45話 作りこまれたゲーム
陽一たちはおとなしく(させられ)刑務所で事情聴取を受ける。刑務官と警察官は違和感を覚える。
「ど、どこにもない、、、!」
アカネハナは悔しそうに噛み締めながらうな垂れ、地面に八つ当たりをしている。
「やっぱり特殊なイベントを起こさないとだめなのかしら」
緑豊かな森林の、一本の木の木陰で小休憩をしているアイナメは腕組をしながらつぶやいた。
「悪いな、つき合わせちまって」
そんな二人に謝罪するもの―――
「いいよ、アカメ。やりたいって言ったのは私たちだし」
「この後も特に予定ないし」
アカメは凛花と同じクラスの女子生徒で、短い髪が特徴だった。髪の色はたまに変えるが、今は赤髪である。
「凛花と何か約束とかしてたんじゃ?」
「今日は別に何も」
「今頃自分の家のリフォームしてるんじゃないかしら」
本当に予定はないと、二人はアカメの心配を払拭させる。
「そっか。まあでもあと一時間で止めようかな。飽きたし」
「わかった」
3人は探し物作業を再開した。
同じころ、凛花は3人が探しているものを見つめていた。
「さあさあ続いての商品は~!世にも珍しい『一室龍』だー!」
競売の司会の掛け声により、会場はこれまで以上に湧き立つ。
「あれが!」
「ほしい!」
「絶対手に入れる!」
ただ一人、凛花を除いて。
「・・・」
凛花はただ、檻の中でぐったりとしている『一室龍』を見つめる。
「わずか畳一枚に収まるほどの小さな龍。後ろの方見えずらいと思いますので、お近くのスクリーンからご覧ください。この『一室龍』数はかなり少なく、その姿を見れただけでも生涯の幸運を約束されるなどの逸話があります。また勇猛、勇敢の象徴でもあり、その勇ましい鳴き声と表情は皆さまを虜にすることでしょう!今回は特別に!その咆哮を皆様にお聞きかせいたしましょう」
司会者のその声に会場が一斉に「おお~!」っと歓声を上げる。
そして、ステージ裏からでてきたイヤに煽情的な姿をした仮面の女性が、どこからか取り出した棒で檻の中の龍に何かした。
その直後、龍のけたたましい咆哮が会場中に響き渡る。
「!!!!!」
多くの客はその圧力に慄いたが、凛花は立ち上がっていた。
「いかがでしょう。あまりの素晴らしさに思わず立ち上がってしまった方々もいらっしゃいますね~」
凛花の他にもちらほらと立ち上がっている人はいたが、おそらく、その人たちと凛花が立ち上がった理由は別だ。その証拠に、他の客は笑顔、または驚きの表情を浮かべているのに対し、凛花は怒りと哀れみが混ざった様な表情をしていた。
「しかし他の方々のご迷惑となりますので競売中はご着席願います」
司会のその声に、凛花を含め、立ち上がっていた者たちはおずおずと、気恥ずかしそうに着席した。ただ凛花は、悔しそうに歯ぎしりをしていた。
「それでは!500万Tからのスタートです!」
司会者が高々に宣言すると、一室龍の価値はどんどんと高まっていく。
Tとは凛花が今いるゲーム『九山八海千年廻り』の通貨で読み方は「チップ」。
凛花は今日、ゲーム内での自分の家の新しい家具を買いに来ていた。
この日の凛花はついており、かわいらしい家具や、以前から願っていたシリーズ物の家具を購入することができ、満足していた。
ホクホク顔で拠点に戻ろうとしていたところ、どこからか、悲壮感漂う声がし、それをたどってきたところ、このオークション会場にたどり着いた。
「2050万!」
「3300万!」
オークション会場の客から浴びせられる好奇の視線。それにおびえる一室龍に凛花だけが気付いていた。
(ひどい、、、こんなこと、、、。許せない)
凛花は自身の固有回路から、一室龍の悲鳴と怯えを聞くことができていた。
(今の私の手持ちは、、、クッ)
本来ならすぐにでも龍を助けたかったが、それができないことは、彼女自身が身をもって経験している。
(警備があんなに強いなんて。お客さんとしてだからここにいることができるけど)
悲鳴を聞いて凛花がまず行ったことは、景品の保管庫への強行侵入だった。
しかし、即座に警備がやってきて、凛花を投げ、殴り、蹴り、追い出した。その際にいくら凛花が訴えても、彼らは聞く耳を持たなかった。
凛花は気づいていなかったが、これはゲームの小イベントの一つ。警備もオークショニアも凛花以外の客もNPCであった。このイベントクリアで入手できるのはいくつか種類がある。一室龍はその一つだった。
