32話 遊びの終わり
3人はクレーンゲームの他に、レース、スロット、独楽、釣り、メダル崩し、音ゲームなどを嗜んだ。ここまで多種多様なものが揃ったところを、凛花は見たことがなかった。
特に驚いたのは、昼食をはさんだ後に行ったVRゲーム。この世界でその概念はないが、魂力を用いてこことは別の世界を体験するそれは、まさしくVRとして凛花が知れるものだった。いや、実際に向こうのNPCと会話をしたり、触覚があったりするそれは、VRの域を超えていたが。
あっという間に時間は過ぎた。
3人は、休憩がてら、商業施設内のある喫茶店で、おやつに舌鼓を打とうと目論んだ。
「あ~、遊んだ遊んだ」
ケラケラと笑うアカネハナと、嬉しそうに思い返す凛花、そして笑みを浮かべて炭酸飲料を口に運ぶアイナメ。
4人席のソファーの座席で、各々が好みのドリンクを机に並べ、先ほど注文した甘味を、今か今かと待っている。
「ホント、楽しかった。ありがとうね」
「いいよ。私たちも楽しかったし」
改めてお礼を言う凛花に、アイナメはお互い様、と返し、アカネハナも同意する。
「それよりも、あ~、体育祭。あれは反則でしょ」
アカネハナは天井を仰ぎ、悔しさを声に出す。
体育祭の初手、あの恐怖の原因は魂力。そして魂力は、学校ではまだまともに教えられていない。アイナメたちを含めて。一部の生徒は、生活の中で、あるいは家族に教えられて多少は心得のある者もいたそうだが、この国の学校はずいぶんと性能がいい。
「作戦も何もなかったね」
苦笑しながらアイナメはアカネハナに同意する。
「後期よ後期。絶対生き残ってやる」
意気込みを口にして、アカネハナは一気に、清涼飲料水を呷る。
「え~、私はもう、勝てる想像ができないわ」
凛花は自分のグラスを見つめてあきらめの言葉を口にする。自分で言っておいて、凛花は少し情けなく感じた。
「それは私もそうよ」
返ってきたのは意外な言葉だった。
凛花はアカネハナのほうを見る。
「そもそも世の中には私たちみたいな凡人が努力しても勝てないような奴はたくさんいるし。『高級』とか先生とか親とか。でも、生き残っていれば、そのうち何かできるかもでしょ」
アカネハナはそう言って、シシシっと笑う。
「そうそう、無理に勝ちにこだわるより、生き残って楽しいことするほうがいいよ」
それにアイナメも続く。
「ふ~ん、そっか」
急に悟ったようなことを言われても、凛花には理解しきれず、つい、そっけない返事をしてしまった。
「お待たせしました」
そこに、店員が人数分のデザートを持って現れた。
アイス、ケーキ、ドーナッツ。一言で言えばそうだが、どれもカラフル。クリームやフルーツ、ジャム、ソースがふんだんに使われており、そしてきらきら光る未知の物体、未知の葉っぱ。フルーツもジャムもソースも、見たことのない形、色をしていたが、凛花が特に気になったのはそれだった。だがしかし不味そうには見えない。むしろ食欲をそそる。
「あ、来た来た!」
「おいしそ~!❤」
アカネハナもアイナメも目の前にデザートにメロメロだ。
「それじゃ、「「いただきます」」」
目の前にデザートが置かれると、三人は手をパンっと合わせてあいさつをした。
デザートは最初の印象通り、とても甘くておいしいものだった。
「凛花のおいしそうだね。一口いい?」
凛花が舌鼓を打っていると、アカネハナが話しかけてきた。
「私の一口あげるからさ」
アカネハナのドーナッツも少しだけ気になっていた凛花は笑顔で了承した。
「いいよ。はい!あ、それはここにおいて」
凛花は自身のアイスを器ごと差し出すと、ドーナッツの欠片をアイスの横に置くよう指示した。
アカネハナはドーナッツの欠片をアイスの横に置くと、アイスを一すくい持っていった。
凛花のアイスを味わい、アカネハナが笑顔になると同時に、凛花はドーナッツとアイスを一緒にすくいあげ、頬張った。
「ん~!おいしい」
我ながらうまい食べ方だなと、凛花は心の中で自画自賛する。
「あ、アイナメも食べる?」
