第5話 模擬戦闘と生意気魔法騎士
なかなか残酷な描写が、後半に有ります。
閲覧するなら、注意してください。
ズアアア…! ゴゴゴゴゴガゴンッ…!
「行きましょうか。」
「はい。」「お、おう…。」
今日は魔法少女の悪魔退治はお休みの日。しかし、私を含めた全員が魔法衣装に変身済みだった。
スクルが開いてくれた「地獄門」を、求道さん、火野さんの2人を伴って潜る。
やや長い移動距離を抜けると明るい光に満ちた空間に出る。
「──ようこそスクル様。『プライドホテル・統強本店』をご利用いただきありがとうございます。」
「やあ、どうも。今日もお世話になります。」
一般市民向けと異なる出入口だが、造りはとても荘厳。大理石の床に敷設された召還魔法陣は精緻の極み。魔が宿っているとは思えないほど礼儀正しい従業員。
流石は、傲慢を始めとした悪魔達が協力しその矜持を掛けて作り上げた、高級ホテルチェーン「プライドホテル」ね。私達の町である万間市の隣、王坂市にも支店が有るし結構利用するけれど、本店も良い雰囲気だ。
「小田様は既に到着しておられます。しかし追加でお伝えすべきことがございます。」
「? 何でしょう?」
「小田様はお連れの方を2人伴ってご来店されていらっしゃいます。」
「連れ、ですか?」
今日はスクルと求道さんの模擬戦闘の為に、統強に居る魔法騎士の助っ人を呼んでここの魔法闘技場を借りたと聞いている。
「はい。──魔法騎士の方です。」
ふむ、もしかすると「あの方」かしら。
──────────
「デュフフ。スクル殿、お久しぶりですぞ~。」
闘技場「孔雀の間」に入ると、何とも時代錯誤で場違いな台詞が飛んできた。
「何言ってんですか小田氏、この前会ったばかりでしょう?」
「女の子を連れてる悪魔殿と、我が盟友スクル氏は別物ですぞww爆ぜろw」
「嫉妬は醜いですよ小田氏~。」
「爽やか余裕スマイルがムカつくぅ~!! 台パン不可避ッ!」台無いから地面を踏みつけるッ…!
「…、」「何あれ…。」
「あの人は小田 管夫さん。ちょっと昔のオタク気質が激しい人だけど、ベテランの魔法騎士よ。甘くは見ない方がいい人ね。」
「…、」無言の嘆息…
「ええ~…??」
スクルと小田さんの漫才が一段落すると、後ろに居た金髪碧眼の美丈夫が前に出る。やっぱりこの方だったわね。
「息災な様だな、スクル。」
「──閣下、お久しぶりです。」スッ…
スクルが片膝立ちになり、跪いた。
その姿に後ろの2人があんぐりと口を開けて驚いている。初めて見たらそうもなるかしら。
「突然、押し掛けて済まんな。たまたま時間が取れたので小田に付いてきた。」
「いえ、閣下にお目にかかれて光栄です。」
スクルの挨拶が終わったところで私も前に出る。
「閣下、お元気そうで。」
「うむ。理多もな。」
私が差し出した握手を「閣下」は優しく手に取り、身長差から異様に低く身を下げて私の手の甲に口づけをする。
「なっなななっっ!?」「ちょっ、え!?!?」
「会う度に驚かされるこの静謐な魔力流…、それでいて濃密に煌めく星の如き力強さ…。変わらず、見事よな…。」──トッ…
「お褒めいただきありがとう存じます。」
「こ、ココ個々子古ッ」「こ、告白だぁ!?」
後ろの2人が何やら盛大に勘違いかましているみたい。無駄かもしれないが一応紹介しておこう。
閣下が立ち上がったところで振り返る。
「2人とも。こちらの方は六堂院 正良さん。統強都を中心に関東一円を管轄する魔法騎士団の団長をしてらっしゃるの。おそらく日本最強の魔法騎士よ。少し貴族チックな人だけど、とても誠実な御方よ。」
「六堂院だ。今日は騎士団を束ねる者としてはではなく、一個人として見学に来ただけなので気楽にしてくれて構わない。よろしく頼む。」
「わ、あの、そのっ…!?」しどろもどろ…!?
