23話 体育祭、開始
きょうの空模様は雲一つない快晴。心地よい風が吹き、暑くも寒くもない、絶好の日和。
だというのに、この部屋はいつになくあつい。隣を見れば友人が鷹の目のような目つきで前方をにらみ、反対側を見れば飢えた獣が極上の餌を見つけたように笑っている友人がいる。
そしてその二人に挟まれている男、正也も同じく興奮しており、腕を組み、目を血走らせながら笑みを浮かべていた。
クラス全体、いや、学校全体がすさまじい熱気であふれかえっていた。
それもそのはず、今日は多くの生徒が待ちに待った体育祭の日。その競技の内容のシンプルさとは裏腹に、毎年熱いバトルが繰り広げられている。その危険さゆえに外部から見学は一切禁止。実際に見るには、望遠鏡で見るしかない。詳しく知りたければ生徒か教師になるしかない。
と、言ったものの、それはこの世界のほとんどの学校が同じだ。
そんな熱気の中、凛花はクラスの中で一人だけ恐怖していた。
この世界に来て、魔法、体力、魂力など様々なことを学んだ。そして、学べば学ぶほど、その力の強力さや、危険さも見えてくる。自分がまだ周りと比べて未熟者ということもあるだろうが、凛花はそれらの力を使うことに躊躇していた。
しかし周りは違う。それらの力が生まれたころから当たり前にあったこの世界の住人は何のためらいもなくそれらを当たり前に使う。元の世界の人が当たり前に「火」を使うように。
そこまでならまだいい。凛花が恐れているのは一緒に来たはずの真司、宗司、正也もこの世界の人と同じように、頻繁に力を使おうとすることだ。
確かにこの世界に来てからこれまで、多くのことを学び、実践してきた。もはやあらかた基礎は収めただろう。しかし、こんな力、下手をすれば生身で人を殺せてしまう力を、いろんなところで使いたがっている3人には恐怖を禁じ得ない。何かにとりつかれているのでは?と思ったほどだ。精神力学の授業を学んだおかげで、ある程度憑りつかれた人の見分けはつくようになったので、3人が何かにとりつかれていないことは分かっているが、逆にそれが恐ろしかった。
『男子ってホント馬鹿だよね~』
ふと凛花の頭をよぎったのは元の世界での友人との会話だ。
そのときは確か、居眠りしている男子の後頭部にどれだけものを積めるか、という遊びをしていた男子を見ていて、それについて端から見ていた時にした会話だった。
あの時の自分に教えてあげたい。男子のいかれ具合はそんなものではないと。
凛花がここまで恐れている理由は、先日の自主練中に起きたアクシデントだ。
いつもの4人で公園で魔法、体力、魂力の練習をするのが習慣となっていたので、その日も油断していた。
宗司は普段、魔法陣を中心に練習するのだが、たまに詠唱や掌印も練習することがあった。その日は魂力を使って池の水を操ろうとしていた。
「・・・兵、者、前、臨、ハクション!」
印を確認していると不意にくしゃみが出て、あと一つのところで印が途切れてしまった。
不発だと全員がおもったその時、池の水が突然爆発した。
「大丈夫ですか!」
公園にいた様々な人が駆け寄って4人の心配をしたが、4人とも無事無傷だった。
しかし凛花はこのことが軽いトラウマになってしまった。
それ以来、基本的なエネルギー操作以外の回路を組む行為をするときにかなり緊張するようになった。
「君たち、気合は十分みたいだね」
体育祭開始30分前。クラスの担任、オグマ先生が教室の前でみんなに話しかける。
オグマ先生は、生徒一人一人の様子を観察するように見渡すと、再び口を開いた。
「正直に言おう。君たちは弱い。おそらく、ここにいる半分以上が開始一時間もせずに退場するだろう」
その言葉に生徒はだれも反応しない。話を聞いていないわけではない。凛花、正也を含めて、すべての生徒が、先生が入ってきたときから先生に注目していた。
