異世界のモブ転生~雑草からの成り上がり物語だった
俺の名前は田中翔太、普通のサラリーマンだ。昨日までの俺は、毎朝目覚まし時計に叩き起こされ、通勤電車で揺られ、上司に文句を言われて働いていた、そんなありふれた生活を送っていた。けれど、今日目が覚めたとき、俺はまさかの異世界に転生していた。そして、その姿は――雑草だった。
「おいおい、これってどういうことだよ!? なんで俺が雑草なんだ?」
俺は目を見開いたが、視界に広がるのは青々とした草原。動こうとしても体が動かない。いや、体なんてものもない。地面から生えた細い一本の草、それが俺だ。
「ふざけるなよ! なんで俺が異世界に転生して、しかも雑草になってるんだよ!?」
動けないまま文句を言っていると、隣の草が話しかけてきた。
「……お前、新入りか?」
「え、誰だ?」
「俺はこの辺りにずっと生えてる草だよ。お前、何も知らないのか?」
俺はどうやら雑草同士で会話ができるようになっているらしい。しかし、雑草として転生した俺に対して、この草(俺が勝手に草之助と名付けた)は驚いた様子もなく、どうやら俺がここで生きていくためのアドバイスをくれるようだった。
「もっと栄養のある場所に行けば成長できるかもしれないが、この辺りの強力な植物たちが栄養を独占しているから、簡単には移動できないぞ。」
「強力な植物だって? なんだよ、それ……俺、雑草でも成長してみせるぞ!」
こうして俺の雑草としての成長物語が始まった。
数日が過ぎ、俺は根っこを少しずつ伸ばし、何とか強力な植物の一つである「ソフィア」という巨大なヒマワリの足元にたどり着いた。その大きさと言ったら、俺からすればまるで塔のようだ。
「ソフィア! 俺はお前に挑戦しに来たんだ!」
そう叫んだ俺に、ソフィアは威圧的な声で答えた。
「挑戦だと? 雑草ごときが私に挑むというのか?」
「そうだ! 俺は成長したいんだ!」
ソフィアは冷たく笑ったが、俺の覚悟を認めたのか、試練を与えてくることになった。彼女の最初の試練は「太陽の光を浴び続けること」。
「……おいおい、これ熱すぎるだろ!?」
ソフィアの花びらから放たれる光はまるで灼熱の太陽のようで、俺の葉っぱは焼け焦げそうだった。しかし、俺は必死で耐えた。だって、ここで諦めたら成長なんてできない。
「俺は……俺は成長するんだ!」
俺が必死に耐え続けていると、ソフィアの声が再び聞こえた。
「面白い。では、次の試練を与えよう。」
次の試練は「強風に耐えること」。
「ちょ、待て待て! 風ってお前、雑草が吹き飛ばされるだろうが!」
しかし、ソフィアは容赦なく強風を巻き起こし、俺は根っこを必死で地面に張り巡らせながら耐え続けた。これもまた俺の成長のためだ。俺は雑草だが、諦めない。
「よし、次は……」
「まだあるのかよ!? 勘弁してくれよ!」
俺の叫びも虚しく、次の試練は「大地との対話」。俺は根っこをさらに深く伸ばし、大地と繋がり、その声を聞くことを試みた。土の中で感じる微生物たちの活動や栄養の流れ――それらを理解し、大地と一体化することで、俺はさらに強くなっていった。
「これが……大地の声……?」
そして、最後の試練は「自分自身との対話」だった。自分と向き合い、本当の自分を見つけるという試練。俺は雑草としての自分を受け入れ、そして人間だった自分を超えるために、この試練を乗り越えた。
「……お前はよくやった。これで試練は終わりだ。」
長老樹と呼ばれる巨大な木がそう言った瞬間、俺は成長の手応えを感じた。ついに、俺は動けるようになったのだ!
「やった……俺は動けるんだ……!」
俺は喜びのあまり体を動かそうとした。その瞬間――。
「……え?」
目の前には天井。見慣れた白い天井だ。俺はベッドに寝ていた。そして、目覚まし時計が鳴り響いている。
「なんだ、夢……だったのか。」
俺は苦笑しながら目をこすり、起き上がった。あの雑草としての大冒険はすべて夢だったらしい。けれど、なんだかリアルすぎて妙に疲れている。
「でも……成長した気がするな。」
俺はそうつぶやきながら、今日もまたいつものように仕事に向かう準備を始めた。夢の中で雑草として成長した経験が、なぜか俺の心に少しだけ勇気をくれた気がする。
「よし、今日も頑張るか!」
雑草のように、しぶとく、しぶとく。俺は今日も成長するために生きていくんだ。