17
その後、エディアルドにお願いして、シアナに手紙を出すことだけ許可をもらった。
さすがに何も言わずにいきなり姿が消えたとなると、どれだけの心労があるか、計り知れない。引きずられて体調だって崩してしまったらと思うと、気が気でない。いきなり手紙だけ届いた状況も、かなり怪しむと思うが、知らせないよりはずっとマシだ。
「書いた?」
エディアルドが横から顔をのぞかせる。
「ええ、できたわ」
私は簡単に書き記した手紙を見せた。
「シアナへ
急に招待を受けて、友人の家に遊びに行くことになりました。しばらく留守にするけど、心配しないでね。薬はじゅうぶんに用意してあるから、ちゃんと飲んでね! リゼット」
一言も、エディアルドの名前を出していない。仮に私を探してハモンド家を訪ねていっては悪いからだ。友人から招待と受けたということにしておく。これでもじゅうぶん怪しい言い訳だが。
外は日が沈みかけている。いったい、どれぐらい眠らされていたのだろう。
今頃、シアナは帰らぬ私を心配していることだろう。
「これ、急いでお願いしたいの」
「わかった」
封書に入れた手紙をエディアルドに渡した。
夜は豪華な食事を出され、エディアルドと二人、部屋でいただく。
「リゼット、美味しい?」
「ええ、とっても美味しいわ」
お世辞抜きで、今まで食べた中で一番柔らかなお肉に、味は高級だった。
こんな誘拐まがいで連れてこられて、よく食べる気になると自分でも思うが、こんな時だからこそ食べないといけない。いつ、どうなるかわからないのだから。
エディアルドはなにが楽しいのか、上機嫌に私が食べるのを見守っている。
「これ、あげる。こっちも」
「ええっ、エディアも食べなよ」
エディアルドはポイポイと私の皿に乗せるが、お腹は空かないのだろうか。私ばかりが食べている。
「人と食べるって楽しい。いつも一人で食べることが多かったから」
あ……。
カーライル公爵閣下は多忙なうえに、領地を回っていることが多く、カーライル公爵家では一人で過ごしていたっけ。
だから好んで、ジェラールについて回っていたのか。
寂しい日々を過ごすことが多かったのだろうな。だからと言って、やっていいことと悪いことはあるけれど。
ここにいる間は、せいぜい楽しく過ごせるようにしよう。きっと二、三日だと思うから。エディアルドが私に飽きて解放するまで。
限られた時間、エディアルドと楽しい思い出を作ろうと心に決めた。
夜になり、湯を浴びると部屋でエディアルドが枕を抱え、待っていた。
「こっちの部屋で一緒に寝よう」
一緒と言われ、ドキッとする。
今は魔法で性別を偽っているため、成長は止まっているが、本来なら十七歳の男性だから。だがエディアルドからは純粋な好意を感じるが、嫌らしい感じはしないので、そこらへんの心配はないだろう。
「ほら、このベッドなら、二人で眠れる」
エディアルドが私にもベッドに乗るよう、手招きをする。
「お邪魔します」
ふわふわのベッドは寝心地が良く、二人で並んで横になった。
「わぁ、素敵……」
天井を見上げるとガラス張りになっていて、満天の星空が見えた。ほのかな光が差し込み、あたりを静かに照らす。
「ほら見て。綺麗な流れ星」
指をさしてエディアルドに顔を向けると、私に笑顔を向けていた。
「リゼット、お話ししよう」
嬉しそうに声をかけ、私の手をギュッと握った。
「そうね、なににしようかな?」
「なんでも。リゼットの話なら、なんでも聞きたい」
この状態はパジャマパーティーとでもいうのかしら。
そこから、取り留めもない話を続け、いつしか眠りについた。
「おはよう、リゼット」
目覚めるとすぐ横には美少女の顔があった。
ああ、そうか。私は――。
「おはよう、エディア」
「リゼット、寝相が悪い。夜中に蹴られて、何度も目覚めたよ」
「嘘っ!?」
思わぬことを言われ赤面する姿を、エディアルドは笑っている。
「ごめんね、やはり別々のベッドの方が良かったわね」
「いや、一緒がいい」
エディアルドは断固として言い切ると、ベッドから下りた。
「朝だよ、リゼット。朝食を食べたら、外に行こうか」
エディアルドに手を引かれ、私もベッドから下りた。