41話 合流
「応急処置は終わったよ」
ヒラマサがそう言って立ち上がった。彼の足元には気絶した4人が倒れている。陽一の手は繋がっていた。
「おう、お疲れ。じゃ、先生に言っとくか。・・・この剣、借りちゃダメかな?」
ヤマメはヒラマサを労った後、ステータス画面のメールで先生に報告する。
そして先ほどまで振り回していたフォルテスを掲げて眺め、そんなことを言い出した。
県はヤマメが降っている間、淡く光っていた。陽一のそれとは輝きが違っていたが、同系統のそれであることは真司は何となく気付いていた。
「いや、ダメでしょう。先生も、早く返せって言ってる」
「はは、だよね~」
ヤマメはその逆立っている黒髪を掻き上げながら剣を陽一のわきに置くと、その瞬間、魔法陣が浮かび上がり、4人を転送した。
「・・・俺は」
「ん?」「?」
結界からでた真司が口を開く。ヤマメとヒラマサが振り返った。
「信じてないから。あいつらの言ったこと」
「?、何のこと?」
ヤマメが首を傾げ、きょとん顔で真司に聞き返す。その間ヒラマサ「ん~」とうなり、その後思い至り、真司に確認する。
「もしかして、野蛮とかエルフとか龍とかのことかな」
「そうだよ」
「ん?ん?」
ヤマメだけが置いてけぼりだ。彼は交互に真司とヒラマサの顔を見ている。
「エルフとか龍は、あれらはボクたちが生まれる前のことだから、正確には分からないケド、僕たちが効いた話と、そこまで大きくずれては無いのかな?」
「え?」
「何?何?」
(とらえ方の問題か?)
真司はヒラマサの言葉に一瞬動揺したが、そう自分の中で納得した。
「だ~!何の話だよ」
いい加減置いてけぼりに我慢できなくなったヤマメがヒラマサを揺さぶり、問い詰める。
「ゴメンゴメン。あの人たちが言ってたのよ。ボクらは人の命を何とも思ってない蛮族でエルフや龍を無理やり従わせてるってね」
「ハァ?」
それを聞いたヤマメは口をぽかんと開け眉を八の字にし、間抜けな声を出した。そして笑い出した。
「ハハハ!なんだそりゃ。なわけねえだろ」
その様子を見て、真司はなんだか安心した。
「そういえば、最後のあれ、何だったんだ?」
「あれ?」
話がひと段落したことで、真司は、先ほどの4人のことを思い返して、疑問を抱いた。
「最後、爆発したやつ」
「あ~。あれ」
真司の言いたいことが分かったヤマメが簡潔に説明する。
「あれ女の子に爆弾が仕掛けられてたんだよ」
「は?あの人に?」
驚く真司に、ヤマメは首を縦に振る。
「しかもあれ、単純な爆発物じゃないねぇ。あれは『触れているものを爆発物に変える』系の回路が刻まれたものだったかな?」
ヒラマサが爆発物の詳細を付け足した。
「あ、そうなん?はー。そこまでは分からんかった」
これはヤマメも把握しておらず、軽い口調だが、目を見開いて驚いていた。
「ま、あんまカンケーないけど」
しかしすぐにあっけらかんと言い放った。
「なんで?」
「俺の『分離』にかかればどんなもんだろうが問題なしよ。別に分離させて即死するような仕掛けもなかったし」
「頼りになるね」
ヤマメが親指を立てながら堂々と言い、ヒラマサも笑みを浮かべながらはやし立てる。
真司は、ヤマメの固有回路のことをよく理解していなかったが、名前とゼーベルに怒ったこと、そして彼らの話から何となく察した。
「混ざったものを分けられるってこと?泥水を水と泥に分けるみたいに?」
「そそ」
ヤマメは軽くうなずいた。真司はすぐにとある考えに行きついた。
「それって例えば生き物から血だけを取り出すこともできるってこと?だとしたらスゲー便利じゃん」
それはグロ耐性をつけるためにアミキリの家で行っていた解体で、切るときに血が飛び跳ねたり、血抜きの大変さを思い出してのことだったが、二人は軽く引いていた。
「即その発想にいたれるのがスゲーよ。こっちに染まりすぎたか?」
「意外と残酷なんだね」
「え?いや!ちがーう!」
二人にそんなことを言われ、真司は慌てて訂正しようとする。
「ふとアミキリの家での訓練を思い出してだなあ、、、!」
「うんうん、戦い方をたくさん思いつくことはいいことだけど、あんまり口を滑らせないようにね」
「お前のもとの世界も意外と殺伐としてんのかあ?」
しかし二人は真司の肩に手を置いたり、笑いながら手をたたいたりして茶化すばかりだ。
「いやー、きみがもしヤマメの固有回路持ってたらボクら全然勝てなくなるだろうなぁ」
ここまで囃し立てるヒラマサとヤマメに、真司は諦めたように息をつき、ヒラマサの言葉に反論した。