「1億!」
「億出ました!さあ他の方いらっしゃいませんか?!」
「1億1千!」
「1億1千5百!」
ここから明らかに競争する人が減り始めた。
ここで、凛花はついに決断する。
「1億5千!」
これは、現在の手持ちと、すでに買ったすべての家具を売却して手に入る金額だった。
「2億!」
しかし、無情にも、さらに高額な値段が提示された。
凛花はさらに決断を迫られる。彼女は自身のゲーム内の情報をステータス画面に穴が開くほど見ていた。
そこには、クハチと連動させることで見ることができる、ゲーム内での彼女の持ち物一覧と資産状況などが表示されていた。
「3億!」
「ええい!10億!」
「一気に飛んで10億出ました!どうですか?いらっしゃいませんか?」
流石の金額に、ほぼすべてのお客は苦虫を噛み潰したような悔し顔をうかべていた。
あと5秒もすれば彼に決まってしまう。迷っている時間はない。
「15億!」
凛花は高々と宣言した。
それは、凛花が現在持っているお気に入りの家、友人に手伝ってもらい開拓した土地、必死に集めた家財一式をすべて売り払って手にできる、まさに凛花のゲーム内での資産のすべてだった。
「15億!15億!」
司会はその金額を強調して他の客をあおるが、もはや手を挙げる人はいなかった。
「・・・見事、15億で落札です!」
会場に、ガベルが鳴らす音が響き渡る。
「落札、おめでとうございます」
オークション終了後、凛花は首輪のついた一室龍を受け取る。
首輪には、安全に一室龍を飼うための様々な装置や仕組み、術が組み込まれており、その大まかな説明と具体的な説明書が凛花に渡されていたが、凛花はあまり聞いていなかった。
「よろしければ、目的地までお運びいたしますが?」
「いえ、大丈夫です」
オークション職員からの申し出を断った凛花は、いっしつるうを背負って歩き出した。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
職員のそんな声も、凛花には聞こえていなかった。
「・・・ふっ、ふっ、はっ、、、はあ、、、」
目的地にたどり着いた凛花は一室龍を下ろす。
場所は草原。モンスターがちらほらと現れる、誰のものでも、どこに属しているわけでもない土地。
「・・・」
凛花は龍におそるおそる触れる。
すると龍の体が一瞬、びくっと強張った。
凛花はそのまま、優しい手つきで、龍の体をひと撫でする。龍の緊張が凛花に伝わってきた。
「えっと、、、」
そのまま龍の首にある首輪に手を伸ばし、それを外そうとした、
―――そのとき
「どわーーー!」
そんな叫び声とともに、空から人間が降ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、、、あぶねぇ」
「調子のりすぎ」
地面のクレーターから這い出てきたのは真司だった。
天から悠然と降りてきたのはコトヒキだった。
「空を飛ぶって難しい、、、。あ、佐藤」
凛花に気付いた真司は、服についた汚れを払いながら立ち上がった。
「お騒がせしました、、、」
「・・・え、何で空から」
そう言って、凛花は引き気味に空を見上げる。
「空を飛ぶ練習をしてたんだよ。風魔法でな。・・・ってそれ一室龍か?」
凛花の質問にぶっきらぼうに答えたコトヒキは、凛花の隣の龍を指さして質問した。
「イッシツリュウ?」
コトヒキの言葉に、真司は首をかしげる。
「生物番号90、別名ヒトヘヤノオウだ。かなりレアだぞ」
「生物番号?」
コトヒキの簡潔な説明では、真司は理解できなかった。
コトヒキは仕方なく、初めから説明し始めた。
「はぁ。このゲームにはいろんな要素があるって言ったろ?その中には収集、コレクター要素もある。アイテム、生物、両方の図鑑を完成させるのも、このゲームの醍醐味の一つだ。まあ完成させてももらえるのは称号だけだけど。図鑑はそれぞれ0から100までの101種。一室龍は生物の図鑑の90番。入手難易度は0から5の内の3.5ってとこだ」
「へ~!」
「で何してんだ?こんなとこで」
説明を終えたコトヒキは、律義に終わるのを待っていた凛花に話を戻した。
「実は―――」
凛花はこれまでにあったことを話した。
