18.到着
翌日。
日は高いが、まだ朝と言える時間帯に魔獣の被害に遭っている村に到着した。
荷馬車が止まり外の様子を窺うと、副騎士団長がノエル様と話をしている姿が見えた。
「マルク、来たか」
「団長! 状況はいかがですか」
「良くないな。今回の魔獣は群れで行動しているようだ。半分には減らしたと思うが、村人と騎士が毒を浴びた。昼間は魔獣も寝ているようで、今は休息を取っている。それで、解毒剤は――?」
そう口にして荷馬車の方に顔を向けたノエル様と目が合う。
「どうしてシャルロットが……マルク! どうして連れてきた! ここがどれほど危険な場所かお前なら分かるだろう!」
怒った顔で副騎士団長を見るノエル様に私は荷馬車を飛び降り駆け寄った。
「お待ちください! どうしてもと私が願いました」
「だからといって――!」
「叱責は後で聞きます。毒の被害に遭われた方は? その方を優先すべきです!」
「あなたという人は……!」
ノエル様は頭を振り、真っ直ぐにこちらを見る。
「確かに、怪我人の治療を急ぐべきだが……。シャルロット、ここは城ではなく、いつ魔獣の襲撃があるかわからない場所だ。やってきてしまったものは仕方が無いが、必ず私の指示に従うと約束を。それすらできないなら、このまま城に送り返す」
気迫のこもった眼差しで見つめられ、私は頷いた。
「わかりました! ノエル様の指示に従うとお約束します」
「ならば、こちらに。確認だが、シャルロットの浄化魔術は解毒もできるのか?」
「はい! 浄化魔術で治療したことがあるので。人に対してもですが、土地に対しても可能です」
「土地にも……助かるな。だが、そちらは魔獣を全て倒した後だ。まずは彼らの治療を頼む」
連れて行かれたのは、村の奥にある村長の家だ。
そちらに怪我人が集められているそうだ。
最初に被害にあったという村人と、魔獣退治に向かった際に怪我をした騎士が寝かされていた。
彼らの側で看病にあたっている人達が顔を上げ、訝しげな表情を浮かべる。
「辺境伯様……! 解毒剤は? まさか――」
「安心して欲しい。解毒剤も届いたが、浄化魔術が使える妻が来てくれた」
「浄化魔術……?」
「解毒もできるそうだ」
「おぉ! それは……! 願ってもないことです」
村長が納得した後、ノエル様が私に視線を向ける。
「シャルロット。まずは、被害にあって時間が経っている村人から治療を頼む」
「わかりました」
ノエル様の指示の元、私は浄化魔術をかけ続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
「次は、どなたですか?」
「今の者が最後だ」
意外な答えに周りを見回すと、確かに全員、浄化魔術と治癒魔術をかけた人達ばかりだった。
「ありがとう。シャルロットのおかげで全員、助けることができた」
「私こそ、お力になれてよかったです。そうだ。毒は全て取り除きました。治癒魔術もかけていますが、魔術の治療では失った血は戻りませんので、しばらくは栄養のある物をたくさん食べて休息を取るようになさってください」
そう言うと、村長が聞きにくそうに言う。
「はい。あの、眠ったままの者はどうしたら――」
「そちらは、体力が回復すればいずれ目覚められると思いますので、そのまま寝かせてあげてください」
「わかりました」
「では、何かあれば私に言いに来るように」
「辺境伯様、奥方様、ありがとうございます」
「騎士の看病も、引き続き頼む」
「もちろんです」
ほっとした様子の村長に、ノエル様に促されて私は村長のお宅を後にした。




