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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
46/52

46話 順調

刑務所で懲役に励んでいた陽一たち。陽一とフッカイが脱走を企てる。

どこか分からない。

ただ薄暗い、寒い、冷たい、痛い、聞こえない、暗い、暗い、暗い、、、

そんな不気味で忌避すべきその奥に、一人の少年はいた。

目をつぶされ、その上から布を巻かれ、手は天井から延びる鎖につながれ、ご丁寧にも足鎖つき。胴は壁に固定されている。喉をつぶされ、声すら出せない。

少年は世界を恨んでいる。憎んでいる。なぜ少年がこの状態になっているのか、少年自身が一番知りたい。だが少なくとも、これが理不尽な状態であることは分かっていた。

布の上から針を刺させたその目には、もはや血涙すら涸れているが、憎悪の炎は燃えている。

今すぐにでもこの炎を吐き出さなければ自らが灰になってしまうのではと思うほどに。


「・・ㇳ・・・ヵ」

「シ・・・・・ロ・・ジ・・・・・」


少年はいつぶりか顔を上げた。

物音なぞ、もはやここ数年聞いていなかった。それが今はピチョピチョコツコツと。

いや、それだけではない。人だ、人の声だ。にっくき人!

少年は体を揺らす。そんなことをしても枷は取れない。人に一矢向くえない。そんなことは分かっているが、もはやそうしないと、少年は憎悪と殺意でどうにかなってしまいそうだった。少年の内から漏れ出た殺気は、あてられただけで、ほとんどの生物を失神させてしまうだろう。


「マジか」

「合ってた」


ガシャン!!!


しかし二つの声は、そんな濃い怨念の中でもあっけらかんと会話をしている。

それどころか、会話の直後に響いた大きな金属音で、少年のほうが委縮してしまった。

すぐに気を取り戻した少年は再び殺気を二人に向けたが、二人は気にすることなく作業に取り掛かった。

3本の針を取り除く。

天井の二つの鎖を切る。

足鎖の鉄球を踏みつぶす。

胴の器具を破壊する。

好機!そう考えた少年は、全力で一人に襲い掛かる。そこで気づいた。自分がどれほど弱っているのか。

体にうまく力はがいらない。しかし、それであきらめるほど、少年の恨みは弱くない。自分が死ぬことになっても、相手を殺せなくとも、何か、甚大なダメージを!

そんな少年の猛攻を、相手は真正面から受けとめる。

相手はよろめく。少年は自らの手が生暖かいものに包まれている感触を味わった。

少年の右腕は、相手の体を貫通していた。

少年の心に歓喜が満ちたのもつかの間、相手は少年の背に手を回す。

仕損じた!一瞬の焦り後、少年が次の攻撃を出そうとしたとき、相手に動きがあった。

相手は、少年の背を撫でた。

そこに敵意も害意もなく、ただ慈愛があるだけだった。

そのことに少年が困惑したと同時に、彼の頭の中に浮かんだのは、母の優しい抱擁と、父の安堵を覚える背。涸れたはずの目頭が、熱くなるのが感じられた。

少年の全身から、力が抜けるのが感じらせる。少年に、それを止める術はないし、止める気もない。

そして、少年の体がどんどん小さくなる。

相手の体から右腕が抜け、さらに小さくなり、やがてついに、メダルになった。


「よし!『呪眼の少年』ゲット!」


錆びれた寺院、その隠し洞窟からでてきた正也は手のひらにメダルを乗せて嬉しそうに歓喜の声をあげる。


「ここまで長かったなぁ」


正也のクラスメイト、クマノミがため息交じりに言いながら両ひざに手を付いた。

二人は隠し洞窟をそのままにし、メダルを手に持ったまま、寺院の外に向かう。


「お疲れ」


外で拍手しながら出迎えたのは、4年生のマツサカだった。


「お手伝いイベント5個クリアでゲットできる『母の手袋』と寒冷地域の小イベントでゲットできる『おやっさんのコート』が必須って、初見じゃ絶対わかんないな」

「トレーニングのついでにやっといてよかった」


寺院の外に出た正也とクマノミが雑談をし、これまでの苦労を振り返る。

正也が生物番号61に『呪眼の少年』をしまい、メダルケースをしまうと、マツサカはこれからのことを話し始めた。


「次は62だが、これもまた回り道をするから、今日はこれからトレーニングをする。ついてこい」

「はい!」

「わかりました」


マツサカが元気な正也の返事を聞くと、一人で転移する。そのあとを、二人も追従した。


「今日は幻術、催眠対策だ」


二人が到着したことを確認したマツサカが今日のトレーニング内容を発表する。

場所は森、というよりジャングルの奥地だ。

そこにそれなりの幅の広さの何もないスペースがあり、そのスペースから何本か道が生えていた。

もちろんこれらは正也、マツサカが作ったものだ。クマノミは後から参加したため、その作業は行っていない。


「幻術、」

「催眠対策」

「そう。そもそも二人はなぜ幻術や催眠にかかるか分かるか?」


マツサカに質問され、正也は言葉に詰まってしまった。こっちの世界に来てから、たまに図書館、たまに動画視聴で、それなりに知識を得ることはあるが、魔法的なものを科学的、論理的に説明させると、どうも呑み込みが悪く、勉強する気が起きないのが現状だ。

