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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
16/52

16話 戦いの気配

真司は緊張していた。この世界にて初めて仕事をするからだ。元の世界ではそれなりにやってきたが、この世界ではどうなるかわからない。常識も価値観もそれなりに違うこの世界で自分はうまくやれるかとても不安になっていた。

今回体験する仕事で、その思いは一層強くなることになる。

真司が行う仕事は、とある店の裏での商品の整理の手伝いだった。

そこには同じく『海の国派遣会社』から来た人が2人ほどきており、その中にカイチがいた。


「やあ、お前もこの仕事しに来たんだ」

「この仕事は給料がいいからね」


二人は軽く挨拶を交わすとそれぞれの持ち場に着いた。

真司は運ばれてくる箱の中から商品を取り出し、その商品内容と数が一致しているか確認する作業を担当している。


(これ、地味にきついな)


真司は積みあがった箱の前に心の中でつぶやいた。


「手伝うよ」


ふいに後ろからそう声をかけられ、真司は振り向いた。

声をかけてきたのはカイチだった。


「ありがとう。けど、自分のところは?」

「もう終わってる」


そういうとカイチは真司の横で作業を始めた。

カイチの手際はよく真司の半分ほどの時間で1箱を片付けていった。


「はやいね」

「慣れてるからね」


このとき、真司はかなり気まずい思いをしていた。

学校では同じクラスだが、カイチは授業が始まる直前に登校し、放課後はいつの間にかいなくなっている。要するにかかわる機会がほかの人と比べて少ないのだ。

また、たまに昼休みに話すこともあるが、これまでで分かる通り受け答えが簡潔なのだ。簡潔すぎてあまり話が続かず、続いたとしてもこちらが一方的に話すだけなので、カイチのことはほとんどわからないのだ。

今でも、二人は横に並んで黙々と作業をしている。

ふと、真司がカイチのほうを見ると作業スピードがものすごく速いことに気が付いた。

カイチの周りでは商品が箱から一つ一つ浮いて所定のかごに次々と入っていった。カイチはそれを数えているようだった

それだけならまだいいが、その流れる速さがかなり速い。

真司がギリギリ目で終えるかという速さだった。


「ね、ねえ、ちょっといいかな」

「どうした」


カイチはこちらを見ずに返事をした。気のせいか少しだけ商品の速度が遅くなった気がした。


「その、もの浮かせるのってどうやるの?あと、そんなに早くて大丈夫?数えられてる?」

「もの浮かせるのは前の仕事で教えてもらった。あと、体力を見に集中させればこの速さでも大丈夫」


カイチが言い終わると商品が流れる速度が速く、元の速度に戻っていった。


「・・・もし、よかったら、そのやり方教えてくれない?」

「これが終わったらな」


やはりカイチはこちらを向いてはくれなかった。


「―――魔法陣はそんな感じでいい。あとは慣れ。目のほうもな」


今真司たち3人は休憩室で休憩していた。

カイチはあれから10箱ほど終わらせている。

あの一箱を終わらせたことを確認した真司は教えてもらうためにカイチのほうを向いたが、カイチは次の箱に取り掛かってしまった。

そのことに驚きつつも質問すると


「まだ就業時間は終わってないだろ」


と、一蹴されてしまった。

どうやら「これが終わったら」は「この時間が終わったら」という意味だったらしい。

推定年下に正論を言われた真司は羞恥で今すぐこの場から逃げ出したくなった。

休憩時間になると約束通りカイチはやり方を教えてくれた。

何気に真司にとって初めての魔法陣を使った魔法だった。

魔法陣の使い方は指に魔素をため、使いたい魔法の魔法陣を使いたいところに書くだけというシンプルなものだった。

ただ魔法陣のきれいさによって精度も変わってくるという。

なかなかうまくいかず四苦八苦し、カイチにアドバイスを求めると


「力みすぎ。ある程度魔法陣の形を頭の中で描けているなら魔素がその通りに導いてくれる」


とのことだった。試しにやってみると確かにその通りだった。

しかしこう魔法陣を描いていると疑問が一つ浮かび上がる。


「今まで見たことあるのは、こう、一瞬で魔法陣展開してたけど、あれは何だったんだろう」

「・・・」


カイチは黙ったままだった。


「?・・・カイチ、さん?」

「ん?ああ、わからない。それは俺にはできないことだった」

「慣れだよ」


声をしたほうを振り向くとこの店の店員がいた。


「お疲れ」

「「「お疲れ様です」」」


真司は立ってお辞儀をしたが、ほかの二人は目線を向けてあいさつするだけだった。

店員は休憩室の席に着くと先ほどの話の続きをした。


「さっき、魔法陣を書くとき魔素が導いてくれるって言ってたでしょ?」

「えっ、ああ、はい」

「それの応用というか、発展というか、だいぶ魔法陣を使って、魔法陣にも魔素にも慣れてくると使いたい場所に魔素を流して魔法陣を思い描くだけで魔法陣が書けるようになるんだよ」

