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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
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25話 忘れたころに

学校にいい思い出はない。

将来役に立つかどうかわからないものを教えているから、ではない。

今後絶対にやらないであろう様々な運動種目をやらされるから、でもない。

そんなことは些細なこと。究極行ってしまえば、人間は必ず死ぬのだし、ほとんどの歴史は忘れ去られるので、凡人の俺がすることはほとんどすべて意味がないことだといえる。

なら凡人の俺が生きる理由は何かという疑問に至るわけだが、そう聞かれれば、そんなもの自分が楽しみたいから以外に答えようがないし、これはなかなか的を得ていると思う。

この持論は何かのゲームやアニメのキャラのものだったか、そういうものを見ているうちにおのずと自分で行き着いたものだったかは忘れてしまったが、とりあえず今俺はこれを指針に今を生きている。

そして俺はさっき言った将来役立つか分からない二つのこと、例を挙げてしまえば「古典」や「1500m走」なんかが当てはまると思うが、これらが結構好きだったりする。俺は無駄なことを無駄だと知りながらも、それを楽しいと思える人間だ。

問題は意味のないことに意味を自分勝手に与え、悦に浸っている人間が、少なくとも俺のいた学校には多かったということだ。

一軍、二軍、カースト。それに伴ういじめ。見ていて気分のいいものではなかった。

俺のクラスにいた少々ふくよかな女の子、よく男女どちらからも部活どうやら委員会やら理由をつけられて雑用を押し付けられていた。本人もあまりはきはきとモノを言わない子だったので、言われるがままだった。

俺のクラスにいた一番の美少女、よく同じクラスの女子からいじめられていた。これがまた陰湿なもので、机の中におもちゃを仕込まれ、身に覚えのない罪で先生や親から注意されたり、いじめっ子と二人っきりになった日の翌日、いじめっ子がけがをしてきたのだが、その原因をその子だと嘘をつかれたりもしていた。

なんでそれを知っているかって?小学生なら誰しも一度は、誰もいない教室似たくなるものだろう。そして誰かが来たら教卓の後ろに隠れる。あるあるだ。

これがカースト関係あるかって?大ありだ。学校での発言はカースト上位の人のものが信用、重宝されるからな。

そして、なんとしても上に行きたがる人っていうのは一定数どこにでも存在するものだ。

美人がブスからいじめられるところ、ブスが美人からいじめられるところ、金持ちが貧乏人をいじめるところ、貧乏人が金持ちをいじめるところ、健常者が障碍者をいじめるところ、障碍者が健常者をいじめるところ、さまざまなところを見てきた。

まあそのおかげで、障碍者、金持ち、美人、ブスに対して偏見をあまり持たずに育ってきたのはよいことだと思う。


さて、ここまで俺の愚痴に付き合ってくれてありがたいんだけど、俺に同情する人は少ないんじゃないかな。というかいないでほしい。なぜならおれは何もしていないから。

小中と、さまざまないじめ、陥れを目撃したにもかかわらず、それに対し俺は何もできなかった。してこなかった。カーストが低かったわけじゃない。むしろいつも一軍にいた。これまでの勉強は楽しいと思えたから成績も上のほうだったし、スポーツも好きだったから運動能力もそれなりだった。スポーツは一人でできるものは少ないから、おのずとコミュ力も鍛えられたし。顔もまあ、悪くないと思いたい。ただそれも、小中学生にしてはって話だ。それに精神面はかなり弱かった。

いじめを見て、いつも怖がってた。助けたら、俺もああなってしまうんじゃないかって。だから加担することはなかったが、助けることもしなかった。事なかれ主義ってやつだ。だけどあれ以上あんな気持ち悪いものを見たくなくて、中二の冬ごろから不登校になった。

俺ってホント、弱いくせにいっちょ前に罪悪感だけは感じて、逃げてばっかのクソみてえなやつだよ。そんなことを思い知らされたから、学校は好きじゃない。

そんなくそ雑魚メンタルな俺でもアニメとかゲームをすると物おじしなくなる。

憂鬱になった日の夜とか、翌朝とか、漫画とか見て、「いじめを止めてやるぜ」なんて意気揚々と学校へ行ってた。まあそのメンタルの作り方は、単なる一時しのぎの死かならないんだけど。

