10.護衛
朝食の席で。
昨日と変わらない美味しい食事をいただいていた時のことだった。
ノエル様が言いにくそうに口を開く。
「シャルロット、その、今日はどうしたんだ?」
「……何がでしょうか?」
問われている意図がわからず首を傾げると、ノエル様は複雑な表情だ。
「……無意識か? これは喜んでいいのか……?」
「えーっと、その、何かしてしまいましたか?」
「何をしたというわけではないが、シャルロットから、いつもより視線を感じる」
「えっ……?」
ノエル様は頷いているが、意識して見ていたわけではなかった。
(今朝あんな夢を見てしまったからかしら)
気にしないとは思ったものの、つい見つめてしまっていたようだ。
「お気を悪くさせてしまったのなら申し訳ありません」
「そんなことはない。だが、そうか……。シャルロットが、無意識でも私を気にしてくれるようになったということだな」
嬉しげにはにかまれ、違うとは言えない。
「……見ないように気を付けますね」
「気にせず、どんどん見てくれていいが?」
ご機嫌に言われ、思わずクスリと笑ってしまう。
「ふふ、では、お言葉に甘えます」
そして、今度は意識してノエル様に視線を向けてみる。
だが、そうすると、どうしてかノエル様と目が合う。
「あの、ノエル様?」
「ん?」
「ノエル様も私を見られておられますか?」
「あぁ」
短く頷かれ、返答に困ってしまう。
「見ても面白いことはないですよ?」
「つい、視線が止まってしまうんだ」
どうしてだろうと考え、先程の言葉を思い出して尋ねる。
「ノエル様も私を気にしてくださっているということ、ですか?」
「そうだが」
躊躇いも無く頷かれてしまい、なんだか胸の奥がむずがゆい。
私はどことなく落ち着かないものを感じながら、ぎこちなく朝食を終えるのだった。
その後は、予定通りトーマスから、辺境伯夫人としてのお仕事を教わる。
この城の采配に関するもので、季節の行事などや、数年に一度しかない催しなどもあるため、数年かけてゆっくり覚えていけばいいということだった。
午後からは、護衛が紹介された。
シンディの申し出がノエル様に受け入れられたようで、すぐに私に護衛をつけるということが決まったそうだ。
ノエル様の執務室に呼ばれると、十名もの騎士が待機していた。
その中には、初日に浄化魔術を行った騎士もいる。
「シャルロット、今日から彼らがシャルロットの護衛担当だ。二名ずつ、日替わりで担当してもらう。城の中に危険はないと思うが、シャルロットの意に沿わず、その力を利用しようとする者などいるかもしれない。部屋を出る際は、彼らを連れて動いて欲しい」
ノエル様の言葉に、私は彼らに向かってカーテシーを行う。
「シャルロットと申します。騎士団のお仕事もあるなか、護衛についてくださるとのこと、光栄に思います。今後、どうぞよろしくお願いします」
彼らも敬礼で答えてくれる。
早速、これから、護衛についてくれるそうだ。
「それと、明日なのだが、昨日約束した通り、城下を案内しよう」
「まぁ! よろしいのですか!」
正直、もっと先になると思っていた。
「少し、急がせた。シャルロットの希望だし、何より私も早くシャルロットと共にでかけたかったからな」
「嬉しいです!」
そんな会話の後、今日担当してくれる護衛の騎士と共に部屋に戻る。
騎士は部屋までは入らず、扉の外で警護してくれるそうだ。
私は外出用の服装をシンディと相談するのだった。




