表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
3/40

3話 中二病は頼もしい?

「怪しいな」


話は少し前にさかのぼる。

来客の間、国王に謁見する前に、お互いが自己紹介しているときに、正也がいきなりそういった。


「何がですか?」


急な正也の言葉に、凛花は意味が分からず正也のほうを見た。


「教会で会った女の子の話を聞く限り、この国は今とても苦しいはずだ。なのにこの部屋、というかこの城自体、豪華すぎる」


そこまで正也が言うと、宗司が「なるほど」とつぶやいた。


「つまりこの国には何か裏がある。ということだね」


宗司の言葉に、真司と凛花が同時に「裏?」といった。


「この城はとても大きい。さらに広い庭園があり、教会まで併設されている。本当に切羽詰まっているならこんな豪勢な城は立てられないってことだよ」


正也の言葉を聞いた凛花は「あー」と、うなずきながら納得した。


「だけど、裕福なときに建てた可能性もあるんじゃ」

「だとしてもだな」


凛花の反論を、真司が否定する


「部屋の中や庭を見る限り明らかに最近手入れをした形跡があった。それにもし本当に貧困だったとして、国民のために装飾品などを売るとかして身を切らない王様ってどうなのって話だし」


そう言って真司は深い溜息を吐いた。


「まあ、これはすべて推測だけど。どちらにしろ警戒するに越したことはないだろうね」


正也は3人に警戒するよう促した。


「けど、警戒してどうしましょう」


凛花が3人にそういった。その言葉には、多少、諦観の念が込められている気がした。


「相手が悪者だとして、ここはそんな悪者の拠点のど真ん中。警戒したところで何かできるとは思えませんが。相手がいい人であることを願うしか」


そんな凛花を真司は励ました。


「何をあきらめているんですか。相手がいい人に越したことはありませんが、悪者だとしてもわたしたちならきっと逃げ出せますよ」

「でも」

「加藤さんの言う通りですよ。ちょうど先程、逃げるのにとても役立つものをもらったばかりですしね」


正也は凛花の言葉を遮り、そういった。3人は、その役立つものが何を指すのか分からなかったが、すぐに理解した。


そして今、それらを使ってなんとか逃げ出すことができた。


「ふう、何とか逃げ出せた」


アトキ国の首都ルーハトから少し離れた森の茂みに着地した4人は、人目につかないところに隠れながら今後の方針を立てる。


「今後どうしましょう?」


凛花はほかの人に問いかけた。


「まずは城の中で話した通り、この国で潜伏して身を休めてから、国外へ逃げるというふうに動くでいいんじゃないでしょうか」


凛花はそう提案したが、真司に却下される。


「いや、確か国王はこの国全員があの腕輪しているといっていました。早めにひっそりとこの国を出るほうがいいです。国民総出で襲ってくるかもしれない」

「じゃあ移動しながら城で考えた案を修正していきましょう」


4人はこの国からでるために移動を開始した。

4人は、この国から脱出するために、もう一度お互いのスキルを確認した。


「城の中で確認したそれぞれの能力?は私が『意思疎通』、すべての言語が理解できるらしいです。加藤さんは『器神』で、触れた道具の材料や能力がわかり、すぐに使いこなせるようになるというもの。鈴木さんは『弱点』で、相手に、一か所だけ強制的に弱点を作るというもの。そして一条さんは『電光石火』、視界内の好きなところに自分と、自分に触れているものが一瞬で移動できる、で、あってましたっけ」


