37.お茶会当日
とうとうお茶会の開催日がやってきた。
ノエル様達とも打ち合わせを重ねているので準備は万端だ。
ラポワリー夫人に作ってもらったドレスが間に合ったため、ドレスは先日作ってもらったものを着ている。
昼用のドレスだけあって襟が高い、白い生地に薄紫色の花柄のドレスで、花柄に合わせて少し濃い紫色のリボンで腰の部分が絞ってあって可愛らしい。
「シャルロット様、とてもお似合いです。さすが、メゾン・エトワールのドレスですね。いつもお美しいシャルロット様がさらにお美しく……」
「ありがとう、シンディが手伝ってくれたおかげよ。髪型やお化粧も私一人ではここまでできないわ」
「もったいないお言葉です」
そんな会話をしていた時だった。
ノエル様がいらっしゃったと取り次ぎの侍女がやってくる。
「シャルロット、忙しい時にすまない」
「構いません。もう、仕度は終わりましたので」
「――っ」
申し訳なさそうな顔をしてノエル様が入って来られたかと思ったら、入り口で立ち止まってしまわれた。
「どうしました?」
「シャルロットのあまりの美しさに、思わず見惚れてしまった。とても似合っている――」
うっとりと見つめられ、私は真っ直ぐに見返すことができない。
「ノエル様も、一緒にデザインを考えてくださったじゃないですか」
さらに言うなら、このドレスの布はノエル様が集めていらっしゃったコレクションのうちの一つだ。
「そうだが、実際にシャルロットが身に付けるところを見られるなんて……。そうだ、これを持って来たんだった」
ふと我に返ったノエル様は手に持っていた小箱から紫色の石を使ったブローチを取り出すと、私に見せてくれる。
「こちらのブローチはどうされたのですか?」
「もちろん、シャルロットにと思って。紫色の石に魔術が仕込んであり、身を守るために緊急時には障壁を展開し私に連絡が飛ぶような術式が組み込まれているんだ」
「そんな貴重なものをいただいてよろしいのですか……?」
魔術を刻みつけた石をジュエリーに加工したものは、普通のジュエリーの数倍以上の値がつけられるという。
「シャルロットの身の安全のために作らせたから、むしろ使ってもらえない方が悲しいよ」
そうまで言われては、受け取らない方が失礼だろう。
礼を言うと、嬉しげに頷かれた。
「ところで、こちらはいつの間に作られたのですか?」
「辺境の村でも大分無茶をしていたから、帰ってきてからすぐだろうか。少し時間はかかってしまったが、お茶会に間に合ってよかったよ」
にこりと微笑むとノエル様は続ける。
「私が付けても良いだろうか?」
「えっと」
流石にそれはと思ってシンディの方に視線を向けるのに、どうしてかシンディは目をあわせてくれない。
「大丈夫。絶対にシャルロットに怪我をさせるようなことはしないから」
そう言って、私が返事をする前に、ブローチを手に取っている。
付ける場所は首元を飾るような場所にするようだ。
何度かキスもしたことがあるというのに、至近距離にいるノエル様にドキドキする。
「よし、できた」
ふっとノエル様が離れ、シンディがすかさず鏡を差しだしてくれる。
鏡で見ると、まるでもとからこの場所にあったかのようにぴったりだ。
「とても素敵です。ありがとうございます」
「どういたしまして。私も後から顔は出す。一人で頑張らせてしまって申し訳ないが――」
「大丈夫です。ノエル様は、このブローチだけではなく、ドレスや他にもたくさん、私に武器を授けてくださっています。皆様に、私がノエル様の妻にふさわしいときちんと認めていただいてきますわ」
「頼もしいな」
そして、ノエル様に見送られ、シンディと共に茶会を行う応接室へと向かった。