「ちっす!」精一杯お辞儀!
「しかし、閣下。今日はどういったご用向きで?」
スクルが物理的にも私との間に割って入り、後ろに控える3人目に視線を向ける。
「模擬戦に参加したいと言う若いのが居てな、連れてきた。君達の訓練を見学したあと──」
「」スッ…
「…、どうしたね?」
「団長、発言の許可を。」
「…、良いだろう。」
「私は、生井 鬼羅だ。傲慢の魔を身に宿す正義の味方である。
そこの惰弱悪魔、今すぐ私と模擬戦をしろ。」
「…、」
茶髪の少年がスクルを見据えて居丈高に迫った。
「生井氏~、強引が過ぎますぞ~。」
「小田、──先輩、は黙っててください。団長の許可はいただいたでしょう。」
「ぶひぃ~…。」取り付く島が無いですぞ~…
「この通り、跳ねっかえりの生意気盛りでな。少し揉んでやってほしい。」
「ええ~…、いくら閣下の頼みでもこんなガキの相手したくないですよ~…。」
あら、スクルが閣下の頼みをやんわり否定するなんて。この子、そんなに心の中がうるさいタイプなのかしら?
顔立ちはなかなか悪くないのだけど。
「!?」嘘でしょリタちゃん…!?
何、その顔? 別に他の男を褒めるくらい良いじゃない。自分は散々目移りしてる癖に、私のは咎めるわけ?
「ぐッ…!! 良いだろう! その顔をボッコボコのギッタギタのコテンパンにしてやる!!」
台詞がかませ犬の三下になってるわよ。馬鹿みたいな負け方はしないでほしいのだけど。
「悪いわね、求道さん。貴女の時間を横取りする形になって。」
「え…? ああ、そっか、いえ別になんとも…、」
「この埋め合わせは必ずしよう。何か我等に報いれることは有るだろうか?」
「!? いえ、大丈夫ですもったいないです!」
それを言うなら「もったいないお言葉」よ。
「閣下、紹介が遅れました。彼女は求道 由美。活動名は『清廉』、嫉妬の魔を宿す魔法少女です。
この先の進路を『魔法騎士』に、と考えていますので、その暁に是非お力添えをお願いしますわ。」
「なるほど、理多が推薦するほどの逸材か。それは是非とも欲しいな。」統強に越して気はあるかな…?
「そ!? そんな恐れおおおおいですっ!!」
本当に「お」が多いわよ。閣下の前じゃ流石の求道さんも形無しね。
「そしてこちらが火野 朱雀さん。それと彼女と契約した暴食の妖魔のナッツさん──」
「ここここんにちは──!!?」
「」怖くてだんまりですわー──!
「うむ、元気でよい──」
──────────
閣下と談笑している間に準備が終わったらしい。
茶髪の少年とスクルが闘技場の真ん中で距離を空けて対峙する。
「『規則敷設』──!!」
少年を中心に暗い金色の魔法陣が出現し、スクルの足元を通ってサッカーコートぐらいの大きさに広がる。
「──『正々堂々』っ!!」
「あれは『プライドエリア』。傲慢の力には、あんな風に周囲に自分が決めたルールを強制する空間を作り出せるの。」
魔法騎士の戦い方を2人に解説しながら、少年を観察する。
魔力練度はまずまずってところね。そして、彼が叫んだ固有の文言。
「私のプライドエリアの効果は、賎しい手段の禁止!
洗脳! 毒! 召還! 賄賂に人質! それら全てを行うことはできないっ!!」
「はあああ!? インチキ過ぎるだろそれ!!」小学生の言ったもん勝ちルール…!?
