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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
39/52

39話 イレギュラー 熊

凛花はアカネハナとアイナメのサポートもあり、順調に試験を進めていった。


「よし。これで50個以上は壊したでしょ」

「やったね!人形のほうも20は倒したし、赤点はないでしょ」


凛花が空中に飛んでいる的を破壊し、それをアイナメとアカネハナは後ろで見ている。


「基準や点数配分がわかってないからそうとは言い切れないでしょ。それに、せっかくならいい成績残したいじゃない?」


アカネハナが伸びをしながら赤点の予測をすると、アイナメが忠告と提言する。


「もちろん!とりあえず一区切りついたかなって。凛花はどう?疲れてない?」

「全然大、じょう、、、ぶ―――」


アカネハナの気遣いに凛花は笑顔で応対することで余裕を示そうとしたが、笑顔で歩み寄る途中、急に力が入らなくなり、何もないところで躓いてしまう。

アイナメは倒れそうな凛花を、さっと受け止め、支えた。


「あ、あれ?」


何が起きたか分からず、混乱している凛花にアイナメは優しく諭す。


「やっぱり、体力を使いすぎたんだね。覚え始めはみんななりやすいから気を付けて」

「・・・でも、私、そんなに疲れてない。ただ、ちょっと、力が入らない、だけで、、、」

「今までは筋繊維が傷つくことが疲労だったからね。頭がまだ力の枯渇と疲労を結び付けられてないんだよ」


凛花のたどたどしい質問を受け、アカネハナが凛花の現状の理由を解説する。その間に、アイナメは凛花を背中に背負いなおした。


「力の流し方や術の発動については私たちと同じくらいになったけど、まだ効率や配分がおざなりね」

「うう、、、精進します。。。」

「アハハ。大丈夫。すぐ慣れるよ」


背負われて、自分のふがいなさから、冗談半分で言った言葉に、アカネハナは笑って励ます。

それにつられて凛花も少し笑顔になるが、すぐに、ある気がかりが凛花の内に生まれた。


(・・・じゃあ、他の3人は?)


「―――ックション!」


宗司は鼻をかいて呼吸を整えた。足元には十数体の、木々の枝には合計、数体の人形がかかっていた。


「風邪ひいたか?」


そういうと宗司は体内の体力に集中する。


(・・・大丈夫そうだな)


体に特に異常は見られないと、自身の体力を通じて把握した宗司は、次なる敵に集中した。


「やるネー!ソウっち!」

「・・・」

「ねえねえ、次ドコ行く~?あっ、アッチの方とかイイんじゃない?」

「・・・はぁ~」


宗司はあからさまに嫌な顔をし、聞こえるように大きなため息をついた。

しかしそれでもこのギャルには通じない。


「どしたん?お悩み?話キコか?」

「・・・お前がどっかいけば、俺の悩みは消える」

「ヒドー!ソウっち冷たいー。こんなカワイイコにシツレーじゃない?」

(・・・此処の奴らは皆こうなのか?)


宗司は少しうつむき、右手で両目全体を覆う形で頭を抱えた。


「頭ダイジョウブー?」

「喧嘩売ってんのか?」


宗司の顔を左からのぞき込んでそう言ったギャル、クラスメイトのオイカワに宗司は右手の中指と薬指の隙間を開いて睨みながら応対する。


「だって、頭抱えてんじゃん。目もおさえてるしー。魂力もちょこっと荒れてるよー」

「・・・お前のむかつく顔と奇抜な頭を見ないようにするためだよ」

「メッチャユウじゃん!ウケる!このメイク、ウチ的にはチョーキマってると思うんだけど。水と桃の髪もーカワイイでしょっ」

「・・・」


正直、宗司から見て、この世界の人間、正確に言うなら、この国の人間で、不細工にあったことはまだない。そういう遺伝子なのか、食事と運動の文化がそれを支えているのかは分からないが、皆、黒髪の美男美女ばかりだ。だからこそ、オイカワがよく目立つ。髪を染めだしたり、メイクしているやつらはそれなりにいるが、やはりオイカワが一等だろう。


(クソッ、やっぱり他人といると落ち着かない)

「ねえねえ」

「・・・」

「ねえねえ」


この世界に来て、元の世界の人間関係を断ち切れたと思えば、また新たなめんどくさい人間関係ができてしまった。宗司は限界だった。


「うるさいな」


宗司の言葉で、オイカワは口を噤んだ。ただ、宗司を見ている。


「自分勝手にピイピイと。人の気持ちを考えられないのか?あんたのその軽そうな頭じゃ無理か。だいたいなんで俺に付きまとう?俺はどっか行けって言ってるよね?俺が異世界から来たからか?物珍しさから近づてるのか?だったらいろんな奴が俺たちに近づくのも納得だ。ふざけるなよ。人を珍獣みたいに、見世物じゃないぞ。ほかの3人のほうに行ったらどうだ?あいつらは鈍感だし愛想がいいからどんなことされても暢気に笑ってられるだろうからさ」


一息で言い切ると宗司はその場から速足で去る。オイカワが追ってくる様子はない。それは宗司にとって都合がよかった。

罵倒の途中から、オイカワの顔を見れていなかったから。


(・・・クソッ)


