44話 国民的ゲーム
陽一たちは今頃学校から海の国の警察に引き渡されそうになっている。一悶着アリ
「なあ、君らはなんでそんなに強いの?」
真司はクラスメイトのユウゼンとヒラマサに尋ねた。
なぜこの二人かというと、たまたまそのとき近くにいたからだ。
「えぇ、藪から棒になんだい」
ユウゼンが相変わらず気だるげに答える。
「いや、この間の補講で、俺の実力不足を感じて、、、」
「はぁ~」
ユウゼンは頬杖をつき、机の前に足を放りながら呆れてため息をついた。
「そんなもん生まれたときからやってるのとここ数ヶ月で学んだので差が出るのは当たり前だろぅ」
そう言ってユウゼンは唐揚げを口に放り込んだ。使われている肉は鶏肉ではないが。
そんなユウゼンの態度に、真司は苦虫を噛み潰したような顔で言いよどむ。
「クククッ」
その様子を見たヒラマサは口に手を当て、嚙み潰したように笑う。
「あん?」
その様子を不審に思ったユウゼンが米を苦に入れようとすることを中断し、ヒラマサに、抗議の意味で声をかける。真司も何も言わなかったが、ヒラマサのことを見た。
「真司は補講のときに異世界の子にあったんだよ」
「へ~」
「その子に負けて焦ってるんだよ。そのあと僕とヤマメが彼らを瞬殺したのも効いてるんでしょ?」
「・・・ああ、まぁ」
ヒラマサに心のうち、弱みを図まり言い当てられて、真司はバツの悪かった。
「ふ~ん、だからって、焦っても数年の時間を短期間で埋められるとは思えないけど」
「いやぁ、そんなことはないんじゃないかな」
「んあ?」
ユウゼンの意見を新しく話に入ってきたツチフキが否定する。
「力の成長率は一定でも画一的でもないからねぇ。一次関数的に成長する人もいれば、平方根の関数のような成長をする人も、指数関数的な成長をする化け物もいるしねぇ。まあ大抵はそんな綺麗なグラフにはならいけど」
ツチフキはもってきたイスに深く座りながら真司に説明した。
「それって、才能がすべてってこと?」
「ああ、ゴメンねえ、説明が下手で」
ツチフキの話を聞いて不安になった真司に、さらに追加で説明する。
「言いたかったのは成長に限界はないけど、みんながみんな力の成長にすべての時間と労力を割いてるわけじゃないってことさ。時間は有限だからねぇ。君が必死こいてやれば、運が良ければみんなとそん色ないくらいになれるさ」
「ああ、なるほど」
「そうでなくても、ある一定の基準超えてれば学校は卒業できるからねぇ。必要以上に不安になることはないさ」
ツチフキの話に、みんなもうなずく。
それを見て安堵した真司だったが、再び少し暗い表情になった。
「まだ何か不安があるのか?」
それに気づいたヒラマサが真司に問いかける。
真司は、自身が今考えていることを吐露した。
「いや、学校の成績さえクリアすればいいって考え方はどうかなって」
「うん、余計な心配だね」
真司の心配を、ヒラマサはばっさり切り捨てる。
「この学校は公立、国が運営してるってことだからね。学校の成績っていうのは国が『最低限これを収めておけば軍隊に行くっていう選択をしてもやっていける』と判断したラインってこと。寧ろ学校の成績以外にも何かやらなきゃって焦って変なバイトやボランティアにリソース使って、結局成績が足りないって方が上からしてみれば迷惑」
「ボクたち凡人は、そこそこの広さのことをそこそこの深さやるっていうのが一番だからねぇ。そこそこの範囲は、国が学校って形で示してくれてるんだ。そこに乗っかればいい。まあ、この国が信用できないっていうなら、話は別だけどねぇ」
ヒラマサの説明を、ツチフキが要約した。
(確かに。素人がここであれこれ考えても仕方ないか。この国の黒い噂は、そこそこ聞くけど、元の世界でも聞くようなことだったし、大量虐殺や情報統制の話もないし、国外にも自由に出られるって話だし。信用できない国ではないし。というかそもそもそんな国だったら俺らは今こうしていられないか)
二人の説明を聞いて、今度こそ不安を払拭できた真司は、具体的な話を始める。
