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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
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51話 温和な常識外れ

自分より、圧倒的に弱い相手に負けるのは、エリュシアにとっては、特に屈辱的であった。

彼女は信じていたのだ。自分が他の種族の追随を許さない存在であること。

エルフの中でも、特に大きな才能を持って生まれたエリュシアは、初めて、憎悪にも近い感情を宗司に抱くことになった。


「ッ!」


エリュシアは歯噛みした。与えられた部屋の中で、与えられた机の前で、ただ、拳を握り締めるだけ。何かをする気は起きなかった。何か、魔術の練習、異能の鍛錬、魔導書の読み込み、何をしようとも、激情でまともにできないのは分かり切っていた。


「!!」


不意に、部屋の扉が鳴った。


「誰」

「ヤマメでーす」


名乗られても、エリュシアはぴんと来なかった。留学してまだ一週間もたっていない。そもそも覚える気もなかった。


「どちら様?」

「えー、、、同じクラスのヤマメでーす」


若干の困惑の声の後、ヤマメは改めて、最低限の所属先を告げて名乗る。

それを聞いたエリュシアは、またか、と嘆息する。


「何の用」


しかし、エリュシアは扉を開ける気がない。誰か分からないのではない。いや、正直よくわかっていないが、そもそもこの国の人と話したくない。だから今朝から、部屋からすら出ていない。


「お見舞いでーす。体調大丈夫か?」


ぶっきらぼうでつっけんどん。声からでもわかるそんな態度でも、ヤマメは自分のペースを崩さず、エリュシアの体調を気遣う。


「大丈夫です。なので見舞いに来なくて結構です。正直、鬱陶しいです」

「そか。で、学校来れそう?」


エリュシアは返答に詰まる。正直、あの学校はエリュシアにとって、不快なところでしかない。しかし、留学したからには、学校で、それなりの成果を出さなければならない。それが、送り出した母との約束。それに、このまま負けっぱなしというのは、エリュシアのプライドが許さない。


「・・・明日には登校できます」

「そか。よかった。じゃあ見舞い、ここに置いておくな。また明日」


扉の向こうから、人の気配が消える。そしてしばらくしてから、エリュシアは廊下に置かれたお菓子を部屋に入れる。


「・・・」


それは、エルフの里が原産のお菓子だった。齧れば、懐かしい味が口の中に広がり、また、エルフの体も活性化される。正直、エリュシアにとってありがたいものであった。

ヤマメのほかにも、クラスメイトを名乗るものたちがお見舞いと称してここに来た。そして皆、多様なお見舞い品を置いていく。魔導書、果実など様々。

それらすべて、エリュシアに合ったものなのだが、エリュシアはそのことに気付いていない。


「・・・はぁ」


菓子を3,4個胃に収めたエリュシアは、明日に備える。

お菓子により毒気を抜かれ、冷静さを取り戻したエリュシアは、魔導書を読み、部屋の中でできる魔術訓練を行い、部屋の外に出る。

ホームステイ先の家族は、部屋から出てこなかったエリュシアを、心配しつつも、暖かく対応した。それに対しエリュシアは、当たり障りのない対応をし、その対応も少々上からな部分が目立ったが、早々に話を切り上げ、今度は外に出て、無料のトレー二ング場へ向かい、そこで、精霊たちと特訓を行った。


