40.お茶会が終わって
皆様から昔のノエル様についての話を聞いている間に、あっという間にお茶会の終わりの時間が近づいていた。
ノエル様がいらっしゃったのは、そんな頃合いだった。
「シャルロット、すまない。遅くなってしまった」
立ち上がり、出迎えに向かう。
「ノエル様、いらしてくださったのですね」
「様子を見に来ると伝えただろう。盛り上がっていたところ、邪魔をしてしまったかな?」
「そんなことはありませんわ。それに、そろそろ終わりの時間でしたもの」
振り返ると、皆立ち上がり、カーテシーでノエル様を出迎えていた。
「皆、楽にして欲しい。本日は、妻の茶会に来てくれて感謝する。今後も、妻と仲良くしてほしい」
「私からも、どうぞよろしくお願いいたします。本日は、お茶会に来てくださり、ありがとうございました」
二人で挨拶をすると、何故か、皆から拍手が贈られる。
そしてそのまま、お客様方のお帰りを見送ったのだった。
お茶会が無事に終わった翌日。
珍しく、ノエル様に誘われてお茶の時間をご一緒することになった。
今日は居間に、二人分の席がセッティングしてある。
テーブルの上には、昨日とは趣向が異なり、果物のタルトなどが並んでいた。
二日続けてとなるが、料理長が頑張ってくれたのだろう。
「今日はお誘いありがとうございます」
「こちらこそ。誘いを受けてくれてありがとう。シャルロット、昨日は頑張ったな。大成功だったと聞いている」
「そう言っていただけて嬉しいです。ノエル様をはじめ、皆様が手伝ってくださいましたから」
「だが、お茶会の最中にも少々トラブルがあったと聞いた。そして、それを丸く収めたとも」
マルチノン男爵令嬢の件だろうか。
「そちらも、私だけの力ではありません」
「というと?」
「あら、ノエル様がグノー子爵夫人に私の味方になるように動いてくださったのではないですか?」
そう尋ね返すと、ノエル様は眉間に皺を寄せた。
「む、どうして知っているんだ」
「やっぱりそうだったのですね」
なんとなくの勘だったが、当たりだったようだ。
事前に顔を合わせたわけでもないのに、グノー子爵夫人は途中から私がやりやすいようにと動いてくれていたのを不思議に思っていた。
だが、この土地に長くいるノエル様なら、夫人とも面識があっただろうと気が付いたのだ。
「誤解してほしくないが、シャルロットの味方になって欲しいと頼んではいたが、夫人からはシャルロット本人を見てからだと返事をもらっていた。だから、あの場でグノー子爵夫人の協力を得られたのは、シャルロットの実力だ」
「心配してくださったのですね」
「ただでさえ、全くの顔見知りがいない状態でのお茶会の主催だ。あまりにもシャルロットの負担が大きい気がして、勝手に気を回してしまった。黙って動いたこと、気分を損ねていないか?」
不安げに私を見つめるノエル様に頷きつつ、言い添える。
「今回は。ですが、段取りをしていただいて上手くいったことを、実力と勘違いしたくありません。今度からは、教えてほしいです」
「そうか……。わかった。私が手を回さずとも、シャルロットには茶会を成功させる実力があるのだしな。今度からは、今回のようなことは控えよう。だが、助けが必要な時はいつでも頼って欲しい」
「その時はよろしくお願いします」
ノエル様の後ろ盾は大きいし、ノエル様自身も頼りになる。
けれど、そこに甘えすぎれば、私はノエル様の隣に自分が相応しいと自信を持って言えなくなってしまいそうだ。
ほっとしたところで、ノエル様が私を見つめる。
まだ、何かあるのだろうか。
心構えをしたところで、思わぬことを言われてしまった。
「ところで、シャルロットに対し失礼な発言をした者がいたと聞いたが?」
「その場で解決しておりますわ。誤解が原因でしたし、きちんと皆様の前で謝罪をいただきました」
すかさず答える私に、ノエル様は難しい表情で頷く。
「一応、尋ねるが、王族の妻への不敬として処罰は?」
「必要ありません。お茶会は、王族の妻として開いたものではなく、辺境伯夫人としてのものですから」
「……そうか、わかった。私からは、二度目は無いと釘を刺すだけにしておこう」
こういうところは、ノエル様は王族なのだと実感してしまう。
先程の会話があったから、教えてくれたのだろうか。
ノエル様はまるで「仕方が無い」とでもいいたげな表情を浮かべている。
「……ノエル様の妻として、問題がありましたか?」
「いや。私の妻は、魔王にさえ慈悲をかける心優しき女性だったと、再度実感していたところだ」
王族の妻としては相応しくない振る舞いだっただろうか。
一瞬、不安になった私にノエル様は続ける。
「私はシャルロットのそういうところに惹かれたのだから、気にせず大丈夫だ。シャルロットの判断も間違っていない。ただ、今はもう私の妻だ。その優しさを、私だけのものに独占したくなってしまうな、と少し思っていた」
思わぬことを言われて動揺する私に、ノエル様は焦がれるような表情を浮かべている。
なんだか居心地が悪い思いを誤魔化すように、私はタルトに手を伸ばすのだった。




