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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
4/40

4話 海の国、入国

話の始め方がわからないときの秘術「過去語り」

ここはアトキ王国の隣国、〈海の国〉。

その名の通り国境の半分近くが海と接している。さらに海だけでなくいくつかの山脈もある自然豊かな国である。


そんな海の国にある山で宗司ら4人は熟睡していた。


最初に火の番をしていた真司という男は、加藤家5人兄弟の長男として生まれた。両親は5人を育てるために共働きで帰りはいつも6時から7時ごろだった。


そのため家事のほとんどは子供たちが行っていた。

学校から帰ってきたら掃除、洗濯、皿洗い、料理、下の子の世話、真司が学校に行っている間はまだ学校に行っていない長女が3男と次女を世話していたが、それでもどうしても散らかってしまうため、同じく学校に通っている次男との後片付けも日々の日課になっていた。

当然、学校での流行のものには鈍い。が、真司は友達と話すことが好きで、特に流行から悩みまで友達の話を聞くことは彼の楽しみだった。

そのため、学校で孤立することはなかった。

それほど裕福とは言えない家庭だったが親と兄弟、家族で力を合わせてそれなりに幸せに暮らしていた。


真司はたまに親が「こんな生活させてごめんね」と謝ってくることがあまり好きではなかった。

少なくとも自分は、家でも学校でも十分楽しく生活できている。貧乏だからと、困ったことはあっても、不幸だと思ったことはない。

それなのに、親から「今のお前たちの生活は不幸だ」といわれている気がして嫌だった。


真司は高校卒業後すぐ就職した。その理由は、端的言えば親のためだった。

親は、お金がないことが不幸だと考えている。そして、真司にとって親は大切な人の一人だった。真司が早く稼げるようにと考えるのは必然だった。

就職のことは親に内緒にしていたため、ばれた時は親と少し口論となったが、話し合いの末、親がおれるかたちとなった。

そうして真司は働いた。親に楽をさせるために、兄弟のこれからのために。そうして必死に働いたことで、成果はおのずとついてきた。

そうして上司からも認められ、そこそこの案件の仕事も任された。そこで見事成功を収めたことで自分に自信を持ち、さらなる給料とスキルアップのため、より大手の企業に転職した。


その一週間後だった。いきなり異世界に飛ばされたのは。


さて、このような生活を送っていた真司は自覚はあまりないが、年下にめっぽう甘い性格であり、また、自分の限界をよく把握していなかった。

そのため、元の世界では、仕事から帰り、夕ご飯を食べ、風呂を済ませた後、一休みのつもりでベットに座れば、そのまま朝まで熟睡するという生活を送っていた。

そしてこの世界でも、年下に甘いため、2時間という約束を破り深夜まで火の番をしていた。彼は30分程度のつもりだったが。

そして目を休めるつもりで瞼を閉じた。

その結果、4人全員が熟睡状態のこの現状が完成してしまった。

今は元の世界でいうところの春から初夏に入ろうとする時期。

天気は良好、気温もちょうどよい。誰も起きる気配はなかった。


そうして夜も更け、深夜ごろ、4人に近づく足音が聞こえてきた。その足音の主は人間だった、しかも一人だけではない。

足音の主たちは徐々に4人に近づき、その視界に4人をはっきりととらえた。もはや煙すら消えた焚火を囲んで熟睡している4人を見たその人たちは、


「起きてください!大丈夫ですか!」


一目散に4人に駆け寄り呼びかけ起こそうとした。


「・・・う、、、、ん、ん、、、」


最初に目を覚ましたのは宗司だった。


「!!」


宗司は見知らぬ人を確認し、すぐに立ち上がろうとした。


「!っつ」


しかし、全身に痛みが走り、立つことはおろか、起き上がることさえできなかった。

かろうじて声は出すことができたので宗司はその人たちに話しかけた。


「あなたたちは、いったい誰ですか。何しに来たんですか」

「よかった、目が覚めたんですね。おーい、こっちの人は目を覚ましたぞ」

「質問に、答えてください」

「私たちはあなた方を救助しに来ました。海の国第四部隊です。詳しいことは後で、まずは病院に行きましょう」

「おーい、こっちの人も目を覚ましたぞ」


その声のほうを見るとほかの3人も目を覚まし、第四部隊と名乗った人たちと話している。合計6人の第四部隊の人たちは4人の近くで屈み、目を合わせ、優しい口調で話しかけている。その様子目見て宗司はとりあえず警戒を緩めた。