だから不登校のときは創作物を見て、学校へ行こうとして、外へ出たはいいものの、結局引き返しての繰り返しだった。


あの日もいつもと変わらない日だった。

いつも通り自分を鼓舞して学校へ向かい、結局途中であきらめる。そうなるはずだった。

いきなりわけのわからない世界に落ち、最初はかなり興奮した。その興奮を抑えるために、知将ぶってみたが、今思うとあんまり抑えられていなかったと思う。そんな賢いこと言っていなかったし。

異世界ということもあって、興奮はいつもより長く続いたが、病院のベットで目が覚めた時、だんだん不安になってきた。ようやく実感がわいたんだと思う。

学校や友達に未練はないけど、家族は違う。こんな俺をいつも優しく見守ってくれていた。もう二度と会えないかもしれないと思うと、涙があふれてきた。ほかの3人と再会するまでに涙が乾いてよかったと、ほっとしたな。

だから将軍と名乗ったあの人、ナガツカさんに元の世界に戻れるといわれた時は一瞬声が出そうだったのこらえるのに大変だった。そのあと学校に行くことになったときはテンションが一気に下がったから、我慢するのは一瞬だったけどね。

これもリハビリだと思って拒否はしなかったけど、ファンタジーな力がある世界で学校に行くのにメチャメチャ不安を感じた。

そして実際、その不安は現実のものとなった。

まず躓いたのは一般科目。

不登校のときも独学でそれなりに勉強していたつもりだけど、やっぱり独学じゃ限界があった。それに加えて魔力やら魂力やら体力やら知らない概念を当たり前のように話すから余計に大変だった。一番厄介なのが体力。これは元の世界でも同じ名前で普段から使っていたからどうしても一瞬思考が止まってしまう。

だけど一番大変だったのはやっぱり実技。こっちはファンタジックな力知ってからまだ数ヶ月しかたってないのに。

一度不登校になった人がなかなか再登校できない理由の一つを知った気がする。

実際俺も、学校に行くのがだんだんイヤになっていったから。

多分、マツサカ師匠に出会ってなかったら、不登校になってたと思う。

あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。

初めて実技があった日のこと。

凛花を除くほかの人よりも圧倒的に成績が悪かったことに落ち込み、トボトボと帰宅していた時のこと。魔法をうまく使えるようになりたいと一念発起し、すぐに家に帰って海に向かった。なぜジムに行かなかったかというと、お金がないからだ。それに海なら周りに迷惑もかけずらいと思った。幸いその日は人も全くいなかったし。本当は、素人がジムや練習が想定されている公園みたいな、ちゃんとしたところ以外で術を使うとたとえ周りに人がいない広い場所でも危ない。だけどそのときはそのことを知らなかった。だから夢中で練習した。水平線に向かって、狂ったように火球を何発も何発も打ち続けた。

気づいたら夜だった。こんなに長い時間やるつもりはなかったが、昔から集中すると時間を忘れてしまう。あとは、筋トレや有酸素運動と違って、疲れを感じにくいというのも大きいだろう。

実際、火球がほとんどでなくなって初めて魔力切れだと気づいた。そしてふと周りを見渡したら、あたりはすっかり暗くなっていた。


「帰るか」


そうぽつりとつぶやいて踵を返したとき、事件は起こった。

突然、体の自由が利かなくなった。指一本すら動かない。何が起こったか分からない正也の耳に、聞きなれない声が聞こえてきた。


「探しましたよ勇者様。城で陛下と大臣がお待ちです。行きましょう」


辛うじて少しだけ動かせた眼球で正也はその声の主を視界に入れた。身長は正也より少しだけ高いやせ型の青年がそこに立っていた。


「ああ、申し遅れました。私はマハト様専属の一級魔法使いの一人、ロンドと申します」


ぺこりと頭を下げ、礼儀正しくロンドと名乗った男だったが、正也はそれどころではない。先ほどから生き一つできず、苦しんでいた。


「移動中暴れられても面倒なので、少々気絶させていただきますよ。ご安心ください。私はそちらの国で言うところの高級術師に相当します。手加減は得意ですよ」


ロンドのそんな言葉すら、もはや正也の耳には届いていない。


(助けて・・・)


