42話 試験の最終決戦に向かう
(まさか、ここまで快適とは)
宗司が布団で横になりながら、そんなことを頭の中でつぶやく。
当初彼が想像していた過酷な試験とは全くの別物。生徒の安全性と快適性を重視しつつ、自主性や協調性、計画性やとっさの判断力、あとは単純な力を発揮させ、審査するという、この試験の構造に宗司は感心し、驚きを隠せないでいた。
(ペーパーテストや体力テストだけでは測れないものをはかっているのか)
今は日が沈み、数個の月が空に浮かんでいる。月といったが、宗司たちの世界の月とはまるで違う。そもそもあれが、球体であるのかすら怪しいものだった。
外ではいまだ戦い、探し、勝ち、壊している者たちもいるが、それでもそれなりの数の生徒が、この赤劃城でエネルギーを補給し、肉体や精神を休め、英気を養っている。
しかし悠長にはしていられない。試験は明日の朝9時までだ。
(的も人形も数が少ない。探すだけでも疲れる。一日中山の中歩きまわってさすがに疲れた)
そんなわけで、宗司は一時的に休息をとることにした。
ここの料理はおいしく、布団は人数分ある、”布団”であるおかげで、休む場所を自分で自由に選べるのも宗司にとってありがたかった。
(とりあえず、4時まで休むか)
そうして宗司は食堂や大広間から離れた、人気のない部屋で目を閉じた。
ときを同じころ、宗司のいる東側とは反対の、西側の屋根を軽々と飛び越しいくつかの影があった。それらは着地後もすごい速さで駆けだし、あっという間に見えなくなった。
「全然いねえな。チロッチロ気配はするが、それがクラスメイトか人形か分かんねぇ」
「ここまでくると、数も少なくなるから。全部回ってみたら?」
「それか俺が行ってこようか?」
「あなただけだと心配なので、行くときは私も行きます」
4つの影だった。一人は一番背が高く、一重の男。黒髪が逆立っており、団体の一番前を走っている。
「わざわざお前らいかなくても俺が行くわ。俺が一番にやりてぇんだからよ。だからテメエらついてくんな。城で寝てろ」
一人は黒髪でどこか気の抜けた顔をしている男。名をシラウオという。
「僕弱いから、ハッカクと一緒のほうがいいんだよね。まあ、僕の固有回路便利だから、電話変わりだと思ってよ」
ハッカクと呼ばれた先頭を走る男は、走りながらシラウオのいる右斜め後ろを振り返る。
「城いきゃいいだろ」
ハッカクの呆れ交じりのつぶやきに、誰も反応を示さなかった。
「俺はお前が心配だからついてく」
そう言ったのは、シラウオの左斜め後ろを走る男、タカベだった。坊主頭とはいかない程度の短髪で、シラウオより若干背が高いが、そこまで大差ない。というか、ハッカクが圧倒的に高い。そのためシラウオとタカベの差が目立たない。
「あぁ?!お前に心配されるほど弱かねぇぞ!?」
「別に強いからって心配しないことにはなんねーだろ。後、ハッカクの戦っているところ見たいってのもあるし」
「野次馬根性かよ。勝手にしろ」
「私はあなたのほうが心配だけどね?タカベ」
最後の一人は女の子だった。白髪の長い髪をなびかせながら男子たちについていくその様は、言いようのない違和感を覚えるものだ。何せ彼女と軽く交流したものは彼女を、おしとやかではかなげな美少女と評するのだ。身長は高く、シラウオやタカベと同じくらいの身長だ。
「ひでーなルリハタ。俺そんな信用無い?」
「ないです」
「えぇ、、、」
「ダハハハ!」
「アッハッハッハ」
白髪の美少女、ルリハタの即答に、タカベは思わず間抜けな声を出してしまう。
そしてハッカクとシラウオは愉快そうに笑った。まるでコントでも見たように。
4人はただやみくもに走っていたわけではない。人や的の気配がするほうに走っていた。人の気配が本当に人ならば通り過ぎるだけ。
彼らが近くを通ると、的は砕け散る。
最初のころは4人も感覚的にやりやすい手や指、口や目からエネルギー弾や衝撃波を飛ばしていたが、慣れてくると全身どこからでも出せるようになる。そもそも体力も魔力も魂力も、体中のいたるところから出しているのだからできて当たり前なのだ。