凛花はそう言ってアイナメのほうを向いた。アイナメも幸せそうにケーキを口に運んでいる。
凛花に問われたアイナメは、ケーキを口に運ぶのを中断して、一瞬逡巡したのち、返答した。
「じゃあ、私もいいかな?」
アイナメのケーキも当然のようにおいしかった。
店を出て、集合店内を三人はぶらぶらと歩きまわっている。
「ふ~、おいしかった。他に行きたいところとかしたいことない?」
アイナメは振り向いて凛花に質問したが、凛花はすでに満足そうにしていた。
「う~ん、特にないかな。強いて言うならもうちょっと三人で遊―――」
「ちょっと、二人とも!!」
言いかけている途中、アカネハナが二人を呼び止めた。
二人は少しびっくりしてアカネハナのほうを振り返る。そこには二人に負けず劣らず驚いた顔をしたアカネハナがいた。
「なんの気なしに周りを見回してたらさ、見てよあれ!」
二人がアカネハナの指さしたほうを向くと、そこには学園最強の名をほしいままにしている、ウツボとハンドウの姿があった。
「?。誰?」
凛花は、驚いた顔をして固まっているアイナメとアカネハナに尋ねた。
「ウツボさんとハンドウさんだよ。私たちの学校で一位二位を争う強い人たち」
「ウツボさんのほうにはあったんじゃなかったっけ?体育祭のときの、廊下だったかな?」
そこまで言われて凛花は思い出した、あの化け物を一瞬出たとした女性のことを。
「え!?あの人?!」
凛花が驚いた理由は、あの時の印象と今見えているウツボの様子がまるで違かったからだ。
「すっごい笑顔」
ウツボは美人な少女ににあった笑顔とまなざしでハンドウを見ており、ハンドウも穏やかなまなざしで見つめ返している。そして二人は腕を組んで歩いていた。
「あの噂、ほんとだったんだ」
「そうみたいね」
「噂?」
二人の言う噂が分からず、凛花は首を傾げた。
「あの二人が付き合っているった噂よ」
「えー!?そんなんだ!」
「半信半疑だったんだけどね」
「なんで?」
「普段の素行。凛花、アイナメと廊下であったんでしょ?その時どうだった?」
「あ、あ~。確かに、誰かと付き合っているイメージはできないかな」
「いめーじ?ああ、印象ね。でしょ?」
最初の言葉はアイナメの独り言だったため、凛花には聞こえなかったが、最後の同意の「でしょ?」はハッキリ聞こえたため、凛花は首を縦に振って肯定する。
「あ、二人がこっち向いた」
アカネハナの言葉にほかの二人もウツボとハンドウのほうを見ると、その二人はこちらを向いていた。完全に目が合った。
「失礼だったかしらね」
三人は二人に向かって軽く会釈をすると、二人も笑顔で手を振って応えてくれたため、三人はほっと胸をなでおろした。
そのまま二人はデートの続きをしに、店の中を歩き回りにいった。
「大丈夫かな。後で怒られないよね?」
凛花の口から漏れた不安に、アイナメは微笑みながら返事をする。
「大丈夫でしょう。あの二人はそこまで器は小さくない方よ」
その言葉に、凛花はほっと安心した。
「それで、次はどこ行く?」
アカネハナの言葉に、三人は思考を切り替える。
「私はどこでも」
「じゃあ、腹ごなしに、あそこいかない?」
「あそこ?」
「あー!あそこか!」
アイナメの提案に、凛花は当然だが、ぴんと来ていない。しかし、アカネハナはあそこがどこなのか分かったようだ。
凛花が二人に連れられてきたのは、前の世界では結構メジャーなボウリングをメインとしたレジャー施設に近い、というかほぼそれだった。
「じゃ、パーっと遊ぼう」
代金はまたもや二人が出してくれ、凛花は申し訳ない気持ちになりながらも、二人と一緒に遊びに行った。
最初にやったのはボウリングだった。ピンの列はちょっと違かったが、10本倒すのは変わらない。
ここで初めて、凛花は自分がボーリングが得意ではないことを知った。
「イヤ~、お恥ずかしい」
頭をかきながら、二連続でガターを取った凛花が戻ってきた。
そんな凛花を、アカネハナは笑いながら、アイナメは温かい目で迎えた。