「なるほど。わかった。とりあえずこのまま真面目に授業を受けてればいいわけか」
真司はそう言って弁当を食べきった。
「そういうこと」
ヒラマサも昼食のパンを食べ終え、残った包みを丸め、放り投げた。
ごみは教室の天井すれすれを通り、見事教室の隅にあるごみ箱へ一直線、かと思われたが、ごみ箱の縁に当たり、落ちてしまった。
―――かに思われたが、たまたま近くを通ったクラスメイトがごみを蹴り上げ、ごみ箱の中へ、ストンと入った。
「横着すんなよ」
ごみを蹴り入れたクラスメイト、コトヒキがヒラマサに苦言を呈した。
「やあすまない。おかげで助かったよ」
しかし、そんなことはどこ吹く風と、ヒラマサはコトヒキに礼を言う。
コトヒキはそれ以上何も言わず、自分の席に戻る。
「話は済んだし、授業も始まりそうだ」
ヒラマサも、そう言って、くっつけていた机を元に戻そうとする。
「ああそうだ」
それを、ツチフキが呼び止めた。
「今日クハチ限定で新車が出るからさ、一緒にどうかな?」
『クハチ』という真司には聞きなじみのない単語。
真司越しに話しておきながら、彼を無視して話は進む。
「ああすまん。新武器が出るんでソウハチやカイワリたちとの先約があるんだ。今度で頼む」
「そっか、残念だ」
そうしてツチフキは自分の席へ戻っていった。
「なあ、『クハチ』って何?」
真司は隣の席で突っ伏しているユウゼンに質問する。彼はのっそり世顔を上げ、頬杖をついた。
「ん?ああ、知らないのか。まあそういうこともあるか」
一瞬驚いた顔で真司のほうを見たユウゼンだったが、すぐに納得し、遠くに目をやる。
「クハチってのは国が主導して作ったオンラインゲームのことだ。ソフトは役所行けば無料でくれるし、ハードはその辺のゲームショップで、申請すれば国が立て替えてくれる」
「へ~。それって人気なん?どういうゲーム?」
真司の立て続けの質問に、ユウゼンは伸びをしながら回答する。
「ッ。今ここで説明する時間もないし意味もない。興味があんだったらトウジンかコトヒキあたりに頼んで買いに行きな。とりあえず、あれは体験型ゲームだ」
ユウゼンが言い終わると、教室の扉が開き、先生が入ってきた。
「はいー、どうも。授業はじめます」
いつも通りの抑揚のない声のアイン先生が、数学の授業を始めた。
1組にとっては地獄であった。
昼食の後のアイン先生は死ぬほどつらいものだった。
クソ眠いのだ。
というかこの学校の先生は、話が面白いか眠いかの両極端なのだ。
微分積分の応用などというただでさえ難しい内容なのに、こうも淡々と話されるともうどうしようもない。
(眠気覚ましの術か、寝ても気づかれない術、あとで調べるか)
真司は、眠い目をこすり、教科書を読む。
数学の後のオルカ先生の道徳、倫理は、いつも通りの型破りというか、毒舌というか、そんな授業が行われ、やっと、放課後になった。
「トウジン、この後暇?」
真司は早速、トウジンに『クハチ』について聞こうとした。
「ん?どうした?」
真司に呼ばれ、トウジンは振り向く。
「あのさ、『クハチ』って―――」
「ジンー♪」
真司の言葉を遮ってトウジンを呼び止める声がした。
「ん?なにー?」
声の主は、トウジンの彼女のネオンだった。
彼女はトウジンの近くにいた真司に気付いた。
「・・・もしかして、邪魔しちゃった?」
彼女に真司の話を遮るつもりはなかった。その証拠に、彼女は気まずそうにトウジンを、そして申し訳なさそうに真司を交互に見ている。
「んー、いや?」
トウジンはネオンの心配を否定すると真司のほうに振り向いた。
「ワリい真司。今日ネオンと一緒に帰る予定があんだ。その話急用か?」
「・・・いや、ちょっと『クハチ』?っていうゲームについて聞きたかっただけ。大した用じゃない。別の奴に聞くよ」
「ん、そうしてくれ」
そうしてトウジンとネオンは帰っていった。真司は、特に深く考えず、彼らの後を見送った。
「あ、コトヒキさん」