おそらく、生徒たちの考えは半々だった。一方は当然のことを言われたという、納得と諦め、もう一方は先生と先輩に目にもの見せてやるという、やる気と挑戦。凛花は当然前者で、正也はどちらかというと後者の考えだった。
「しかし、勝とうが負けようがその結果にあまり意味はない。この行事は結果の良し悪しに対しての報酬が貧層だからね」
「え、そうなんですか?」
報酬の内容は事前には明かされない。
一応、カタログがあり、ハチマキを獲得した数にボーダーがあり、そのボーダー以下のものしか選べない。そして、商品には限りがあり、そのボーダー、ランクの中で、最もハチマキを獲得したものから商品を選ぶことができる。つまり、ハチマキを獲得すればするほど、獲得できる商品の種類が増える。
ということだけ、事前に明かされてはいるが、肝心のカタログ内容は明かされず、毎年大幅に変わる。単位数だった年もあれば、お金だった年もある。大企業への推薦状だったこともあった。逆に駄菓子だったこともある。この賞品も、このイベントの醍醐味であった。
ムジカ先生の言ったことをその桃受け取れば、今年の賞品内容はさして豪華なものではないということだ。そのため、クラス全体が騒然となるのは当然だった。
「誤解させてしまったね。賞品内容は当日まで校長先生と体育委員の4人の先生以外誰にも知らされない。選挙管理委員会である私は知らないんだ」
この言葉を聞き、クラスはまたざわめきだす。先生が何を言おうとしているのかみんな考えている。
「ただ、賞品が何であれ、それが今すぐ君たちの命を奪うものでも、人権を失わされるものでもない。それだけは確定している。報酬が貧層といったのはそういうことだ」
先ほどとは打って変わったクラスは静まり返っていた。
凛花は先日、友達にこの学校のことについて聞いたときのことを思い出していた。
この学校の先生は現役を退いた軍人か、現役だが非常勤の軍人がほとんど。噂だがおそらくムジカ先生は前者。そういうところを何度も見たことがあったのだろう。
「だからみんなには結果にこだわらず過程にこだわってほしい。戦略、思考、技、さまざまなことを学んでほしい。負けが許される機会なんてそうそう訪れないからね」
これだけ最後に話しておきたかった、といって先生は生徒に準備をするように言った。
生徒から上がっていたすさまじい熱気は収まっていた。しかしそれは、場が白けたわけでも盛り下がったわけでもない。皆が冷静さを取り戻したからだった。
先生が教室を後にするとみんなはそれぞれの場所に向かった。
この体育祭のスタート位置は自分で決められる。自分の有利な場所を探すことも競技の一部になっている。
「じゃあ、行こう」
二人の女子が凛花に近づいてきた。
二人の名前はアカネハナとアイナメ。凛花と正也のクラスメイトだ。
「うん。わかった」
そう言って凛花は立ち上がり、3人は教室を後にした。
3人は事前にチームを組むことにしていた。
朝に配られたハチマキは頭に巻いた瞬間に3人とも同じ色に変化した。これがチームであるあかしだった。
「とうとう始まるね。体育祭」
目的地に向かう途中、3人は話しながら移動していた。アカネハナは鼻歌を歌いながら今日の体育祭を楽しみにしていた。
「上級生もちろん、同級生の強さすら未知数。なるべく長く残りたいけど、残れるかしら」
「そうだよね」
アイナメの不安に凛花も同意する。しかし、2人の先を行っていたアカネハナは「何言ってるの」といって立ち止まり、振り返った。
「そんな暗いこと言ってないで優勝を狙いましょう」
その一切の不安のこもっていない声を聞いて、2人はアカネハナを見た。そして、凛花が「でも」と不安を口にしようとすると、
「大丈夫。これまで3人とも頑張ってきたんだから。2人とも期待してるよ」
そう言って親指を立てた拳を2人に突き出したアカネハナを見て、アイナメは笑った。
「フフッ、そうね。下手に不安になると動きも鈍くなるしね。今までの自分を信頼しましょう」
