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04. 生への執着

前世では死を望み、偶発的に叶えられたが……今世では、死を回避出来たことを、喜ぶなんて!

命拾いしたことが……こんなにも嬉しいなんて!


「姫様!」

咄嗟に振り向くと、年配の背の高い召使がこちらを見下ろしていた。

慌てて周囲を見渡すと、広間の壁に沿って居並んで、囃し立てていたものたちが、今度はてんで勝手にバラバラになり、それぞれ小さな輪を作り歓談している。


(これから酒宴でも催されるのだろう。そうなれば、私も宝物の横に立たされて、見せ物にでもされるのだろうか……)


だが予想外に、広間から外の廊下へ出るよう促された。


「お部屋へご案内いたします」


長身の召使が、暗い廊下を早歩きで進んでいく。

城の端から端まで移動したのではないかと思うほどの距離。

徐々に息が切れてくる。ほとほと体力のないこの体が嫌になる。

立ち止まって少し息を整えていると、召使が振り返り、不満気にこちらを睨んだ。

慌てて召使に駆け寄って、また早歩きで後を追った。


召使に置いていかれまいと、必死に追いかけつつ、その後ろ姿に目をやる。

竜の国の召使はとても衛生的な服を着ている。前世のメイド服のようだ。

仕立ての良い黒い長袖のワンピースに、シミひとつない白いエプロン。

すれ違う他の召使たちも同様だ。


皇国の皇城では、よほど地位の高い召使でない限り、ほつれて垢のついたお仕着せで、私が着る物などは、さらにその者たちのお古だった。


また、皇城では、華美なほど鮮やかなステンドグラスがあちらこちらに埋め込まれていたが、この石造の王城は、アーチ型に縁取られた窓が規則的に並び、重厚感が漂う。


道中、平地から眺めたこの城を思い出す。

高い岩山の上に建てられた、銀灰色の城壁と、幾つもの塔で構成された城は、ヨーロッパ旅行中に訪れた名城を彷彿とさせた。

竜人族の王の城と言うだけあって、それ自体が、まるで山麓に横たわる竜のようだった。


皇城から一歩も出ることなく生きていたが、私の綴った物語の通りであるなら……この世界について少しは知っている。

様々な種族が暮らし、不思議な力も存在していたはずだ。


黒針林の縁にある巨大な転送装置から、竜人族の地に移動し、そこから馬に乗り城に着くまでの道中に目にした様々な珍しいもの……。


最初で最後の旅の思い出かと思ったが……命が続くなら、この世界で生き延びることができるなら……まだまだ見てみたい……。

窓の外に広がる、景色に想いを馳せた。


暗い塔の中……細い螺旋階段を登り続けていると、息を切らせて別の召使がかけ登ってきた。

私の横を素通りし、案内役の召使に何か耳打ちしたところ、召使の顔に明らかに困惑の表情が浮かんだ。


「本当に? そうおっしゃったの? あのお部屋?」


頷くと、召使は二人揃って、元来た道を戻り始めた。

一瞬当惑して立ち止まっていると、その様子に気付いたようで、ため息をつき、着いて来いとばかりに顎を振って合図された。

先ほどとは打って変わって……等間隔に並べられた燭台が明るく照らす、大きな廊下を進み、荘厳なシャンデリアがいくつも吊り下げられた、大広間を過ぎて、ようやくたどり着いた一室。


「こちらです」


「??!」


「では、ご用がありましたら、ベルでお呼びください」


何かの間違いかと召使の方を見ても、素知らぬ顔で、部屋を出て行ってしまった。

どんな部屋でもきっと、皇国での私の住まい(物置小屋)よりはマシだろうと思っていたが、とんでもない。

先程の、シャンデリアが吊り下がった広間ほどは大きくないが、物置小屋が100個は入りそうなほど、広く華麗な部屋だった。


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