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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
43/52

43話 試験の後の反省

人形はハッカクたちに気付かれたと悟った瞬間、洞窟を破壊し、逃亡と攪乱を謀った。ちょうど正也であったため固有回路の『弱点』で洞窟の一部を崩壊させることで策をなそうとした。もちろん、一年生とはいえ海の国の青年たちがこの程度で重傷を負うことはない。せいぜい逃亡のための時間稼ぎができればと実行したが、その衝撃で洞窟内にいた虫がルリハタに落ちてきてしまった。

虫が特段苦手というわけではないが、いきなりのことに驚いたルリハタは、つい力任せに腕を振るってしまった。結果洞窟が吹き飛ばされ、結果的に爆発したように見えた。


「手前ぇら手ぇだしてんじゃねえよ!俺がやってんだろうが!」


ハッカクは怒っていた。彼は戦いは一人で楽しみたかった。タカベ達3人はそれを承知していたため、戦いには参加せず、見物をしていた。だが今は、アミキリ、アジアキ、さらに2組のレイ、4組のエイミーも戦いに参加している。


「だけど、俺がいなかったら何回か戦闘不能になってたよね?」

「それに関してはありがとう!助かった!」


アミキリの指摘に、ハッカクは素直にお礼を言う。その間も、人形と生徒たちの激しい攻防は続いていた。


「すげえな~」


彼らの戦いを見ているマブナが感嘆の言葉を口にする。

彼らの戦いは回路、固有回路、武術、地形など、様々なものを用いた戦いであった。

メインはハッカクと正也の人形で、他がハッカクのサポートをしたり、隙を見て人形に攻撃したりといった感じだ。


「他の奴らは何してんだ?」


宗司は彼らの戦いから一歩引いて、戦いを見物している生徒たちを指して問いかけた。


「逃がさないようにしている」

「逃がさない?」


問いに答えたのはハクレンだった。


「あの人形は試験終了まで逃げる。だから逃がさないようにしている」


よくよく宗司が見てみれば、見物人のほとんどがすぐ動ける体勢になっていた。

また、自分たちと同じように、空で待機、見学している人たちもいる。


「ただの野次馬もいるけど」


ハクレンが指さした先には、確かに寝転がっている人や、どっかりと腰を下ろして、友達と楽しく話している生徒たちもいた。


「おりゃあ!!!」


激しい掛け声に宗司が振り返ると、ハッカクが正也の人形の腹を、アジアキが人形の背中を同時に強打しているところだった。

そして人形はそれを体を回転させることによって最小限のダメージで抑えていた。


「風がうぜぇ!」


アジアキが悪態をついた。どうやら風を使って空中で体の回転を発生させていたようだ。

難を逃れ、地面に降り立った人形は地面をコンっとたたき、表面を砕いた。半径一メートルほどの地面が砕かれ、たくさんの石が生成された。その石たちを両手につかみ、弾丸ほどの速度で、ハッカクとアジアキに発射する。

ハッカクとアジアキは、大半をよけていたが、いくつか当たったらしく、動きが鈍くなった。


「俺たちもいるんだけど~」


そのスキに逃げようとしていた人形を、2組のレイがとらえる。

レイは足場の悪さをものともせず人形に近づき、後ろ回し蹴りを決める。

腕と体力と魔術でのガードをしてもなお、人形はぶっ飛ばされた。

しかしれいはその場で蹲ってしまった。


「・・・ッ」

「ああっ、カウンターだ!」


レイの様子を見たマブナが残念そうに言った。

その直後、宗司の真横を何かが通り過ぎた。大きな何かが。

宗司が下を見ると、地面には、刃物で切られたかのような裂け目があった。

その後、ふっ飛ばされた人形が、右足を切断された状態でふっ飛ばされ返してきた。


「おらぁ!!!」


林の中から飛び出してきたハッカクが、そのまま人形を踏みつぶそうとする。それを紙一重で人形が躱した。

ハッカクが降り立つと大きな地響きが鳴り、人形が生成した石がすべて飛び上がった。

人形の行方を目で追ったハッカクが見たのは、こちらに向かって手のひらをかざす人形の姿だった。


「「!!」」


直後、強風が吹き荒れ、浮かんでいる石がハッカクに襲い掛かった。射線上にいるレイにも。そして、人形の手のひらから炎が噴き出した。真っ青な炎が。

突如レイの後ろに大きな氷壁ができる。


「おい!一回避難しろ!」


後方で見物していた生徒が二人を呼ぶが、彼らはそれを無視した。

ハッカクはとっさに防御の姿勢を取る。宗司から見ると、不意打ちではなく、くるとわかっている攻撃では、ハッカクに有効なダメージは与えられていないように見える。石が当たっても平気そうだ。がしかし、炎に包まれたハッカクがどうなったのかは分からない。