「そうでもないわ。発動者も使えないもの。」
「でもそうなると素の身体能力がものを言います。彼、背丈も有りますし体格も良い。両方で劣るあの悪魔には辛いのでは?」
そうね。私ほどじゃないけれどスクルもなかなか小さい方だ。下手をすれば男子高校生でも通るほど。
まあ、スクルは、活動期間だけを考えたら35歳の立派な年上なんだけど。
魔界で過ごしたと言う16年が果たして地球のそれと同じ重さかは知らないが。
「洗脳による都合の良い幕引き! 手下の召還による多数の暴力! お前の戦法は全て封じた!! 降参するなら応じてやろう!!」
茶髪の少年が吠える。随分な自信家ね。
「これでスクルを抑えられると考えるなんて。愚かな子。」
この程度でどうにかなるなら苦労しないと言うのに。
──────────
スクルは無言で少年に挑んでいった。少年も始めこそ戸惑っていたが、すぐに魔法剣を出し応戦する。
しかし、それなりに鋭い剣閃の全てをスクルは躱し、時々彼の体に手刀をお見舞いしている。
「このっ、逃げるなっ、くそ、効かんわっ!!」
「」スッ…フッ…スス…、バシッ!
「え…、あの動き、幻でも使ってんの…?」
「違うわ、火野さん。幻覚も禁止されてるはずよ。」
「スクルがやってることは単純明解、あの少年の思考を読んで動きを先読みしてるだけ。」
「でも、洗脳って禁止されてるんじゃ?」
「相手の頭の中に入り込んで弄るのが洗脳。あれは、相手が発してる感情を受信しているだけ。一般人でも似た様なことはできる技術よ。」
「へぇ~…!」あいつやっぱすご…
「…、(『洗脳禁止』…、あれがあれば一矢ぐらい当てられるかも…。)」欲しい能力だわ…
うん、2人にも良い刺激になってるみたい。こう言う間接的な見取り稽古の訓練、取り入れるべきかもしれないわね。
そうこうしているうちに決着がつく。
少年が振り下ろした剣を避けて踏みつけ、スクルが跳躍、彼の顔面に体重を乗せた飛び膝蹴りを叩き込んだ。
「うぐっ…!?」
「変則シャ◯ニング・ウィザード、ってね~♪」スタッ…
「き、効かん、こんなものっ…、」顔真っ赤…
「はいはい、鍛えてる鍛えてる。偉い偉い。」
「馬鹿にするなぁっ…!!」
「」スッ…
スクルが右腕を前に突き出し、少年に向けた。
「紫雷──」バジジジィッ!!
「ぷぎぃ!!」ビリビリビリィッ!!
紫色の雷が真横に伸び、少年を派手に染め上げた。
潰れたカエルの様な声と共に魔法騎士の少年が崩れ落ちる。
「…、」悲鳴、かわいい…
「…、なっ、何今の…、」こわ…
「勝負有ったわね。」
「うむ。生井の完敗だ。」
小田さんが掛け寄り少年を助け起こす。
スクルも近づくが、少年は喚き散らし始めた。
「ひ、卑怯だぞっ! あんな速度の攻撃魔法を隠し持ってるなんてっ!!」
「何を言ってるの? 僕が雷を操れるのは閣下も小田氏も知ってることだよ。調査を怠った君の落ち度だ。」
「違う! お前が洗脳魔法で僕の認識を歪ませたに違いない!!」
「それは無理が有るだろ…。今もまだ君のプライドエリアは機能してるし。大体、魔法騎士が標準装備してる魔法鎧と魔法盾をきちんと展開すれば、あの程度の雷は防げるよ。『召還』じゃなく『その場に有る物の効果使用』だから、君のルール内でも使──?」
「うるさい!うるさいっ!うるさいっ!!」
「はあ…、」げんなり…
…。
流石に見てて気分悪いわね。ちょっと光魔法で焼いてあげましょうか。閣下に許可を──
あら…?
