14話 力は体力だけじゃない
4人が学校に通い始めて1ヶ月、そして、将軍との体力操作のトレーニングを始めて1ヶ月経った。
「4人とも、基礎は十分できるようになったな」
そう言って将軍は4人を感慨深く見た。
4人の手にはバレーボール大の攻丸があった。
「将軍の指導のおかげです。ありがとうございました」
そう言って真司が頭を下げると、ほかの3人も「ありがとうございました」と頭を下げた。
「我が教えられることは教えた。あとはそれをどれだけ継続させられるか、生活の中でどれだけ応用できるかだ。訓練を怠るな。また何かあれば連絡するといい」
将軍は帰り際にそういって4人を見送った。
「ようやく、長くつらい修業が終わった」
そう言って正也は嬉しそうにこぶしを握りしめ、涙を流した。
「そっか、あなたはここに来るまで引きこもっていた特につらかったんだ」
「ひきこもりじゃねえ」
正也の感涙に凛花は一瞬驚いたが、理由を推察して納得した。しかし、それを正也がすぐさま反論する。
そしてその様子を真司がなだめた。
「まあ、まだ基礎を押さえただけだけどね。この国の人ならこれくらいは小学生くらいの子でもできるらしいし」
それを聞くと正也は露骨にがっかりしたが、すぐに気持ちを切り替えた。
「まあ、扱い方を覚えれば、あとは体力を意識して運動するだけでいいし、大丈夫だろ」
「そうだね。お互い、頑張ろうね」
「ああ」と正也は答えたが、正也が運動を日課にできるかは怪しかった。
正也は元の世界では一日のほとんどの時間、自室にこもり趣味に充てていた。
外に出るのは食事の買い出しと調理、そしてトイレのときのみだった。
正也の両親は多忙で、家を空けている時間が多かったため、そんな正也の生活に気付けずにいた。
そのころの生活の余韻が残っており、正也は学校とトレーニング以外で外に出たことはない。
「友達はいないのか?一緒に遊びに行くさ」
「いや、まだ」
「まあ、まだ一か月だもんな」
真司は正也が心配だった。
どことなく真司の弟に似ていたから、重ねていたのかもしれない。
しかし、真司も修行で友達と遊びには行けず学校で多少話す程度の知人しかいない。というかそもそも、遊びには誘わず誘われずといった一か月間だった。
もちろん、真司と話した相手は真司とは普通に友達だと思っているし、何か忙しそうだということも察してはいたが、真司はここ1か月友人から誘われなかったことを気にしていた。
そのことを宗司は知っていたが、それについて特に何か言ったりはしなかった。
4人は雑談しながら寮に帰り、各々の部屋に戻っていった。
「・・・疲れた」
部屋の扉を閉め、暗い部屋の中で手明記をつきながら宗司はつぶやいた。
宗司はこの一か月が苦痛だった。いや、苦痛というといいすぎかもしれないが、好きな時間ではなかった。
宗司は基本ときに一人のほうが好きなタイプの人間だった。
他の人が、次の瞬間に何をするかわからない理不尽な生物としか見えていない。
宗司は、その理不尽が自分に向かないように対人スキルを磨いてきたが、本当の自分以外を演じるのはかなり疲れる。
食事から帰った宗司は、シャワーを浴び、寝間着に着替えた。
「・・・ふーう」
宗司は椅子に腰かけると、机にあった一冊の本に手を伸ばした。眠たくなるまで何か本を読むのがこの世界に真司が来てからの日課となっていた。特にジャンルや内容に指定はない。ファンタジー、ホラー、日常、サスペンス、ノンフィクション、さまざまなものを読む。
『本なんか読んでいる暇があるなら勉強するか、さっさと寝なさい』
親はいつもそう言っていた。自分の学歴にコンプレックスがあったのか、宗司たち兄弟に勉強を強要していた。あの時読めなかった本。あの時の時間をとりも土曜に一枚一枚丁寧にめくっていく。結果、眠くなるまでと言いながら、一冊丸々読破した後で眠りにつく。それが、この世界に来てからの日課だ。