そして近くを通りかかったコトヒキに声をかける。
「・・・コトヒキさん?」
しかしその変な呼び方にコトヒキは眉をあげながら振り返る。
「何か、変ですか?」
「クラスメイトにその敬語は変だろ。ほかの奴にはしてないだろ」
「いや、あんまり、交友がなかったもので。こっちはこれから頼む身だし」
「クラスメイトだ。対等だ。変に気を使うな。気持ち悪い」
「・・・ああ、わかった」
「切り替え速いな。・・・で、なに?」
「ああ、『クハチ』ってゲームについて教えてほしくて」
「持ってないのか?ほしいのか?」
コトヒキの質問に、真司は首を横に振る。
「いや、それは話を聞いてから決めようかなって」
それを聞いてコトヒキはため息をつく。そして、ゲームの説明を始めた。
「・・・クハチってのは『九山八海千年廻り』っていう国が主導して作ったゲームのことだ。将軍が発案し、関白が軌道に乗せた。クハチの他にも、クザン、ハッカイって呼ばれてる。オープンワールドで、自分の精神をゲーム内に入れてプレイする。国が出資しているから、基本無料。ゲーム内容は収集、バトル、脱出、謎解き、恋愛、建設、冒険、作成、起業、ギャンブル、とさまざま。3つのメインストーリーと1000を超えるサブストーリーがあって、たまに追加、または削除される。国がクリエイターに金払ってるから、完成度はかなり高い。高級術師の一人、マッコウっていう人が携わっているから、世界の広さは実質無限。まあ、ざっくり言うとこんなとこかな」
「それって面白いの?どれくらいの人がやってる?」
「この国の9割くらい、というか、生活の基盤みたいになってる」
「は?ゲームが?大丈夫なのか、それ」
共学する真司とは対照的に、コトヒキは落ち着いている。何もやましいことも、後ろめたいこともなく、さも当然というように説明を続ける。
「国が介入し、マッコウが監視してる。安全性はかなり高い。だから、企業もこのゲームに参加して、現実ではなかなか作れない新作を試作品として販売したり、国が新しい街構造を作って、実際に実現させたときに不備や不便がないか確認するのに利用したりしてる」
「なるほど。そういう事か」
真司は、ヒラマサとツチフキの会話を思い出した。
(ツチフキが言っていた新車とヒラマサが言っていた武器はそういう事か)
「・・・で、どうすんの?」
腕を組んで妄想する真司に、コトヒキが質問する。その意図は、ゲームを買いに行くのか、行くとしたら、自分はついていったほうがいいのか、ということだ。
コトヒキに声をかけられ、真司は彼のことを見る。
「ん、ああ。そうだな。やってみようかな。コトヒキ、悪いけど、買い方教えてくれないか?」
「ああ、わかった」
真司とコトヒキは学校を出てそのまま役所へ向かった。荷物は瞬間移動で家に置いたり、異空間へ収納したりして、二人とも手ぶらだ。
「いやー、今更だけど、魔法ってやっぱ便利だな」
役所へ向かう道中、真司がしみじみと言う。
「まあな。まあ、俺は魂力のほうが便利だと思うけど」
「なんで?」
「別に、魂力を今までまともに使えなかったから。今まで当たり前に魔法と体力は使ってたからよっ」
「ああ、なるほど。確かに普段からあると便利さ忘れるよね。でも、なんか魂力で変わった?」
「一番わかりやすいのは気配だな」
「気配?」
「今までのどこに何があるかに加えてそいつが今どういう心境かがなんとなくわかる感じか。怒ってんなとか、悲しんでんなとか。ざっくりと」
「・・・それ、体力だけでも何となくわからなかった?」
「精度が上がったんだよ。わかりやすく例えるなら、『HOUSE 5』から『HOUSE 6』になった感じだ」
『HOUSE』とは真司たちや海の国の国民が使っている、かつて『ステータス画面』と言っていたやつのことだ。現在それは魔法関連の事業を行っている企業が販売している。販売企業はいくつかあり、海外性もあるが、国内で最も人気なのは「灯台」という企業が販売し、サポートをしている『HOUSEシリーズ』である。海外でも人気であり、シェアはおよそ5割だ。