──ズザアアア…!
「あるジ、ここはお任せを。」タシッ…!
「タカネ…。」
スクルの影から闇の暴風が噴き出し、その中から背の高い影が姿を現す。
「な、なんだお前! なんで『召還』できるんだッ!!」
「召還ではない愚物め。私はズっと、戦闘前から、あるジ様の影の中に居た。いつデも出れたのダ。」ゴゴゴゴ…
「貴音さん…、」怒ってる…
「あ、あれが…?」
そう、あれがスクルの配下の1人、斉場 貴音さんだ。
鳥と人間を掛け合わせた様な姿は、初めてだとなかなか異様に見えるだろう。
踵から足先までが鳥足の様に伸びているため、背丈が2メートル強有り、威圧感はなかなかの物。
足も手も鋭い鉤爪になっていて殺傷能力も高い。腕は羽毛で覆われ、小指が横に大きく伸び翼を形成していて、魔法を併用すれば空も飛べる。
局部を隠す踊り子の様な羽の衣装、そこから覗く紫雷紋が走る肌、筋肉ががっちりついた身体。そして特徴的な、地面に届きそうなほどに長い緑髪。実に、夢魔の従僕らしい半悪魔である。
喚く少年を無視して、貴音さんはスクルに臣下の礼を取る。するとスクルが閣下を見た。
スクッと立ち上がった彼女は閣下に一言、
「良いか?」鳥目睨み…!
と尋ねた。
「──ああ、任せよう。」
閣下の「許可」が出て、彼女は少年に向き直る。
「──何なんだ化け物どもが──大人しく平伏せ──!!」
「お前の土俵デ戦ってやる。」
「──卑怯な手段を使わねば戦えぬ弱──」
「」ボッッッッッ!!!!!!
「──────────────シャぁ
ァ…、
」…どしゃ??
「ひっ…!?」「ちょっ…!?」「生井氏…!?」
「『回復』『修復』『生命力活性・極大』。」ホワワワワァ…!!!
すぐさま彼の隣に移動し、折れて捻れ伸びた頸を再生させるべく全力で魔法を掛けていく。
貴音さんの全力『後ろ蹴り』を受けて首が取れていないだけ大したものだ。脳の中に心の声も小さく聞こえるし、まだ助かる目は有る。
「死ぬベき人間ダ。生かして何になる。」
「小田さん、回復魔法の重ね掛けを。」
「わ、分かりましたぞっ!!」ふんぬっ…!!
心臓を強制鼓動。血液を迂回循環。骨と神経を再生接続──なんとかいけそう──、
「おい、聞いているのか相田理多。」
「良いよ、タカネ。リタちゃんはこう言う子だから。閣下も止める気ないみたいだし。」
「それなりに使える人材だからな。助かるのならばそれが望ましい。」
「「…、」」引き…
死の恐怖、自己の消失感で、魂が幽離しかかっている。精神魔法で干渉──チッ、死んでないからこいつのプライドエリアが切れてない。
スクルならこのエリア程度ぶち抜いて闇魔法を──いえ。協力してくれる訳ないし、させられない。
「臨死間際ほどの体験をしたのだ。改心する見込みは有るだろう? そうは思わないか、斉場 貴音。」流し目見上げ…
「気安く呼ブな、クソ騎士。」イライラ…
もういい、面倒臭い。あとは天運とやらに任せる。
自分の魔で死ぬなら本望だろう。あとは適当に、なる様になれ。
「『回復』、『回復』、『回復』──。」
「ああああああ!! クサいクサい!クサい!! どいつもこいつも!! もっとマシなの来なさいよぉ!!」火炎!火炎!
「にゃー。」頑張れエリー…
「見てないで手伝いなさいよヒカリィ!!
くっそー! せめて美味しい悪魔が良かったァアアッ!!」不味いのばっか…!