その時、再び全身に痛みが走った。その痛みに耐えきれず、腕を抱え、体を丸めた。


「大丈夫ですか。どこか、体に異常はありませんか」


宗司の異変に気付いた第四部隊の人が再び呼び掛けた。


「・・・痛いです。体全体が、痛い、、、」


そう言って、ひとほかの3人のほうを見ると、真司は同じように立てずにいたが、凛花と正也は多少痛そうにはしていたが、立ち上がって、第四部隊の人たちと話している。


「こちら第四部隊ツヅメ小隊、目標を発見しました。二人が経度、二人が重度の体の痛みを訴えており、おそらく魔割痛と思われます」


宗司たち4人から少し離れたところに立っている人が、耳に手を当てながら誰かと話している。

その人は、何度か「はい」と返事をしながら何かを書いていた。


最後の一人は焚火の後始末をしていた。


「ここにいる人で全員ですか?」


目の前の第四部隊の人の問いかけに、宗司は頷いて答えた。


「それではこれからあなた方を病院へ運びますが大丈夫ですか」


真司の目の前の人はそう問いかけるとともにゆっくりと丁寧に宗司の体を抱えようとした。かなり優しく触れられたがそれでも触れたところに新たな痛みが走る。しかしをれを何とか我慢し第四部隊の人に話しかける。


「・・・大、丈、夫、です、、、お願い、します」


しかしそれを聞いた第四部隊の人は「小隊長!」と誰かと話していた人に向かってそう呼び掛けた。

それにこたえるように小隊長と呼ばれたその人はうなずいた。


「このまま山を下りるのは負傷者にとって負担が大きい。この場で応急処置をしながら第二部隊が来るのを待つ」

「「「「はい」」」」」


小隊長の号令にほかの隊員ははっきりとした返事をした。


そして第四部隊の人たちは自分の影の中に手を入れ様々な道具を出し、どこかへ連絡を取ったり、水を汲んだり、森に入ったりした。


「一応聞きますが、あそこのに積んであるものは食べましたか?もしくは水を処理しないで飲んだりとか」


そう言って第四部隊の人がさしたのは昨日食べないことで決着した木の実やキノコだった。


「いえ、どれが毒があるのか分からなかったので食べてません。水も、少なくとも私は飲んでいません」


そういうと第四部隊の人はほっとしたような顔になり、自分の影から取り出した水筒らしきものをとり出した。


「それではこれを。少しずつでいいので飲んでください」


そうして水筒の中身をこれまた影から出したコップ、おそらく紙コップのような使い捨てのものに注いで、宗司の口元までもっていった。

その液体はポカリのようなにおいがした。


宗司は差し出されたコップを受け取った。受け取る時、目の前の人に心配そうな顔をされ、かなりゆっくり手渡された。

手渡されたとき、手にも痛みが走り、コップを落としそうになったが、何とか耐えて、中の液体を飲んだ。

味は予想通り、ポカリのような味だった。


コップの液体を飲むときに心臓あたりに手をかざされた。そうすると心臓あたりから何かが入って、全身を流れるような感覚がした。それが痛いような心地よいような、マッサージをされているような気分になった。

