうだよね。これは考えろー、とか、こうしろー、って話じゃなくて。
魔法少女は1つの手段なだけで、君の人生には色々と選択肢が有るよ、ってことが言いたいんだ。」
「せん、たくし…。」
「高校生になったら魔法少女を辞めて勉強に打ち込み大学を目指してもいい。このまま悪魔を屠って倒して『魔女』となって戦い続けるのもいい。相棒のナッツとお別れして戦いから逃げ出してもいい。悪魔の誘惑に負けて社会を脅かす化け物になってもいい。魔法が突然使えなくなって家に引きこもってもいいんだ。」
「………、」
「んで、この時重要なのが、自分の意思で後悔のないように選択すること、なんだよ。
その為に、やりたいと思ったことをきっちりやる。これが肝心。
君は。色んなことを経験しておくべきなんだ。」
「けい、けん…。」
神妙な呟きが、統強の空に溶けていく。
「だから、リタは今日、君と僕を2人っきりにした。
君が僕と恋人になりたいって、奪おうとしてもよし。仲の良さに打ちのめされて諦める選択をしてもよし。この悪魔はやっぱり嫌いだって普通の恋を探してもよし。悪魔と契約して人間を辞めて下僕奴隷になってもよし。
君が納得して選びとった道ならば、彼女は祝福してくれるよ。」
まあ、スザクちゃんの意思を無視して手を出そうとしたら、その時は完全敵対するだろうけど。
絶対やらないが。
「な、なあ…、それって普通のやつなの…?」
「リタの考え方が普通か、って? 普通に異常だよ?」
彼女は幼い時から怠惰の支配者だからか、感性は相当、人と違っている。特に自分のことに関しては。
「自分が異常だからこそ。まともな心を持つ後輩が1人でも多く幸せになってほしい、後悔のない人生を送ってほしい。あの英雄はそう、考えているんだよ…。」
まったくまぶしい利他主義だ。本当に。
「──さ、今度こそホテルに戻ろう。リタ達が待ってる。」
「…、うん…。」
──────────
「──うわあああああ!?」紫雷連打ぁ!!!?
「シィッ!!」シュバババ矢連射ぁ!!!!
「ファイトですぞスクル氏~!」【複製・規則敷設】──『精神魔法・弱体化』『回避遅延』『逃走困難』ん~…
「小田氏ぃ~!!! 裏切り者~!!」迎撃迎撃迎撃ッ!!
「拙者、魔法騎士なので。キリッ!」女の子とデート悪魔討つべしッ!!
「」一射決殺ッズドドドドドドッ!!!!
「…、なぁ、これあいつを助けるべきだと思うか? ナッツ…?」
「チュー?」ハリネズミになりたいですわー?
「…、なりたくねぇ…。」
「ま、まずッ!? タカネぇ! ごめん助けてー!?」ズアア…!
「キィあ──!」『暴風乱羽』…!
「ちぃっ!!」あと少しでッ…
「死ね! 不届き弓使いッ!!」
「【複製・白金の城】ッ!」ガインッ!!
「邪魔ダ、でぶ騎士!」
「守護るでござ──ふごおっ!?」うぎょー!?
「食らえぇー!!」『トラウマ刺激・増幅催眠』ッ!!
「滅びろ悪魔ぁっ!!」毒時雨!
「…、」
「もちゅ♪もちゅ♪」お土産ドーナツうまうまですわー♪
「オレも食お…。」これが『経験』で『選択』か…