アイナメは前を向き、笑みを浮かべながら再び歩き始めたが、凛花はそう言われてさらに気が重くなった。凛花はこの世界の住人ほど頑張って生きてきた自信がない。また、この世界は元の世界より科学だけの側面を見てもだいぶ進んでいる。数学、物理、化学でおいていかれそうになったことは一度や二度ではない。それに加えて、物語のような力を当たり前に小さい頃がら使っている。
正直、自分がいたら足手まといになってしまうんじゃないかと心配だった。
だから最初、体育祭について聞いたときは、楽しむ、あるいは後学のための参考にできればいいな、くらいの意識で参加するつもりだった。
仲の良いアカネハナとアイナメを誘ったのもそれが理由。仲の良い友達と組んだほうが楽しいと思ったから。
しかし誤算があった。それは基本的に、というかほぼ全員の生徒がこの体育祭に真剣だったことだ。当然アカネハナもアイナメも同じだった。凛花は彼女たちに連れられて体力、魂力、魔力の特訓をよくしていた。
凛花はそんな二人を見て、凛花も今までより一層頑張ったが、先日の宗司の一件で完全に委縮してしまった。
先ほど、あんな事件があった後でそれでも力を使おうとする宗司、真司、正也をこわいといっていたが、それは半分の感情だ。もう半分は、あんなことがあっても変わらず力を使おうとする3人を、羨ましく思う感情だった。
一度、チームから抜けようとも考えたが、そのときにはアイナメが作戦を形にしていたため言い出せずにいた。こんな状態の自分といても、作戦がうまくいくとは思えないのに。
さっき、アイナメが上級生の強さを憂い多ときに、少しほっとしたように返事をしてしまったのはこれが理由だ。できるなら、作戦を実行する前に上級生、できるなら最高学年の5年生にやられたい。
「ついた。ここだよね?」
「そうよ」
3人が到着したのは中庭。4方を校舎で囲まれており、狙い撃ちされるには最適な場所のように思われるが、
「種目はハチマキ取りだから遠距離はあまり警戒しなくていいと思う。それより奇襲や八方ふさがりを避けたい」
「そうなの?遠くから気絶させて後でゆっくり、ってことは?」
「可能性はあるけど、かなり低いと思う」
「どうして?」
「ハチマキを取りにいかなきゃいけないから。自分が狙撃しやすかったところにのこのこ出てくる人はいないでしょ」
校庭や体育館などもアンに出たが、そこは大きな戦場になりやすいということで、最初からそこに陣取ることは難しいということになった。
「それにあなたの『意思疎通』、人間以外にも有効なんでしょ?だったら生き物が多きところがいいしね」
凛花が下校しているときに、一匹の野良猫を見つけた。その猫を撫でようとした凛花は「おいで~、おいで~」と、猫なで声で手招きした。すると、猫はそれまでやっていた毛づくろいをやめ、まっすぐ凛花のほうにやってきた。その様子に、凛花は大変ご満悦だったが、次の瞬間、
「なんか用?」
猫がぶっきらぼうに話しかけてきた。これには腰を抜かしそうになった。また、どうやらその声は凛花にしか聞こえていなかったらしい。
「それじゃあ集まって」
アイナメが凛花とアカネハナを呼んだ。中庭にはちらほらと人が集まってきている。
3人は円陣を組み小声で最終確認をした。
「あと10分で体育祭が始まる。陣形は凛花を私とアカネハナで挟むような形でとにかく攻撃を防いで、その間に凛花は中庭にいる虫で情報収集をして」
「うん」
「わかった」
「で、少し変更。みんなが消耗するまで待つ予定だったけど、アカネハナと私でなるべく早く中庭から人をなくす。できるだけここで1チーム対1チームの形の戦いに持っていく」
「わかった」
「え?」
急な作戦変更に凛花は困惑した。今までの作戦では一度情報収集をしたら3人で向かってくる敵を倒しつつ、ほかのところへ奇襲に行くだったのが、いきなり籠城作戦に変更になったのだから。
「なんでいきなり?」
「怖いんでしょ?回路使うの」
凛花は言葉に詰まった。ときどき思うのだがこの世界の人は他人をよく見すぎではないだろうか。それとも読心術でも使えるのだろうか。