他の3人も同じような処置を施されていた。


「何をしているんですか」


第四部隊の人たちの処置のおかげかだいぶ楽に話しかけることができた。


「神経や血管の中にたまっている魔素を流しています。それから体内に毒物や菌、ウイルスなどがないかも確認しています」

「魔素?ですか?」

「魔素がたまっていては苦しいですし治せるものも治せませんからね」


聞きたいことは返ってこなかったが、これ以上聞けるほど元気もない。おそらくこの世界で魔法を使うための要素だろう。そう結論付けて宗司は質問をやめリラックスした。

そのうち、森に入っていた人が帰ってきた。


「小隊長、食料と素材の確保、獣、虫よけの設置完了しました」


帰ってきた人は小走りで小隊長のもとに駆け寄って報告した。


「了解。こちらも第二部隊への救援、病院の確保完了したところだ」

「了解です」


その返事を聞いた後、小隊長は宗司たちのほう、正確には宗司たちを介抱している第四部隊の人たちのほうを向いて指示を出した。


「それでは我々は野営の設営と周辺調査を行う。お前たちは遭難者の近くに待機、第二部隊の人に引き継げ」


小隊長がそう指示すると、5人は直立し「了解」といい、それぞれの作業に入った。

2人は二つのテントを組み立て始め、残りの4人は宗司たちそれぞれの近くで待機した。


「何か体調が変化したら、できる限り教えてください」


第四部隊の人は再び屈み、宗司たちを見上げながら見守った。


突然、真司たちと第四部隊の8人のいる場所の中央に仮面をつけた4人の人が現れた。ボン、という音がなければ、来た事さえ気づかなかっただろう。そのくらいいきなり目の前に現れた。まるで瞬間移動でもしたかのように。


「「お疲れ様です」」


第四部隊の人たちは立ち上がっり、そう言ってその4人と互いにあいさつを交わした。


「では、ここからは我々第二部隊が引き継ぎ、病院までお連れします。どこの病院ですか」

「中央病院が受け入れ可能とのことです」

「了解した」


第二部隊と名乗った人たちは、宗司たち四人に近づいた。


「それではあなたたちを病院まで運びます。どこか、具合の悪いところか、すごく痛むところはありますか?」


第二部隊の人たちの問いかけに、宗司は「ありません」と簡潔に答えた。


「わかりました。それでは失礼します」


そういうと第二部隊と名乗った人たちは太ももと腰あたりを持って宗司たちを抱きかかえた。多少の痛みはあったが、第四豚の人たちの処置のおかげか、だいぶ楽になっていた。


「私も同行します」


そう声のしたほうを見ると、凛花に付き添っていた第四部隊の人が、凛花を抱えている第二部隊の人の肩に手を置いていた。

他の第四部隊の人は作業を終え、あるいは引き継ぎ、森の中へ入っていくところだった。

肩に手を置かれた第二部隊の人は「よろしくお願いします」と、あいさつをした。


「それでは目をつぶってください。気分が悪くなる可能性があります」


第四部隊の人は、移動する前にそう忠告した。

その忠告に覚えのあった宗司たち4人は素直に目を閉じた。

ほんの数秒後、


「もう大丈夫ですよ」


といわれた。

宗司たちはゆっくりと目を開けた。

そうして目の中にまぶしく白い光が入り、一瞬目を閉じそうになったが、その光にも次第に慣れた。

あの薄暗い夜の森から数秒もかからずまぶしい光の下へ来ることができるのは『電光石火』と同じく瞬間移動系の能力しかないことは明白だった。

そしてそこから宗司にはある疑いが生まれた。


(この人も異世界から来たのか?)


しかし、その質問をし、異世界から来たものではないとしたら、いろいろ面倒なことになるのではないか。最悪、アトキ国に戻される可能性もある。

そう考えた宗司は己の回復を優先させるため、質問を喉元でとどめた。


あたりを見回すと、そこは、白く、明るい、広い部屋だった。

そして、その部屋にあるのは大きめのベットが1つと、そのベットを囲むようにしてある機器。

どう見ても、この広い部屋には不釣り合いであった。

一瞬四人部屋かと思ったが、ベットは一つしかないし、そもそも近くにほかの3人の姿がない。


宗司はそのベットにゆっくりと降ろされた。もちろん、ベットに乗る時に痛みはあったが、もう慣れたものだった。

そして、そのベットには不釣り合いに広い部屋数人の看護婦らしき人が入って上半身を脱がし、様々な点滴と、1つの機械を宗司に取り付けた。機械は心臓の上あたりに取り付けられ様々なモニターとつながっている。