「へ~そうなんですか」

「まあ、そこまで行くには何かをしながらでも魔法陣がはっきりと思い出せるくらい使い続ける必要があるけどね」


そういうと店員は椅子の横にあったカバンの中から水筒を取り出し水を飲み始めた。

真司は「ふー」と息を吐いて伸びをし、学校でのことを思い出した。


(あのレベルの魔法陣を覚えて使い続けるのか―。・・・難しいな)


思い出していたのは、ナイル先生が授業内で話していた小話で出てきた複雑な魔法陣だった。

円が2,3個重なっており、円内に多くの線が引かれ、円周に沿うように円内に読めない文字が書かれているものだった。

あの魔法陣が何のためのものだったかは忘れてしまったが、昔の人はそれを常用していたらしい。

自分にはまだまだ難しいと考え、カイチから教わった魔法に慣れようと、体力を目に集中させ、魔法陣を改めて書こうとしたとき、店に怒号が響いた。


「おい、どうなってるんだ!!」


素の怒号に、休憩室にいた一同は体をこわばらせ顔を怒号のしたほうへと向けた。

休憩室の外、おそらくレジのところから消えてきたと思われる。


「な、何?」

「苦情だろうけど、どっちだろうね」


店員は席を立つとレジのほうへと向かった。

残された3人も、好奇心から店員の後でレジのほうへと様子を見に行くことにした。

大方の予想通り、レジ前で一人の客がレジにいる店員に怒鳴っていた。


「お前この店の店員ならそれくらい知ってろよ!」


そのクレームの内容を聞いて真司はあきれ返ってしまった。


「なんで向かいの店が閉まってんだよ」

「・・・はぁ?」


思わずそう声を漏らしてしまった。

幸いその声はクレーマーには聞こえていなかったようだ。クレーマーはいまだにレジの前店員に怒鳴り散らしている。

一応言っておくが向かいの店と今真司が働いている店には向かいにあるということ以外、ほとんど関係がない。系列店というわけでも姉妹店というわけでもない。何なら、扱っている商品すらまるで違う。

まあ、お客がここまでヒートアップしているのはレジ店員の態度も原因の一端ではあるだろうけど。


「そおっすか、そりゃ大変っすね」


終始こんな感じで返されればお客があそこまで怒鳴るのも、少しだけ、わからなくもない。


「野次馬根性とは、あまり感心しないね」


後ろから声をかけられた真司が振り向くと、さっき休憩室で話していた店員がいた。


「どこ行ってたんですか」

「通報しに行ってたの」


カイチの質問にそう答えた店員は、怒鳴っている客に話しかけた。


「お客様。ここではなんですので場所を移しませんか。案内いたします」

「なんだ、お前は」


お客は店員のほうをにらみつける。

店員はお客のそんな様子にひるむことなく会話をつづけた。


「申し遅れました。わたくし、この店の副店長を務めております、カイヤンと申します」


それを物陰から聞いていた真司は少し驚いた。


(あの人、副店長だったのか)


