38話 和気藹々試験
赤劃城は1~4組のスタート支点を区切るため兼休憩所用の城。この城により試験会場は4つに分割されており、それぞれの組の人が決められた範囲内からスタートする。ポ〇モンのブルー〇リー学園みたいな感じで区切られていると考えてください。ちなみに中には食堂や寝室もあります。カスミの人形とクマノミが一部壊してしまいましたが。
「それではこれより追加試験を行う。まずは試験方法の確認をする」
ナイルは複数のステータス画面の前に立ち、すべての1年生に画面越しで通達する。
「そこには計1万の人形、式神と10万の的がある。それぞれ得点が異なるが、君たちのほうでそれを確認する術はない」
一年生全員は広大な大自然の中に、一人から数人単位で散らばっている。
「お前も参加か」
「うん、やっぱり長くいるだけじゃダメだった」
アジアキとアミキリは山の中にある二つの大岩の上にいた。深い山だ。木々が生い茂り、水と土のにおいが充満している。
「隠れてたわけでも逃げ回ってたわけでもなかったのにか?」
「誰も倒せなかったかからかな?」
アジアキとアミキリが雑談していると、先生の放送が入る。
「なおこちらからは先生方の協力のもと君たちの言動を常に監視、録画している」
体育祭、先生の認識では生徒たちの実力や戦い方、悪い癖を見抜き、今後の指導の方針を確かめるための行事となっている。しかし、上級生と下級生に隔絶した差ができてしまっているため、一、二年生に対して機能しなくなってしまった。それを補うため、もはや風物詩となっているのが今回の試験。
これを先生たちの指導の賜物として誇るべきか、試験方法の欠陥としてとらえるべきか、先生の間でも意見が分かれている。
「外部からの侵入者は各々の判断で処理して結構。責任はこちらがとる。が、安全は保障しない」
「え!?」
ナイルの通達に、凛花は耳を疑った。前の世界なら考えられないことだ。
「ど、どうしたの?」
凛花の驚きの声に、アカネハナが逆に驚き凛花を心配する。
「だ、だって、安全は保障しないって」
「・・・普通のことでは?」
凛花の怯えどころが分からず、思わずぽかんとしてしまったアイナメ。
そんな予想外の解答に凛花も、驚きのあまり固まってしまう。
「例えばさ、爆弾があって、見つけた人が自信満々に解除しようとして間違って暴発させちゃったらさ、それは学校のせい?」
「え?!い、いや、それは、その人が、悪いんじゃない?」
凛花の解答に、例え話をしたアカネハナは「ウンウン」と頷いている。
「そういうことを言ってるんだよ。さっきの放送は」
「そっか。でもそういうときってどうすればいいの?」
「すぐその場から離れるか、先生か私たちみたいな他の人に頼ればいいでしょ」
「上の人に報告、相談することも処理方法の一つよ」
アカネハナの話を、アイナメが抽象化して凛花に再度伝える。
凛花は漸く安心して、「ほっ」っと一息ついた。
それと同時に、さわやかな風が草原を撫で、凛花たちの服と髪を躍らせる。
「制限時間は24時間。10分後の9時から始める」
その放送を聞き、岩の壁に背を預けて立っている宗司は顔をしかめた。
(・・・まずいな)
宗司は点を仰ぎ見る。常に周囲の警戒は怠らないよう意識していた。
(体育祭のときは弁当持参、さらには売店、学食も開いていた。だけど今回はそれがない。あっても弁当の一食分だけ。環境で攻めてきたのか?川を見つけるのが先決か)
宗司は目を閉じずに耳を澄ませる。水の音は聞こえない。
「・・・それでは、試験、開始!」
「よし!」
合図とともに、正也たちは走り出した。
「それで、どこ行くんだ」
正也の目的を、一緒にいたクラスメイトのクマノミが問うと、正也は走りながら返答する。
「的と人形を見つけるんだよ。そうじゃないと何も始まんない」
「じゃあそっちじゃないだろ」
「え?」
クマノミの言葉に、正也は足を止めて振り返る。
「あっちだろ。気配的に」
クマノミは宗司がいこうとしていた邦楽とは反対側のほうを親指で指していた。
「あ、ほんとだ」
正也は目をつぶって少し集中する。すると、建物内の構造、人や物の位置、強さなどが頭の中に浮かぶ。
そうして正也とクマノミは走り出す。
