17話 慣れは力
「それでは授業を始めます」
ナイル先生の挨拶を合図として、魔法学の授業が始まった。
しかし、今回は学校の体育館に来ていた。
教室の席順で並んでおり、一番前にナイル先生がいる。
「魔法は実際に使えるようにならないと意味がないので、演習と講義を交互に行っていく」
体育館は中の広さと外からの様子が一致せず、明らかに広すぎるところだった。何と言っても、屋根があったはずなのに、青空が広がり、山や崖がいくつかあった。
最初見た時は真司も宗司も驚いたものだった。今でも少し驚く。
当然、魔法で作られているのだろうと真司や宗司は考えていたが、魔力、体力、精神力すべて使って作られているらしい。なんでも、どれか一つのみで作ってしまうと壊れやすいんだとか。
「今回使うのは四元素魔法だ」
四元素魔法とは、火、水、風、土を操る魔法のことだ。基礎的な魔法だが、種類が多く奥深い魔法だ。
「先生、無、陰、陽の魔法は?」
「今回は禁止だ」
先生の言葉に一部の生徒が少し残念そうにしていた。
無、陰、陽の魔法は、どれもとても便利な魔法だ。
無属性魔法は様々な魔法に応用することができる。魔力の神髄のような属性で、ステータス画面などがこの分類に入る。
陰魔法も陽魔法も元々は四元素魔法と同じように、それぞれ、影、光を操る魔法を分類していた、カテゴリーの一つだったが、それに由来する魔法の幅がどんどん増えて、今ではほぼ何でもありのくくりになっている。
例えば陰魔法は、もともとは簡単に言うと影に干渉する魔法だった。
しかし今では極めれば、重力を自在に操ったり、この体育館のように空間を捻じ曲げたりできる属性になっている。
また、もともとは光に干渉するだけだった陽魔法は、極めれば、多くの生物を操る魔法や、瞬間移動、治癒魔法もこのくくりに入れられるようになった。
ただし、陽と陰はある程度ならだれでも身につけられるが、それ以上行くには才能が必要になってくる。
「それでは、今回の授業内容を説明する」
そういうと先生は体育館の地面に手を当てた。
すると、体育館にあった山や崖は消えて20×10に並んだ簡素な的が出てきた。
「2つの班に分ける。一つの班は的に向かって魔法を放つ、一つの班は休憩。時間は私が管理する。目標は一列の的のみを破壊する、もしくは列の最後から二つ目の的のみを破壊することだ。線より外に出ての魔法は禁止だ」
先生がさした線と、列の一つ目の的の距離は目測で10mはあるだろうか、的一つ一つの間隔も1mだ。
バイトで実際に魔法を使う難しさを知った真司は不安になっていた。
しかし、それに対し宗司はかなりワクワクしている様子だった。
「む、難しい」
今の言葉は真司の率直な感想だ。
魔法の知識はこの世界に来て、ある程度身に着けることができていたが、やはり実践となると別問題だった。
周りが魔法陣を即展開、即魔法発射とやっている中で、一人だけ空に魔法陣を書いている。また、発動できても、それが当たるかは別問題。的を壊すのは夢のまた夢のように思えた。まあ、周りも的を壊すことはおろか、傷つけることすらできていないのだが。
「やめ、交代」
だいたい10分くらいで交代するようだ。
次の人に変わった真司は宗司のほうを見た。
宗司と真司は別の班に分けられているため、真司は宗司が魔法を使うところを見学することができる。
真司は宗司が魔法を使う様子に驚愕した。
宗司はほかのみんなと同じように魔法陣を一瞬で展開していた。また、それだけでなく手を動かして魔法を打ったり、何かぶつぶつと唱えてから魔法を売ったりしていた。
うっていう魔法はすべて同じく火球だったが、宗司は短期間で、魔法陣、掌印、詠唱を使えるようになっていたようだった。
(すごいな、見習わないと)
宗司は真司のそんな視線に気づかず、的に向かって魔法を撃ち続けた。しかし、
「うーん、なかなか当たらないな。そもそも飛距離が足りない」
宗司の魔法は的に届く前に霧散してしまう。
今まで宗司は、夕食後に出かけては川や湖のほとりで魔法の練習をしていたが、安全を考慮し、あまり遠くまで魔法を届かせるという練習をしていなかった。
