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4.騎士団へ

 シンディのお茶で一息ついた後のこと。


「ねぇ、シンディ。晩餐の準備はすぐにしないといけないかしら」

「いいえ。まだ数時間程は余裕があります。お休みになられますか?」


 お疲れでしょうと、心配げな顔をするシンディに首を振る。


「時間があるのなら、辺境伯の騎士団のところにもご挨拶に行っておきたくて。突然伺ったら、ご迷惑かしら」

「シャルロット様のご希望は叶えるように言われていますので、構わないかと。騎士団の詰め所は城内にありますので、ご案内いたします」


 そして、私達は騎士団の元へと向かった。



 騎士団は城内にあるとはいっても、建物は別だった。

 城の西側の城壁の近くに騎士団用の建物が有り、その側に演習場があるのだそうだ。

 だが、今はその建物には人が慌ただしく出入りし、ただごとではない雰囲気だ。


(神殿に重傷者が運び込まれた際の雰囲気に似ているわ……!)


 何が起きているのかわからないものの、気が付くと私は走り出していた。


「あっ、シャルロット様っ」


 慌てて、シンディが追いかけてくる。


「ごめんなさい! でも、急いだ方がいいと思うの」


 そして、辿り着いた騎士団の建物の入り口で、私は受付を担当する騎士に止められてしまった。


「すみません。今取り込み中でして、騎士団の見学は行っていないのです。騎士のお身内の方でしたら、後でいらっしゃったことをお伝えいたしますので、こちらにお名前を――」

「いえ、そうではなくて……」


 怪訝な顔をする騎士に説明しようとしたところで、シンディが追い付いてきた。少し息が切れている。


「お、お待ちください。シャルロット様は、辺境伯様の奥方様となられたお方です」

「えぇっ、辺境伯様は、ご結婚なさったのですか⁉︎ あ、ですが、その、今は、こちらをご案内することは難しくてですね……」

「いえ、そうつもりではなく」

「おい、どうしたんだ。また辺境伯様目当てのお嬢様が来たのか」

「あっ、副騎士団長!」


 受け付けで揉めている私達を見かねてか、胸に勲章を沢山付けている騎士がこちらにやってくる。

 受付の騎士は、助かったという顔をしてそちらを見る。

 確かに、副騎士団長は、よく見ると顔立ちが整っているが、短く刈り込んだ髪に、頬に傷があり、普通の令嬢ならば彼にすごまれると怖じ気づき、帰ると言いだすことだろう。


「お嬢さん、申し訳ありません。今はこのように立て込んでおりまして、見学でしたら後日、また日を改めて――」

「違います、私は見学に来たのではありません」


 丁寧に、受付の騎士と同じ事を言う副騎士団長の言葉を遮ると、彼は怒った顔をする。


「見ておわかりになりませんか。今は、騎士が怪我をして運び込まれたところで、ご令嬢の我が儘に付き合っている時間はないのです!」

「私は浄化魔術を使えます! その怪我が魔獣によるものでしたら、私にもお手伝いできることがあるはずです!」

「なっ、それは、本当ですかっ」

「嘘などついておりません! 急ぐのでしょう。患者はどこですか!」


 ようやく話が通じて、建物の奥に向かう。

 歩きながらも、副騎士団長が言う。


「こちらです。浄化魔術の使い手ということですが、実践はおありですか」

「ご安心を。六年、神殿にて浄化魔術を使って奉仕活動を行って参りました」

「そうですか。ですが、もし変なことをなされれば、ご令嬢がどのような方であろうと容赦はいたしませんので」

「なっ、シャルロット様に無礼な!」


 シンディは私の後ろでいきり立つが、大丈夫となだめる。

 そして、奥の治療室でベッドに寝かされた騎士を見て、私は息を飲んだ。

 その騎士は胸から腹にかけて包帯がまかれているが、血が滲んでいた。そして、その傷が瘴気を含んでいるのか、彼を中心に瘴気が渦巻いて見える。


「……酷いですね」

「難しいのならば、正直にそうおっしゃってくださってかまいませんよ。今、団長にこの瘴気を払えるお方を呼んでくださるようにとお願いしているところですから。少なくともその方がいらっしゃるまで持たせてくださればかまいません」

「問題ありません」


 無理だろうという視線を受けるが、私は首を振ると、その方のベッドの側に行き、跪く。


「悪しき息吹、神の御手にて清められん」


 祈りと共に、浄化魔術を展開する。

 