薄らいでいく意識の中、声に出せない声を正也が絞り出した瞬間、

巨大な刃がロンドと正也の間の地面から出現した。

刃渡りは2~3mほど、高さも2m強と巨大だが、刃幅は厚みがあるところで1~2mmという、巨大かつ鋭い刃だ。

いきなりの刃の出現にロンドは大きく後ろに飛びのき、正也はそのまま前に倒れそうになった。そんな正也をキャッチしたのが白波専門学校4年のマツサカだった。


「誰です?」


ゆっくりと地面に埋まっていった刃。

その向こう側にいた、先ほどまで気配すら感じられなかった青年に向かって、ロンドは尋ねる。

マツサカはそれには答えず、ゴホゴホと咳き込んでいる正也を静かに地面に寝かせた。


「落ち着け。息できるか?」


横向きの体を持ち上げ、四つん這いになり、地面を見ながらゆっくりと深呼吸した正也は、顔を上げ、マツサカのほうを見た。


「あ、あありがとう、ございます。・・・えっと」

「俺は白波専門学校の4年、マツサカ。君の先輩だ」


そう言ってマツサカは立ち上がり、ロンドのほうを見た。

その瞬間、マツサカの顔が爆発した。


「油断大敵ですよマツサカくん。戦闘中敵から目をそらすなんて」


そう言ってロンドはけらけらと笑った。

あまりの出来事に正也は一言も発することができず、ただ、啞然としていた。

そんな正也に、ロンドは右手を伸ばして再び誘う。


「さあ、参りましょう勇者―――」


ロンドの言葉が途中で止まったのは、差し出した右手の肘から先が消失していたからだ。

消えた右腕はロンドの右足の横に落ちていた。


「あ、あ゛あ゛っ・・・」


ロンドは慌てて右腕を左手で抑えるが、右腕からあふれる血は止まらない。

白い砂浜にいくつもの赤い斑点がつき続ける。


「こいつは、俺の大事な後輩だ。手を出すんじゃねえ」


ロンドが顔を上げると、そこには先ほどの爆発が嘘のような、無傷のマツサカが佇んでいた。


「なぜ、無傷、、、」


腕の痛みに顔をゆがませながらロンドはマツサカのほうを睨む。


「普通に防御魔法を使っただけだ」


マツサカの言葉に、ロンドは納得していない様子だ。


「馬鹿な、確かに当たったはず、、、」

「術は基本的に自分の体から離れるほど威力は弱くなる。だから皮膚の表面に防御魔法を張ることで効果を最大限活用できる。今みたいに油断も誘えるしな。常識だろう」


それを聞いたロンドは、信じられないものを見るような目でマツサカを見る。

確かにマツサカの言っていることは正しい。しかし防御魔法を皮膚の表面、しかも顔に張るというのは危険すぎる。あの爆発に耐えるためには着弾地点だけでなく、顔全体に防御魔法を張らなければならない。そんなことをすれば息ができなくなる。


「そんな危険なことを、わざわざ、、、狂ってる」


マツサカはふと空を見上げ、思いをはせた。


「狂ってる、か。2年前の俺だったら、同意してたな」


ロンドは今置かれた状況を冷静に分析した。

目の前にいる少年は顔全体に防御魔法を難なく張れる。また、ロンドはマツサカが防御魔法を使ったことに気付けなかった。つまり着弾直前に防御魔法を張れる、魔法を使おうと思ってから発動までも早い。しかも腕を切り落としたあの術は魔法の気配すら感じさせなかった。以上のことから、目の前にいる男は2級、1級、この国で言う上級か高級だと考えるのが妥当。しかし相手はどうやら学生。大きな力を出せば、諦めるでしょう。

そうロンドは考えた。

ロンドは微笑みを浮かべ、腕を押さえながら、しかし背筋は伸ばして、マツサカと向かい合った。


「失礼、マツサカさん。どうやら双方誤解があるようですね」


先ほどとは打って変わってやさしい口調でロンドはマツサカに話しかける。

その様子にマツサカはいぶかしみながら相手を睨んだ。


「誤解?」

「ええ、あなたがかばっているその人は、アトキ国から違法出国した人なのですよ」


それを聞いた正也は心臓が締め付けられるような感覚がした。

あの時は確かに、怪しいという憶測だけで国を飛び出した。

だから、そんなふうに犯罪者呼ばわりされても、弁明できるか怪しい。


「いや、だけど―――」

「ちょっと黙ってろ」


なんとか言い訳を言おうとした正也の言葉を遮ったのはマツサカだった。

彼はこちらを振り返りもせずに静かに言い放った。

その迫力に、正也は次の言葉がうまく出てこなくなってしまった。


「お判りいただけましたか?なのでその方は私の国に連れ帰らなくてはなりません。私はそのためにアトキ国から正式に派遣された一級魔法使いです。こちらへ渡していただけますか?」


そう言いながらロンドは懐から紋章を模ったものを取り出した。おそらく身分証のようなものなのだろう。右腕は、魔法で止血でもしたのか、血は一滴も垂れていなかった。

正也は頭を必死に回転させた。

(どうする!どうする?!)