「無意識化でも気配を感知できるようにならないとな」
「うっ、やろうとは頑張ったんだけど、一回家でやったとき、他の人の、アレしてるところを、さ」
そこまで聞いて、正也が何を言わんといているのかクマノミは理解する。
「・・・運が悪かったな。今度アイスでもおごるか?」
「いいよ。いらない」
通路を走りながら話していた二人は、突き当りを曲がる。そこにはクラスメイトのアカメがいた。
彼女も階段を上がってきたところに、二人と出くわしたらしい。
「ふた―――」
とアカメが言いかけたときにクマノミは駆けだしていた。それを感知したアカメは自身の固有回路を発動させ、建物を破壊し、クマノミの攻撃を防ぎつつ、牽制しようと破片を飛ばした。
しかしそれは一発もクマノミには当たらない。床と一緒に落ちていく正也とは対照的に宙を飛び、一瞬でクマノミはアカメへと距離を詰める。アカメが作ったバリケードすらすり抜け、直後、アカメの体は斜めに真っ二つに切られる。
通路が崩れ落ちた音が、ようやくなり始めた。
「大丈夫か?」
落ちた瓦礫に向かってクマノミが問いかけると、瓦礫が吹き飛び、下から雄たけびを上げながら正也が立ち上がった。
「ウオーーー!!!・・・何が起きたーーー!」
雄叫びをやめて冷静になり、今一度状況を整理しようとしたが、結局何が起きたか分からず大声で正也はクマノミに質問した。
元気そうな正也を見てクマノミはしゃがんで自分の隣を指さす。
「まず上がって来いよ」
「あ、うん」
足場の悪い中正也はひょいと一階と二階くらいある高さを飛び越えクマノミの隣に着地した。
そこで正也が見たものは、アカメの死体ではなく、真っ二つにされた人形だった。
「マネキンみたいだ」
正也は人形を見た感想をつぶやく。
クマノミは人形に近づき、しゃがんで、人形の腕を持ち上げる。
「服屋の人形や受付に使われているやつだね。人を模倣するやつ」
「え、人形って、これ?」
正也は人形の躯を指さしてクマノミに尋ねた。
クマノミは手を離し、立ち上がって返答する。
「だろうな。体力や魔力の質や量、魂の様子を観察して、本物と人形を見分ける感じか」
「なんか、おんなじ固有回路使ってた記憶があるんだけど」
先ほどの建物全体がひしゃげた技、あれは魔術の質からしても、おそらくアカメの固有回路である「ベクトル操作」だっただろうと正也は考え、おそるおそる尋ねる。
「体や固有回路は再現していても、動きは再現していない。脅威度2くらいに設定されているな」
「なるほど。脅威度って?」
クマノミの説明の中に、聞きなれない言葉が出てきたため、正也は再び問い返す。
「ニュース見てないのか?脅威度っていうのはそれが人にとってどれくらい危ないものなのかを伝える指標だよ。0から5の6段階で、2は『予防、対策が推奨される』くらいの危険度」
「へぇー!ちなみに脅威度5は?」
クマノミの説明でテンションが上がってきた正也は畳みかけるように質問した。正也はそういう設定は大好きだし、初めて震度を見たときもはしゃいでいた。
「5は世界の危機だろ。高級が二人以上必要なくらいの災害」
「へぇ~、高級が」
クマノミの話を聞いて、満足そうにうなずく正也。そんな正也の頭をチョップで叩くクマノミ。
「しゃんとせい。行くよ」
にやにやと緊張感の緩んでいた正也はクマノミの言葉で切り替え、建物の中を走りだした。
そんな二人がいる建物の中にある食堂。そこに青年たちがいた。
「ぷはぁっ。やっぱここの飯はうめえな~」
「な!やった腹ごしらえは大事だよな!」
二人の青年、宗司のクラスメイトのカワヒラとカジキが用意された障子を食べながら話している。お互い食べるのに夢中で、若干話はかみ合っていないが。
「ふふ♪」
そんなカワヒラをその向かいに座る少女、マーリンが愛おしそうな目で見つめている。
「食べないのか?」
そう言ってカワヒラは料理が盛られた器をマーリンのほうへ差し出すが、マーリンはそれを遠慮する。
「もういっぱいだからね」
「朝食べてきたのか」
「どちらかというと胸が、、、」
「?」
1000人はゆうに入るであろう部屋に並べられた机の上に置かれた数多の料理。その3割ほどをカワヒラとカジキが食べ終えたころ、様々な料理を少しずつ立って食べていたシロワニが3人を呼ぶ。