「ふふ、やり方知ってそうだったから、得意なのかと思ったら、そうでもないのね。コツ、教える?」
「大丈夫よ。初めは皆そんなもんよ。落下防止してもらいましょうか?」
「ん~、じゃあ、お願いします」
「わかった、じゃあ、私頼んでくるね」
そう言ってアイナメは店員さんのほうへかけていった。
「じゃあ次私投げるから。コツ教えるからちょっと来て」
そう言ってアカネハナは凛花を手招きした。
「まあコツといっても、私はこうしたらうまくいったってだけだから、万人向けかは分からないし、ただの一例として聞いてね」
アカネハナは隣に並んだ凛花にそう言って謙遜した。
「わかった」
そう言われたものの、アカネハナはさっきからスペアやストライクを連発している。そう的外れなアドバイスにはならないだろうと凛花は踏んでいた。
事実、アカネハナのアドバイス、力加減や力を入れるタイミング、ピンの狙い方など、実に的確で、アカネハナが実際にアドバイスしながらボールを投げると、中央7本のピンを倒した。
「これはちょうどいい」
両端に残った、合計3本のピンを見て、アカネハナはそう言った。
続いて、ピンが離れた場合の倒し方についての講義が始まった。とっても、両端を倒すのはなかなか難しいらしく、より精度よくピンを狙うコツの授業だった。
しかし、アカネハナは難なくスペアを取った。
「あれ?」
これまでのアドバイスを聞いて、凛花は一つ疑問に思ったことがある。
「魔力とか体力とか使わないんだね」
「え、別に使ってもいいけど、できるの?よっぽど難しいけど」
「あ、そんなんだ。わかりました」
凛花がそう言った瞬間、ガタンという音がした。
音がしたほう、レーンのほうを見ると、ガターのところに、落下防止用の柵が上がっていた。
「頼んできたよ」
そう言って戻ってきたアイナメに凛花は感謝を伝える。
「ありがとう。じゃあ次は、アイナメだね。がんばって」
凛花の声援を受けて、アイナメはレーンの前に立つ。
今回のアイナメの合計は9本だった。
「おっしー」
アイナメは残念がりながらも、嬉しそうに、凛花、アカネハナとハイタッチした。
次は凛花の番となり、レーンの前に立った。
「いけるよ」
凛花はアカネハナのアドバイスお思い出しながら、冷静になるため深呼吸をして、ボールを投げた。
「おー!やったー!」
結果は4本とまずまずだったが、ガターの柵に触れることはなかった。
そのため3人は大いに喜んだ。
しかしそこへ、水を差す人たちが。
「へ~君たちすごいじゃん。俺たちにも教えてくれない?」
そう言ってへらへら近づいてきたのはチャラい恰好をした、大学生くらいの男性だった。
ずいぶん気さくに話しかけてくるので、凛花は最初、アイナメかアカネハナの友人かと思ったが、どうも違うらしく、凛花は警戒心を強めた。
「えっと、あなたたちは?」
そんな凛花とは対照的に、アイナメは普通に対応する。まるで警戒心など抱いていないかのように。
「俺たち大学の旅行で海外から来たんだよね。あそこに連れがいるんだけど」
そう言って男が親指で指した先には四人の青年がいた。
「よかったら一緒に遊ばない?ついでに教えてよ」
へらへらと話す男に彼の後ろの仲間たちはにやにやと手を振っている。
「どうする?」
「凛花次第でしょう」
そんなことは気にせず、アカネハナとアイナメはどうするかを凛花にゆだねる。
「どうする凛花?一緒にやる?」
凛花は少しだけ恐怖を感じつつも、穏便に済まそうと、作り笑いをした。
「いや、私、ちょっと人見知りだから、ごめんなさいね」
凛花がそういうと、男は一瞬嫌な顔をした。
「あっそ。邪魔してごめんね~」
しかし男はあっさりと引いた。
その様子に、凛花はほっと胸をなでおろす。
「なんでにやにやしてるの?」
凛花がふとアイナメとアカネハナのほうを見ると、二人はにやにやしながら凛花のほうを見ていたので、凛花は訳が分からず尋ねた。
「いや、私たちのときはすぐ仲良くなったからさ、今の話聞いてうれしくってね」