「魔法陣を展開するときに魂が特に揺らいでいるから。回路を使うのが怖いのかなって思ったんだけど」
そういえば授業でそんなことを言っていた気がする。アミキリも言っていた。凛花はまだ魂力をうまく扱えないからわからないが。
(どうしよう。正直に言ってもいいの?だけどそれだと二人に迷惑がかかるかもだし、そもそも自分のメンタルの問題だし)
「大丈夫だって」
凛花がなんて言おうか迷っていると、アカネハナが凛花の肩に手を置いた。
「私たちを信じて」
それだけ言ってアカネハナは手を肩から離した。そして両手を思いっきりたたき、握り、「やろう」といって気合を入れた。
そしてアイナメとアカネハナは凛花を挟むように背中合わせで立ち、周囲を警戒した。
凛花はとりあえず今は体育祭のことを、二人が目指している優勝のためにできるだけのサポートをすることに集中した。
残念ながら今近くに小動物が見当たらないので、気は進まないが昆虫に話しかけるためにしゃがんだ。
「まだ始めないでね。違反になっちゃうから」
地面の蟻に向かって話しかけようとしたとき、アイナメが振り返って声をかけた。
中庭の時計に目をやると、始まるまで残り1分だった。
「時間になったら校鈴が鳴るから鳴り終わったら開始。それまで気持ちを落ち着かせるといいよ」
アカネハナはそう言って深呼吸を始めた。アイナメや周りの生徒たちは手や足をほぐしたり、屈伸などの準備運動をしている。
凛花も、片膝をつき目を閉じて瞑想した。
―――キーンコーンカーンコーン―――
鐘がなった。
この鐘の音を聞いて、凛花は驚き、空を見上げる。元の世界のものと全く同じだったからだ。
凛花は一瞬驚愕したが、そういえば、この世界には異世界からの転移者が稀に来ることがあるという話を思いだした。
―――キーンコーンカーンコーン―――
チャイムが鳴り終わる、と同時に凛花は地面の蟻に話しかけようとし、周りの生徒はお互いを攻撃しようと、あるいはハチマキを盗もうと走り出したり、魔法陣を展開しようとしたりする。アカネハナとアイナメはそんなやつらから防御を取ろうと構えたり、固有魔法を発動しようとした。
が、それらはすべて不発に終わる結果となる。
学校にいるすべての人間に、何んとも言い表しがたい悪寒が走る。
恐怖、絶望、死の予感。それらが一気にに全身を駆け巡る。
まるで心臓を握りつぶされているような、まるで猛獣の群れの中に裸では売り出されたような。
凛花はそんな錯覚すら覚え、その場で吐き、吐瀉物の上に倒れこんだ。
そうなったのは凛花だけではない。
中庭にいたアイナメ、アカネハナ含め、ほぼすべての生徒が気絶し、その場に倒れる。
一人二人は気絶を免れたが、その人たちは運が悪い。中途半端に強いせいで長く地獄を体験することになるからだ。
現に、その人たちは嘔吐し、その場に崩れこみ、凛花が気絶する直前に感じた感覚をかみしめ続けている。悪寒の原因はすでになくなっているが、余韻はいつまでも尾を引いていた。
「始まりましたね」
「うむ、これぞ体育祭って感じじゃ」
目の前の大きな画面を見ているオグマの一言にオルカは同意し、手に持っていた煎餅をかじった。
「ちょっと、せめて机の近くで食べてくださいよ」
そう言ってアークが煎餅のかけらが床に落ちる前にゴミ箱でキャッチした。
ここは普段は会議室、だが何かこういうイベントごとがあると、「本部」という名の先生たちのたまり場になる。
「固いこと言うな。食い終わったら掃除すればいいじゃろ」
「掃除をできるだけしないようにしたいんですよ!」
アークは怒って反論するが、オルカは「ガハハ」と笑い飛ばした。
「とりあえず座っては?せっかく机といすがあるんですから」
「おお、そうじゃな。ここのいすは座りごごちがよくてええわい。一個もらいたいもんじゃ」
会議室のいすはとても性能のいいソファーのようなものだった。高価かつ手入れが少々面倒なので、個人で持つことはあまりない。