「おかえりなさい」


夜、帰ってくれば、ホストファミリーはにこりと笑って迎え入れてくれたが、エリュシアはそっけない返事だけして、食事と入浴を済ませて床に就いた。

―――朝、目覚めると口をゆすぎ、朝食を食べ、学校へ向かう。


「行ってらっしゃい。気を付けて」

「お見送り、ご苦労様」


そんな調子で学校へ着けば、まだ、あの男は登校していない。


「おはよ」

「・・・おはよう」


朝の挨拶はエリュシアにとって非常に不愉快なものであった。なぜ不愉快かと問われれば、もはや意地とブライドとしか言いようがないが。


「おはよう。フフッ」


あと、時折クラスメイトが見せる、赤子に向けるような笑みも不愉快の要因かもしれない。

が、それでもしないわけにはいかない。尊きエルフの慣習を自分が壊すわけにはいかない。

所詮小細工と運と悪知恵のみで手にした勝利。次は初手から全力で叩き潰す。つかの間の勝利の愉悦に浸っているがいい。


「おはよう」


そんなことをエリュシアが考えていると、暢気な声をした宗司が登校してきた。

エリュシアは立ち上がり、足早に宗司のもとに歩いていく。


「ん?」

「あなたに、決闘を申し込む!」


びしりと指をさされた宗司は、珍しく困惑した。


「・・・・・またか?」

「ひゅ~。いいぞ~」

「ガッツあるな」

「ッ黙れ!」


周りのヤジを一喝で制した宗司は、ため息をつきながらエリュシアに向かい合う。その真剣さと憎悪と自信と高慢さが組み合わさったような表情を浮かべたエリュシアを見て、頭を抱える。


「・・・拒否しちゃだめか?」

「怖気づきましたか?道理ですね。運と小細工だけで手にした勝利。誤った、都合のいい現実を手放すのはつらいもの出すからね。だけど、決闘を拒否するということは戦わずして逃げることと同じ。唾棄すべき愚かな行為」


(・・・つまり、恥を忍べばおとがめなし、と)


特に具体的な罰則がエリュシアの口から出なかったため、宗司はそう判断したが、事はそう単純ではない。


「違うぞ」


それをこれから、近くにいたクラスメイト、シラウオが解説する。


「何?私の説明に何か誤りでも?」

「ええ、フェルナリエルさんの説明は、エルフの間では正しいのでしょう。だけどここは人間社会で、海の国。決闘のルールや文化もこっち基準ですよ」

「・・・具体的には?」


シラウオに言い負かされて押し黙るエリュシア。

宗司はこの国の決闘について詳しく聞こうと話を促した。


「まあ、まず双方の合意が必要だよね。別に相手が拒否しても仕掛けた側はとくに何か言う権利はないし、別に逃げたとも思わないよ」

「な!?そんなの―――」

「但し」


一瞬声を荒げそうになったエリュシアを押さえて、人差し指を立ててシラウオは続きを話す。その内容は、エリュシアも慄然程のものであった。


「決闘を断れば、殺される可能性はあるね。不意打ちで」

「な!?」

「は?」


奇しくも初めて宗司とエリュシアの息があった瞬間であった。

シラウオはさも当たり前かのように、雑談認識で続ける。


「うちの国ではほら、決闘って本当の最後通告みないなものだから。決闘受けなければ殺すけど?みたいな。普通はそんなことしないけど、もともと仲がよかったりとか、気にかけてる相手とかだった場合にすることが多いかな。最後の対話的な」


シラウオの説明で出てきた『そんなこと』が、”殺人”ではなく”決闘”であることに気付いた宗司は、久々に戦慄する。


「で、するの?決闘。別に一定期間の間を設けなきゃいけないみたいな規則はないけど」

「ええ、やるわ。拒否すれば死。よく考えればいいわね。手っ取り早く、この屈辱的な生活から抜け出せるわ」

「・・・受けるよ。お前らに殺されたくはないからな」


逡巡の後より乗り気で決断したエリュシアに対し、億劫になりながらも承諾した宗司。そんな宗司に、シラウオは補足する。


「ん?俺らは別に殺さないぞ」

「あ?」

「俺らは宗司の今の態度の不満なんかないから。狙われるのは今のところフェルナリエルさんからだけだね。寧ろ俺はそんなお前を守る方だけどね」

「は?」


今度はエリュシアが食って掛かる。


「どういうつもり」

「決闘ってのは互いに不満があって、でもどちらも言葉じゃ曲げられないから起こすものだろう?要は当人同士のコミュニケーションの一つ。別に拒否した瞬間から全国民が敵ってわけじゃない。それが普通だろ?」

「貴方ッ、決闘を何だとっ!、、、まさか、拒否するつもりじゃないでしょうね?!」


シラウオに、この国の常識に激高し、歯ぎしりをするエリュシアは、キッと、宗司を睨む。


「まさか恐れをなしたわけじゃないでしょうね。私の力が怖いなら、小細工でも何でも企てればいいでしょう?まあ、全て全力で叩き潰しますが」


(・・・子供みたいだな)