「そろそろ行くか」
「あーそうだな」
「食いすぎてもあれか」
カワヒラは自分の腹をさすり、カジキは天井を仰ぎ見ながらシロワニに答えた。
4人は空になった食器を案内に従って処理し、食堂を後にする。
「よし、行くか」
4人は食堂を出た後、迷うことなく、先ほどまで人形とクマノミが戦っていたところへと向かい、そこから外へと飛び出した。
そのまま空中で、4人は各々別方向へと、手のひら、あるいは指先を向けた。
その数秒後、カジキからおよそ4キロ離れた湖の底、カワヒラからおよそ10キロ離れた火山の中、マーリンからおよそ5キロ離れた雲の上、シロワニからおよそ7キロ離れた洞窟の奥、それぞれに設置させた的が爆ぜた。
「よっしゃあ!」
地面に降り立つと同時にカワヒラは右拳を天に上げ、喜びの声をあげた。
「へーい!」
カジキもほかの3人のほうを振り返り方手を挙げた。カワヒラと違うのは、手が開いていたこと。
「ほい」
「いえーい!」
カジキの意図を察知したシロワニとカワヒラはカジキの手のひらを、そんな掛け声とともに叩いていく。
軽快な音が、空に吸い込まれていく。
そんな3人の様子をマーリンは一歩引いて見ている。
「ほら、マーリンも」
待ちあぐねたカジキが自身の手のひらを自分の顔の少し下に下げ、ひらひらさせている。マーリンのハイタッチを誘っているのだ。
「・・・」
それを見たマーリンは一瞬あっけにとられたが、すぐに微笑みを浮かべ、カジキの手をたたく。
「よし、行くか。じゃあな」
カジキが全員との称賛の分かち合いを済ませたのを確認すると、シロワニはそう言って一人走り去っていった。
「お互い頑張ろうぜ!」
それに続き、カジキも別方向へと飛んでいく。
「俺たちも行くか」
カワヒラはマーリンに左手を差し伸べる。
マーリンは昔の癖で、つい一瞬ためらってしまうが、すぐに右手を伸ばす。それは、凛花たちのいた元の世界の人が見れば、何のためらいもなく伸ばしたように見えただろう。
カワヒラが、マーリンのためらいに気付いていたのかは分からない。
ただ、カワヒラは、マーリンが自分の手を置く直前、カワヒラのほうから手を掴みに行った。
マーリンはそれがうれしかった。おそらくどんな魅力的な男性でも、マーリンの鼓動を今以上に高鳴らせることはできないだろう。
「いくか」
「うん♪」
カワヒラに手を引かれ、二人は空を飛ぶ。
そんな楽しそうな二人のことを、ふと空を眺めていたシイラが惚れ惚れした顔で眺めている。
「いいな~。私もあんなふうな恋がしたい」
「まぁ、あれはなかなかレアだからねぇ。気持ちは分からなくもないけど、なかなか難しいと思うよ」
シイラの憧れに対し、平べったい岩の上に仰向けで寝っ転がっているツチフキが微笑み、空を見上げながら答えた。
「だからこそだろう!昨今は同じコミュニティに属したもの同士が目まぐるしく交際し、破局する。確かにそれもいいだろう。しかし!そんな世だからこそ、幼き頃にベストなパートナーを見つけてあのように永く伴にいられるというのは輝かしくなるのだ!」
「あれ?あの二人って、そんな長いこと付き合ってたんだっけ?」
マダイの少し熱い演説も、暖簾に腕押しというようにツチフキは自分が気になった点を率直に質問する。
「付き合い始めたのはここ一年だけど、片思いのころから数えると10年らしいよ。その間、二人とも誰とも付き合わなかったんだっけ?」
ツチフキの質問に答えたのはエンゼルだった。彼女は焼け焦げた人形の頭をその辺に捨てる。4人の周りにはこれで217体分の人形の残骸があることになる。それを数えている人は、この中にはいないが。
「一途でいいね~。二人とも」
エンゼルの答えを聞き、シイラは両手を祈るように握り、うっとりとした声でそんな感想を述べた。
「よくわからないけど、そんなに憧れるなら、シイラも誰かと付き合えばいいんじゃないの?ヤマメとか、マダイとか」
「僕?!」
急に名前を出されたマダイは驚いてエンゼルのほうに振り返る。
「二人ともいい男だけどそうじゃないの。なんていうかこう、具体的に言うと、熱?」