オグマに促されオルカが椅子に座ると、アークも後を追ってオルカの前にゴミ箱を突き出した。
「なんじゃも~。鬱陶しいの」
「この椅子高いんですから余計に気を付けてくださいよ」
オルカの大雑把で無頓着な態度にアークはまるで母親のように怒る。
年齢的にも教員歴的にもオルカのほうが大先輩なのだが、それを歯牙にもかけずアークは注意し続ける。
「まあまあアーク先生、いいじゃないですか。あとで掃除するって言っているんでしょう?」
言いあっている二人の間に一人の麗しい女性、ケルナーが入ってきた。
ケルナーは、机を挟んで向こう側にある椅子から多少興奮気味のアークをなだめた。それを聞いたオルカも「そうじゃそうじゃ」と同調する。
「これは礼儀の問題です。端から見ていてぽろぽろとこぼしている様子は見ていて少し不快なんです」
年上の大先輩、美人の同僚、二人の意見に流されずアークはそうはっきり言いきったのだ。その間もオルカの胸元にゴミ箱を配置するのを忘れない。
「仕方ないの~、全く面倒だわい」
そう言ってオルカは手に持っていた、まだ半分近くある煎餅を一口で食べきると、アークからごみ箱を奪い、椅子の後ろへ置いた。机の上に置いてある煎餅の袋を取り、間食を再開する。今度は煎餅の袋を抱えながら。袋と口の周りに、風が起きている。
「―――――」
アークはそれを見ると何も言わず、オルカから少し離れたところに深く座り込んだ。
「大先輩にも恐れず、小悪魔の誘惑にも惑わされない。真面目だね」
オグマが先ほどのアークたちの一連のやり取りを見てそう独り言をつぶやく。しかし、その独り言はケルナーにははっきり聞こえていたらしい。
「ちょっと、誰が小悪魔ですって?」
この世界では悪魔は実在し、人に害をなす存在である。だから自分のこと悪魔と揶揄されればそれは侮辱されたも同然なのだ。ケルナーが微笑みながらも怒気を含んだ声でそう尋ねたのはそういう理由だ。
「おや、自覚がおありで?」
ケルナーの質問に動じず、少々挑発的に逆に質問を返した。二人の間に一瞬の沈黙が流れる。
「オグマ先生、教職についているものがそのようなことを言うのはどうかと思います」
その沈黙を破って、アークがオグマに注意する。
まっすぐとオグマを見るその目に毒気を抜かれ、オグマは降参とでもいうように片手をひらひらと上げた。
「確かに、今の発言は少し度が過ぎたね。すまなかった。許してくれ」
オグマはケルナーに頭を下げる。
そのようなやり取りが会議室の後方、生徒の様子が映し出されている巨大な『ステータス画面』と離れたところで行われていた。
「ちょっと!うるさいよ!生徒の活躍が聞こえないじゃない」
そんな四人の和気藹々?とした会話で一瞬忘れそうになったが今は体育祭の真っただ中。生徒各々が火花を散らし、創意工夫を凝らし、実力を発揮し、培ってきた力を武器に戦い、そして大半のものにとって、今の己の無力さを知る機会となる行事だ。つまるところ生徒がとても成長しやすいイベントなのだ。
生徒の成長は先生にとっても喜ばしいこと。カペラは体育祭見物に集中するため後ろの四人を注意する。
「おお、すまんすまん。で、今どんな感じじゃ?」
オルカはそう言って隣のソファー、ステータス画面に近いほうに移動した。
「今は数人の生徒が対峙していますね。ほとんどが4,5年制同士ですが1,2,3年もちらほら」
オルカの質問に答えたのはナイルだった。
ステータス画面には学校全体と誰がどこにいるかが顔写真のアイコンとして映し出されている。アイコンの縁は色付けされており、白は単独、白以外は同色の者同士がチームとなっていることを表している。生徒のほとんどが白で、今戦っているところのほとんどが白同士の戦いだ。
そんな中、一か所に相対する二人に注目する。
「新入生のアミキリか」
オルカはそう言って自身のステータス画面を開いた。そこにはアミキリと4年生のマツサカが向かい合っている様子が映し出されていた。