しばらくすると、ハッカクが急に立ち止まった。ほかの3人もあわてて立ち止まる。
ハッカクの真横には地下へと続く洞穴があった。
「怪しいなぁ」
口角を限界近くまで上げ、ハッカクはゆっくりとその中へと入っていく。他の3人も、それに続いた。
中は肌寒く、水滴の落ちる音が響くほど静かだ。だが天井は高く、多少の高低差はあれども道も広かったため、歩きやすい洞窟ではあった。
「暗いな」
そういうとタカベは自分の頭上に光源を作り出した。岩壁やそこに生えた声もはっきりと見える。
しばらく4人が進んでいると、二手に道が分かれていた。
「どっち行くか、、、」
ハッカクは魔法陣から木の棒を取り出し、地面に立てた。
「その木の棒、めっちゃいい感じだな!拾ったのか?」
「オウ、散歩してたらたまたまな。ほしいなら場所教えてやるよ」
ハッカクが嬉しそうにタカベに嬉しそうに告げると。ハッカクは木の棒から手を離した。
棒は、カラン、という音を立てて倒れ、左の分かれ道を指した。
「っしゃ!左だ!」
そう言いながら拾った棒で左の洞窟を指し、棒を魔法陣にしまいながら歩を進めるハッカク。
「げ、原始的だな」
ハッカクの一連のやり取りに驚き半分、飽きれ半分でシラウオがコメントし、先を行くハッカクとタカベにつづいた。
「なんか、臭わね?」
しばらく進んでいるとタカベがそんなことを言い出した。
「体がピリピリしてきたから、多分毒だと思うわ」
ルリハタが若干震える自分の手の平を見ながら告げる。
しかし、その痙攣はすぐに治まった。
「毒の排出か。苦手なんだよな」
と言いつつもシラウオは毒の排出をやってのける。ほかの二人も同じだ。
「代謝の向上や免疫力の強化なんざない腕生やすよりよっぽど楽勝だろうが」
シラウオの弱音を聞いたハッカクがシラウオに発破をかけるが、彼はそれに反論する。
「いや比較対象がおかしい。再生は治癒と違って上級でもやれない人がいるんだから」
「下級でもやれる人いるけどね」
「やかましい!」
タカベの茶々にシラウオは珍しく、彼をキッと睨む。
「センスやコツの問題ね。できない人はとことんできないって話でしょう?だから医療用の肉が売れてるし、病院もなくならないでしょう?」
医療用の肉とは遺伝子と培養、抗体などの研究の末にできたおおよその人類に適合する肉体や内臓のこと。これと医術や治癒魔法を組み合わせることで無い四肢の再生、心臓病の治療法の確立、盲目の解消などなまざまな課題をクリアしてきた。ここ百数十年で、身体的にハンデのある者の数は半分以下になったことから、この技術は多くの国から称賛されている。
「それのせいで、戦争がより悲惨なものになってしまったのはあるけど」
ルリハタの発言の直後、ハッカクは立ち止り「ハァ~」っとため息を漏らす。
それはルリハタの発言に気分を害してのものではない。
「ハズレだ」
この洞窟の先にあるものを察知し、それにがっかりしたが故の態度だった。
その発言の直後、洞窟の奥、タカベの光の届かないところから何か重いものを引きずる音が聞こえてきた。そして、暗闇に包まれていた正体がタカベの光によって明らかになる。
「マダラオロチか」
それは胴の太さが人間の身長の2倍はあろうかという大蛇だった。尻尾は洞窟の奥の暗闇にありその形を確認することはできない。
大蛇は頭を持ち上げ、体に見合った大口を広げる。そこから見せる牙からは、ぽたぽたと液体が落ちる。そしてそれ、唾液ではない。
それは地面に落ちても水たまりはできない。すぐに気化してしまう。そう、この大蛇こそが、毒の発生源だった。
その特性と、胴のまだら模様からシラウオはその種族名を当てた。
「動画で見たことあるわ。オレ。確か毒で相手の意識をもうろうとさせて自分のほうに来るように仕向けて、近づいてきた獲物を食べるんだっけ?」
タカベがシラウオのほうを向いて確認するとシラウオは首を縦に振った。
「戻ってもう一方行くか」
ハッカクはくるっと、元来た道を引き返そうとし、3人もそれに賛同した。