これはある意味当然で、やはり勉強はどの分野だろうが、基礎からしっかりと押さえなければいけないのだ。


「直接、または間接的に脳に力が作用して、間違った認識をする。簡単言うとこういうことですよね」


しかしクマノミはスッと答えて見せた。


「そうだ。よく知ってるな。本格的に習うのは来年からなんだが」


マツサカは本当に感心したようにクマノミを見つめる。


「ま、そんな原理でかかるから、対処法も自ずとわかるだろ」

「「脳を直接覆って防御する?」」


正也とクマノミは同時に答えた。その答えに、マツサカは首肯で応える。


「イエイ!」


嬉しくなった正也はクマノミのほうに手の平を向け、ハイタッチを要求した。


「・・・」


クマノミはそれに対し無言だったが、しかしハイタッチはしてくれた。


「で、だ。訓練方法だが」


マツサカは画面を開き、何やら操作する。すると、彼の手元にリモコンらしきものが出現した。

ただ、ボタンは一つだけで、短い辺の側面の一つに、薄い穴があった。コインの投入口のような穴が。その反対側には小さい突起があった。

さらにマツサカがコインを二枚取り出し、リモコンの穴へ投入した。

そしてリモコンの突起を自分の手のひらに向けてスイッチを押すと、手のひらの上に、本が二冊出現した。


「これを読む」


正也とクマノミに渡された本は、何の変哲のない、普通のフィクション小説だ。内容は電車や車がしゃべり、自分たちを使うものたちのことに対して愚痴ったり笑いあったり、問題が起きて、それに対処したりするという、ほのぼの系だ。


(トー〇スかな?)


正也の感想はそれだった。小説なので、内容の深さについてはこちらの方が圧倒的に上なのだが。


「ただの小説に見えますけど」


クマノミが中身をパラパラと見たのちマツサカに尋ねる。


「ああ、”このゲーム内で作られた”な」

「?」


””を強調された言葉に、正也は頭に疑問符を浮かべる。


「このゲーム内のNPCはこのゲーム内独自の言語を使う。自然言語じゃなくて人工言語をな」

「ちょっと話が見えないのですが、、、」


正也がおそるおそる尋ねる。


「翻訳の術は使用者が聞こうとした言葉を使用者の記憶、または想像力と理解力を参照して使用者が理解しやすい形に自動で言語を変換してくれる、要するに脳に直接作用する術の一つだ」

「え!?」

「ああ~。」


衝撃の事実を知り、正也はおまわず声を出して驚いたが、クマノミは納得したように頷いている。


「とりあえず目標を言うと、その本が読めなくなること。脳を覆い、翻訳の影響を遮断することができれば、まあ並大抵の術にはかからなくなる」

「な、なるほど」

「わかりました」


3人はその場に座り込み、2人は本を開き読書を開始する。


「・・・」

「・・・ん、ム、、、んん”、、、」


クマノミは黙った集中しているが、正也はつい声が出てしまう。


「違う、そうじゃない」


マツサカが唸っている正也に声をかけた。


「え?」

「お前は今頭全体に力を入れている。そうじゃない。脳だけ覆うんだ。それと、いっぺんに力を使おうとするな。まずは体力、次に魂力、最後に魔力、それぞれを完璧にしてからすべてをいっぺんに使え」

「は、はい、、、脳だけ、、、」

「内臓をピンポイントで覆うのは難しいが、いずれは必要になることだ」


正也は一端本を忘れ、自分の体に集中する。体力、魂力、魔力はすべて電気を通す、または変換することができる。ゆえに、脳からでる電気信号によって操作することができる。そして、それらの力で覆ってしまえば、自分の内臓の状態、怪我の有無、血管内の血流の動きまで把握できる。

ただし、慣れるまではすさまじい集中力が必要だが。


「お、お?」


正也の持つ本が、だんだんと文字化けをしていく。翻訳がうまく妨害されている証拠だ。

が、すぐに元に戻ってしまう。


「ダハー!はぁ、はぁ、難しい」

「はー」


それはクマノミも同じだった。本から目を離し、空を仰いで嘆息する。こめかみのあたりをマッサージしている。


「慣れないことをするのは精神削られるからな。とりあえず5分持続させられるようになれ」

「マツサカさんはどれくらいできるんですか?」


クマノミからの質問に、マツサカは即答する。


「いつまでも」


その返答に、正也とクマノミは自分たちの目標の高さに戦慄した。

ガックリと項垂れ、ため息をつく。


「ま、まあ、しかし怖いね。常に頭の中魔法がかかってるっていうのは」


正也は、目の前の目標の高さに対する億劫さや逃げ出したい感情をごまかすため、話を切り替えた。


「翻訳のことか?杞憂だと思うけど?」


クマノミが一瞥して、ぶっきらぼうに返す。


「いや~、なかったらお前や先輩とも話せなかったから仕方ないとは思うけどさ」


クマノミの意見には正也も賛成だ。元の世界でも、パソコンや電化製品のことで、ハッキングや盗聴の不安は多少あるが、だからと言ってそれらすべてを排除するわけにはいかないし、そんなことを素人が心配したところで対策の限界はある。