このまま逃げたとしても、またあのわけのわからないものにつかまれて終わり。魔力は底を尽きてる。魂力はまともに使えない。体力はあるが、相手のほうが多い。体力、魔力の訓練をしていると、目視で相手のだいたいの魔力、体力の総力がわかるようになった。しかしそれは現在において、正也の希望を打ち砕くようにしか働かない。

(なんとか、うまい言い訳を考えるしか―――)


「で?」


正也の思考を遮ったのは、またもやマツサカの一声だった。


「『で?』って、いやですから、こちらへ渡していただけませんか」


困惑しているロンドに、マツサカは無表情で向き合う。


「俺はなんで正式な手順を踏まず、誘拐を企てたのかを聞いるんだが?」


マツサカの冷静な指摘にロンドは言葉に詰まった。


「まあ大方の予想はつく。お前らアトキ国は魔人族が支配する国の一つの魔導国と戦争しているからな。戦力が足りなくなったか、異世界からこいつら4人を攫ったってとこだろう」


マツサカの指摘に、ロンドは何も言い返せず歯を食いしばる。

そして正也はマツサカからでた情報量に、言葉を発することができずにいる。

そんな二人を気にせず、マツサカは続ける。


「4人が異世界から来たことは見ればわかる。体からにじみ出る力の質が違うからな。正式な手順を踏まなかったのはよくわからないが、記録を残されるのが嫌だったのか?」


多少の相違があったものの大筋を当てられてロンドは引きつった笑みを浮かべる。

そして、ロンドはその場に大きな竜巻を発生させた。

その竜巻は砂浜の砂も、海の水も吸い上げ、徐々に大きくなっていく。


「学生と言えど、さすが高級術師ですね。今回は引きますが、いずれ必ず迎えに来ますよ」


そう言ってロンドは空を飛び、海の向こうへと消えていった。

その場に残され、目の前の大きな竜巻に狼狽した正也は、まず目の前の脅威、竜巻を何とかしようと、魔法を放つ構えを取った。

しかし、マツサカはそれを制止した。


「下手にあの竜巻に魔法を撃てば、それを吸収してより巨大になるぞ」


正也とは対照的に、冷静に告げるマツサカ。

そして一歩前に踏み出し、手のひらを竜巻にかざした。

すると、まるで紐がほどけるかのように、竜巻が霧散した。


「・・・あ!そうだあの人」


目も前で起きたことにあっけにとられていた正也だったが、すぐに逃げたロンドのことを思い出し、慌てふためく。


「追う、のは無理だから、警察?軍?先生?将軍?誰に相談すればいいんだ?とにかく早くしないと」

「まあ落ち着け」


マツサカはそう言って、慌てる正也の頭に手刀を置いた。

そしてステータス画面を開き、どこかへと連絡を取った。


「海での出来事だから連絡するなら海軍だ。それぞれの軍と警察の連絡先は今、教えるから登録しときな」


そう言ってマツサカは正也にステータス画面を開くよう促した。


「そっか、海での事件は海軍か」


マツサカが通報したのを見て、正也は落ち着きを取り戻し、ステータス画面を開いた。

そして、海軍、空軍、陸軍、警察、ついでにマツサカの連絡先をもらった。


「あとは海軍の人が、あの人を捕まえてくれるんですよね」


ステータス画面を閉じ、正也はマツサカに確認した。

しかし、マツサカの反応は鈍いものだった。


「まあ、そうだけど、今回は少し違うんじゃないか」


マツサカの言葉に、正也は再び焦りだす。


「え、ち、違うってどういうことですか?何か問題が?やっぱりあの人とか、アトキ国とかってヤバいんですか?」


そんな正也を見て、松かさは「違う違う」と首を横に振る。

そして、「さて」と手を顎に当て、一拍考えた後、正也に説明しだした。


「まずお前はここには俺たちがい誰もいないことに気づいているか?」


そうマツサカに告げられ、正也はハッとしたようにあたりを見まわす。

先ほどまであんなことが起きていたのに辺りには様子を見に来る人も、やじ馬も誰もいない。


「あんなことがあったのに、なんで」

「あ、いや、そっちは俺が隠密結界張ったから誰も気づいていない、気に留めてないだけ」


その言葉を聞いて、正也はマツサカに対する警戒心を高めた。