アイナメの答えを聞いて、アカネハナもうんうんと頷いている。
しかし、二人のちょっとずれた反応に、凛花はあきれた。
「いや、今のってナンパでしょ?人見知りなのも多少あるけどさ。ちょっと怖くない?」
凛花の言葉にしかし、二人はぴんと来ていないようだった。
「ナンパって?」
「確か、海外の文化で、男性が道行く女性に声をかけて仲良くなるやつだったと思うけど」
それどころか、ナンパもよく知らないらしかった。
「それならいいんじゃないの?友達が増えるのはいいことだし」
アカネハナのその言葉に、凛花は『ああ、そもそも文化が違うんだな』と、納得した。
「いや、こっちは女子三人なのに向こうは男子五人なんだよ?怖くないの?」
「イヤイヤ、俺たちそんな怪しいもんじゃないよ」
凛花の言葉に返答したのは、さっきのグループの中の別の男だった。
いつの間にかグループ全員が凛花たちに近づいてきていた。
「そうそう、そんな怖がらないでさ」
そう言いながら男の一人が凛花の隣に座った。
「な、何しに来たんですか?」
「そんな緊張しないでさ、俺たちはただ君たちと仲良くなりたいだけなんだよ。それから俺たち初めての海外旅行だから、この辺ちょっと案内してほしくてさ」
そう言うと、男は凛花の肩に手を回した。
「すみません、私もこの辺よく知らなくて、、、」
凛花は少しうつむきながら、精一杯穏便に済ませようと愛想笑いをしながら答える。
「ならさ、この辺一緒に探検しようよ。そのほうが楽しそうだしさ」
男の言葉に、周りの男たちも「そうそう」と相槌を打っている。
そして、周りの男たちは、アイナメやアカネハナにも絡んでいった。
「君たちもさ、どう?俺たちと遊ばない?きっと楽しいよ」
しかし二人は彼らの誘いを断る。
「お誘いは嬉しいけど、今私たちは友達との時間を大切にしたいからね。遠慮しておきます」
「私も。彼女はどうやら、君たちとあまり遊びたくないらしいし」
しかし、男たちは鬱陶しい性格だった。
「いや~そんなつれないこと言わないでさ、絶対楽しいから」
「一緒に遊ぼうぜ」
これはもうだめだと考えた凛花は、今度は毅然とした態度で断る。
「すみません。正直迷惑です。これ以上するなら考えがありますよ」
凛花は肩の手を振り払いながら拒絶した。
すると男はあからさまに不機嫌になった。
「ぷっははははっ。振られてヤンの」
しかもまわりの男たちもバカにしだしたため、男は完全に頭に血が上ってしまった。
「うっせえ!てめえ、人がした手に出てりゃ付け上がりやがって。調子乗んなよ」
男は激高して凛花に殴りかかったが、凛花はその拳を受け流し、男にカウンターを食らわせた。
男は「グヘ」とこぼして後ろに倒れこんだ。
その様子に、他の男たちも唖然とした。
「てめえ。どこまで俺を馬鹿にすれば」
男はゆっくり立ち上がり、凛花を睨む。
「どうされましたか?」
するとそこへ、この店の店員がやってきた。見た目は若い男性だ。
「いや、何でもないですよ。ちょっと行き違いがあっただけで」
男の一人が定員にうその説明をする。
しかし、それをすぐさま凛花が否定した。
「違います。この人たちがしつこく絡んできたんです。助けてください」
凛花が助けを求めると、男のうちの一人、店員より少し背の高い男が店員の肩に手を回した。
「兄ちゃんなあ、ここは少し引っ込んでな。痛い目あいたくないだろ?」
少し小声で店員を脅した後、男は手のひらに小さな火球を作った。
凛花はそれに少しぎょっとしたが、他の人は、店員含めて動じていない。アイナメとアカネハナにいたっては、ため息すらついている。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますので、他のお客様への迷惑行為や魔法の使用はお控えください」
店員は動じずに男に淡々と言い返した。男は自分の予想と違う様子に若干たじろいだ。また、男たちはそこで初めて、周りの人間が自分たちを鬱陶しそうにちらちらとみていることに気付いた。
