46.幸せな結婚
そうして、あっという間にルフォール辺境伯領へ来てから一年が経った。
今日は当初からの予定通り、私とノエル様の結婚式となる。
場所はこれまで王族の結婚式が何度となく執り行われた王都の神殿だ。
結婚式の後は、王城のホールを借りて披露宴を執り行う。
王城では冠婚葬祭に際して貴族にもホールを貸し出しているので、それを利用していた。
王都の屋敷で披露宴を行うことも考えたが、こちらには領地ほどの使用人はおらず、満足なおもてなしができないだろうと考えてのことだった。
ノエル様のたっての希望で、領地に帰ってからも披露宴を行うことになっていた。
教会の祭壇までのカーペットの上を、父のエスコートで進んでいく。
座席には国王夫妻をはじめ、家族や親戚、友人達が来てくれている。
一度は婚約解消もされた私が、こんなに沢山の人に祝ってもらえるような結婚をできるなんて夢のようだ。
(それも、全てノエル様が私を見つけてくれたから……)
新郎である、ノエル様のもとに辿り着き、隣に並ぶと、ベール越しに見つめられる。
神官が聖典の教えについて話し、そして、誓いの言葉を問いかける。
「病めるときも、健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
ノエル様は、神官の問いに迷う様子もなくきっぱりと答えた。
前世でも行ったやりとりだった。
その時の相手はノエル様ではなかったけれど、かつて結婚の誓いがどれほど軽んじられたのか、私は身をもって知っている。
あの時の二の舞にならないよう、出会った当初、彼に結婚の条件を突きつけたりもした。
そのことが無駄だったとは思わないけれど、今は、そんな条件がなくても、ノエル様とならば、この誓いに背くことのない結婚生活を送ることができると信じられる。
それも全て、ノエル様が私に真摯に愛を伝え、行動で示してくれたからだ。
「新婦も、誓いますか?」
「……誓います」
ノエル様の手により、改めて結婚指輪が私の薬指に収められ、私もまた同じように指輪を通す。
彼が一歩、こちら側に近づいたところで、そっとベールがめくられ、ようやく彼との対面を果たした。
「シャルロット、最高に綺麗だ……」
他の人に聞こえないよう、囁くような声で言われ、私は頬を染めた。
「なんで、今言うのですか」
誓いの口づけの前にそんなことを言われては照れてしまう。
「すまない。思ったままに口から出てしまった」
「旦那様も、とても素敵です」
「そ、そうか」
動揺するノエル様に微笑んだところで、いつまでも誓いの口づけを行わない私達を見かねて神官が咳払いをする。
目をつぶった私の唇に、ノエル様の唇が重なり、離れて行く。
「神の名の下に、ここに一組の夫婦が成立したことを宣言します」
神官の宣言に、温かな拍手が贈られる。
そして、夫となったノエル様のエスコートでその場を退出した。
披露宴の会場に向かうため、王宮に向かう馬車の中で、ふと私はノエル様に尋ねた。
「ノエル様は、どんな夫婦になりたいというような、理想はございますか?」
私は、それこそ出会った最初の時に、相思相愛夫婦でいたいということを宣言しているが、ノエル様の理想を聞いたことはなかった気がする。
「理想か……。シャルロットと結婚できただけで奇跡のようなことだと思っているからな。これ以上は望んでいないが……そうだな、何十年経っても、今と同じ心持ちでシャルロットと向き合っていたいな」
「それは、ずっと愛し愛される夫婦でいようってことですか?」
尋ねると、ノエル様は頷いた。
「もちろん、シャルロットの気持ちを尊重する。だが、よそ見をさせないよう努めるつもりだし、たとえシャルロットが私に飽きたと言っても、私はシャルロットだけを見つめ続けるよ」
そして、まるで誓いのキスをするかのように手の甲に口付けられる。
甘い言葉でくるまれているが、それは逃がすつもりはないということではないだろうか。
けれど、そう気が付いても嫌では無かった。
「私だって、相思相愛は望むところです! それに、飽きるだなんて、そんなこと絶対にありえませんからね!」
「そうか」
果たして、私の本気はどこまで伝わっているのだろうか。
私の宣言に嬉しげに微笑むノエル様の姿にそう思う。
でも、伝わっていなくても、それこそ何十年もかけて、伝えていけばいい。
だって、私達はもう、夫婦になったのだから。
無事完結です!
この度は素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!!
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