買い物に出かけたこと、そこで助ける声が聞こえたこと、力では勝てなかったから泣く泣くあちらのルールで勝負したこと、いかにこの龍が悲惨だったかを強調し、ここでこの龍を自由にしようとしていることまでを話した。
「なんだそれは!胸糞悪い、、、」
「ふむ」
話を聞き終わった真司は、奥歯をかみ砕きそうなほど激怒していた。
しかしコトヒキは特にそういった感情変化が読み取れない。寧ろ感心している様子だった。
「そうか、凛花の固有回路は意思疎通だったっけ。よく作りこまれてるな」
「・・・は?」
凛花が想像していた感想と、どうにも違う、斜め上なことを言われ、思わずそんな声が漏れた。
「いや、今の話を聞いて感想がそれ?もっと別にないの?」
凛花の代わりにコトヒキを咎めたのは真司だった。
「まあ確かに多少の胸糞悪さはあるが、所詮一つのイベントだ。正しい選択をすれば確実に一室龍は凛花の手に渡るもんだし」
「い、イベント?」
真司の呆れと怒気の含まれた責めにも冷静に返すコトヒキ。真司は、コトヒキの真意が分からず困惑する。
「おそらく凛花があったのは、ゲーム内総資産が10億以上あるプレイヤーにしか発生しないランダムイベント。【金の価値】だろうな。まさかこんな身近で発生するとは」
「えぇ、、?」
「ん?」
コトヒキに説明に、真司も凛花も食い入るように話を聞いた。
「そのイベントで入手できる可能性のある生物は現在分かっている範囲で『一室龍』『踊り子吸血鬼』『宝石少女』『原油親方』の4つだ。共通するのはごく狭い範囲に低確率で出現すること。イベント内容はオークションとかギャンブルとか言われてるな」
「あ、オークションでした」
コトヒキの説明に、凛花が実体験から補足を入れる。
「そのオークションではたぶん、凛花にとって他にも魅力的な商品があったんじゃないか?」
「まあ、そうですね。だけどこの子を助けたかったので」
コトヒキの質問に、凛花はよどみなく答える。
「あとはゲーム内総資産のぎりぎりまで出さなきゃ、落札できなかったろ?」
「あ、はい」
「・・・ってことは10億したの?!」
コトヒキん話と凛花の解答から結論を導き出した真司が声をあげて驚いた。
「まあ、そのくらい」
「えぇ、、、」
真司はドン引きし、思考が停止した。辛うじて出てきたのがさっきの声だった。
「まあ、そういうイベントだしな。手に入れられる条件を満たしたから、凛花は今一室龍をゲットできてる」
「う、ん、、、」
コトヒキに言葉に、凛花は難しい顔をしている。
「どうした?」
そんな凛花に気付いた真司は彼女を気に掛ける。
「いや、あの出来事が単なるゲームのイベントで、この子がただのキャラクターってことは分かってるけど、、、」
凛花は一室龍のことを見つめていた。一室龍はぐったりとしている。体も気づだらけだ。
「はぁ、感情移入がすごいな」
そういうとコトヒキは自分のステータス画面を開いて何やら操作する。
すると彼の右手におもちゃの銃らしきものが、目の前の空中にメダルケースが出現する。
コトヒキはそのまま、空中にふわふわ浮いているメダルケースがらメダルを一枚取り出し、銃の側面にはめ込んだ。
そして銃口を龍に向ける。
「え?え?」
「ちょちょっちょ!」
凛花の混乱を無視し、真司の制止も間に合わず、銃口からのビームは、一直線に一室龍へ放たれた。
ビームを撃たれた龍は、一瞬で体の傷が完治した。
「・・・え?え?」
「あ、ああ、、、」
驚き、困惑、理解、考察、様々なことが頭の中を駆け巡る二人。しかし、そんな二人に常識を教えてやる気はないと、コトヒキは淡々と作業を続ける。
銃にはめたメダルをほかの物へと交換したコトヒキは、何もないところに向かって撃つ。
するとテーブルとイス、ランプなど、一般的なキャンプ道具が出現した。
「こいつもだな」
また別のメダルへと交換したコトヒキは、テーブルの上に向かって撃つ。
すると見たことのない食材と料理が出てきた。
「ゲ」
突然、コトヒキが不穏な声を出した。
真司がパッと振り向くと、彼の銃にはめてあるメダルがキラキラと消えていくところだった。
「は~、ハズレか」
コトヒキはステータス画面を操作して銃とメダルケースをしまった。
「ほらやるぞ」
コトヒキは椅子に座り、真司と凛花に対してぶっきらぼうに手招きした。
「え、、、なにを?」