その直後、背中を向けたハッカクに向かって、マダラオロチは目にもとまらぬ速さで襲い掛かろうとした。
―――そしてそれを、タカベは一撃で仕留めた。
顎にあいた拳の穴は、脳天を貫通していた。
「おい、何で殺すんだ」
それに対し、ハッカクは飽きれ半分、怒り半分で抗議した。
「いやだって、襲ってきたし、殺しておいた方が後の奴らが襲われなくて済むだろ?」
「後の奴らって、、、ああ、異世界人がいるのか」
「いやそんだけじゃねえけど」
この蛇は1年生で確実に倒せるのは7割ほど。別に異世界人がいなくてもタカベは殺していただろう。
「だとしても殺す必要ねえだろ。殺したら先生に報告がいるだろ?」
「それオレがやっとくよ。殺したのオレだし」
「俺はお前らがどっか行くのはどうでもいいが俺が置いていくのは嫌なんだよ。さっさと済ませろ!」
そう言ってハッカクは近くにあった丁度いい岩にドカッと腰を下ろした。
「・・・なんだよ」
それを黙って見ていたシラウオやルリハタ。それを怪訝に思ったハッカクは彼らに問う。
「いや、別に」
「なんでも」
それだけ言うとシラウオは蛇の死骸に、ルリハタはステータス画面を開いて先生と連絡を取るタカベに視線をうつした。
「うし、終わった」
タカベがステータス画面を閉じると同時に大蛇も消える。
「じゃあ、行くか」
そう言って一歩踏み出したシラウオは、そのまま停止する。
他の3人も同じだ。黙って洞窟の奥を見ている。
「なんだ、アタリだったのか」
ハッカクは口角をあげながら立ち上がる。
―――その直後、洞窟が爆発した。
「!なんだ?!」
すさまじい音と地響きに宗司は飛び起きた。廊下に出てみると、少し騒がしい様子を感じ取れた。
「いた」
宗司が声に振り返ると、そこに立っていたのはハクレンだった。
「・・・どうした?」
「最後の人形が出た。行くぞ」
ハクレンは親指を壁のほうに指した。正確にはその壁の向こうの外、人形のことを指した。
「・・・いや、俺はいい」
ハクレンの誘いを、宗司は断る。
「なんで?」
「この試験合格するくらいの点は稼げたはずだし、ただ一体を倒しに行ってもそんな変わらないだろ」
そう言って宗司は扉に手をかける。
「倒した数だけが成績に反映されるわけじゃない」
その言葉を聞いても、宗司は扉を開ける手を止めない。ハクレンが言ったことは宗司も百も承知だったからだ。
だが宗司はチームワークというのが苦手だ。
元いた世界でも宗司は圧倒的なスーパースターとしての活躍はままあるが、チームワークで活躍したことはあまりない。そもそも宗司は人と協力したり、信頼したりするという経験がほとんどない。
戦闘という面において、宗司はこの世界では凡人だ。チームわーぅのない凡人など、原典の要素しかない。宗司はそう考え、参加を拒否したのだ。
「俺は休む。最後の人形っていうのもあや」
「ヒラマサが言ってた。シロワニも」
「・・・そう」
宗司の反論に、食い入るように情報源を伝えたハクレンだったが、宗司は動く気はない。
そもそも今の宗司を動かすのに必要なのはそう言ったことではない。
「お、いた~!」
ハクレンと宗司の会話に入ってきたのはマブナだった。
「最後の人形が見つかったってよ。たぶんめっちゃ強いからよ~。おめーも行くだろ?!」
「いや、おれは」
「よし行こー!」
宗司の言葉も聞かずにマブナは宗司の腕を掴んで走り出す。
マブナの力強さに宗司は満足に抵抗できなかった。
「ちょおおおおお」
そのまま近くの扉から飛び出したマブナ、宗司、ハクレンは空へと飛びあがった。
風術の応用で飛んでいるのだ。マブナとハクレンはは自分で飛んでいるが、宗司はマブナの風に乗っている。
「あっちだな」
戦闘音のするほうを見たマブナはそっちの方へとんでいく。
「待て!俺は行く気はねえよ!」
宗司は慌てて抗議する。
「なんで?」
「人形も的も無いんだろ?だったらこれ以上やったって成績はそんな変わんないだろ?俺はもう疲れたんだ」