凛花がそれぞれの能力を思い出し、確認した。

3人はそれぞれ肯定し、真司はあの腕輪のことについて話した。


「確かそうだった」

「はい」

「あってます。それで調べた結果あの腕輪はつけたものの意志を縛って傀儡にするものでした。またいつでも持ち主の意志で腕輪をつけた人を殺せる機能も付いてました」


それを聞いて3人は固唾を飲んだ。

もし真司がいなければ、自分たちも奴隷のように使われていたかもしれない。


「加藤さんがいなければ危なかったですね」


凛花はそう言って真司にお礼を言った。


「いえ、私だけではどちらにしろダメでした。私ではあの扉を無理やり開けることはできなかったと思います」

「そうでしたね。しかしあんなに簡単に扉が壊れるなんて」


凛花がそう言って不思議そうに考え込む。


「弱点を突けば、簡単に扉をこじ開けられる。鈴木君の『弱点』はそういう能力ということでしょう」


宗司はそう言って正也に「そうでしょう」と確認しようと振り返った。

しかし、正也は3人より少し離れており、ハアハアと息を切らして疲れているようだった。


「一回休憩しませんか」


凛花は正也の身を案じ、そう提案した。


「そうですね、かなり城から離れましたしね」


真司もそれに賛成する。


「いや、なるべく早く国を出たい。休憩は国を出た後のほうがいい」


しかし宗司は反対する。


「いきなり城を飛び出して森の中を歩いているんですよ。少し休憩したほうがいいです」


反対する宗司に凛花は力強くそう言った。


「この世界にどんな技術があるかわからない。もうすでに僕らの居場所が割れていて追手が迫っているかもしれない」

「このまま休憩せずに歩いたほうが余計に遅くなりますよ。いきなり知らないところに飛ばされて、城から脱出して、森の中歩いて、もうへとへとです。鈴木さんを見ればわかるでしょう」


宗司の意見に反論できず、いきなりこの世界に連れてこられた不安と、ここまでの疲労で、凛花はつい短気になってしまった。


「な、何のこれしき。はあ、俺は世界に選ばれた勇者だ、この程度、何の問題もない」


そんな宗司と凛花を見かねてか、正也はピースサインをして余裕を表すがその顔には明らかに疲れが見える。


「強がりや喧嘩はやめましょう、今の状況ではあまりいいほうには進まない」


真司が仲裁に入った。


「現状を整理しましょう。私たちは国から追われていて、国民からも攻撃が来るかもしれない。だから城で話した“国民の話を聞いて魔王討伐が本当にする必要があるのかを検証する”ことは必要なくなりました。しかし同時にすぐにこの国からでなくてはならなくなった。ここまで大丈夫ですか?」

