24.村への帰還
副騎士団長達と合流して、私達は村へと戻った。
留守番をしてくれていたシンディが出迎えてくれる。
「シャルロット様! ご無事で何よりです……!」
「心配させてごめんね。でも、ちゃんと戻ってきたでしょう?」
「危ないことはなさらなかったのですよね?」
「えーっと、そうね、多分大丈夫だったと思うわ」
私の答えに副騎士団長はおやおやという表情をしているが、口を挟むことはなかった。
結果的にこうして、無事に帰ってこられたし、魔獣にも遭遇していない。
危ないことには遭わなかったし、危ないことはしなったと言っていいと思う。
その後は騎士団のテントで、ノエル様から話を聞くことになった。
私は休んでいいと言ってもらったが、気になって残っている。
誰も反対する人はいなかった。
テントに入るとシンディが全員のお茶を淹れてくれて、それぞれ椅子に腰を下ろした。
私はノエル様の隣だ。
「心配させてすまなかった。私は、こうしてシャルロットのおかげで戻ってくることができた」
「団長が無事に帰ってきてくださって本当によかったです。団長の実力は存じていますが、今回ばかりは心配しました。それで、あの時なにがあったのかお伺いしたいのですが。魔獣はどうなったのですか?」
副騎士団長の問いに、ノエル様は一つ頷くと話し出す。
「まず、あの毒持ちの魔獣を追いかけて現れた魔獣は、討伐した」
「あれを、お一人でですか……!」
驚きの表情を浮かべる副騎士団長に、たいしたことないと首を振る。
「かなり強い個体だったが、幸い魔力耐性は弱かったようだ。だが、討伐した後、不覚にも魔獣から吹き出した瘴気をまともに浴びてしまったんだ」
「なんとっ――、もう、大丈夫なのですか?」
「あぁ、シャルロットが私を見つけ、浄化魔術をかけてくれたからな」
実際起きたこととは少し違う。
けれど、森の中で二人きりでいる間に、対外的にはそういうことで話を通そうと二人で決めた。
ノエル様に起きた、森を漂う瘴気が人間に集まるという現象は、滅多に起きることではないらしい。
再現性も無く、真実を話して広めても、住民を不安にさせるだけだろうということで真実は伏せることにしたのだ。
何故、ノエル様に瘴気が集まっていたのか。
私も事情はわからないが、それについては後日、時間を取って話してくれるそうだ。
副騎士団長が私に視線を向ける。
「奥方様、団長を助けてくださって、どうもありがとうございました」
「いえ、私が助けたかったのです」
隣にいるノエル様を見上げると、目が合い嬉しそうに微笑まれる。
私も微笑みで答えると、副騎士団長のコホンという咳払いで、はっとした。
急いで前を向いて真面目な表情に戻す。
「奥方様がいらっしゃらなければ、我々は団長を失っていました。そのことについては、本当に感謝をしています。しかし、奥方様は森の中で我々とはぐれた際、引き返そうとは思われなかったのですか?」
全員の視線が集まる中、私は答える。
「あの時、戻ることも考えました。ですが、伝わってくるノエル様の魔力が弱くなっていくのも感じていて、このままではノエル様の場所がわからなくなってしまうと思い、先に進みました」
「そうだったのですね。納得できました。ただ、今回は何事も無く終わりましたが、今後、何があるかはわかりません。……何か対策を考えておいた方がよろしそうですね」
副騎士団長の言葉に、ノエル様も頷く。
「城に戻ってから、何か考えよう。シャルロットに無茶をするなと言う方が難しそうだ。今のところ悪い結果にはなっていないが、私はシャルロットを失いたくない」
副騎士団長は頷くと話題を変える。
「それで、今後の事ですが、明日朝まで団長と奥方様には休養を取っていただきます。奥方様の様子を見て、可能であれば明日は土地の浄化をお願いします」
「わかりました」
「それと、騎士団としての仕事ですが、騎士達は交代で休息を取っているので、今日は村の復興の手伝いをするよう伝えています」
「わかった。それでいい。マルクは休息を取れているか?」
「私も適宜休みます。ひとまず、無茶をなさった団長から先に休んでください」
「……すまないな。だが、私は一度寝たら大丈夫だと思う。起きたら交代に来よう」
「いえ、団長がいなければ、騎士団どころかこの村も危なかったのです。遠慮無く、休まれてください」
ノエル様と副騎士団長は譲り合いをしていたが、副騎士団長は譲る様子はなく「たまには年上らしいことをさせてほしい」という副騎士団長の言葉でノエル様が折れ、会議は終わった。
私は副騎士団長の疲労だけでも取れるようにと治癒魔術を軽くかけ、テントを後にした。