それが今回あだとなった。
しかし、今はどうすることもできない。なぜなら
「そこ、話していないで魔法をうっていろ。相談は休憩の時間にやれ」
このように先生に怒られてしまうからだ。
だから今は自分で考えるか、ただやみくもに撃つしかない。
真司は、この休憩時間に情報交換をしているようだ。
「みんな魔法使うのうまいよね。私はまだ、魔法陣を書くことろだから。なんか、魔法を一瞬で出せるようになるコツとかってある?」
「うーん、特に思いつかないな」
「とにかく使うことじゃない?」
「そっか。・・・あれ?日常でそんな元素魔法使う?」
「家事するとき使うでしょ?」
「さては外食や洗濯屋ばかり使ってるな」
「あははは、耳が痛い」
そんなふうに休憩がてら真司が友人であるシイラとハッカクと雑談していると、
「休んでいる間、魔割痛予防のために体伸ばしておけ」
と、先生から指示があった。
それに対し周りのみんなは「はい」と返事をしていた。
「なあ、体を伸ばすことで魔割痛が治るの?」
真司がふと疑問に思い、雑談していたハッカクに聞いた。
「ああ、理由は分からんが、伸びをすると明日魔割痛を防げるんだ」
「へー、そうなんだ」
真司は、この国に来て間もない、あの森と病院でのことを思い出した。
(あのときやっておけば、、、いや、どっちにしろ入院するか。それにしてもこの世界の食事は材料はどれも見たことがあまりないものだけどめっちゃうまいんだよな)
そんなことを考えながら真司はストレッチをした。
周りの友人を見ると、みんな伸びをするように足を180度に開いており、真司は驚きを隠せなかった。
「やめ、交代だ」
真司は再び的に向かって魔法を放つ。
友人との雑談の中にあったアドバイスやコツを意識死ながら魔法を使うと、多少威力や飛距離が上がった気がしたが、やはり的には届かなかった。
「・・・疲れた」
教室に帰ると真司はそう言って机に突っ伏せた。
周りのみんなも真司ほどではないにしろ、なんとなく疲労しているように見える。
「そういえば、お前いつの間にあんなに魔法撃てるようになってたの?」
真司は疲れた体を動かし、宗司の元へ行って周りにあまり聞こえないように話した。
「ああ、将軍のところへ体力の修業しているときから、図書館で魔法のことについては調べていたから」
「そうだったんだ。でも、本読んだだけで魔法ってあんなに使えるものなの?」
「本読んだだけじゃ無理だよ。それなりに練習したよ」
「どこで?」
「魔法が練習できる場所をたまたま見つけて」
「そうなんだ。俺も練習したいから教えて」
「わかった。かえったらな」
二人が雑談し終えると、ちょうど次の授業の号令が始まった。
学校が終わり、真司と宗司の二人はとある公園に来ていた。
「・・・着いた。ここ、ここ」
「広いな」
「これだけ広くなきゃ魔法は使えないだろ」
東京ドームが一個か二個入りそうな広さの公演だった。
公園内には大きな池や小高い丘、アスレチックな遊具もある。公園にいる人たちはそこで各々魔法を使っている。
「筋トレ的な感じなのかな」
真司は魔法を使っている人を見て、元の世界で公園などで鍛えている人を連想した。
「何が?」
急に脈絡の貝ことを言われて宗司は真司のほうを見て首を傾げた。
「魔法を使うのが」
「どういうこと?」
続きを聞いても真司がないを言いたいのか分からなかった宗司は、再び真司に質問した。
「いや、筋トレは筋肉を酷使することで力をつけるでしょ。魔法も同じように使うことで魔法の威力が上がるのかなって」
そこまで聞いてようやく宗司は真司が何を言いたいか理解できた。
「そうかもね」
そう言って宗司は話を終わらせて魔法の訓練を始めようとした。
しかし、真司は「それに加えて」といってまた話し始めた。
「ここで筋トレしている人たち、あの人たちが元の世界での家の近所の運動公園で運動しているおじさんたちと重なった」
「ああ、そう」
真司の付け加えられた話に全く興味が持てず、宗司は適当に相槌を帰した。
そしてさっさと始めようと、真司がそれ以上何かを言う前に話し始めた。