「「「はい」」」

「今移動中だが疲労がたまって移動速度が落ちている。そのため休憩すべきか進むべくかで意見が分かれている、と」

「そうです。今すぐ休憩したほうが結果的に早く国からでることができます」

「いや、立ち止まると危険だ。多少速度は落としても移動し続けたほうがいい」

「落ち着いてください。一条さん君のスキルは一瞬で移動できるものでしたよね?それは使えないんですか?」

「『電光石火』は視界内に入ったところにしか移動できないので、今は木が邪魔で移動は難しいです」


うむ、と真司は空を見上げて考え込む。空はもう茜色に染まっていた。


「よし、やってみよう」


真司は何かを思いついたようにうなずいた。


「空を飛んでいきましょう」

「そ、空、ですか?」

「なるほど、いい考えかもしれませんね」


真司は作戦を話し始めた。


「まず地図で最短距離で国境まで行ける方角を確認します。そして『電光石火』で森の上ぎりぎりまで瞬間移動します。そのあとは国境に向かってひたすら『電光石火』です」

「あ、なるほど」

「天才ですね」


作戦を聞いて凛花と正也も理解した。


「この作戦では一条さんの負担が大きいですが大丈夫ですか」

「特に体に違和感はないので、大丈夫だと思います」

「じゃあ、行きましょう」


そして4人は空を飛んだ。そこには、とてもきれいな景色が広がっていた。


「すごくきれいですね」

「うん」

「そうですね」

「今、集中しているのでゆっくり見られません。あと、目つぶっていたほうがいいですよ」「「「え?」」」


その言葉を最後に4人はアトキ国から姿を消した。


「う、気持ち悪い」

「おっと、あ~まだ目回ってる」

「・・・大丈夫ですか?・・・次からは事前に言うようにします」


正也と真司はふらふらと歩き、凛花は木陰で横になっている。

『電光石火』の影響で激しく目を回してしまっている3人とは対照的にぴんぴんしている。


「あなたは大丈夫なんですか」


真司が不思議そうに尋ねる。


「僕は目をつぶっていたので大丈夫です」


宗司はそう言って森の奥のほうへ行った。

他の3人は、酔いの症状がひどく、返事すらできなかった。

症状が治まったころには日が暮れてあたりが暗くなろうとしていた。


「これ以上移動するのは危険なのでここで野営しませんか」

「「わかりました」」

「はい」


宗司の提案に3人は賛成した。

国を出たのかはまだわからないが、流石にこんな深い森の中では、簡単に自分たちは見つけられないと考え、休息を取ることにした。


「なんとか、それらしくなりましたかね」


4人はそれぞれの仕事を終え、火をかこっていた。

野営は簡素なもので、焚火と、薪、あるものがあるだけだった。


「それで、これ、どうしますか?」


そう言って宗司があるものを指さした。

それは薪を集めるときに一緒に集めた木の実やキノコだった。


「1個、俺食べてみましょうか?」


正也がそう名乗り出たが、真司に止められた。


「いや、猛毒があるかもしれないからやめたほうがいい」

「火を通して一口だけかじれば大丈夫じゃないですか?違和感があったらすぐ吐き出して・・・」

「口に入れただけでも危険なものもある。薬も何もないんだ、慎重にならないと」


正也はそう真司にたしなめられた。


「そうですか。・・・そういえば、加藤さんのスキルは使えないんですか?」


正也は真司の能力を思い出し、真司に尋ねた。

しかし真司は首を横に振った。


「採集するときにわかったんですけど、たぶん『器神』は人為的に作られたもの以外あまり役に立たないと思うんですよ」

「?、毒があるか分からなかったんですか?」

「材料や性質がわかるだけで、有害化無害化は分からないんですよ」


そう言って真司は川を指さした。


「例えば、川の水を調べると、材料は水といろいろの不純物ということが分かります。そして特性として、さまざまな生き物が住めることや、いろいろなものを溶かすことができることが分かります」


性質を聞いて、凛花と正也が首を傾げた。


「いろいろなものを、溶かす?」


その疑問に、真司の代わりに宗司が答えた。


「砂糖とか塩とか、ということでしょう」


真司はうなずき、話をつづけた。


「私たちは水と分かっているからその溶かすという性質が危険でないとわかりますが、わたしたちが知らないものにそういう性質などがあっても、私たちはそれが無害か有害かがわからないんですよ」

「そうなんですか。じゃあ、難しいですね」


集まった木の実やキノコを前にし、凛花の最後の言葉に正也と真司は肩を落とした。


「こうなっては起きているのは無駄に体力を消耗することに等しい。交代で火の番をしながら寝ましょう」


宗司がそういうとほか3人も賛成した。


「じゃあ、誰からやります?」

「・・・ここは言い出しっぺの僕がやる」


正也の質問に宗司はいち早く手を挙げた。しかし真司は反対した。


「いや、ここは一番体力が余っている私がやります」

「・・・いいんですか?」

「私元の世界では大学生時代、登山部に所属していたこともあって体力は結構あるんです。それに、私はこの中で一番年上ですから」


真司はそう言って笑いながら、すでに就寝している正也に上着をかけた。


「まったく、誰が番をやるかで話し合っている最中に寝るなんて」

「まあそういわずに、彼は確か私たちの中で最年少なんですから」


そう言って真司は宗司をなだめた後、凛花を指した。


「佐藤さんもさっきから欠伸やうたたねを繰り替えしているでしょう。今はっきり意識を保っているのは君と私だけ。そして君には国を出るときに働いてもらいましたから」


そういわれた凛花はハッとし、眠そうな目をこすった。


「いえ、私もまだまだ起きていられます」

「・・・佐藤さん、無理はいけません。時間になったら起こすので、それまで休んでください」

「・・・わかりました。先に休ませてもらいます」


そう言って凛花は横になった。


「さあ君も、早めに寝たほうがいい」


そういわれて宗司は真司のほうをしばらくじっと見ていたが、


「・・・はあ、わかりました。お先に失礼します。ただし、2時間交代にしてくださいよ」


そう言って横になった。


3人が眠り、あたりはしんと静まり返った。焚火の炎の音がうるさく聞こえるほどに。

そんな静寂の中、真司が考えていたのは元の世界のことだった。

真司は元の世界に残してきたものがあった。そのため、元の世界に一刻も早く戻りたいと考えていた。

そして、今の状況では、頼みの綱は聖教団が言っていた魔王のみ。

改めて、魔王のところへ行くことを決心した。


そのとき、瞼が重くなり、視界がぼやけてきた。

自分でも気づかなかったのか、強い睡魔に襲われたのだ。


すぐに他の人を起こそうとしたが、まだ30分程度しかたっていない。


「ちょっと目をつぶって、脳を休ませるだけ」


真司は自分にそういい聞かせたが、10分後、真司はそのまま眠ってしまった。

守りの人がいなくなってしまった炎は徐々に小さくなり、静かな森の中に、一筋の煙のみを残して消えてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