「これは、一体、、、」

「あなたは全身がひどい魔割痛だと聞きました。魔割痛を治すには栄養をたくさん取って安静にしてもらうことが一番なんですが、その状態ではまともに食事はできないでしょう。あとついでにいろいろな検査も行います」


検査と聞いて、宗司は不安になった。検査なんてされたら自分がこの世界の人間でないことがばれてしまうかもしれない。しかし、この状態では、逃げ出すことすらできない。こうなっては、腹をくくる以外に方法はなかった。


「僕と一緒にいた、ほかの3人は?」

「君と一緒にいた人たちもほかの部屋で治療と検査をしています。だから安心してください」


それを言われても安心できない。彼らが口を滑らせて、いや、それどころか自信満々に異世界から来たことを話すかもしれない。

この世界で異世界がどういう扱いか分からない以上、不用意に話すのは危険。

しかしさっきも言ったとおり、今の宗司にできることは祈ることしかない。


「会うことってできますか?」

「ちゃんと検査が済んで、魔割痛が治まってからです。もし何かあったら寝具の横にある呼び鈴を押してください」


そう言って看護婦らしき人は第二、第四部隊の人とともに病室からでていった。

宗司は、もはや祈ることしかできなかった。

自分が異世界から来たことがばれないことを、

ばれたとして、悪い扱いを受けないことを、

そして、ほかの3人が無事なことを。


そんなことを考えていると瞼が重くなってきた。考えてみれば発見されたのは深夜、そこから日が昇らぬうちにこの病院へ着いたのだから今は夜中の2時ごろだろう。

宗司は、警戒心を持って、起き続けようとしたが、結局寝ってしまった。


翌日はこの病院について少し知ることができた日だった。

昨日感じていた痛みはだいぶ収まり、自分一人で立つこともできる。

そのため、看護婦は点滴を半分以下の数に減らしたが、念のためといってすべては外さなかった。


その後は、点滴の中身がなくなったころに再び看護婦が来て点滴を取り換える。

トイレに行きたくなったらベットの横のボタンを押して看護婦にトイレまで案内してもらう。その繰り返しだった。


その時にわかったのだがこの病院はかなり広い。廊下の端から端まで1キロメートルくらいあるのではないか。こんなに広くては、急患が運ばれた時すぐに治療室へ運べないだろう。

また、今日1日、嘘も含めて50回ほどトイレに足を運んだが、ほか3人と全く出会えなかった。

それがとても不思議で、病院に不安感を抱く要因にもなった。


昼頃になると看護婦が来て宗司の体に取り付けていた機械を外し、昼食を持ってきた。

昼食の内容はごはんに焼き魚、漬物に汁物という、そこだけ聞けば和の朝食のようだが、その材料が、見たことないものでここが異世界だと改めて実感させられるものだった。


ご飯は真っ黒で、ところどころに白い粒が入っており、漬物は真っ白だった。一瞬、大根のみの漬物かと思ったが、大根らしきもの、キュウリらしきもの、ニンジンらしきもの、芋らしきものすべてが真っ白だった。

汁物は透明で、中に入っている野菜もくっきり見えた。見たことのないということを除けは、中身は普通の葉物野菜と根菜だった。

魚は、見たことのない魚の丸焼きが置かれていた。いや、魚というのかすら怪しい。頭部の形状が魚のそれだから魚だと思っていたがこの魚、うすい布のようなものがぐるぐると包帯のように巻き付いてあった。その中心には骨があったため、この布のようなものが魚の身であることに気付いた。

またこの魚、うろこがあった跡がない。いや、よく観察するとこの魚、尾ひれ以外のひれがない、と思ったが、よくよく考えれば、魚の皮をむかれて出されたのだろう。皮をむかれて出された魚をあまり見たことがないので困惑したが、この程度のことなら取るに足らない。