レイは先ほどうずくまっていたのが嘘のように、飛んできた拳大の石を殴り、払い、躱していく。そして奇妙なことに、青い炎は彼の前で急速に消えてしまった。

後ろの氷壁には、レイが捌かなかった石が突き刺さる。


「いいぞぉ!」


突如炎の中から飛び出してきたハッカクはそのまま人形に殴りかかる。表情には笑みを浮かべ、服すら燃えていない。

人形は術を中止し、とっさに構える。

しかし構えの隙間からハッカクの拳が入り込み、人形の体が斜め後ろにふっ飛ばされる。

丁度そこに出てきたアミキリに人形は背中をけ飛ばされ、前に叩き落される。


(目で追うのがたいへんだよ)


宗司は心の中で愚痴った。


「四組のエイミーは?」


人形を前に、自分の隣に並んだアミキリにハッカクは、先ほどまで一緒に戦っていたであろう友人の所在を問う。


「人形にカウンター貰ってダウン。エンペラーやキクラたちが一緒」


アミキリは簡潔に答えると構えなおした。

前にはアミキリとハッカク、後ろにはレイ、そして4人を囲むようにほとんどの一年生が待機している。


「だから、俺一人でやりてえんだってんだろ!!」


そんな布陣に、ハッカクは不満げだ。


「別に一人でやっていいよ。お前が取りこぼしそうになったら俺が拾うだけ」

「だからそういうのもさあ!」

「お前の言う逃げるのも戦略っていうのもわかるけどさ、これ試験だから、ある程度妥協してくれ」

「・・・はぁ。仕方ねえか」


ハッカクの理解を得られたアミキリは、次はレイに交渉する。


「レイー。悪いんだけど俺と一緒にハッカクのサポートに回ってくんないかなー?」

「ふぅ、しょうがないね~」


レイのため息がゴングとなり4人の戦いが再開する。


(見、見えない)


宗司の視界からハッカクと人形の姿が消える。しかし音は聞こえる。


(見えないくらい速いのか。見えなくなる術を使っているのか)

「4人とも速ぇー!」

「ハッカクも人形も、まともに食らわないよう立ち回ってる」


宗司の予測、その答えは前者だった。

ハッカクと人形は目にもとまらぬ速さで戦いを進め、アミキリとレイは地面にいたかと思えば、一瞬で飛びあがり、気づけば地面にいる、それを繰り返している。


(化け物だな)


しばらく観察し、目が慣れてくれば、ハッカクと人形の軌跡くらいは負えるようになっていたが、それを見て出てきた感想はシンプルだ。

まるで遺伝子のように、螺旋を描きながら二人は戦っている。

とここで、宗司はある違和感を覚える。


(?オーラが出ていない)


宗司が術を使う、そもそも戦うとき、その身の周囲に魔力や体力、時に魂力をまとわせていた。人形が、獣がまとわせて戦っているところを見ていた。しかし彼らはそうではない。