宗司は、エリュシアの反応を見てそんな感想を抱いた。


「・・・受けるよ。いつ、どこでやる?」


宗司はため息を一つ吐き、決闘を受諾した。


(俺が言えたことじゃねえが、未熟だな。シラウオから殺しの言葉が出たとき、一瞬ためらっていたのに、すぐに殺意満々で決闘を申し込んだ。もそもそ前の決闘では俺を殺す気だったし。・・・死を実感したことないんだろうな。コバンも言っていたが、エルフは死とは縁遠い生物らししな。『クハチ』もやってないみたいだし。ここで、、、、、、なぜ俺はここまで考えているんだ?)


「場所と時間はこちらから追って連絡するわ。学校内のようなあなたたちに有利な場所でやられたらたまったものではないし」

「いや別に有利ってわけじゃ、、、」


近くでエリュシアの発言を聞いていたスズキの呟いたその言葉は、エリュシアの耳には入っていない。


「・・・わかった」


宗司が返事をすると、エリュシアは口角をあげ、宗司を見下した後、自分の席に戻った。


「いやぁ、災難だねぇ」


めんどくさいことになったと、肩を落とし、ため息をつく宗司の肩を、憐れみながら、ツチフキが手を置いた。


「まあ、根っからってわけじゃなさそうだし、ほどほどに付き合ってあげな。きつかったらボクらがやるし」


(・・・確かに、決闘に不服があった後、無効要求ではなく再選を挑んできたり、律義に決闘での決め事を守ってくるあたり、悪ではないだろうな。その場合、人間を見下しているのが悪意なしということになるが)


「話は変わるんだけど、これ」


閑話休題、ツチフキは、そういうと魔法陣の向こうから中身のつまった袋を取り出した。


「なに、これ」


宗司が受け取った袋の中身を確認すると、綺麗な水色のマツタケとマイタケの中間のようなキノコが入っていた。


「ヒョウウダケ」

「・・・辛うまいやつ?」

「そうそう」

「・・・なんで?」

「この前のパーティーの後の片付け、一番最後までやってくれたからね」

「あー、わざわざ。礼も聞いたのに」

「ついでに―――」

「あっ!」


ツチフキが何か言いかけたとき、タカベが宗司の袋を見て声をあげた。


「それ俺があげたやつ」

「うん、食べきれないから」

「分かる」


気まずい雰囲気になるかと思いきやそんなことはなく、宗司は拍子抜けした。


「婆ちゃん昔っからこの調子で無限に送ってくるからさ」

「大変だねぇ」

「ちょっと待て」


のんきなことを言っているツチフキに、宗司はキノコを見つめながら、そしてゆっくり顔を上げる。


「つまりあれか。ついでに在庫処理か?」

「そう。嫌いだっけ?」

「好物だが、、、う”ん~」


ヒョウウダケは元の世界にはないうまみ成分が詰まったキノコ。高所の寒冷地のみに生息する。それゆえ元の世界のマツタケの十倍ほどの値段で取引されることがほとんどだ。

また、宗司は好き嫌いが少なく、美味いもの、高級なもの、珍しいものを少量食べ、その味を楽しむタイプなので、この手のプレゼントはかなり嬉しいのだが、そんなものが在庫処分感覚で手元に渡ったのが何とも言えないのだ。


「でよ、また送ってきやがってよ。ほら」


そう言ってタカベが魔法陣から取り出したのは、棘の生えたミカンだ。まるで小さなモーニングスターだ。


「スターオレンジか。秋の風物詩だね」


ちなみに今は夏である。


「・・・なあ、あんたの婆ちゃんは何を育ててるんだ?」


ふと、疑問に思った宗司はタカベに質問する。が、返ってきた答えは、宗司を余計に混乱させるものだった。


「いろいろ。チェリモヤからニラまで育ててる」

「その間に何が入るんだよ、、、」


どちらも元の世界にある植物。食用であればなんでも育てているのだろうか?そんな仮説が宗司の頭をよぎった。


「はい!席についてください!科学の授業を始めます!」


そう言って教室に入ってきたのはカペラ先生だ。今日も元気ハツラツと言ったところだ。

この人の化学は面白い。この学校では面白くない授業のほうが少ないが、この先生は現実の事象や現象に則して解説したり、教えた化学現象を使うと何ができるか、稀に実演して教えてくれたりする。たまに教室が大破するが。


