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14

 そんなことがあった翌日、うんざりする出来事があった。


 また届いたのだ、招待状が―――。


 しかも今回はリチャードが直々に持ってきたそうだ。その場にいなくて良かった、本当に。


「よほどお姉さまのこと、招待したいのよ。行ってあげれば」


 無邪気なシアナだが、行かないのはあなたのためでもあるのだ。


「とにかく私は忙しいの。お茶会に行くぐらいなら、ここで本でも読んでいるわ」

「お姉さまってば、今回は頑固なのね」


 クスリと笑うシアナだが、まったく、人の気も知らないで……。


「だけどお姉さまのこと、気に入ったんじゃない? じゃなきゃ、ここまで誘わないわ」

「別荘での暇つぶしでしょう、きっと。だったら王都に戻ればいいのに。娯楽はここよりも多いはずよ」


 もうこうなれば意地になる。もしくは招待に応じない私に、あっちも自棄になっているか。そうして私は再度、断りの返事を出したのだった。

 

 三回目の断りの返事を出してから、十日が過ぎた。


 三回も断られたら、やっとあきらめたのか、招待状はこなくなった。そして私たちは平穏な日々を過ごしていた。


「じゃあ、行ってくるわ」

「お姉さま、そんなに行かなくていいんじゃない? もう棚がいっぱいだわ」


 シアナの薬が瓶に詰まってびっしりと棚に並ぶ。確かに作りすぎだわ。


「なんだか毎日、日課になってしまって。行かないと落ち着かないのよ。それにいい運動にもなるし」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 快く送り出してくれたシアナに別れを告げ、森の小道へと向かう。


 いつものように作業を始めるが、今日は風が強い。


 わき芽を摘み終えたところで、すっくと立ちあがると、木々で羽を休めていた鳥が一斉に飛び立った。


 どうしたのかしら? 

 もしかして熊でも出たとか……。


 急に不安になり、身構える。周囲は得体の知れない緊張に包まれているのを肌で感じる。


 前にもこんなことがあった。

 あの時もなんだか怖く感じて、走って帰ったんだった。


 やはり、今日も帰ってしまおうと、来た早々、帰り支度を始めた。

 ふと森の奥から視線を感じ、顔を上げる。


 誰か……いる……。


 額にじんわりと汗がにじむ。こんな場所、用事がなければ入ってこない。


 恐怖から心臓がどくどくと音を立てる。怖いのに、逃げ出した方がいいと本能が告げているのに、木々の間に視線が集中し、なぜか逸らすことができない。


 ごくりと唾を飲み込むと、揺れる木々の間、歩いてきた人物が視界に入る。

 その人物は羽織っていたローブのフードをゆっくりと下ろした。


 日に当たりキラキラと輝く金の髪に、快晴の空と同じ瞳の色。赤く色づいた唇を不機嫌そうにゆがめ、近づいてくる。


「エディア……」


 どうしてここにいるのだろうと思ったが、恐怖に包まれて動けずにいた。


「リゼット。どうしてお茶会に来てくれないの?」


 まさか、そのためだけにここまできたの?

 それにどこから来たの? 私は通ってきた森の小道にバッと視線を投げた。

 ここに来るには道は一つしかないからだ。


「ふふっ。どうやってここに来たか気になる?」


 エディアルドが肩を揺らして微笑む。


「すぐに教えてあげるよ」


 エディアルドは私に向かい、スッと手を伸ばす。反動でビクリと体が震える私の腕をつかむと、顔に手をかざす。


 不意に眠気が襲ってきて、頭がクラリとした。足に力が入らず、そのまま倒れ込んだ体をエディアルドが抱きかかえた。


「おやすみ、リゼット」


 声が聞こえたのを最後に、意識を手放した。

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