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44.夜会2

 国王陛下により夜会の開始が宣言されると、王太子夫妻がダンスを披露される。

 最初のダンス以外は誰がいつ踊ろうと順番などないそうだが、基本的に王太子夫妻に続き、高位貴族が踊ってから、それ以外の貴族が踊るらしい。

 王太子夫妻のダンスに拍手を送った後、ノエル様に促されてホールへと進んだ。


 王宮の楽団の奏でる音楽に合わせてステップを踏みだす。

 ノエル様のステップは安定感があって踊りやすい。

 こうしていると、周りから見られていることなんて気にならなくなってくるから不思議だ。


「ふふ、楽しいですね」

「そうだな。シャルロットはダンスが好きか?」


 ノエル様が言う。

 辺境領にいた際に、積極的にダンスの練習をしていた訳では無かったからだろう。


「こうして特別な場所でノエル様と踊るから、楽しいのだと思います」

「嬉しいことを言ってくれる」

「ノエル様は、お好きではないのですか?」

「そもそも、今まで夜会でこうして踊ることはなかったからな。だが私もシャルロットと踊るのは好きなようだ」


 馴れていらっしゃる様子だからと、不用意なことを聞いてしまった。

 一瞬、落ち込みかけたが、そんな私にノエル様は微笑みかける。


「シャルロット、練習中にやったアレをやろう」

「えっ」


 突然のリフトに驚きつつ、息を合わせる。

 二人での練習中、息が合うからと調子にのって、こういったアレンジも加えていたのだ。

 周囲からは感嘆の溜息と共に拍手が贈られているので、悪い出来ではないようだ。


「もうっ、ノエル様っ」

「大丈夫だったではないか」


 ノエル様には、悪びれる様子がない。

 そうしている間に、一曲目が終わった。


(あっ、約束、覚えていらっしゃるか聞くのを忘れていたわ)


 終わりの挨拶をしたところで、再度ノエル様から手を差しだされる。


「えっ?」

「続けて三曲、踊るのだろう?」

「約束、覚えてくださっていたのですね」


 私の言葉に、ノエル様はもちろんだと頷いたのだった。



 その後、立て続けて三曲目まで踊ったところで休息に向かう。


「疲れただろう。何か飲み物をもらおうか」

「お願いします。レモネードが飲みたいです」

「わかった」


 ノエル様が会場にいる係の者に飲み物を頼んでくれて、二人で喉を潤していると私の知る顔が近づいてきた。


「ルフォール辺境伯夫人、この度は、ご結婚おめでとうございます」


 それは、元婚約者のフェネオン侯爵家令息様との婚約時代によくお茶会に呼んでくれていたラサーニュ侯爵家のご令嬢だった。


「アメリー様、お祝いのお言葉ありがとうございます。ですが、私のことは変わらずシャルロットと呼んでください」

「ありがたく存じます」

「シャルロット、そちらは?」


 そんなやりとりをしていると、ノエル様に促されアメリー様を紹介する。


「ノエル様、こちらラサーニュ侯爵家のアメリー様です。以前から親しくお付き合いをさせていただいておりました」

「お初にお目にかかります。ラサーニュ侯爵家のアメリーと申します。辺境伯様におかれましては、本日はご機嫌麗しく存じます」


 頭を下げるアメリー様に、ノエル様は頷く。


「妻のこと、これからもよろしく頼む。積もる話もあるだろう。私は少し離れていよう。シャルロット、あちらにいるから終わったら呼んで欲しい」

「わかりました」


 そうして、少し距離を置いたところから見守ってくれる姿に、アメリー様は小声で歓声をあげるという器用なことをしている。


「アメリー様?」

「すごいわ! シャルロット様、辺境伯様に愛されていらっしゃるのね……!」

「えっと……?」


 なんと答えようかと思っていると、アメリー様は声を抑えて言う。


「その、以前のことがあって勝手に心配しておりましたが、幸せそうになさっていて安心いたしました。お祝いは、どちらにお贈りしたらよろしいかしら」


 以前のことと言うのは、フェネオン侯爵家令息との婚約がダメになったことだろう。だが、ノエル様の手前、名前は出ない。


「シーズンの途中で領地に帰ると思いますの。ですので、時間が開くようでしたら領地に、そうでなければ王都の屋敷に滞在しております」

「わかりました。では、急いでお贈りいたしますね。すぐに領地に戻られるのなら、お茶会にお呼びするのも難しいですわね」


 残念そうに言うアメリー様に尋ねる。


「どうかなさったのですか?」

「辺境領に行かれたのが突然のことで、以前お茶会でご一緒していた皆様も心配しておられましたから」

「そうでしたの。でしたら、アメリー様の方から皆様によろしくお伝えください」

「えぇ、お任せください。でも、次に王都に来られる時は、是非お茶に呼ばせてくださいませね」

「ええ、その時はご連絡いたします」


 アメリー様は同年代の高位貴族の婚約者達のまとめ役的なことをされていたので、心配して声をかけてくれたのだろう。

 それに、色々と最近の噂についても教えてくれた。

 フェネオン侯爵子息との婚約が無くなって、私が悪く言われているのだろうと思っていたがそうでもないようだ。


 今まで私の年齢が足りず、夜会には出られなかったことで、フェネオン侯爵子息の婚約者が私だったと知っている人は同年代以外には少ない。

 そのうえ、私との婚約解消後、フェネオン侯爵子息の方もあまり社交界に顔を出していないことからそこまで噂になっていないと聞いて安心した。


 区切りが良いところでアメリー様と別れて、ノエル様のところに向かう。

 話の途中、視線を向けた際には王宮の騎士服を着ている人と話をされている様子だった。

 お知り合いと話をされているのかもしれないと思ったけれど、その人はすぐにどこかへ行ってしまった。


「もうよかったのか?」

「はい。ノエル様も。お知り合いとお話をなさっておられたのですか?」


 ノエル様は首を振る。


「庭の方で不審な気配があったから、念のために騎士に連絡をしていただけだ」


 だから、騎士服を着た人と話をしていたのか。


「よくお気づきになられましたね」

「偶然、テラスの側にいたからだろう。もう一曲、踊りにいかないか?」

「えっと、ダンスも、帰る前にもう一度踊りたいですが……」


 もちろん嬉しいのだけれど、言いよどむ私にノエル様が首を傾げる。


「どうした?」

「庭のライトアップも綺麗だと伺ったので、見てみたかったです。でも、不審な方がいらっしゃったのなら、難しいですよね」


 なるほどと頷いて、ノエル様は別の提案をしてくれる。


「では、二階のテラスから眺めよう。庭を歩くのとは違う眺めだが、人気があると聞いている」

「見てみたいです! でも、人が多いのではありませんか?」

「問題ない。特等席を知っている」


 嬉しそうなノエル様にエスコートされて、二階へと向かう。

 景色を満喫し、一息吐いた後は、もう一度ダンスホールへと向かい、初めての夜会を堪能してその夜を終えたのだった。

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