翌朝、宗司は朝の音楽より一瞬だけ目を覚まし、朝の身支度をしていた。
朝ご飯を食べるために下へ降りると、ほかの3人はすでに食堂前にいた。
「おはよう」
他の3人とあいさつを交わし、宗司も朝食をとる。
「最近、凛花と正也早起きだよね」
「なんかね、朝結構すっきり目覚められるんだよね」
「体力操るために運動したのがよかったんじゃない?」
正也と凛花は体力のトレーニングを始めてから、生活習慣が改善されてきていた。
「しかし、たった一ヶ月で腹筋が割れるようになるなんて、体力を扱うってすごいね」
そう言って正也は自分のおなかをさすった。
最初のころはトレーニングをしていてもすぐにへばってしまったいたが、体力を感じ、少しでも操れるようになったころからみるみる体に変化が生じた。
あまりの変化に何かの病気を疑い、病院に行ったり将軍に相談したりした。結果は両方共から「健康」ということを笑いながら伝えられただけだったが。
その後4人は朝食を終え、電車に揺られながら登校した。
クラス内は、登校初日とは打って変わって、ほとんど登校している人はいなかった。
だいたい始業時間ギリギリにみんなが一斉に来ている。
どうやら瞬間移動系の術を使って登校しているようだが、残念ながら4人は宗司以外使える人がいないうえに、宗司は将軍からの『固有魔法はむやみに人に見せないほうがいい』ということを守っているため、4人仲良く電車で登校している。
始業時間近くになり、クラスのみんなが教室に入ってくる。
そしてみんなが席に座るな否や、教室に教師が入ってきて授業が始まった。
今日の一限目は「精神力基礎」だった。
「おはようございます。それでは授業を始めます」
担当の教員はケルナーという女性で、額から2本の角が生えていること、背中に蝙蝠のような翼があることを除けば、普通の西洋人女性のような見た目をしている。
「前回までで、魂の存在の大まかの証明とその魂から漏れ出る精神力のことについてやってきました」
詳しい証明は難解なため省くが、どうやらこの世のすべての生物には魂が存在しており、感情は魂から漏れ出た精神エネルギーであるという。
この精神エネルギーは電気や熱、体力と同じように理論上互いに変換できるらしい。
ちなみに学校的に正しい言葉は精神エネルギー、精神力なのだが、それだと根性論みたいなので普通の人はたいてい『魂力』といっている。
「しかし精神力のことについてはまだ謎が多く今でも電気や熱を精神力に変換することは機械的にはできないんです」
また生まれながらに精神力をほかのエネルギー形態に変換するのも一部の人しかできないらしい。
生まれながらにそれができる人たちのことを「呪術師」や「超能力者」と呼ぶらしい。
「というのが前回までの内容で、20年前の常識でした。現在でもほかのエネルギーから精神力変換することは難しいですが、一般の人でも精神力を多く生み出し、それをほかのエネルギーへ変換する技術が確立されていますね」
そういうとケルナー先生は生徒全員に一枚の紙を配った。その紙には意味不明な模様が描かれていた。いつも魔法が使われているときに見るような円形のものとはまた別のものだ。寺や神社で見るお札に近い。
その後先生は教室の前にあるスクリーンを下ろした。
「といってもそれはものすごい機械を使うわけじゃなくて一般人でも『呪術師』や『超能力者』になれるって意味なんですけどね。今配った紙は一定量の精神力を流し込むと光る回路が編まれています。流し方は口では説明しずらいので、4回ある授業の中でなんとか自分なりのコツを見つけてください」
始めてください、という先生の合図とともに生徒は思い思いの方法で紙を光らせようとした。力んでみたり精神統一してみたりと、皆それぞれの方法を試行錯誤していた。