真司が困惑しながら尋ねると、コトヒキは呆れたようにため息をついた。
「お前らがただ金を溝に捨てたいってやつなら俺もこんなことしねえよ。だけど助けてえんだろ?弱った龍こんなところで放したって近くのモンスターに狩られて仕舞いだ。だから飯食わせて回復させんだよ!」
「あ、ああ~」
「あ、はい!はい、、、」
コトヒキの言葉に、二人は慌てて席に着く。
「一応ゲーム内のキャラは同じ食事をとれるから。これ、レシピ。体力回復、魔力回復、魂力回復、経験値増幅、リジェネ効果付与、状態異常耐性辺りの料理作ればいいだろ」
コトヒキに食材や調味料について教えてもらい、レシピを見ながら真司と凛花は料理を作り始めた。
それなりに時間はかかったが、十分な量の料理を作ることができた。
「これ、で、合ってるの?」
出来上がった料理は、真司の馴染みのあるものから見たことのないもの、鍋の中にサンドイッチを入れて煮込む、のような、知っているけど知らない料理まで様々。
「半分くらいは短縮校庭を入れたから奇抜になったな。けど完成度は5だから問題ない。寧ろレシピ道理にやったのに完成度3って」
「う、すみません」
完成度とはこのゲーム内の評価制度の一つ。0から5まであり、5が最高。早さやバランス、正確さなどを総合して評価する。もちろん料理だけでなく、家や農作物、畜産物、機械などの工作物にも適応され、評価が高いほど性能や効果が高い。3は効能を得る最低ラインだ。
「ほら、食べられる?」
そんな二人の話をしり目に凛花は料理の一つ、ハンバーガーらしきものを一室龍の口元へもっていく。
一室龍は花をひくひくさせてにおいをかぐと、ゆっくりと口を開ける。
「ほら、食べて」
開いた口に料理を持った手を差し込むと、龍の口はバクンと閉じられる。
「あ”あ”!」
手を挟んでしまった凛花は、あまりの痛さに絶叫する。
「オイーッ!!」
「!!!!」
叫び声に気付いたコトヒキと真司が慌てて凛花に駆け寄り、コトヒキは上あごとしあ顎を外から掴み、真司は口の隙間から手を滑り込ませ、内側からそれぞれ全力で口を開けさせた。
(!、強ッ!)
真司とコトヒキの二人がかりでゆっくりとだが、龍の口は徐々に開く。
遂に、凛花の手を口の中から救出することができた。
「手を離すぞ!」
それを確認した真司が、コトヒキに呼び掛け、二人は同時に手を離した。安堵と疲労から、二人は息を弾ませる。
「バカヤロウ!一室龍は設定上弱ってても龍瓜もかみ砕くんだぞ!!餌あげたいなら放り込め!まず人に聞け!バカヤロウ!」
尻もちをついて血だらけの右手の手首をつかみ、痛みに顔をゆがめている凛花に、コトヒキは冷や汗を流しながら叱る。
「う、う、う、、、ごめんなさい」
コトヒキは息を弾ませながらその場に腰を下ろす。
「ま、まあ、ここはゲーム内だし、そこまで怒ることないだろ?とりあえず、凛花の右手治してあげてよ。さっき龍を治したときみたいに」
未だ怖い顔をしていること日にをなだめつつ真司はお願いする。
「・・・・・・・いや、治さない」
しかし、コトヒキは難しい顔をし、しばらく考えこんだ後、拒否した。
「なぜ?」
凛花はコトヒキの顔をパッと振り向き、驚きと絶望のまなざしで見つめた。
真司はコトヒキの意図を探ろうと冷静に質問する。
「聞いてるぞお前ら、治癒ができないんだって?ちょうどいい機会だからここで練習しろ。ここならゲーム外の体に影響はほぼないから」
「クルㇽㇽㇽ~」
コトヒキが話し終わると同時に、そんな音が聞こえてきた。
3人が音のする方へ振り返ると、龍が頭を持ち上げ、料理をじっと見ていた。
「真司は餌あげとけ」
「え俺?」
「じゃあお前教えられんのかよ」
「あ、はい」
真司がコトヒキの指示に従い、立ち上がったとき、コトヒキは忠告する。
「あげるときは大皿に乗せてからあげろよ。たぶんさっきのは人に一矢報いようとしてかみついたんだろうから。まあ、料理は口にあったみたいだが」
「ああ~。は~い」
龍を一瞥した後、気の抜けた返事をし、真司は準備に向かう。
「でまあ、治癒のやり方だが、切り傷くらいは治せるんだろ?だったらあとは慣れの問題だ」
コトヒキは凛花に、治癒術の講義を始めた。
ゲーム内でも投資という概念があるので、凛花が5千万で購入した土地は10億ほどの価値に膨れていました。