「今日は大丈夫そうだ」


真司が安堵する。今回は解説のみで終わりそうだからだ。以前は教室の生徒全員をラリらせて先生でありながら反省部屋へ叩き込まれていた。

正直なことを話すと、真司はこの次の授業のほうが憂鬱だった。


「さて、では教科書の47ページを開いてください」


そう言いながら体力基礎担当のオグマ先生はひとりでに動く椅子に乗りながら、黒板の左上に移動する。いや、実際に移動しているのは車椅子かもしれない。


「・・・z」


この授業は本当に眠い。ただでさえいい声なのに、クソつまらない内容。ファンタジーに理論が乗っかるだけでここまでなるのかと真司は感心した。事実、数式や数字、専門用語を使う必要のある座学は、実践で役立つことはあまりない。たいてい感覚でどうにかなる。

ではなぜ行うかと言えば、力を用いる、あるいは付与された武具、万が一新しく術を開発するときに主に必要になるからだ。

最も効果を発揮する力の使い方、最も効率のよい術のつくり方、疲れにくい力の配分、それらすべて、体力基礎の土台の上にある。

つまり、多くの者たちにとって意味の薄いことを使いこなせてこそ、一流なのだ。

が、それを理解しきるには、高校一年生は若すぎる。


「―――つまりナルシア帝国が滅んだのは宗教に肩入れしすぎたせいなんです。っと今日はここまでですね」


歴史のアーク先生が、時計を確認し丁度良く切り上げる。それをほめるかのように、先生の発言の直後、チャイムが鳴った。

これで今日一日の授業が終了した。


「よっしゃ遊びに行こうぜ!」

「行く行く!」

「何する?!」


カワヒラが言い出し、カジキとカジカが連れ立つ。


「俺も!―――ん?」


マブナも行こうとするが、イサザに首根っこ掴まれ、そのまま委員会会議へ連行される。


「真司」


そんな放課後の教室の端、いつも物静かで気だるげなユウゼンが、珍しく真司に話しかける。


「ん?どうした?」

「今日、新作のシェイクが出るから、付き合って」

「ええ、まあ、いいけどさ。暇だし。あ、でも」


真司は周りをキョロキョロと見まわす。そして目的の人を見つけると、動きを止めて手を振った。


「おーい、サヨリさーん」

「なにー?」


呼ばれたサヨリはユウゼンの机に近づく。


「ユウゼンが新作シェイク飲みたいっていうから、もしサヨリさんが暇なら、付き合ってほしいんだけど、俺だけだと、自信ないし」

「ああ、別にいいよ。あと、クラスメイトなんだから、”サヨリ”でいいよ」

「助かる」


真司がクラスメイト達と順調に交流を深めている一方、宗司は今日も一人で帰路につく。

早々に教室を出た宗司は、帰り道の途中でエリュシアを見かけた。


(あいつのホームステイ先、逆じゃなかったか?)


エリュシアが向かっているのは都市の外、結界の範囲外、人工的でない自然地だ。


(・・・エルフ、だからか?)


あそこは特に、行ってはいけない、などと言われていることはない。

が、明らかに都市よりは危険だ。


(決闘地の視察か?・・・行ってみるか)


それは気まぐれだ。そしてその気まぐれは、ちょっとした冒険の始まり。宗司にとってもエリュシアにとっても、良い経験となる。


「ここなら、、、いや、あっちも、、、」


(吟味してる)


結界の外、気配を押さえながらエリュシアの後をつける宗司。字面、絵面ともに、かなり怪しい。

エリュシアは、特に術を張るでも仕込むでもなく、小一時間ほど決闘場所を吟味している。


「・・・帰るか」


己が現状を客観的に考えて、これ以上いる意味もなければ、ただリスクしかないと判断した宗司は、ゆっくりとその場を離れようとした。


「!?」

「何!?」


宗司とエリュシアは、天地不覚に陥った。

この瞬間、海の国から、人二人の気配が消え去った。

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