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07. バルコニーとスープ

ふと気がつくと、またバルコニーに足を運んでいた。


陽が沈んで、既に暗くなったバルコニー。

雲間から月が覗き、あたりが一瞬明るくなった。


「いっそ飛び降りてしまおうか……」


柵に手をつき身を乗り出すと、はるか下に衛兵の姿が見えた。

スッと背中に悪寒が走り、思わず柵から後ずさった。

そう、私にそんな勇気はない。


どれだけ後ろ指を指され、馬鹿にされる惨めな人生でも……

前世でも今世でも、自ら死を選択することは出来なかった。


ベンチに腰掛けると、疲労感におそわれた。


久しぶりに、日本舞踊を踊ったから。

前世では、通学以外の時間は全て、習い事と勉強が占めていた。習い事などは自らの意思では辞められず、習得が遅いと罰を受け、また養母の満足いくほどに習得できたら、いくらお気に入りの習い事とはいえ、辞めさせられ、次の新しい習い事を始めなくてはいけなかった。


日本舞踊も、好きな習い事のひとつではあったが、師範の試験を控えたある日、突然やめさせられた。

随分久しぶりだったが、身体が覚えていてくれたようで、舞っている間は、羽が生えたように身体も心も軽くなり、死を待つ境遇を忘れられた。


前世では、空虚だが忙しい1日の果てに、いつも気絶するように眠りに落ちていた。


「王は、私が眠っていたら怒るかしら。運よく夜伽を免れたらいいのに……」

そのまま目を閉じると、沼の底に沈んでいくように、眠りに落ちた。


一度、何かがぶつかる音と、人の騒ぎ声が聞こえたような気がする。

深い海の底から引き戻されるように、目を覚ますと、真っ暗闇の中で戸惑った。

柔らかな掛布の感触に、まだ夢の中にいるのではと一瞬疑ったが……この空腹感は紛れもない現実のものだ。


どうやら……寝台で眠っていたようだ。


徐々に暗闇に目が慣れ……ここが先程案内された部屋だと確信する。

おそらくもう真夜中だ。

静まり返った部屋には、私の息遣いが聞こえるだけだ。


(夜伽は? 眠る前の願いが叶ったのだろうか? バルコニーから寝台まで自分で移動したのかしら?)


カーテンが開けられたままの小窓から、月明かりが差し込んでいた。

寝台から降りて、窓辺に近づくと、甘く香ばしい香りが鼻についた。

月明かりに照らされた、小さなテーブルには、パンとスープが置かれていた。


まさかあの召使いがこんな気遣いを?夜伽はどうなったのかしら?

ベルを鳴らして人を呼んでみようかと考えたが、藪をつついて蛇を出すことになりかねないのでやめた。

椅子に腰掛け、ご馳走をいただくことにした。


スープからはまだ湯気が立っている。


どこか非現実的な、夢現のような……ふわふわとした不思議な気分のまま食事を済ます。


そして、月明かりに導かれるように、また寝台に戻ると掛布に身を包んだ。

優しく寄り添うような肌触りが心地良く、次第にまた穏やかな眠気の波に引き込まれていった……。

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