「先生光りました」
「え、どうやるの?全然光らないんだけど」
そのうち数人の生徒は神を光らせることに成功し、その周りの生徒が光らせた生徒にコツややり方を聞こうとした。
「えっと、たぶん感情を高ぶらせながら魂力を巡らせるといいのかな?めっちゃ楽しかったことを思い出しながらやった」
「え?そうなの?俺は何も考えないで精神統一したらできた」
「俺はすげーむかつくこと考えたらいけた。でも光の色が違うかな」
光っている紙を見るとある人は黄色、ある人は青と、二色に分かれていた。
先生にそのことを質問しても「こういうのは先入観を持たせるとあまりよくないから」と、生徒全員が紙を光らせるまで口を閉ざした。
だがほとんどの生徒は魂力を扱ったことがあるのだろうか、すぐに光らせることができていた。残りの宗司、真司を含めるうまく光らせられなかった4,5人のために多くの生徒が待っているという状況がすぐに出来上がった。
しばらくして生徒全員が紙を光らせることに成功すると、先生が再び話し始めた。
「その紙はすごく簡単に言うと怒りとか悲しみとかの負の精神力が流し込まれると青く光り、喜びなどの正の精神力や精神統一などして生み出された純粋な精神力を流すとき色に光ります。これは正の精神力と純粋な精神力が同じことを意味しています。今皆さんは紙を光らせることができましたが、それは長くて10秒くらいだったかな?なのでこれからはそれをなるべく長く、最低でも1時間は光らせられるようにします」
先生の言葉に生徒は「え~」と声を漏らした。感情を高ぶらせるにしろ精神統一をするにしろそう長く続かせるのは大変だからだ。
「え~って言わない。その紙を一時間光らせないと話になりません。それが国から依頼された内容なんですから。授業概要見ました?文句なら国に行ってくださいね。がんばってください。さて、では残りの時間は動画を見ます。その動画が流れている最中はその紙を光らせ続けてください」
先生が言い終わるとスクリーンに動画が流れ始めた。クラスメイトはそれぞれ紙を光らせようとしたが、なかなか長く光らせられず、あちらこちらで点滅していた。
一時間目が終わり、次は二時間目の「数学」だった。
一時間目の終わりに動画が途中で中断された時にクラス全員の神が一瞬同時に光ったのを見た時、先生と一部の生徒が少し噴き出していた。
数学は元の世界と同じく10進数で行われていた。そこまではよかったが、やっている内容が難しく、真司は現在の対数のところで躓いている。
最初、数学がないと凛花から聞いていたため、数学の教科が始まった時場驚いたが、後日、凛花の授業でも数学が始まったらしく、涙目になっている凛花を見て、何も言えなくなった。
昼休みに入り生徒は学校に併設されている衝動へ行ったり、弁当を買ったり、中には近くの店に買いに行ったりしている人もいた。
「数学難しいよ~。まじでわかんない」
真司が食堂でそうつぶやいていた。
「私も」
真司の近くで凛花が親指を立てて同意していた。
いつもの4人は固まって食事をしていたが、近くにいたのは4人だけではなかった。
「じゃあ、俺教えようか?」
そう声をかけてきたのは副学級委員長のアミキリだった。
「マジか、頼む」
アミキリの提案に真司はすぐに飛びついたが、ほかのクラスで交友も全くない凛花はとまどっていた。
「ああ、この人は同じクラスのアミキリさん。・・・パッとはしないけどいい人だよ」
「おい」
凛花の様子に気が付いた真司がアミキリの紹介をし、その紹介内容にアミキリが突っ込んだ。
凛花はその様子に笑みをこぼし、真司と一緒に数学を教えてもらうことに決めた。
「正也も一緒にどう」
「俺は大丈夫」
真司が正也にも声をかけたが、正也はそれを遠慮した。かなり食い気味に。