「いや、、、もし俺が持っててもあんたらに通じるとは思えないね。防がれまくるよ」
「今は、ね。鍛え続ければそうなってもおかしくないでしょう」
固有回路、それは必殺技ではない。回路、数ある術式のうちの一つ。生まれつき全員が持ち、そのほとんどが解明されず、完全な模倣もできていないが、それでも術の一つに過ぎない。普通の回路が防げるならば、固有回路も防げる。防ぎ方は、使われる術によってまちまちだが。
「彼らは未熟だったから、回路に使っているエネルギーを体内で固めるだけで俺でもある程度防げたけど、あんたらは難しそうだし」
「使っているほかの回路は多彩で珍しかったけどね」
「そうなん?」
「体を液体にする回路も使ってたよ」
「え!?それめっちゃむずくね?!」
後から来たヤマメが、興味深そうにヒラマサの話を聞いている。しかし、二人の会話を聞いて真司は違和感を覚える。
「ん?ちょっと待って。お前もしかして」
「うん?」
ヒラマサはヤマメとの会話をいったん切り、真司のほうを向いた。
「結構最初のほうから俺の戦い見てた?」
「あ、ばれた?」
ヒラマサは参ったなというように笑みを浮かべたまま頭の後ろをかく。
「彼らが探知阻害を張ったときから気付いて見に行ったよ」
「なんで加勢してくれなかったんだよお」
「最初勝ちそうだったし」
真司はそれを聞いて、力なくため息をついた。
すると、3人とはまた別の声が聞こえてきた。
「あ、もう終わったの?」
声の主はシイラだった。ほかにも、エンゼル、マダイ、ツチフキも一緒にいる。
「あぁ、ヒラマサか。じゃあ大丈夫だったね」
ヒラマサを見つけたツチフキがそう言って木の根元に腰かける。
「なんだ。他国の人と異世界の人が見れると思ったのに」
「無事ならそれに越したことはないでしょ。さっさと試験に戻ろうよ」
マダイが少し残念そうにし、状況を見たエンゼルが明後日の方向を指さしながら4人に呼び掛ける。
「あ!そうだ今試験中だ。はよ戻らないと」
真司は手をパンとたたき目を開いて少し焦る。そのままヒラマサとヤマメにお礼を言い、その場から誘うとしたとき、ある疑問が浮かぶ。
「ん?なんで他国と異世界ってわかったんだ?」
「力の質だよ」
真司の疑問に答えたのはツチフキだった。彼はおもむろに立ち上がると説明を続ける。
「異世界の人は付け焼刃的な感じだから力の使い方が不器用だし、その国によって使う回路が偏るからねそれで見分けられるんだよ。言語や方言と同じさ」
お尻をはたき、落ち葉などを落としながら説明するツチフキを、若干総計のまなざしで真司は見つめる。
「じゃあほんと、隠し事はできないんだなあ」
「そうとは限らないさ。今言ったのはあくまで憶測から導き出したもの。いきなり見知らぬ土地に来て知らない人にあったら隠し事するのは当然だし、そっちの方がいいさ。それより、ぼちぼち試験を再開しないとなあ」
「そっか、わかった、ありがと、じゃあもう行くね」
そう言い残し、真司はその場を後にした。その移動速度は、海の国からしてみれば普通以下ではあったが、元の世界から見れば、超人のものだった。
「俺も戻るか」
真司が去った後、ヤマメが伸びをして言った。
「それにしても、探知阻害や認識阻害がかかってたのによくわかったな。ヒラマサでもないのに」
「彼ら、試験会場に入る直前でそれやったからね。あんたは試験に夢中になりすぎなんだよ。ヒラマサが解除するまで気づかないなんてさ。気張れよ」
「はーい。気を付けまーす!」
マダイの忠告にヤマメは軽々しく返事をした。
「あ、そうだ。一緒に回らない?」
「いいよ」
ヤマメの提案に、マダイが快く了承する。
「ツチフキはどおする?」
それを聞いたシイラがツチフキに尋ねたが、彼は首を横に振った。
「ボクは一人で回りたいからね。遠慮しとく」
「そっかぁ」
ヤマメが少し残念そうにするが、すぐに笑顔になり、健闘を祈った。
「お互い、頑張ろうね」
「ああ、君らも気を付けて」
そうして二手に分かれ、そこには誰もいなくなった。
試験終了まで半日以上、壊された人形は8千を超えようとしており、的もすでに9万ほど破壊されていた。
だが本番はここからだ。
「―――ッ、流石に、きつくなってきた」
そうこぼしたのは、宗司のクライメイトであるイサザの人形と戦っている、アイナメだった。
人形と戦っているやつはアイナメの他にもアカネハナ、凛花、それとカスミとトビウオもいる。
ただ、凛花はいまだ十分に回復しきれていないため、後方で休み休みで戦っているが。
「厄介ッスね」
