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41.元婚約者視点2

「お前は、どうしてルフォール辺境伯夫人にあんな手紙を送ったんだ!」


 珍しく本館の父の執務室に呼び出されたので、もしかしてシャルロットとの再婚約の話かと思って来たというのに、見当違いの叱責が浴びせられた。


「ルフォール辺境伯夫人とは? どなたのことですか?」


 父に尋ねると、先程以上の怒声が飛んでくる。


「とぼけるつもりか! ヴィアール伯爵令嬢はルフォール辺境伯に嫁がれたと伝えただろう!」

「えっ、いえ、ですが、王族が婚約期間もなしに結婚などありえないと思いまして」

「たわけ! それだけ伯爵令嬢がルフォール辺境伯に望まれたということだ! それに、王族の方々のご動向に、私達が口を挟むことではない!」

「しかし、シャルロットは――」


 言いかけたところで、執務机から立ち上がった父から胸ぐらを掴まれる。


「いい加減にしろ! ルフォール辺境伯夫人だ! 元婚約者とはいえ、もうお前とは何も関係ないお方だ! それと、お前の手紙の写しだという物も同封されていたが、なんだあれは! 辺境伯夫人へもそうだが、殿下への不敬も目に余る。殿下は一度目は注意で終わらせるが、二度目はないとの仰せだ」

「なっ――、写しを同封!? 私の手紙を、父上も読んだのですか!」

「気にすることはそこか……」


 呆然とする私に、父は大きく息を吐くと、呆れたように私の胸元を離した。


(……シャルロットが私の手紙を辺境伯に渡したのか?)


 だが、彼女がそんなことをするとは思えない。

 叱責の内容とあわせて考えると、シャルロット宛に届いた私の手紙をあの王子が勝手に読み、こちらに抗議してきているのだろう。


「だいたい、闇属性の魔力は、忌むべきものではない。瘴気と闇属性の魔力は違うものだ。そんな常識を知らぬとは、今まで家庭教師から何を学んでいたのか……」

「……」


 私が思考に沈んでいる間にも、父の小言は続いている。


「お前のせいで、私まで不敬罪で処されるところだったんだぞ。ルフォール辺境伯からも直々に厳重な抗議が届いている。今後、お前に自由はないと思え」

「なっ――、横暴です!」

「哀れと思って離れで暮らすことを認めたが、それすらも甘い判断だったな。王都にいる間は、離れから一歩も出ることは許さん。手紙などの外部への連絡も許さないと侍女達にも徹底しろ」

「そんな!」

「安心しろ、謹慎は一時的なものだ。社交シーズンが終われば、私と共に領地に移動もできるぞ。下手に離れた場所に置いて、今度こそ辺境伯様にご迷惑をおかけするわけにはいかんからな」 

「わ、私は嫡男で――」

「お前の体質では、もう社交界に復帰は無理だろう。ジェレミーよ、もう、諦めなさい」

「そんな……」


 父は話は終わったとばかりに、執事の方を見る。


「ジェレミーを離れへ。私が呼ぶまで、絶対に外に出すな。見張りを置き、侍女達にも徹底しろ」

「嫌です! 父上、どうか、私にもう一度チャンスを! 私が、跡取りとして相応しいと証明して見せます!」

「おい! ジェレミーを拘束しろ。錯乱しているようだ」


 父に詰め寄るが、父は溜息を吐くと、入り口にいた体格の良い侍従に声を掛ける。


「ジェレミー様、こちらへ」

「うるさい! 私に触れるな! 父上! お願いです! 話を――」

「失礼します」

「ぐはっ」


 腕を掴んでこようとする侍従を振り払い、父の元に行こうとしたところで、腹部に衝撃が走る。

 痛みで侍従を咎めるどころではない。

 気が遠くなっていくなか、耳だけは父の声を拾っている。

 

「聞けば、お前はルフォール辺境伯夫人にも一方的に別れを告げたそうではないか。やったことが返ってきているだけだ。確かにお前を嫡男として育ててきたが、その未来を閉ざしたのも、お前自身の選択だ――」


 次に気が付いた時、私は離れの三階に閉じ込められていた。

 入り口には体格の良い騎士が見張りに立っていて、当然ながら、窓から逃げ出すこともできなかった。

 そんな不自由な思いをしているというのに、マリエルは私に会いにきてくれることもない。見張りに様子を聞けば、どうやら体調不良はまだ続いているようだ。


「シャルロットさえ、いてくれれば…………」


 あの辺境伯が余計なことをしさえしなければ、シャルロットは戻ってきてくれて、私は嫡男に戻れたはずだった。そうすれば、マリエルの気分も上向き、体調も良くなるはずだ。

 シャルロットは王族の横暴で、婚約期間すらなく結婚させられてしまったのだ。

 きっと辛い思いをしているだろう。

 辺境伯の魔の手から助け出せば、きっと私の愛は伝わるはず。


 父が気にしていたように、幸い、そろそろ社交シーズンがはじまる。

 辺境伯も毎年、シーズンのはじめには王宮に挨拶に来ていた。シャルロットも辺境伯夫人として、王都に来るだろう。


「その時に、必ず――」


 機会は限られている。一度は抜け出すことはできても二度目はないだろう。私はありあまる時間で、じっくりと計画を練るのだった。

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