12.広場で
広場に着くと、色々な屋台のお店が並んでいた。
串焼きの肉を売っているお店や、パンに焼いたお肉を挟んだものを売っているお店、クレープを売っているお店もある。
焼き栗のお店ももちろんあった。
「色んなお店があるのですね」
「そうだな。この辺りでは、ここで買って食事を取る者も多い。作る時間がなかったり、そもそも家に台所がないなどだな」
言われて見ると、どの店も手頃な感じの値段だ。
昼の時間が近いからか、店には人が並び始めていた。
「時間もちょうどいい。焼き栗の前に、何か食べようか。気になるものはあるか?」
私は広場を見渡して、どれを食べようか迷う。
「では、あのパンにお肉を挟んだものを」
「買ってこよう」
「私も参ります」
お肉を焼いているところを見てみたくて、私もついていった。
そのお店は屋台の中に大きな肉が吊されていて、そこから削った肉をパンに挟んでいるようだった。
吊された肉の下には炭火の入った鉢が置かれていて、香ばしい匂いがただよってきている。
先に並んでいた数人の客の対応が終わり、私達の番になる。
「いらっしゃい。注文は? って、りょ、領主様っ! 今日はどうしてこちらに――」
「妻とデートだ」
「お、奥様――!? りょ、領主様、今からでも遅くないです。奥方様はこんなところではなく、南の高級店に連れて行くべきです!」
店主は私を見て、驚愕の表情だ。
「何を言う。こちらに来たのは妻の希望だ」
「領主様の奥様ってことは、お貴族様でしょう。それはきっと、領主様に合わせて言ってくださっているだけですから……! 捨てられてしまいますよ!」
不敬にも取られかねない言い方だが、店主がノエル様のことを心配していることは伝わってくる。
「大丈夫です。こちらに参りたいと言ったのは私ですから。それに、こちらのお店の料理を食べてみたくて。売ってくださいますか?」
「ひぇー! もちろん、お売りします! お売りしますが、お口に合わないかもしれません」
そうだろうかとノエル様を見ると、ノエル様は首を振る。
「この店の料理は食べたことがあるが、なかなかのものだった」
「領主様! なんでそうハードルを上げるのですか……!」
「そういうつもりはなかったが……。私の分も頼む」
「はい! わかりました! 二つですね!」
店主は半泣きの目でノエル様を見つつ、肉を削り、パンに挟んで差しだしてくれた。
代金を今日のデートに着いてきてくれている従者が払ってくれたのを見て、受け取り、広場に置かれているベンチに向かう。
どうやって食べるのだろうと隣に座るノエル様を見ると、ノエル様はそのままかぶりつかれていた。
私も真似をして、一口かじる。
「美味しい!」
お肉だけでも美味しいのに、炭火の香りがする肉汁が薄めのパンに染みていて、たまらない味だった。
ノエル様の方を見ると、彼は既に半分程召し上がっていた。
「もうそんなに召し上がってしまったのですか……?」
「あぁ。気にせず、シャルロットはゆっくり食べてくれ」
そして、私が食べ終わる頃に、焼き栗を買ってきてくれる。
荒い紙の袋に入れられていて、袋を持たせてもらうとじんわり暖かい。
大きめの栗には横に割れ目が入っていてそこから黄色の食べられる部分が見えていた。
「既に割れている部分をこうして広げて、取り出して食べるんだ」
ノエル様が示してくれた見本を真似して皮を剥き口にする。
「わっ! 甘くて、美味しいです……!」
栗の甘みと共に、渋皮のほろ苦さも感じるが、それがまた栗の甘みを引き立てていた。
体がじんわりと暖かくなる。
あっという間に食べ終えて、二つ目をねだる。
「もう一ついただいてもいいですか?」
「一つと言わず、何個でも召し上がれ。足りなければ、またすぐそこで買えば良い。そういえば、シャルロットはカフェオレは飲めるか?」
「甘くしたものなら、飲めますが……」
「なら丁度良い。甘いカフェオレはこの栗と一緒に食べると意外と合うんだ」
「栗とですか?」
目を丸くする私に「買ってこよう」とノエル様が席を立つ。
そして、そう待つこと無く戻ってくると、飲み物の入った入れ物を手渡してくれる。
「どうぞ」
「いただきます」
口を付けると、カフェオレの甘さが口の中に残っていたほろ苦い味を消してくれた。
「これは、美味しいですね……!」
美味しいしか言っていない気がするが、すすめられるものが全て美味しいのだ。
ノエル様もそんな私を嬉しげに見つめてくれているので悪いことではないだろう。
結局、すすめられるがまま食べすすめ、結果的に二人で一袋では足りず、買い足してもらうことになったのだった。




