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06. 白い花の香り ※←暴力的な描写や過度の傷の表現がある場合は※表記します。ご自衛下さい。

まさかここにきて、こんな罰が待ち受けているなんて……。


私を不具者と罵った王が、孫ほども歳の離れた私を抱こうとするなんて夢にも思わない。


愕然として、身を固くする私など気にも留めずに、手早く着衣を脱がされ、促されるままに、バスタブで二人がかりで全身を洗われた。


「まるで人族のように柔らかな肌だわ。強く揉めば肉が剥がれ落ちそう」

年配の召使が、若い召使にそう囁きかけ、ゾッとする。


精人も竜人も、見た目は人族や他の種族とさほど変わらない。

だがその優位性の高い能力においては、他種族と一線を画し……また桁外れの力と頑丈さを肉体に持つ。


私は残念なことに、母方の人族の血が色濃く出たようで、力は前世の人間並みだ。

様々な種族が暮らす地では、人族は際立って非力だ。

きっと、この召使は高位種族で、私の腕など、小枝のように折ることが出来るのだろう。


入浴後は、寝台に寝かせられ、一糸纏わぬ身体にたっぷりの香油を塗られた。


その時だった……。突如、鼻をついた、甘ったるい花の香り……! 否応無しに過去の記憶が蘇った!



………



「盗ったのね!」


従姉である皇女が叫び、地面に倒れ込んだ私の髪を掴み上げる。

そう歳の離れていない、美しい従姉が、蔑みと怒りに満ちた目で、私を見下ろす。


ただ、従姉の部屋の掃除を言いつけられただけなのに……。なぜか、装身具を盗んだと誤解され……小屋に戻った私を追いかけやってきて……吊るし上げられる羽目になったのだ!


「どうした?」


その声に、身体が凍りつく。


「兄様ぁ!こいつが私の髪飾りを盗ったのよ!」


兄様と呼ばれたその男が近づいてくる。


皇族の至宝と誉めそやされる皇太子の、紫がかった濃紺の瞳と目が合った。


微笑を絶やさず、優美な姿勢で、完璧な貴人として誰からも評価される、従兄が……皇族の恥とされる私に対し、なんらその姿勢を崩す事なく、どれだけ残忍に振る舞うことができるか、良く知っている。


咄嗟に逃げようとするも……幼い頃からこの身体に刷り込まれ、染みついた恐怖の記憶が、身体を震わせ……立ち上がることすらできない。


濡れ衣だと否定するも……まるで私の言葉など意に介さず……強く頬を打たれた。


そいつは私の襟首を掴み持ち上げると、木に打ちつけた。


腕一本で軽々と宙吊りにされ、襟首の閉まる苦しさで、徐々に目が霞んで…………。


目を覚ました時、既にあたりは暗く、血に濡れた頬の痛みだけが残っていた。


苦しくて……死ぬかと思った。

ヒュッと喉がなり、咳き込む。


倒れる間際、瞳に焼きついたあの顔……。

まるで聖人のように、万人に愛される皇太子が、なんら感情の変化も表さず、穏やかに微笑みながら……私のことを、虫けらのように扱う。


まるで、「お前は『ヒト』ではないから問題ない」とでも言うように。


無様に叫び声を上げる……!

その叫びは心身を切り裂いて……苦しくて悔しくて、胸が締め付けられる。


小屋の近くに、夏の一時だけ咲き誇る、真っ白なその花の、濃く甘い香りが……肺をみたしていく!


嗚咽を抑えられず、また呼吸が苦しくなり……ただただ、地面に付したまま……涙が土を黒く染めるのを眺め……泣き続けた……。



………



「こちらをお召しください」


我に返って振り向くと、召使が服を持ち立っている。


白いサテンのナイトドレスだ。

サイドには深くスリットが入っている……。


自分の追い込まれた状況を思い出し、また気分が悪くなった。


「王は間も無くお呼びになるでしょう。こちらでお待ちください。……くれぐれも礼を欠く事のないように」


そう言い残し、召使が立ち去った。


なんてアッサリしたものだ。

竜人族は精人族とは違い、純血にこだわらないと聞いている。

竜王の側室には、古今東西のありとあらゆる種族の美姫が集まっているはずだ。

夜伽の準備など、召使のルーティンワークに過ぎないし、ましてや、いつ飽きられて捨てられるかもわからない者など、全く気遣う価値などないのだろう。


一人ぼっちになった部屋で、ソファに腰を下ろす。


薄明かりの部屋の中で、ぼんやりと眺めた先……壁には不思議な植物と、楽しそうに飛び回る色とりどりの鳥が描かれている。

細部まで繊細な装飾が施され、華やかだが……深緑で統一されたリネン類が落ち着きを与える。

とても素敵な部屋だ。


だが、どんな部屋であっても……逃げ場のないこの状況では牢屋と変わらない。

例え、壁の絵の中でも、自由に飛び回る鳥が羨ましい……。


「私だけが、籠の鳥じゃないか……」


思わず小さく呟き、ため息を吐いた。

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