「ん?でも最低限のことしかしなかったら最低限のことしかできなくなんぞ?」
「俺はそれでいいんだよ。わざわざ目標立てて全力出して、そういうのに疲れたんだよ!」
「別に全力出せとは言ってねえよ」
「あ?」
「オメー頭いいからよ、自分のできることとこの後に起きることがだいたい想像できちまうんだろ?だからいろいろつまんねーんだろ?」
「・・・」
宗司は黙った。黙って話の続きを待った。
「最初俺らを馬鹿にしたような感じで見てたのもまどろっこしいことしてんなーって思ったからだろ?」
「・・・」
「けどよ、『人生を楽しむコツは無駄をどれだけ楽しめるか』ってどっかの偉い人が言ってた」
「・・・そうか」
「だからよ、見に行こうぜ!楽しいものが見れるかもよ?どうせ戦えるのなんて一握りだし」
宗司は無言で考え込んでいた。いつの間にか忘れていた、楽しむ、という思い。この世界に来た時、未知の新エネルギーを教わったとき、街中を見たとき、確かに宗司は楽しいと感じていた。それは未知のものを見たからだ。
だが、勉強していくうちに、自分の今の実力や立場を理解してきた。それに加え、自分が無意識に立てていた目標、安定した生活を送る。この目標は、元の世界の親の影響もあるだろう。ずっと言われてきたことだ。そのため、宗司はやりたいことは別にあるのに、それに気づかず、合理的であろう生き方にこだわっていた。
(羨ましかったのか?―――そうか)
「でもよ、この宇宙はいつかとんでもねえことになって崩壊するかもって話もあるじゃん?でもその前にこの星は分からねえけど太陽は崩壊するじゃん?そのときに俺ら人は生きてねーかもしんねーじゃん?」
宗司が考え込んでいる間もマブナは話していた。宗司が己の中の不快感を言語化し、今後の生き方について何となく決め、改めて、宗司がこれから行く最後の人形の戦いに対して前向きな気持ちになったときに、マブナは宇宙のことを話していた。
「てことはすべてのことは無駄になって笑い話にもなんねーじゃん?アー何の話してたか忘れたけどとりあえず一緒に行こうぜ?」
こいつは頭に浮かんだことを整理せずに喋りまくるタイプの馬鹿かもしれない。
だが今の宗司にとってはありがたい。
「・・・なんでお前、お前らは、そんなに俺と一緒に行きたいんだ?」
宗司の問いにマブナは宗司を見て眉を顰める。そして前を向き、歯をかみしめたまま口で息を吸い込む。シーっという呼吸音が宗司にも聞こえた。
「ダチだからだろ?一緒に楽しいもん見てーと思うのは普通だろ?改めて言わせんなよこっぱずかしい」
「!!」
そう言ってマブナは宗司の肩をたたく。その勢いで体勢を崩した宗司は、空中で風魔法にあおられ、くるくると回転してしまった。
「おっとワリいワリい」
マブナは宗司の肩を掴んだ。そうして宗司はバランスを取ることができた。
「・・・俺は戦力にはなれないぞ」
宗司の言葉に、マブナはぽかんとして宗司を見た。
「別に戦ってほしいとは言ってねえだろ?楽しいもん一緒に見てえから行こうって話。あ、それとも、壊される人形がかわいそうだから見たくないって話?」
「いや別に、、、はぁ。わかった、行くよ」
それを聞いたマブナは右こぶしを嬉しそうに天に掲げた。
「じゃあハクレンこれから―――なんかめっちゃ泣いてる~!!」
「うう、、、いい話」
その後はくだらない話をしながら戦場へ向かった。途中、宗司は地面を走るクラスメイト、友達を見つけたり、一緒に空を飛んでいる友達と合流したりしたが、戦場にはすでに多くの生徒たちが集まっていた。宗司たちは最後の方らしい。
戦場となった場所は、木々が生い茂る林の中、そこにある不自然に広がる何もない広場だ。
そして戦場では、ハッカクとアミキリとアジアキ、それとあと二人の生徒が人形と戦っていた。
―――正也の姿をした人形と。
宗司の話をしつこく書いてすみません。自分の中でこいつが心を開いた理由を明確にしておきたくて。「ここまで書いてなお分かりづれーよ」と思った方。すみません。当方文才のない身でして。感想にでも愚痴ってください。