それにそもそも、自分一人なんかの情報を抜き取ったところで、抜き取った人に、どういう利点があるのか、不特定多数の情報を抜き取るなら、それなりのニュースになるだろうし。

つまり正也はこの話を、単なる雑談のネタとして出しただけだ。


「仕方ないではなく、翻訳を通して誰かに害を与えるというのはものすごく効率が悪い。だから賢い奴ほど、翻訳の心配はしない」


しかしマツサカからは、かなり真面目な話が出てきた。


「それは、どういう?」

「翻訳の術はこちらに害を及ぼさない、例えば翻訳に載せて催眠をかけたり、本来話している内容とは別の訳、悪意ある第三者による恣意的な言葉に置き換えられるといったことがない。その代わり、あらゆる洗脳系の術よりも確実に俺たちの脳に届く。悪意の術式を省くことで確実に届か接法にリソースを割けるわけだ。翻訳を妨害して相手の指揮系統を混乱させるより、すべての魔法を使えなくする空間を作る方が効率的と言われるほどにな」

「え!?すご」


マツサカの説明に、正也は素直に感嘆の声を漏らす。

マツサカに続いて、クマノミも説明を始める。


「翻訳の術を作っている会社と画面を運営している会社は違う。翻訳は今やなくてはならないものだから翻訳会社は基本的に儲かる。だから翻訳会社はたくさんできるんだが、今度は翻訳会社同士で競争が始まった。自分とこのサービスを使ってもらいたくてな。基本的には品質向上やほかにはない個性で勝負するんだが、、、」

「?」


そこまで言って、クマノミが声のトーンを落としたことに正也は頭に疑問符を浮かべた。

が、クマノミはすぐに説明を再開した。


「当然と言えば当然なんだが、裏金や談合も始まってな」

「あぁ、、、」


クマノミが言いよどんだことに、正也は納得した。クマノミは、正也に余計な心配はさせたくなかった。


「それを憂いた『グレープ』っていう画面会社の社長が、複数の翻訳を同時にかけて、最も精度のいいものを使用者に反映させるってシステムを開発した。それがいろんな人からウケて、今ではほとんどの翻訳がそういう仕組みで届いてる。つまりだ、悪意ある術が組み込まれていれば俺らの脳に届きにくくなるし、それを運べるだけの超強力な術を作ったとしても、画面会社がはじいてくれるってわけだ」

「おおー」


クマノミの結論までの話を聞いて、正也は自分の中で納得することができた。ほんの雑談のつもりで振った話題が、ここまでおもしろい話になるとは想像していなかった。

ここで、正也のかなに、ある疑問が生まれた。


「じゃあ、ステータス画面は、『グレープ』?ってとこの使ったほうがいいの?」

「いや別に」


クマノミは即答する。


「さっきクマノミ君が言ってただろ?そのシステムがウケてるって。当然他の企業も真似をしてる。むしろそれがスタンダードになってるくらいだ。それに今『グレープ』って言ったら建築がメインだぞ?」

「ええ!!?なにがどうして?」


マツサカから知らされた衝撃の事実に、正也はオーバーなほど驚いた。


「知らん。俺経営者じゃねえし。まあでも、かなり成功してるみたいよ」


元の世界で例えるなら、造船を行っていないが名前に造船がついてる会社や、昔は塩を売っていたのに今はたばこで有名なあの企業だろうか、正也はそんなことを考えていた。

まあなんにせよ、今から慌てて変えなくていいというのは朗報だった。


「俺の翻訳も、そうゆう仕組みなのか」

「前見たとき、俺と同じのと買ってただろ?あの時から辺にいじってなければそうだ」


ならばと正也は安心した。こちらの世界のシステムに疎く、また臆病である彼には、一度設定したものをむやみに変更するようなまねはできない。


「ん?じゃあ、今翻訳の妨害をしてるのって、、、」


正也が今までの話を頭の間かでまとめると、マツサカの言った修行の意味を見えてくる。それの正誤を確認するように、正也は口を開いた。


「翻訳妨害できれば、まあよほどのものでない限り大丈夫ってことだ」


マツサカの口から、最初に話したことと同じ言葉がでる。しかし、説得力と正也の納得感が段違いだ。


「それそれ休憩もいいだろう。再開しろ」


正也とクマノミは訓練を再開する。しかしやはり、普段見ることも感じることもできない、自分の意志の外側にあるものを感じるのはハードルが高い。それでも正也は諦めることはない。


「まずは体力だ。体力は俺らが使う力の中でダントツで扱いやすい。自分の体から常に発生しているからな」


マツサカのアドバイスもあり、徐々にではあるが、正也とクマノミは確実に技術を磨いていく。

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