「忠告を聞き入れられない場合はお帰りください。これ以上他のお客様のご迷惑となるようでしたら実力行使いたします」
肩に回された手を払い、店員はなおも淡々と対応する。その対応に男たちは激高した。
「てめえ!人をバカにしやがって!」
「お前はおとなしく見逃していればいいん―――」
凛花に絡んでいた男は手に電をまとい、店員に絡んでいた男は火球をぶつけようとしたその時、二人の全身を水球が覆い、二人は空中で溺れた。
「「!!」」
二人は何が起きたか分からず、いや、二人だけでなく、残りの3人と凛花も今の状況を理解するのが遅れた。
彼らが状況を把握しようとしている間、水球に閉じこめられた二人は、必死でもがき、ゴボゴボと口から泡を吐いている。
「!お、オイお前、何しやがん―――」
「てめえ!!―――」
泡がはじける音を聞いて、男の仲間のうちの二人が店員に向かって動くが、結果は同じだった。
「じゃあ、あとはよろしくお願いします」
「はい、どうぞごゆっくり」
アイナメが店員さんにそう伝えてお辞儀をすると、店員さんもにこやかに返す。
「じゃあ、続きやろう。次誰だっけ?」
アカネハナにそういわれたが、凛花はまだ状況が呑み込めずにいた。
「え、あ、あの、それくらいで放したほうが、、、」
凛花が遠慮がちに店員さんに声をかける。
「?なぜですか?」
しかし店員さんはあっけらかんとそう返す。
「だ、だってそれ以上やったら死んじゃいますよ?」
男たちの動きはだんだんと鈍くなっていく。
「ええ、殺そうとしてますからね」
「ええ!?!」
店員の答えに、凛花は驚愕した。しかし、凛花以外は、この光景に違和感を覚えていないようだった。それはアイナメもアカネハナも同じ。
「何をそんなに驚いてるの?」
「もしかして、友達なの?」
「いや、そうじゃないけど、人を殺そうとしてるんだよ?!」
凛花の叫びに、しかし二人と店員は冷静だった。
「だから?」
「だからって、、、え?」
「人殺しは悪いって言いたいの?」
「そりゃそうで―――」
「虫は簡単に殺すのに?」
「―――え?」
「獣も殺すよね」
「人だけは例外なの?それって傲慢じゃない?」
「人と同じように、虫も獣も命を持っている。だから人も虫や獣と同じように、不快の限界になったら殺す。当然のことだよ。少なくとも、この国では」
アカネハナが言い終わった途端、残りの一人の男が、「ひい!」っと情けない声をあげて、急いで店から飛び出し、逃げ出した。
「もちろんすぐ殺すわけじゃありません。虫よけ、獣避けの結界や虫や獣が人間社会になるべくかかわらない環境づくりをして、双方が気持ちよく過ごせるように配慮するみたいに、まずはお願いや忠告からします。彼らはそれを無視した。だから、処理します」
後から店員がそう補足したが、宙に浮いている水球の中の溺死体をみて、凛花は気分が悪くなった。
そしてその場で口を押えてうずくまってしまった。
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。返金いたします。少々お時間よろしいでしょうか?」
「いえ、それよりすぐに帰ってゆっくりさせたいので」
「承知いたしました」
そう言って店員は水球ごと裏へ瞬間移動した。
その後アイナメが凛花を落ち着かせようと背中に手を回すと、凛花はビクリ!と反応した。それを見たアイナメは今度は優しく背凛花の背中に手を置き、ゆっくりと撫でた。
「大丈夫。落ち着いて」
それはとてもとても穏やかな声だった。そのおかげか、凛花の呼吸はだんだんと穏やかになっていく。
「じゃあ、家まで送るよ」
アカネハナがそう言った途端、三人の足元に魔法陣が出現し、次の瞬間には凛花が住んでいる寮の前に到着していた。
アイナメとアカネハナは凛花を部屋まで送り、心配しながらも自分たちの家へと帰っていった。
これまで異世界であることを何度か分からされてきたが、今日封土衝撃的なものは凛花はこれまで経験したことはなかった。