心の中で悪態をつきながら宗司は自分でも気付かぬうちに早足で歩いていた。

この世界に来てから、余計に人間付き合いが苦手になったと宗司は実感している。

元の世界では人間関係でトラブルが起きても、みな自分より頭が悪いと言い訳することができた。

しかしこの世界の、この国の人間はそうはいかない。

最初のころは、初見の教科だから、概念すら知らなかったから、と宗司は信じていた。しかし、学んでも修めても周りに一歩及ばない。

しかし本質はそこではない。皆いい奴らなのだ。


―――自分がみじめになるくらい。


前の世界では、宗司に近づいてくるのは顔と成績に用がある奴だけだった。要は自分のステータス向上のために寄って来る奴らだけだったのだ。

しかし、それでできた人間関係も、永くは続かなかった。親の影響もあるが、宗司は何か問題があったときに、なるべく合理的に動こうとするし、それを他の人にも勧めた。早い話、正論ばかり言うのだ。

結果、人間関係のトラブルが絶えず、人を、否定的な見方から入るようになった。

宗司は分からないのだ。

いい人間関係の築き方が。自分の、素の価値が。

オイカワが、クラスメイトが、打算も何もなく、自分たちに親切にしてくれたり、友好を築こうとしてくれていることは、宗司もすでに気付いている。

しかし、ああいうことにしておかないと、自分がもっと嫌な人間になるように感じるのだ。

最初に、相手の目的を探ろうとした自分が。

知りたいことだけ知れたら、すぐに関係を切ろうと考えていた自分が。


「・・・くそぉ・・・」


宗司の足取りは徐々に重くなり、遂に止まる。横にあった木を乱雑に殴りつけ、宗司は声を漏らした。

メキメキという音と、重いものが落ちる音があたりに響いた。

―――いくつもの音が。


(来る)


宗司は一瞬で切り替え、近づく気配に対し構える。

森の陰からでてきたのは、体高が5メートルはあろうかという巨熊だ。

低い唸り声をあげ、口の端からよだれが垂れている。

深淵のような漆黒の眼球が、ギロリと目の前の異物、宗司をとらえていた。


(でかいな)


クマはその巨体を生かし、腕を振りかぶる。

わかりやすい挙動と軌道。今の宗司にとって避けるのは難しいことではない。

しかし、誤算があった。


「!!」


宗司は後方に吹き飛ばされた。

木に背中が叩きつかされ、宗司は肺の中の空気を強制的に吐き出させられる。

口の中に鉄の味がにじむ。

胸と背中が焼けるように熱い。


「避けたはずっ、、、」


目の前には熊がまた手を振り上げていた。

今度は固有回路で背後に回り込む。

先ほどまで宗司の後ろにあった木々が吹き飛んでいく。


(なるほど。魔力を放出したのか)


魔力はエネルギー。触れることは術や機械を通さない限りできない。しかしエネルギーである。炎や雷と同じ。先ほどの現象は、爆風に巻き込まれたのと同じことだ。


(体力も魔力もある)


体育祭から、宗司は体力枯渇の危険性を理解し、対策していた。

治癒術でけがを治し、固有回路で瞬間移動する。付け焼刃の転移術より、固有回路のほうがスムーズだった。

攻撃と、その余波を避け、宗司は巨熊に攻球、火球、水針、岩石砲、砂塵旋風など、多岐にわたる遠距離術を浴びせる。しかし、どれもこれも目立ったダメージは与えられなかった。

熊は引っかき、突進、噛みつきと、原始的な攻撃ばかりだが、そのどれもが、余波だけで木々をなぎ倒し、岩を砕く攻撃だった。


グル、、、ルルルッ、、、


熊は低く唸り声をあげ、気分を害しているようだった。宗司が魔法をぶつけるたび、顔を振り払い、グワッと、雄たけびを上げる。


(火力が足らない。なら)


宗司は先ほどまでと同様、魔法を放つ。魔法は、先ほどまでと違い、魔力から創ったものではなく、地面の土や石を操り、ぶつけている。先ほどまでより火力はやや落ちるが、大量に、間髪入れずに打ち込むことができる。

しかし、それでは到底、この巨熊を倒すことはおろか、退かせることすらできない。

現に熊は、うざったい攻撃に対し、雄たけびを上げ、一直線に宗司めがけ突進していった。

宗司は後ろに下がるだけ。先ほどまでのように瞬間移動はしない。

宗司が後ろに下がった直後、大きな音がして、クマが宗司の目の前から消えた。

宗司は、先ほどまで自分がいた場所の一歩前に落とし穴を作っていた。


(落とし穴を作るために邪魔な石や砂を挑発用に投げる。意外とうまくいったな)


宗司はそのまま穴の上に魔法陣を展開させる。自分の体から離れたところに魔法陣を描くのもできるようになっていた。

魔法陣からは水が流れ、巨熊が地上から見えなくなるほどの深い穴の半分ほどを満たした。辛うじて熊は足が付くほどだ。

宗司は水の魔法陣を消し、次の魔法陣を展開する。


「これならいけるだろう」


その危険性と複雑さから、先ほどまでは出せなかった魔法、『落雷』である。

―――轟音があたりに響いた。


「・・・」


宗司は慎重に穴に近づく。

あと数歩のところまで来た時、宗司の目の前に大きな影が現れた。

焼け焦げた剛腕が、凄まじい咆哮と同時に宗司の頭部めがけて振り回される。

視界内いっぱいにクマの影が映る。宗司の固有回路は使えない。


(近づきすぎた!)


急な脅威に、判断が送れる。避けるべきか防御すべきか、その一瞬のためらいが致命的な結果を呼び寄せる。

反射的に身をこわばらせ目をつぶり、覚悟する。


グアッ


妙な鳴き声がした。重厚な衝撃音も。


(!!・・・?)


そして、いつまでたっても、覚悟したものが来ない。

宗司はゆっくりと目を開ける。そこにあったのは焼けた巨熊。喉からは血を出しており、後ろにあった岩に首と頭を預けるように倒れている。


「フー、ガチアブナー」


そして軽薄なコメントで締めるオイカワ。

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