09. 謁見
迷路のように入り組んだ通路を進み、突き当たりの、見覚えのある扉が見えたところで……甲高い女性の声が聞こえた。
「なぜ? 今まで謁見申請など必要なかったのよ! カイラス様に私が来たと伝えるだけで良いのよ!」
「陛下には謁見のご予定がございます。後ほど陛下には、スタンウェル伯爵令嬢がいらしたことを、必ずお伝えいたしますので……」
衛兵ともう一人の男性が、豪奢なドレスに身を包んだ令嬢を前に、頭をペコペコ下げながら謝っている。
出直した方が良い気がして、足を止め戸惑っていると……衛兵がこちらに気付き、すかさず男に声をかけた。
男が助かったとばかりに、女性に背を向け、手を広げ歓迎するそぶりを見せる。
「あぁ、姫様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ!」
そっと近づき会釈した。
女性と目が合うと、にっこりと品の良い笑顔を向けられた。
「まぁ、精人族の姫様が!? これから謁見ですか?」
「はい……」
萎縮して、声まで小さくなってしまった……。
「私、シェリア・スタンウェルと申します。気軽にシェリーとお呼びください!」
お辞儀を返そうとしたその時、衛兵により扉が開かれた。
「さぁさぁ、どうぞお進みください」
男に促され、私一人謁見の間に放り込まれ……静かに扉が閉められた。
覚悟を決めて……ゆっくりと歩き出す。
広間の左右には、白い柱が等間隔に立ち並び、金のレリーフが白壁を飾る。
天井には荘厳なシャンデリアが連なり、赤い絨毯が敷かれた奥、何段か上がった中央の玉座に座る、王の姿が見えた。
思わず顔を伏せる。
昨夜と同じ広間だが、心無い野次が飛び交ったその時とは違い、今は水を打ったように静まり返っていた。
その時、突如頭に湧き上がった思考が体を貫いた!
昨夜命拾いしたと思ったのは、ただの私の勘違いで……今この時こそが、私が死を迎える場ではないだろうか?!
身体が打ち震えた!
頭の中に、一つの文章が鎌首をもたげるように、浮かび上がる!
竜の国から戻った遣いが、精人族の皇帝に告げる一幕……
『竜王への目通りの際に、姫が無惨に斬り殺された』
(今ここで死ぬかもしれない!!)
乗り越えたはずの死への恐怖に襲われ、進むほどに身体が震え、いうことをきかなくなった。
玉座の前にたどり着いた瞬間……力が入らず崩れ落ち、無様に、ひれ伏すような姿勢になってしまった。




