25.畑の浄化
翌日。
私は朝一番に騎士団のテントへと向かった。
「おはようございます!」
「おはよう、シャルロット、早いな」
「ノエル様こそ、もう副騎士団長様と交代されていたのですね」
「団長としてあまり副騎士団長に負担をかけるわけにはいかないからな」
私からすると、ノエル様も副騎士団長も、二人とも働き過ぎに見えて少し心配だ。
「治癒魔術をかけましょうか?」
尋ねると、首を振られる。
「大丈夫だ。今日はシャルロットに頑張ってもらわねばならないから、力を温存しておいて欲しい」
「浄化を必要とする土地は多いのですか?」
「この村で作っている畑の八割近くの場所をお願いすることになる。それに、この村の近くにある川の上流にも毒に汚染された場所が見つかった。そこもお願いしたい」
「わかりました」
村の様子は確認して心構えはしていたから、問題は無い。
「まずは村の畑からまわろうと考えている。すぐに出発できるか?」
言いながら出入り口に向かうノエル様に、私は首を傾げる。
「はい。あの、ノエル様もついていらっしゃるのですか?」
「場所の指示もある。それに、シャルロットが無理をしないか、見張っていないとな」
冗談めかして言われるが、心配げな視線を向けられていた。
「ご安心ください。魔力量だけはありますから」
「そう聞いてはいるが……。今日中に終わらせる必要は無いから、くれぐれも無理はしないでほしい」
そして、私達は出発した。
まずは、村で一番被害が大きい森側の畑に行き、浄化魔術を使っていく。
やはり、一番森に近い畑だからか被害が大きい。
もとは小麦の畑だったようで、本来なら青い葉が茂っているはずの場所には紫色に変色して枯れた草の残骸しか残っていない。
「悪しき息吹、神の御手にて清められん」
今世では土地に対して浄化魔術を使った経験は少ないが、前世では沢山使ってきた魔術だ。
だから浄化が必要な土地に対してどのくらいの魔力を込めればいいのか、コツのようなものも覚えている。
これから村中の畑を巡ることを考えて、力一杯浄化してあげたいという感情のままに力を使わないよう、考えて浄化魔術を発動させた。
魔力が減る感覚と共に、土地にしみこんだ毒と瘴気が浄化されていく。
「できました。これで、この辺りの浄化は完了です」
「見事だな」
「ですが、浄化はできても、枯れてしまった植物までは戻せません……」
紫色に変色していた小麦の葉は枯れ葉色に変わっており、土地も無事に浄化されている。
しかし、浄化ができたからといって枯れた植物が生き返るわけではない。
これからのことを考えると、気分は落ち込む。
隣にいるノエル様が言う。
「そこは私の仕事だ。今から同じように小麦を育てることは難しいが、収穫まで期間が短い野菜を育ててもらい、それを買い取って小麦を手に入れられるよう支援する予定だ」
「なるほど! そんな方法があるのですね!」
私に思いつかないやり方に、驚いて見上げると、ノエル様は微笑んでいた。
「これでも、この土地で六年あまり領主をやってきたからな」
「さすがです。なら、私も――!」
そして、もう一度、浄化が終わったばかりの土地に対して魔力を込める。
「この苦難を乗り越えし土地に、神の祝福を賜らん」
ほわっという光で、一瞬、畑が輝く。
「今のは?」
「作物が育ちやすくなるような祝福です。こちらは馴れていないので、気休め位の効果だと思ってください」
「そんなことはないだろう。今、祝福が下りたように畑も光っていた。すごいな。シャルロットは何でもできるのだな」
「癒しや浄化といったものに関する魔術だけです」
「シャルロットにしかできないことだよ。ありがとう」
「そ、そんな! まだ、結果も出ていないのに」
「シャルロットの祝福だ。絶対に効果はあるだろう」
そして、はっとしたように私を見る。
「魔力の消費はどうだ? 一度、休憩をいれた方が――」
「いえ、早いです。まだ魔力には余裕があるので、次の場所に行きましょう!」
過保護が進むノエル様を押しとどめ、私達は畑の浄化と祝福を進めていった。