「うわぉ。すごく抽象的だねぇ」
「そしてそんな理由で振られたぼくぅ!」
シイラの答えに男二人がそれぞれ反応する。
ツチフキは、ククク、と笑い、マダイは額を押さえ、空を見上げる。
「マダイは私と付き合いたかったの?」
マダイの反応を見て、シイラは素朴な疑問を投げかけた。
マダイは空からシイラの顔へ目線を変え逡巡する。
「僕は君と過ごす日々も輝くだろうと思うけど、君はそうでもないんだろ?」
「・・・めんどくさい女でごめんね」
「何を言ってるんだ!ひと手間こそ、芸術を傑作にするに不可欠なものだろ!」
「「よくわからない」」「よくわからないなぁ」
マダイの演説に、ツチフキは横臥し、肘を立てて頭を支え、笑いながら、エンゼルは近くの倒れた木の幹に腰を下ろし、真顔で、シイラはそのまま、ポカンとした表情を浮かべながら同時に感想を述べた。
「クッ!僕にもっと表現力があれば!」
3人の言葉に、マダイは膝から崩れて四つん這いになり、悔しそうに地面を殴りながら嘆いた。
そして、4人はその場から飛び退いた。
直後、轟音とともにそこにクレーターができる。
4人はクレーターから少し離れたところに立っていた。
「ふぅ、あぁぶないあぶない。いったい誰が落ちてきたんだ?」
ツチフキは一人、クレーターに近づきながらのんきにそんなことを言うが、大体見当はついていた。それは、他の3人も同じだ。土煙のせいで目視はできないが、探知はお手の物だ。
あとの3人は、少々間隔を開けてクレーターの周りに並び、中を覗き込む。
「あっ、ごめんなさいごめんなさい!怪我ありませんか?!」
土煙の中からでてきた影が4人の謝りながら近づく。
代表して影と一番近かったエンゼルが応対する。
「私たちは大丈夫だよ。えっと、あなたは」
「あっ、すみません自己紹介が遅れて。3組のカスミです」
「カスミさんね。私は一組のエンゼル」
「同じく一組のシイラ」
「右に同じく一組のマダイです」
「左に同じく。ツチフキです。はじめまして」
5人が互いに自己紹介をしていると、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい!カスミー!」
「あ、トビウオ君だ」
カスミのその言葉の直後、5人は同時に一本の木の上を見る。
そこには若干ぼさぼさした短髪の男子が、片手を幹に置き、太い枝の上に立っていた。
「あ、どうもはじめましてッス」
青年は木の上からクレーターの中へ降り、4人に挨拶した。砂埃が綺麗に消えた。
「ねえトビウオ君。この人たち一組の人なんだって。もうそんなところまで来てたんだよ」
カスミは男子、トビウオの肩をポンポンとたたき、新しい発見をした子供のようにはしゃいだ。
「来るときに赤劃城あったッスからね。一部壊れてたッスけど」
しかしそれとは対照的にトビウオは淡々と話す。若干呆れも見える。
「えっ?全然気付かなかった」
「周り見えなさすぎッスよ。だいたい出発エリアが隣同士とはいえ中央くらいにいたのにもう一組とかち合うってどんだけッスか。赤劃城、8キロくらい離れてるッスよ」
トビウオは幼子を見る父親のようにハハハと笑いながらカスミと話す。
カスミは恥ずかしくなったのか、だんだんと顔を赤らめていった。
「皆さん。お騒がせして申し訳ないッス。ほら、カスミも謝るッス。そんで戻るッスよ。みんな待ってるッス」
「あぁ、謝罪はさっきもらったからいいよ。そもそも謝られるほどのことじゃないし。待たせてるなら早く戻ってやりなよぉ」
ツチフキがそう言うとトビウオはその言葉に甘える。
「お互い頑張りましょう」
それだけ最後に言って、トビウオはその場から姿を消す。
「ま、待ってよ」
カスミもそう言ってその場から一瞬で姿を消した。
「じゃあ、私たちも次に行こう」
シイラの提案に3人は賛同し、林の中から一瞬で移動する。
この時点ですでにおよそ千体の人形と六千を超える的が破壊されていた。
「ところで、次ってどこだい?」
移動しながら、ツチフキはシイラに聞く。
「えっと、、、」
「試験の邪魔されたくないし、不審者の処理からしない?」
シイラが言いよどむと、エンゼルはそう提案した。
4人は進行方向を少し変更する。