「でもお前勉強苦手って言っていたじゃん」
「大丈夫」
「授業中寝てなかった?」
「大丈夫」
「何がだよ」
真司と凛花が何を言っても正也は「大丈夫」としか言わなくなってしまった。
どうやらどうしても勉強したくないらしい。
「あのなあ、お前―――」
「もうやめとけ、この手のやつは一回痛い目を見ないとわかんないよ」
あきれた真司が正也にきつく言おうとしたとき、アミキリはそれを止めた。
「うーん、じゃあほんとにやばくなったら言えよ」
「はいはい」
真司は最後まで心配していたが、正也は軽く考えていた。
昼休みが終わり、3限目は「魔法基礎」の授業だった。
担当の教師はナイルという人で、白目に当たるところの色が青くなっており、額から2本の鋭い角が生えている。また、妙な威圧感があり、ナイル先生の近くにいると体がピリピリする。
「それでは授業を始めます。前回までで魔法発動に必要なものとその解説を行ってきました」
魔法を発動するためには魔素と回路というものが必要らしい。
魔素を回路に流すと魔法が発動するらしい。
魔素とは空間中に充満しており、特別な刺激を与えるとさまざまな現象、物質を操作、模倣する性質があるらしい。
多くの生物は魔素を体内に積極的に取り込む器官を持っていないらしく、空間中にたくさんあるといってもそれを使って無限に魔法を使うのは難しいらしい。
たいていは魔素が体内にしみこむのを待つか、魔素を多く含むものを食べるなどして魔力の回復を試みるのだという。
「基本的に回路がないといくら魔素を取り込んでいても体内の魔力の循環とある程度の身体能力の向上しかできません」
この部分は真司と宗司にとってとても興味のある内容なのだが、ほかの人にとってはもう常識のことらしく、先生の淡々とした話し方、昼食の後ということもあり、多くの人がうたたねを始めてしまっている。
「回路の中でも生まれたときに魂に刻まれている固有回路といい、無意識のうちに使い方を理解しています。しかし固有回路は一部を除きそう便利なものではありません。そこで誰もが簡単に魔法を使えるように魔法陣、印、詠唱が編みだされました。つまり、今私たちが魔法を使うためには固有回路を使う、魔法陣、印、詠唱の一般回路を使う、そして肉体に後天的に回路を刻み込む、の三つの方法があります。今日は一般回路、俗にいう回路のそれぞれの利点と欠点、そして演習をします。ここ試験に出ます」
先生の最後のセリフで、うたたねをしていた何人かの正とは覚醒した。
魔法陣の利点は、一度覚えてしまえば一生使い続けられること、魔法を使おうと思ってから魔法発動までの時間が3つの中で最も早いことの主に二つ。
欠点は、覚えることが大変ということと魔法陣は相手に乗っ取られる、つまり、自分が発動させた術を不発にさせられたり、自分に魔法が帰ってきたりする可能性があるということ。
印の利点は3つの中で魔法の威力が最も高いことと、何の魔法を発動するのかを相手に悟られにくいこと。
欠点は、両手がふさがること
詠唱の利点は、後追いでの魔法の威力の向上が可能、味方との連携がしやすい。
欠点は、何の魔法を発動しるのか悟られやすい、魔法発動までに最も時間がかかる。
主に、普段は魔法陣、単独での戦闘では印、複数人での戦闘は詠唱、と使い分けるのが理想らしい。
が、すべてを覚えるのは大変なため、たいていはどれか一つに集中して覚えるらしい。
先生は歴史や仮想の状況を例にしながら淡々とこれらのことを説明すると、生徒に課題の紙を配り、残りの時間をすべて課題を解くのにあてた。
課題はかなり難しく、授業が終わって提出できたのはアシロとアミキリ、そしてカイワリの3人だけだった。残りは来週までの課題となり、一日の授業は終了した。
人って色んな性格を併せ持つよね