「さて、じゃあ練習しようか。ちゃんと持ってきた?」
宗司は真司を大きな池の前に連れてきた。
「ああ、持ってきたよ」
そう言って真司が斜め掛けの鞄から取り出したのは、最初に将軍からもらったあの杖だった。
「最初は杖で撃って魔法を撃つ感覚になれることかな」
「今日、素手でも魔法は撃てたよ」
「魔法陣が書けたらだれでもあれくらい勝手に出るよ。それだけじゃ不十分だから体内で魔素を巡らせるの」
「へ―そうなんだ」
一応説明しておくと、真司たちが将軍からもらった杖は使用者の魔素を体内で自動で循環させ、魔法の威力を上げるための魔具。
まさに今回の練習にうってつけのものだった。
「そっちの二人も分かった?」
「わかったよ」
「大丈夫」
宗司の質問に返事をしたのは凛花と正也だった。
「でも私は魔法陣の暗記をしないとだから、魔法を撃つ練習はまた今度で」
「俺は杖をなくした」
正也の言葉に宗司はあきれたが、特に何も言うことはせず魔法の練習を開始した。
宗司が特に何も言わず練習を始めたので、真司もあわてて練習を開始した。
真司は授業はじめと比べて、格段に魔法陣の書く速さは上がったが、まだ宗司のように一瞬で魔法陣を展開することはできなかった。
凛花は持ってきたノートとペンで魔法陣の練習をはじめ、正也は素手で魔法を発動する。
ちなみに正也は真司と同じように魔法陣を書いて魔法を発動させていた。
真司は杖を使って魔法を使い、少し感動していた。
明らかに素手で使うよりも魔法が撃ちやすく、威力、飛距離ともに上がっている。
真司は夢中で魔法を撃ち続けた。
「なあ、そろそろ帰らない?」
真司と宗司はそう声尾をかけられるまで魔法を撃ち続けていた。
声をかけられた真司と宗司は声の主、正也のほうを振り返った。
気づくとあたりは薄暗くなっており、さっきまで宗司の火魔法があたりをほんのり照らしていた。
「ああ、ごめんごめん。すっかり夢中になってよ」
真司は杖を下ろしてあたりを見わわしながらそう言った。ふと底であることに気付いた。
「あれ?凛花は?」
「先に帰ったよ」
「「え?」」
真司と宗司は同時に驚きの声を上げた。
その様子を見て正也はか切れてため息をついた。
「え、じゃないよ。一時間くらい前に佐藤は俺たち三人に帰るって声をかけてたでしょ」
「あ、あ―そうだった」
宗司はその時のことを思い出したようだったが、真司は全く気が付いていなかった。
「まったく、ほら、帰るよ」
「ああ、わかった」
こう長くこっちの世界で学生として過ごしていると自分や周りの年齢を忘れるような感覚になることがあるが、やはり自分より背丈が小さい子に怒られるのは恥ずかしくもあり情けなくもある。真司はその感情をごまかすかのように頭をかきながら正也に返事をした。
そしてそれは宗司も同じだった。
「おかえり」
寮に帰って直接食堂を向かった3人に向かって凛花は食事をしながら挨拶した。
「ただいま」
やはりいつ食べてもここの料理はおいしく、真司と正也が舌鼓を打っていたが、宗司はなんだか悩んでいるようだった。
「どうかしたか」
「いや、僕ほぼ毎日あそこで練習しているんだけど今日の授業で的に当てられなかったのがショックでね」
宗司は額に手を当てながらため息をついた。
「そう落ち込むなよ。俺も含めて当てられなかった人はちらほらいただろ。それに、俺たちは魔法を使い始めて日が浅いんだからさ」
「そうだな」
宗司はそれだけ言って食べ始めた。
食事を終えて部屋に戻った真司は、友人の言葉を思い出し、ステータス画面を開いてあるものを探し始めた。
「あったあった」
真司が見つけたのは宿泊施設のバイトだった。
(家事のときに魔法使うならここで使い方のノウハウ学べるかな)
寮では指定の場所に出せば洗濯もしてくれるため家事をする機会がはとんどなかった真司は、四元素魔法のスキル向上のため、そのアルバイトをすることに決めた。
宿泊施設のバイトは今週の休み、さすがにそれまで何もしないのはいかがなものかと考えた真司は、明日的に当てることができていた友人に指導してもらうことに決め、一日を終えた。