それくらい、こちらの食事が元の世界とあまりにも違っていた。


最初は食べるのに躊躇していたが、意を決して食べてみた。意外と悪くない味だった。

ご飯はもちもちしており、普通のごはんの味の中にゴマの風味も感じられた。

魚は、外側は焼いた湯豆腐のような味と食感だったが、内側へ食べ進めるにつれて厚く、味も白身魚に近い味と食感になっていった。

そして魚を食べ終えた後、そこに残っていたのはきれいな、本当にきれいな1本の骨だけだった。普通魚は、中心の骨から上下に細かい骨があるが、今食べたものにはそれがない。ただ顔と尾びれ、そして背骨1本が残っただけだった。

漬物は、食べてみるととても柔らかく唇で嚙み切れるほどだった。そして味に違和感を覚えた。普通漬物は浅漬け、ぬか漬け、キムチたいていのものは鋭い酸味、塩味のするものだが、これに関してはそれがしない。もちろん、多少の塩味は感じられるが期待していたほどではない。

この理由を確かめるため、ゆっくりと咀嚼し、味わい、気づいた。

これは漬物ではない、煮物だ。その冷たさと色から誤解していた。よく観察し考えればわかることだった。しかし、ここまで真っ白な煮物は見たことがない。この白さが食材由来のものなのか、調理法由来の白さなのか、今の宗司に確かめるすべはない。

最後に汁物だ。汁物を恐る恐る口に運んでみたが、そこまで驚くことはなかった。強いて驚くべき点を挙げるならば、透明なのにはっきりとしたみそ汁の味がしたことだろうか。この世界に”みそ汁”という概念があるのかは知らないが、この味はそれ以外に形容することはできない。野菜も芯まで火が通っておりとてもおいしい。とてもおいしい世界の味噌汁だった。


だが逆にこういったもののほうがリラックスできて、今の俺にはありがたい。そう宗司は思っていた。

昼食をすました後はさっきにもあった通り、ほかの3人と合流すべくトイレに通った。

何度か、院内を歩き回りたいとも頼んでみたが、他の患者もいるため、検査結果が出るまではトイレ以外の自由な移動は極力控えていただきたのとのことだった。


検査結果は明日出るそうだ。そしてその日が運命の分かれ道でもある。

そして夕食時になった。

夕食ではごはんと汁物は大きく変わらなかったが、焼き魚と漬物もとい煮物の代わりに鶏肉と数種類の野菜を蒸したものが出された。

ここまでで分かったことは、この病院、もしくはこの国はかなり食事に力を入れているということだ。


ちなみに野菜と鶏肉も絶品で、ゴボウとショウガを掛け合わせたような形のほのかな絡みが口の中をさっぱりとさせる根菜、キャベツの葉が、ステーキを思わせるほど分厚くなった形で、それ自体に味はあまりないが、蒸される過程でため込まれたであろう蒸気と、ほかの野菜のうまみが口の中で色がる葉物系、ピーマンを葡萄サイズにしたような、噛めば噛むほど口の中に野菜の甘みが広がり、その中に混ざるかすかな苦みが食欲をそそる果実系、どの野菜も口に入れた瞬間解けて消えるほど、柔らかく蒸されていた。

鶏に関しても一口かむと、そこからあふれんばかりの肉汁が出てきた。鶏肉といえばぱさぱさ舌ものという宗司の常識が覆された。またその肉汁も、元の世界のようにいつまでも口の中に脂が残るようなしつこいものや、翌日に胃もたれしそうな重たいものではなく、おそらく、この肉汁をコップに注いで、お茶だと言われれば信じてしまうほど飲みやすいものだった。

そうして、旅館のような食事に舌鼓を打ち、最初に抱いていた警戒心もかなりほどけ宗司はその夜、ぐっすりと眠った。


          —————————————————————————


「あなたたち、異世界から来ましたか?」


病院の食事にほだされ、緊張の解けていた宗司が、褌を締めなおす羽目になったのは、3回目の病院食の後だった。

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