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「まあまあ、そう焦らないで必ず帰れるんだし。まずは紅茶を飲んで、美味しいお菓子でも食べようよ!」


 ティースタンドから焼き菓子を選び、ポイポイと皿に乗せて、私に食べるように勧める。もう、こうなれば自棄だわ。一口、口に含んだナッツのお菓子はサクッとして、とても美味しかった。


「美味しい」

「本当? 良かった。それ、街のロレーヌのお菓子。リゼット、この前店に行っただろう? だから好きかと思って、買い占めたんだ」


 ゴフッと喉に詰まりそうになった。そんなことまで調べているの、この子……!


 私にばかり勧め、自分は口にせず、一生懸命私をもてなそうとしている姿を見て、ふと思う。


 もしかして私――。妹の代わりにルートに入ってしまった!?


 ルンルンと気分よく、鼻歌さえ口ずさみそうなエディアルドを見て焦る。


「ずっとこうやってリゼットとお茶会をしたかったんだ」


 無邪気に微笑むエディアルドだが、やはり小説の中のエディアルドとは違う。

 つまり、私のことは、単純に遊び相手、もしくは暇つぶしとして連れてきたのだろう。


 それなら――。

 もしかしたら、逆にこれがチャンスなんじゃない? 


 ここで仲良くなったら、殺されないかもしれない。なんせ、小説では帰りたがる妹の、帰る理由をなくすためだけに、あっさり私を抹殺したからね!


 幸い、エディアルドの残虐性はまだ目覚めていない時期と思えるし、ここで恩を売っておけば、情もわくだろう。そしたら最悪な結末は回避できるかもしれない。


 気づいたらゴクリと喉が鳴る。――やるわ、私。


 皆の結末を変えるため、立派な遊び相手になって見せるから! 

 友情を築き上げて帰るわ。


「あっそうだ、リゼット」

「えっ?」


 名を呼ばれて顔を上げると、エディアルドがすぐ側に立っていた。

 首元からチェーンを出して外すと、両手で私の左手をつかむ。


「これでよし」


 エディアルドが手を離すと、私の左手の薬指には綺麗に彫刻された銀色の指輪が輝いている。


「えっ、これって……」

「身に着けていて。これがあれば屋敷内は出歩いても大丈夫だから」


 左手を上げ、身に着けた指輪をまじまじと見つめる。


「綺麗でしょ。それ、お母さまの形見なんだ」


 ひぇっ、そんなに大事な指輪を私に? これは、返したほうがいいんじゃないんだろうか。


「言い忘れていたけど、逃げようと思っても無駄だから。でも、その指輪を身に着けている以上は、敷地内なら出歩いても大丈夫。敷地の外に出ようとすると――」

「すると――?」


 緊迫した空気に喉をごくりと鳴らす。


「見張っている精霊から私にすぐに連絡がくる。水の精霊ならまだしも、闇は気性が激しいから、飲み込まれちゃうかも!」


 やっぱり、ここにいる以上、指輪は借りておくしかない。飲み込まれるのだけはごめんだ。


 にこにこと話すエディアルドだが、大丈夫なのか、これ。

 それにここはどこなのかしら。ハモンド家の一室かな。


「ちょっと確認させて」


 私は椅子から立ち上がり、窓辺に近づき、カーテンをサッと開ける。

 眼下に広がる景色に思わず目を疑う。


 芝が敷き詰められた広い庭園、噴水を中心に花々が咲き誇る。

 敷地でこれだけ広いのなら、どれだけの規模の屋敷かは、聞かないでもわかる気がした。門が見えないのだから。


 こ、この豪華さは一体――。


「言い忘れていたけど、ここはカーライル公爵家だよ」

「えっ……」

「言ってなかったけど、カーライル公爵家が本来の居場所であって、ハモンドは仮の名前だから」


 それは重大な秘密事項じゃなかったの? カーライル公爵閣下が死に物狂いで、王妃から孫を隠すための!


 なぜこうもあっさり、私に秘密を漏らすのだろう。


「もっと秘密があるけど、今より親しくなったら教えてあげる」


 うっ、それはもしかしなくても、アレのことだろうか。性別の……。

 だが、本人の口から聞いてしまったら、戻れなくなりそうだ。だから、このまま知らずに別れたい。


 人差し指を口に当て、微笑む姿はどこから見ても、美少女だ。仕草すら可愛らしい。あくまでも少女として接しよう。


 そうよ、私は友人を目指すわ。仲良く遊び、ここから穏便に帰るの。 


 目指せ友達、築け友情よ!!

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