もしここでマツサカに何かされたら、今の自分では何もできない。さっきの人から助けてくれたのは邪魔ものを排除しただけなのかもしれない。

そんな正也の警戒は、杞憂に終わる。


「一生懸命魔法の練習してたみたいだし、邪魔が入らないようにと思ってたんだけど。あんな奴に見つかるとは、俺もまだまだだな」


「すまん」とマツサカが謝る。

そして「それはさておき」と話を戻した。


「平日とはいえこんなきれいな浜辺に誰もいなかっただろ?」


確かに、思い返してみれば正也が浜辺に来た時、人っ子一人いなかった。

また、マツサカによると、隠密系の術は認識させづらくするだけで、描けた場所に入らせないようにすることはできないらしい。

つまり、隠密結界は、人が来ない理由の半分の理由でしかないということだ。


「実はこの時期は、コザメ、という魚の繁殖期でね」


疑問に思う正也に、マツサカは話し始める。


「普段はおとなしいコザメだが、繁殖期に入ると同族だろうが自分より大きいものだろうが、なんにでも群れで襲い掛かる習性がある」


群れで襲い掛かる、というのは正確には、共食いしている横を通りかかったら、そっちに狙いを切り替える、ということらしい。


「なんにでも、というのが文字通りで、水辺に涼みに来た動物だろうが、空を飛んでいる鳥だろうが、何でもだ」


そう言ってマツサカは、ふっと、海のほうを見た。そしてそれにつられ、正也も海のほうを見た。

二人が見えたのは、浜からかなり離れたところで一か所だけ、狂ったように多くの魚が飛び跳ねている様子だった。


「俺がたまたま通りかかっていなければ、ああなっていたのお前かもしれない」


マツサカに言われたその一言に、正也は背筋の凍る思いをした。


「はやく離れよう。そして、もう二度とちゃんとした施設以外で練習するなよ」


マツサカに連れられ、正也は浜辺を後にした。

この一件以来、正也はマツサカに弟子してくれるよう頼みこんだ。

最初は渋られると思っていた正也だったが、マツサカはすんなりOKした。

何でも学校では上級生が下級生に教えることはよくあるらしい。さすがに師弟のような、一人にずっと教わるというのはないが、正也たちに限っては異世界から、ということもあり、教わる人は少ないほうがいいだろうということだ。


「まあ正式な師弟じゃないし、俺が嫌になったらさっさと見切りをつけて、ほかの奴に教えてもらうほうがいい。そのほうが互いのためだ」


本格的に教わる前に、マツサカは正也にそういった。だが、正也はマツサカに不満を持ったことはなかった。教え方は正直、上手いほうではなかったが、アドバイスが的確だし、何より面倒見がよかったからだ。おかげで正也はメキメキ上達していった。

だが、マツサカは体育祭前日に、正也に忠告した。


「明日の体育祭、少しでもまずいと持ったら、すぐにハチマキをその場に捨てろ」

「な、なんでですか?」


開口一番そう言われたため、正也は少し動揺した。


「明日の体育祭は開始はじめ10分くらいで、前に話した上級二人の戦いが始まる」


二人の上級のことは、以前話してもらった。あの学校の最高は上級で、生徒に限ればその上級すら二人しかいないと聞いたときは大変驚愕したものだ。


「その戦いで勝つのがどちらだとしても、その後すぐに大乱闘になる。お前は強くなったが、それでも異世界に来て一年もたっていない人、という前提、甘く見積もっても、一年生の中では、っていう前提がつく。まともに3,4,5生と戦えば、よくても骨折は免れない」


だから身の危険を感じればすぐに危険しろ、ということらしい。

しかし正也は、このときのマツサカの話を半分にしか聞いていなかった。

マツサカの下で鍛錬して、同級生の中ではそれなりの強さになった正也。

授業にも楽についていくことができ、友達との交流でも、相手に気を使わせることは少なくなった。

学校がだんだん楽しい場所だと思えるようになっていき、明日の体育祭も、きっと大丈夫だろうと楽観視していた。

そんな正也の驕りは、


―――バゴンッ―――


目の前で起きた刀同士の打ち合いによる衝撃波によって、粉々に打ち砕かれた。

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