ふとカイチのほうを見ると、特に驚いた様子はなかった。

真司はカイチに小声で尋ねた。


「カイチは、あの人が副店長だって知ってたの?」


カイチは少し呆けたような、飽きれたような顔をした。


「名札見なかったのか?」


真司は恥ずかしくなってカイチから目をそらせ、再び店員、もとい副店長とお客のほうを見た。


「だから、お前じゃなくて店長呼べよ。客が呼んでんだからどこにいようが来い」


どうやら、今度は店長ではなく副店長が対応していることに怒っているようだ。

真司は警察が一刻も早く来てくれることを心の底から願っていた。


「どうしても、話を聞いてはくれませんか」

「あ゛、だからでめーじゃ話にならねえっつってんだろうが!」

「それでは、仕方ありませんね」


そういうと副店長は、いきなりお客の鳩尾に綺麗に一撃を食らわせた。

それはまさに一瞬の出来事で、お店の中が殴った音を合図に、しんと静まり返ってしまった。

その音は何とも聞くに堪えない音で、こちらまで痛くなってくるようだ。

そしてお客は声にならない声を出して倒れ、そのまま動かなくなった。

その様子を見ていた真司は、一瞬何が起きたのか分からず放心状態になってしまったが、何とか現状を飲み込み、お客の安否を確認しようとした。

しかし、背後から肩をつかまれ、それをすることはできなかった。


「え?」


真司は、カイチのほうを振り返り、そんな声を出した。出したというより、勝手に出てきた、のほうが近い。

真司は、カイチがなぜ止めたのか分からなかった。

カイチは、目を細めながら副店長とお客のほうを見ている。

そのとき、”ドン”と、床に重いものがたたきつけられたような音がした。

真司がその音のほうへ目をやると、副店長が柔道の背負い投げをした後のようなポーズをしていた。

まるで、空気を背負い投げした後のようだ。

いや、よく見ると、店長の足ものに、何か、黒い靄のようなものが見えった気がした。

それが何なのか分からず、真司は目を凝らして、それを見ようとした。

しかし、副店長がその黒い靄に強烈な右ストレートを放ち、黒い靄を消滅させてしまったため、それが何なのかは、結局わからないままだった。

副店長の拳と店の床は接触しており、店の床にはひびが入っていた。

それを見た真司は、いまさらながら、”バキッ”という音がしていたことを思い出した。


「よっこいしょ」


副店長はお客を担ぎ上げて休憩室に行こうとした。

真司は聞きたいことがいろいろあったが、頭の中で整理がつかず、とりあえず、副店長を追って休憩室に向かった。カイチも真司の後から休憩室に向かった。


「よっこいせ」


休憩室に着いた副店長は、そこにあった座椅子にお客を寝かせた。


「だ、大丈夫なんですか?」


真司は、副店長が下したお客を見ながら尋ねた。


「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと加減した」


副店長は、伸びをしながら真司のほうを振り返った。


「いや、加減したから、じゃなくて、警察にどう説明したら」

「まあ、万が一警察沙汰になったら、正当防衛か営業妨害で戦えばいいでしょ」


副店長の言葉に真司は違和感を覚えた。


「万が一?さっき警察呼んだのでは?」

「へ?呼んでないよ?」

「え?さっき、通報したって」

「ああ、あれ?あれは役所に報告して救急車呼んでただけだよ」

「え?救急車?じゃあ、初めからお客様をこうするつもりだった、ってことですか」

「そうだけど?」


あっけらかんとした返事に、真司は口を開けて固まってしまった。


「あの、自分からも質問いいですか?」


真司が固まっているすきに、今度はカイチが質問した。


「どうぞ」

「こんなことして店の評判やあなたの評価は大丈夫なんですか?」

「記録は取ってあるから大丈夫だよ」


防犯カメラのようなものがあるらしい。それを聞いた真司は、ほっと胸をなでおろした。


「そうですか。それと、副店長がそちらの肩を殴ったときに、何か靄のようなものが見えた気がしたのですが」


カイチは淡々と副店長に質問していく。

そしてカイチが今の質問をした時、副店長は少しだけ黙ってしまった。


「君らは今学生だっけ?」

「「はい」」

「何年生?」

「「一年です」」

「じゃあ、まだあまり詳しくやってないか。超簡単に言うと、お客さんに低級呪霊がついていたからとっちめたの」

「幽霊がついてたんですか?」


真司はオカルト的な話は結構好きだが、それを信じているかといわれたら微妙なところの人間だった。

だから、今しがた起こったことも、副店長の説明もうまく受け入れられなかった。


「幽霊じゃない。呪霊」

「じゅ、呪霊、ですか?」

「そう」

「それは、違うものなんですか」


副店長が否定した真司の「幽霊」というのと「呪霊」の違いが分からない真司が持った疑問をカイチが代弁してくれた。


「うーん、簡単に言うと、魂があるかどうかかな」

「も、もう少し詳しく教えてくれませんか?」


副店長の超簡単講座では理解できず、さらなる説明を求める真司とカイチだったが、それはかなわなかった。


「ダメだ」

「どうしてですか」

「もう休憩時間が終わる。救急車も来たようだしね」


耳を澄ませると、確かにサイレンが聞こえてきた。

二人はあきらめて自分の持ち場に戻っていった。

あと一人は、いつの間にか持ち場に戻っていた。

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