それでも、その圧倒的な存在感は依然としてある。


「どうした?」


何度も目をこする宗司を気にかけ、ハクレンが宗司の隣に来た。


「いや、いつもまとっている光が見えなくなって」


宗司は目頭を押さえながら答える。


「大丈夫、みんな見えてないと思う」

「え?」

「力をまとうと皮膚の隅々まで強化できたり、オーラで直接攻撃できたりするけど、無駄に外に出て行くから、どちらかと言えば短期決戦向き」

「じゃあ今は、力を内部にためているということか?それが長期戦向きなのか」

「そう」


宗司は二人の影を探す。少し目を泳がすと、戦いの軌跡が目に入った。


「ハッカク、バテてきたな。少しずつエネルギーが漏れてきてる」


額の上に手をかざして遠くを見るようなしぐさで見ているマブナが心配そうに言った。

いつの間にか夜明けの時間になっていた。

朝日が早しの木々を照らし、美しい風景を作り出す。


「・・・・・」


朝日が鬱陶しく、思わずそちらを見た宗司は、その幻想的な景色に思わず心奪われていた。

この試験場は広く、森、山、草原など、様々な地形がある。高いところにいるため、それらを一望することができる。

今まで試験と戦いのことで頭がいっぱいだった宗司の心が落ちついた。


「おっ」


突然のマブナの声により、宗司は意識を現実に引き戻され、マブナが見ている最後の戦いに目を戻した。


「おいおい、、、」

「あ、、、ぁ、、、」


アミキリが呆れ、ハッカクが残念そうに、名残惜しそうに人形を見ていた。

胴体に腕が貫通した人形を。


「ごめんなぁ。こっちに来たから、つい」


そう言って、ヒラマサは腕をひっこめた。

人形がばたりと倒れ、その顔が無気質なものへと戻った。


『人形、的、ともに残像数ゼロ。現時点を持って試験を終了する」


ナイル先生の声が聞こえる。耳からではない。頭の中にだ。

そして、全生徒の足元に魔法陣が出現した。

瞬きする間に、宗司は、元の教室へ戻っていた。試験開始する前にいた教室に。

周りを見れば、クラスメイト全員がいる。


「終わったー!」

「早めに終わったなー」

「打ち上げ行くかー?」


誰かが話し出し、すぐに教室が活気づいた。

皆各々の荷物を持ち、帰宅の準備をする。といっても、手ぶらの人がほとんどで、一部の人がショルダーバックをかけるくらいで、準備という準備はしていないのだが。

ただ、それにもかかわらず教室から人があまり捌けない。


(・・・)


宗司はもってきたが全く使わなかった鞄を持ち、帰ろうとした。


「あ、ソウジ。お前これからの打ち上げ行く?」


帰ろうとする宗司をスズキが呼び止めた。


「打ち上げ?」

「そうそう。やっぱイベントの後は欠かせないから。行かないか?」

「・・・俺はいいや」

「え?なんで?」

「・・・金ないし」

「なんだよ水臭いな。俺らが出すよ」

「・・・いいよ。悪いし」

「俺らが一緒に行きたいから金出すっつってんの!断る理由が遠慮や偏見なら聞かねえぞ!」


スズキの言葉に、宗司は諦めて、息を吐いた。


「・・・物好きな、、、わかった。行くよ」


最初の言葉は独り言のつもりだった。


「わかった。おい!ソウジも行くってよ!」

(半強制連行だけどな)


スズキの発言に、宗司は言いかけたその言葉の飲み込んだ。


「宗司も行くんだ」


話しかけてきたのは真司だった。


「半強制みたいな感じだけど」

「親睦を深めるって意味でいいんじゃない」

「ナチュラルに名前呼びするやつらと、これ以上どう親睦を深めるのか。だいたい俺なんかと仲良くなりたいとか。物好きな。イメージアップか」

「ひねくれてるな。それに、自分を卑下するなんてな。前は周りを下に見てたのに」

「・・・フンッ」


宗司はバツが悪そうにそっぽを向いた。


「ま、俺はアミキリが言うまで全く気付かなかったけど」

「・・・あいつらよ。俺より頭いいんだよ。優秀だ。なのにそれをほとんど気にしてない。俺は、それを一番に考えてたのに」

「そうか?テストの点、俺ら同じくらいじゃない?それに、テストの点数とか、見せ合ってると思うけど」

「課題を解くときに、数通りの導き方を言いあうんだ。それに、テストの点数はじゃれてたり、答えを見てるだけだ。・・・あいつら、交通整理員やごみ回収業者に自然とあいさつする」

「ああ、まあ。いや挨拶は普通じゃないか?」

「ああ、そうだな。お前もしてた。俺は、内心見下してたけどな」

「・・・・・」


宗司は少し、うつむいた。自分の内面を冷静に整理しているのだ。真司は黙って、宗司の話を待った。


「お前もあるだろ。何かを下に見て安心すること」

「・・・・・」


真司に思い当たる節がなかったことに、宗司は気づいたが、宗司はつづけた。


「例えば、自分より年収の低い奴、学歴の低い奴、スポーツができないやつ、モテないやつ、頭のおかしい奴、声のでかいやつ、フィクションを真に受けて、その言葉や行動を真似するやつ、、、差別するやつ」