この人形は特定の人物を完全に模倣するように改造された特別なものたちだ。模倣したい人物の一部を取り込むことで、その人物の肉体、思考、固有回路を模倣できる。海の国独自の訓練人形だ。模倣する仕組みは、肉体の一部の中に入っている遺伝子を解析し、そこから人形の体が組み変わるというもの。そしてその人物の普段の様子を観察させることで思考まで模倣する。そのため仕組みがわかっていない固有回路まで完全に模倣することができるのだ。
しかし欠点として、所詮人形なので、魂、魂力は模倣できないこと、再現することに力を入れすぎたため、構造が複雑となり、オリジナルより耐久力が下がってしまったことが挙げられる。
そのため、あくまで訓練用だ。
「今ッ!」
カスミがそう言い、力むと、アイナメと接近戦をしていたイサザの人形がトビウオがいた場所と入れ替わり、その直後、その人形の頭部に、黒い箱が出現した。
その箱をまたも紙一重で躱すと人形はその場からの離脱を試みる。
「逃がさない」
その行く手をアカネハナが遮る。凛花を除いた4人がイサザの人形を包囲する。この流れは3度目だった。
一度目は今の作戦で人形の左手を持っていくことができたが、それ以降は躱されっぱなし。その直後、人形の出す音に気を取られ逃げられそうになったが、なんとかそれをカスミとトビウオのおかげで逃がさずに済んだ。
だが、膠着状態だ。
「仕方ない」
トビウオがつぶやくとほかの3人1体はその場から緊急離脱をした。すなわち転移だ。
その直後、その場に激しい竜巻が起きた。木も岩も地面も、すべてが吸い込まれ、抉られ、潰され、破壊される。それは天高く昇り、すべての生徒と人形が目撃できるほどになった。
それは、イサザの人形も同じだ。
「あれに巻きこまれてたら、無傷では済まないでしょうネッ!」
最後の一文字を言い切ると同時に、人形は、今話していた竜巻の内部に強制転移させられていた。一瞬、何が起きたのか分からなかったが、すぐに、カスミの固有回路だと理解した。理解したからといって、この状況がどうにかなるわけではないが。
トビウオの固有回路は『流体操作』、固有回路を通した魔力や体力をその流体に混ぜたり触れたりさせることで、その流体を操ることができる。操れる量はトビウオの力量次第だが、こうした竜巻などにすることによって、周りの空気なども巻き込み、本来の実力以上の技を出すことも可能だ。
さらに、竜巻に自身の魔力、体力、魂力そのものを混ぜることで、内部の力の流れを無秩序な状態にし、魔法陣による転移を防ぐ。
「グググッ!、砂漠の果て、廻る辰星、闇をいざなう道、撃ち落と―――!」
暴風の檻に閉じ込められ上下を見失い、魔法陣を封じられ、印を結んでも指がもげるため詠唱を行おうとしたイサザの人形だが、炎と雷がそれを阻む。
竜巻の外側から、カスミは体術の炎を、アカネハナは魔術の雷をこれでもかと打ち込み続ける。
体がしびれ、喉を焼かれた人形は、もはや詠唱すら封じられた。しかしそれでも彼女らは術を放ち続ける。人形の状態を知らないからではない。
魔力、体力、魂力などは生物が機械を用いずに意のままに操れるエネルギー、すなわち電気の通りがいいのだ。
例えば体力を体の周囲にまとえば、雷が直撃しても雷は人体ではなく外の体力を通って地面や空気に逃げる。そして人体に対しては少しピリッとする程度の影響しか残さない。
炎に対しては肉体の耐久力をあげることで防ぐしか現状人形ができることはない。
なのでダメージを与えるという点ではカスミのほうが有利なのだが、体外に力をまとうことと、体内に力をためて耐久力をあげるという力の運用方法を同時にこなさないといけないため、力の消耗が通常より激しくさせることができる。どちらか一方をおろそかにすれば、炎、暴塵、稲妻が即座に体を分解するだろう。
「―――――ッ!ハァハァ、、、」
どれくらい時間がたっただろうか。力の限界を感じたトビウオは竜巻を徐々に弱め、止めた。竜巻をそのままにしておいたらどれくらいの被害が出るか分からないので、いちいち止めなければならない。そしてそれにも当然、体力や魔力、魂力を消費する。
だからトビウオはこの技を積極的に使おうとはしないこの技を積極的に使おうとはしない。
「だ、大丈夫!?」
疲れて四つん這いに伏しているトビウオのもとにカスミが駆け寄る。
それをトビウオは手で制し、立ち上がる。しばらく膝に手を付きながら息を整え、フー、と息を吐き、上半身を起こして一言―――
「・・・キッツッ」
それを聞いたカスミは安堵したように息を吐いた。