「ん~、なんか、魔法を商売にしてるってすごく違和感があるな」
「そうか?」
「俺の勝手な偏見だけど。俺の世界では魔法はなかったし、魔法が出てくる創作物は、中世、昔の時代を舞台にしてたからな」
「ふーん。そうなんだ」
『HOUSE』の販売、アップデート方法は、購入した顧客に魔法陣を渡すというものだ。真司のもとの世界で言うなら、QRコード決済に近いだろう。将軍がかつて四人に教えた方法でも、ステータス画面は取得できるが、かなり原始的で応用力もない。4人も、将軍との体力の修業のときに、シレっと更新用の魔法陣を教えられていた。
「あと別に中世を昔の時代って言いなおさなくても伝わってるから」
「え!?」
コトヒキにそんなことを言われ、真司は心臓が止まりそうなほど驚いた。
「だって、中世って元の世界の歴史区分だよ?この世界での時代区分は違うって習ったし」
この世界では歴史の区分が真司たちの国ほど細かくない。中世なんて言葉は、歴史では習わなかった。
「確かにそうだが、翻訳、アップデートしたんだろ?だったらわかるよ。お前もそうだろ?例えば、、、泣いて馬謖を斬るとか」
「え!?」
コトヒキの口から出た言葉に、真司はさらに驚いた。
「お前が今なんで驚いたのか、俺にはわかんねえ。この格言はビジネスの話をするやつがよく使ってはいる言葉だ。親しいものでも、ルールのためには切り捨てる。まあ、だいたいこんな意味だったか?」
「まじか、なんで―――」
「大器晩成と、ローマは一日にして成らず、みたいなもんだろ」
真司とコトヒキの話に割り込んでくる声があった。
「宗司、と、、、」
真司は声のしたほうを向いた。そこには宗司と、あと一人。
「やっほー。宗司の彼女のコバンです~」
「あ、どうも、お久しぶりです」
「こんにちは」
そう言って真司とコトヒキは会釈した。
「久しぶり~っても、会話はしたことないけど」
「なんでここに?」
「デート。それより、翻訳の話だろ?」
真司の疑問に、宗司はさらっと答えて本題に戻す。
「え?え?」
「大器晩成はヨーロッパではローマは一日にして成らずという。それと同じ。泣いて馬謖を斬るも、別の人物、あるいは現象、あるいは地名を使って『規律を守るために、親しい人であっても処罰する』という意味の諺があるが、翻訳で訳されているだけ」
「へ~そうなんだ」
そう言って真司は宗司の説明に納得し、何度も頷いている。
「お~」
宗司の後ろでは、見事な説明に感心したコバンはそんな声を出しながら拍手している。
「やっぱ宗ちゃん頭いいね~。惚れ惚れするよ」
「宗ちゃんは止めろ」
ムスッとした顔でそう言う宗司だったが、彼の頭をなでるコバンの手は放置していた。
「わざわざありがとうな。せっかくのデート、楽しんで」
コトヒキがそう言うと、宗司の代わりにコバンが答えた。
「ありがとー♪じゃーねー♪」
その後、二人は空へ飛んでいった。
「すげー、空飛んでる」
そんな二人をコトヒキと真司は茫然と眺めている。
「しかも風術でも放出でもなく重力魔法だ、ありゃ」
「重力魔法?」
「陰魔法の一種だ。陰魔法はもともと影や暗闇に関する魔法だったが、いつの間にか重力や空間、時間の魔法も分類されるようになったな。逆に今まで陰魔法分類だったものが陽魔法に分類されなおされることもあったが」
「へー!知らなかった」
重力が陰魔法だということは真司は知っていたが、そのあとのことは知らなかった。そのことについて感嘆した真司。
コトヒキはさらに続ける。
「昔は陰魔法だったが今は陽魔法なものの代表例は睡眠魔法だな」
「へ~、あ、そうだ。聞きたいことあるんだけど」
真司はあることを思い出し、コトヒキに尋ねる。
「ゲームのことじゃなくてか?」
「ゲームのことじゃなくて」
真司の頭の中にあったのは、ゲームではなく、ある授業の風景だった。
「・・・なんだ?」
「眠気覚ましか、寝てても気づかれない術、ある?」