「は?」


 驚いた声が背後から聞こえる。

 瘴気を払うと、より傷の具合が見えるようになる。

 とてもそのままにしておけるような状態に見えず、治癒魔術も発動する。


「癒しの光よ、傷に癒しを」


 ほんわりと騎士の傷が光り、消えていく。


「なっ、なんだと……! あの瘴気を払い、傷も跡形も無く……? おい、あのご令嬢の名は聞いているか!」

「いえ、聞いておりません」


 そんな会話が聞こえるが、それよりも、傷ついた騎士の傷を癒やすことができたことにほっとする。


「終わりました。体力が回復されれば、騎士様も目覚められるでしょう」

「感謝する」


 そう告げると、副騎士団長に一旦、状況を整理したいと部屋を移ることを提案された。


 騎士団の応接室で、副騎士団長を前に、私はソファに腰掛けていた。

 私の後ろにはシンディが付き添ってくれるから怖くない。


「さて、少し話を聞きたいのだが――」


 副騎士団長が話し始めた時だった。


「シャルロット!」


 声が聞こえたかと思うと、部屋にノエル様がいらっしゃった。


「ノエル様……? どうしてこちらに?」

「なんでと言いたいのは私の方だ。シャルロットの力を借りたいことがあったからと呼びに言ったら不在で、こちらに向かったと聞いて驚いたよ」

「ご挨拶をしておこうと思ったのです。そしたら、怪我人がいらっしゃるということで、お手伝いをさせていただきました。ノエル様のご用事は何だったのですか……?」

「もう、シャルロットが済ませてしまったよ。大けがを負った者がいるということで、浄化魔術を頼もうと思っていたんだ。騎士の命を救ってくれて、ありがとう」

「私は、できることをしたまでです。それに、こういった時のために私にご婚約を申し込まれたのでしょう?」


 はっとしたようにこちらを見るノエル様に微笑むと、うっとノエル様は胸を押さえる。


「ノエル様? 胸がどうされたのですか?」

「いや。大丈夫だ。シャルロットの笑顔が眩しくて。それと、何か誤解があるようだ。婚約に関してだが――」


 ノエル様が話をしようとしたところで、副騎士団長が声をかける。


「団長、そのお方は……」

「後日、紹介しようと思っていたが、既に顔を合わせていたか。私の妻となった、シャルロットだ」

「妻……⁉︎ このお方がですかっ」

「シャルロットの浄化魔術を見ただろう。彼女以上の使い手はいない」


 顔を青くする副騎士団長に、何故か断言するノエル様。

 私は慌てて訂正する。


「ノエル様、それは言い過ぎです」

「だが、少なくとも辺境でシャルロット以上の使い手はいないぞ? それに、早速、シャルロットの力を借りることになってしまった」

「構いません。既に嫁いだ身ですから。どうぞ私の力も領地のために役立ててください」


 そんな会話をしていると、どんどん副騎士団長の顔色が悪くなり、ついにはその場に跪き、頭を下げる。


「……奥方様、先程は失礼な言動を申し訳ありません」

「いえ、気にしておりません」

「ですが……」


 なおも言いつのる副騎士団長に首を振る。


「シャルロット、何があったのだ?」


 ノエル様が尋ねる。


「何も。仲間の騎士様が怪我をされて、ここに案内する際に少々殺気だっておられただけです。ですが、お身内が傷つかれたところに、見知らぬ人間がやってきたのです。私は気にしておりません」

「なるほど。シャルロットの広い心に感謝しよう。だが、マルク、今の話は後で詳しくきかせてもらう」


 じろりと副騎士団長を睨むノエル様に私はそういえばとここに来た際に彼が言っていたことを思い出す。


「それよりも、ノエル様!」

「ん?」

「少し小耳に挟んだのですが、こちらにはノエル様目当てのご令嬢がよくいらっしゃるのですか?」

「は? 誰がそんなことを――」


 あっと副騎士団長が再度、顔色を青くする。


「そこのところを詳しくお聞かせください」

「えっ?」


 意味がわからないという顔をするノエル様にたたみかける。


「その中に、ノエル様が好ましいと思われる女性は――」

「いない! 私が愛を捧げる女性は、シャルロットだけだ」

「まぁ」


 ノエル様の発言に、私だけではなく副騎士団長も驚いている。

 度々女性の訪問者がいらっしゃるのならば警戒しなければと思ったが、先程出した条件をきっちり守ってくださるおつもりのようだ。


「ひとまず、シャルロットは先程こちらに着いたばかりだ。来て早々、浄化魔術を使ってもらって疲れただろう。部屋に連れて行こう。騎士団への挨拶は、後日、私が調整する」


 ノエル様は副騎士団長の方を見る。


「マルク、騎士に怪我を負わせた魔獣については、どうなっている」

「討伐は済んでおります。今は、他に狩り残しがいないか見回りを行っています」

「わかった。警戒を緩めるな」

「かしこまりました!」

「では、シャルロット、送っていこう」


 一方的に宣言し、私は再びノエル様に抱きかかえられる。


「ノエル様、自分で歩けます」

「こうした方が、シャルロットが私の大切な人だとすぐに見てわかるだろう」

「皆様、きっと正視しずらいと、目をそらしておいでです」

「そんなことはない」


 結局、ノエル様に抱きかかえられたまま、私は自室へと戻ることになるのだった。

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