二人は、近くに人の気配を感じた。そいつらはだんだんこちらへと近づいてくる。しかし二人は警戒はしなかった。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「―――!!」
現れたのはアカネハナ、アイナメ、凛花の3人だった。全員本物。アカネハナとアイナメはトビウオにねぎらいの言葉をかけるが、凛花はその場の光景に、ただただ目を見開きながら放心していた。
ここはもともと、木が近くに数本生え、近くに小高い丘や、5メートルほどの、頑張れば登れそうな崖がある草原だった。
だが今は何もない。平地だ。砂の平地。若干の焦げた跡やにおいは残っていても、竜巻に巻き込まれた木や岩の残骸は一切残っていなかった。
その様子に、凛花はただただ唖然としていたのだ。
「やっぱ仕留め切れなかったッスか」
トビウオはアカネハナを見ながら言った。彼女は人形をわきに抱えている。
「トビウオがあそこまで消耗させてくれてたから仕留められたんだけどね」
「やっぱり、持久力が課題か~」
アカネハナのフォローを聞きつつも、素直に自分の課題を見つめなおすトビウオ。
「けど、トビウオ君すごいよ。あんなことできるなんて。あの人形すごく強かったし、それになんなダメージ与えるなんて!」
カスミからの称賛を受けても、疲労のせいか、乾いた「ありがとう」しか出すことができなかった。
「けど、人形がだんだん強くなっているのは確かね」
「ね。まるで本人みたいだった」
アイナメが先ほどの戦いを振り返り、感想を述べ、アカネハナも賛同する。
「え?本人と戦ったことがあるの?」
凛花はアカネハナの言葉に驚き、アカネハナに質問した。
「うん、ちょくちょくね」
「へぇ~」
そう納得の意を漏らす凛花の胸のうちに、少々もやっとしたものがあらわれた。
凛花はそれに気づいたが、その違和感を気のせいすぐに結論付け、話に戻った。
「やっぱり、倒された人形の数に応じて、残りの人形も強くなっているのかしら」
話はアイナメがそう考察したところまで進んでいた。
「戦った相手、つまり私たちの情報と人形に蓄えられていた魔力や体力をほかの人形に還元して?」
「多分」
カスミの言葉に、アカネハナは首肯する。
「じゃあ、最初に人形を瞬殺したったのは、他の人形に還元される力を多くするから駄目だったかな」
アカネハナが人形を離し、鮎立でそのまま頭をかきながら言った。人形は地面にドサッと落ちた。
「あーあ、破壊された人形が元の姿に戻るときにエネルギーが出て行ったのは、霧散したんじゃなくて分配してたってことっスか」
トビウオが天を仰ぎ、両手で顔を覆いながらがっかりしたように話した。
「そうね。だけどハナ。瞬殺は別に悪いことではないと思うよ。情報が抜かれないってことだから」
アイナメがトビウオの話を肯定し、アカネハナの話を否定する。しかしアカネハナは首を横に振る。
「いやー、ここからは全力でやっていかないと人形たち倒せないと思うから、どちらにしろ情報は後半になるほど抜き取られるから。だったら最初からぎりぎりの戦いになるように調節して還元される力を最小限にしたほうがいいと思ったんだよ」
アカネハナの話に、四人は思わず感心した。
「あなた変なところですごく賢いわね」
「褒めてるの?」
「もちろん」
最後のアイナメの言葉は即答だった。
「ま、過ぎたことを言っててもしょうがないッスよ。どっちにしろこっからはぎりぎりの勝負になるんで人形もこれ以上の劇的な強化はないだろうし。全力を尽くすしかないんじゃないっスか?」
トビウオの言葉に、4人は異論無い。ただ黙り、もしくは少し唸りながら肯定する。
「じゃ、お互い頑張ろうッス」
トビウオはそのままアイナメたちと別れようとした。
「え!?どこ行くの?!」
しかしそれを凛花が止める。
「これからは合流したら一緒に行動する方がいいでしょ。さっきの考察を考えるなら、一人じゃ倒しきれない」
アイナメもトビウオを止める。
「私もそう思う」
カスミも賛成した。
「う、うぅ、、、」
しかしトビウオは難しい顔をしている。
「何がそんなに気がかりなの?」
アカネハナの質問を聞き、トビウオは意を決して言う。
「―――じゃあせめて他の男と合流させてほしいっス。こんなかで男子一人だけってのは気まずい」
一瞬の静寂の後、笑い声が聞こえてきた。
人形は人間と会ったとき二種類、別の命令が組まれている。「戦え」と命令されているのが人形1、「逃げろ」と命令されているのが人形2。今回は人形2と当たった。