「・・・うん」


それらすべて、真司には思い当たる人物がいた。ある特定の人物ではない。人、インターネット、様々な媒体から入ってくる、不特定の誰かのことだ。

だがそれを、真司は見下した覚えはない。


「頭が悪い、努力を怠った、センスがない、才能がない。そんな露骨なことや、子供っぽい、短絡的な思考だ、彼は気づいていない。対照的に、自分のことはこう評す。『自分はあいつらとは違う』『あいつらより大人だ』」

「!」


宗司の具体例を聞いて、真司は宗司の言う、「見下し」を自覚した。

例えば白熱した議論を交わしている人に対して、もっと冷静に話し合えばいい、と考えたり、新人の回りくどい行動や無謀な夢に社会人としてアドバイスしたこともあった。それだけならば、自分の優位性を感じることはあっても、明確な見下しではなかっただろう。

しかし、宗司が最も心に引っ掛かったのは、どこで覚えたのかキザなセリフを言うようになった弟と、アニオタな後輩のことだった。どちらも、創作の中の誰かに憧れ、そうなりたいと、そうありたいと言動をそれらに寄せていた。

真司は彼らを、恥ずかしいやつ、と認識していた。直すべきものだと。


「だが、あいつらはそういうことをしない。意識すらしない。俺を輪の中に入れてくる。普通やらないだろ。見下してきたやつと友人になるなんて」

「いや、そんなことないと思うけど、、、」

「そういうのはフィクションだけだ。普通は皆に遠ざけられて孤立する」

「あ、、、ああ」

「あいつらは違う。俺にも話しかけてくるし、困ったとき、さりげなく助ける。俺はそんなに大きな器はもてねえ。あいつらと関わってると、俺がみじめに見える」


宗司はそう言ってため息を吐く。宗司が元の世界でどういう性格で、どういう生活をしていたのか、真司にはわからない。


「そんなことないだろ」


しかし、それでもこっちに来てからは、それなりにやってきたと、真司は思っている。


「あ?」


宗司は顔を上げて、真司のほうを見た。


「あんたはそれが悪いこと、失礼なことだって知ってるんだろ?じゃあ、これから直してけばいいじゃないか。それにお前、お前は演技してただけ、我慢してたっていうかもしんないけど、別に俺はお前といて不快にはならなかったけど」

「・・・俺の内面の話だ。俺はあいつらといたくねえ」

「お前は彼らを美化しすぎなんだよ。あいつら、言って聞かなかったらすぐ実力行使するからな?お前はあいつらをいろんな人と対等に話すっていうけどさ、対等に見れないやつは殺してるだけかも知らんよ?」

「・・・あれか?都合の悪い奴は消すってか?それはそれでこえーよ。関わりたくねえ」

「ハハッ。まあそう肩ひじ張らなくていいだろ。あいつらは嫌なことはいやっていうから。それさえしなきゃ気のいい奴らだ。お前も嫌だって言われたらすぐやめてるから今まで生きてるんだろ」

「おーい、何やってんだ?いかねーのか?」


真司と宗司が話し終えるタイミングで、アミキリが二人を呼んだ。スズキも横でジェスチャーで「行くぞ」と言っている。


「ああ、今行く」

「・・・」


真司がそう言って歩き出し、宗司が彼の後ろに続く。


「焼肉屋の予約が取れたんだ。あそこのイノシシの赤身はうめえぞ?食ったことあるか?」

「いや、ないな」

「俺も」


真司と宗司の返事を聞いたスズキは、嬉々として写真を見せる。


「これ、美味そうだろ?実際うまいぞ」

「それ俺が言おうとしたこと」


突然来たカジキにセリフを取られたスズキを見て、周りが笑う。

カジキも、「すまんすまん」と謝り、笑いながら和気藹々と打ち上げに向かった。

道中、くだらないことで盛り上がった。

宗司は、元の世界では体験できなかった心地よさを、今日も感じながら歩いていく。

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