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史上最強の4匹  作者: カイワレ大根
12/53

12話 体力の講義

14時。

4人と将軍を合わせた5人は寮から徒歩20分程度のところにあるジムの一部屋にいた。


「よろしくお願いします。ナガツカさん」

「わかった。よろしく」


13時半きっかりに将軍は寮に来訪し、ものの5分程度で本来の目的、『将軍の連絡先をステータス画面に登録』を終わらせ、帰ろうとした。

が、4人はそれを引き留めた。

将軍は4人の話を聞くと「あそこへ行こう」と4人をここのジムへと連れてきた。

部屋は床にジョイントマットが敷き詰められ、中には大きな鏡とサンドバックが3つのみがあった。

だいたい下から150センチメートルのところに大きな窓が3つある明るい部屋だった。


「すまないが忙しい身故全てを教えることはできかねるが、教員に言えば教えてもらえるので更なる高みを目指す場合は教員、もしくは学友に頼むとよい」


そう前置きをして将軍は体力の扱い方の講義を始めた。


「体力とは生きる上で体に必要な力のことだ。普段の生活や運動では、特に意識していないとこれを余計に消費してしまう。そこで体力を欲する場所に必要最低限の量を送ることで身体機能をより向上させる、これが体力を扱うということだ」


そういうと将軍は近くのサンドバックに近づいた。

サンドバックは高さが2メートル、太さは関取くらいはあろうかという大きな袋が鎖によってブランコのようにつるされている。

そのサンドバックに向かって将軍は軽く拳を突き出した。

するとサンドバックは一回転し、そのはずみで倒れた。


「今のが体力を扱って身体機能を向上させたってことですか」


宗司が倒れたサンドバックを持ち上げる将軍を見ながら聞いた。


「正確に言うと、体力を扱って生物本来の力を出した、というところだ」


4人の反応は様々だった。

宗司はとても興味深そうに今の減少を観察し、真司と凛花はサンドバックが吹き飛んだことに驚き、硬直し、正也は目を輝かせていた。


「さて、それでは体力を扱うための訓練をしようと思うが、それには何通りかあるためそなたらの要望を聞いて判断しようと思う。どの程度の苦行なら耐えられそうか?」


将軍の質問に4人が困惑していると、将軍は指を立ててそれぞれの訓練の特徴を説明した。


「一つ、体力を強制的に放出する道具を用いて休まず訓練する方法

 二つ、軽い筋トレやランニング、座禅を、体力の扱える人に指導してもらいながらやる方法

 三つ、体力の扱いにたけた者から体力を送ってもらい、その流れをつかむ方法

 一般的なものは二つ目だな」

「三つ目でお願いします」


即答したのは宗司だった。

将軍は宗司の返答に少し驚いたような表情を見せたが、すぐに了承した。


「じ、じゃあ私は2つ目で」

「俺もそれでお願いします」


凛花と正也は2つ目を選んだ。

残る真司はしばらく考えたのち、一つ目の方法を選択した。


          ―――――――――――――――――――――――――


「あと五分。常に体内を意識しろ」


正也と凛花はかれこれ30分近くランニングマシンの上で走っていた。

凛花も正也も見るからにへとへとだった。


「ちょ、もう無理です」

「無駄口たたく暇があったら体内を意識しろ」

「か、軽い運動じゃなかったんですか」

「体内を意識しろと言っているだろう。話しながら別のことに意識を割ける余裕は、今のそなたにはない」


正也がどんな抗議を言っても将軍は聞く耳を持たなかった。

ランニングの前に一通りの筋トレを行い、これが最後の種目だ。

しかし筋トレの内容もハードなもので、もう腕を動かすのにも違和感を覚える。


「よし、そこまで」


将軍の合図とともにランニングマシンは徐々にスピードを落としていった。

ランニングマシンが停止すると、二人はランニングマシンから降り、凛花は立って呼吸を整え、正也は座って呼吸を整えた。


「休憩するときも体内を意識しろ。今、体の中では体内組織を修復するためにエネルギー、体力が使われている」


将軍は休んでいる二人にいとことそういったきり、話さなくなった。

二人は十分息を整え、そして正也が大きく息を知ってはいた後、将軍に再度質問した。


「あの、軽い運動って聞いてたんですけど」


「息を整えはすぐ後にその質問が来るということは十分に体内に意識を向けていない証拠だ。明日から気をつけろ。あと、この世界ではこれが軽い運動だ」


(選択肢を間違えたかな)


正也は心の中で後悔した。

そして、次の将軍の言葉でその思いはさらに強くなった。


「10分後にもう一度はじめから行う。今はしっかり休憩しておけ」


     ―――――――――――――――――――――――――


ぜぇぜぇ、はぁはぁという声が青空へ吸い込まれていき、声が吸い込まれた先を呆然と真司は見ていた。


「10分後に再開する」


そんな真司に横から将軍が声をかけた。

その言葉を聞き、真司は持っていた杖を握り締めた。

今真司が持っている杖は、初めに将軍に渡された小さいものではなく、真司の身長より少し大きいサイズの杖だった。

今真司がいるのは射撃場だった。

杖は、魔法使いが使うようなおしゃれなものではなく、どちらかというと、ライフルを円筒形にしたようなもので、機械といったほうがしっくり来た。

杖にはスイッチがあり、そこを押している間、強制的に持ち手の体内エネルギー、体力を光と熱に変換して杖の先端から発射され続けた。

修行の内容は簡単なもので、将軍が「よし」というまでビームを打ち続けることだった。

しかし、これが思いのほか大変で、真司は30分ほどでダウンしてしまった。


「これ、きついですね」

「しかし体から体力が抜けていく感覚がわかりやすいだろう?」


体力が抜けた感覚は全力で運動した後の感覚と似て非なるものだった。

立つことはおろか腕を上げることすらできない。そして体が猛烈に酸素を欲している。そのあたりは全力運動の後と同じだろう。

しかし、運動した後特有の骨、関節、筋肉、肺の痛みがない。

その感覚が少し気持ち悪い。


「体力を生み出すには酸素が必要不可欠、休んでいる間はもちろん、修行中も呼吸を意識したほうがいい」


将軍がそう声をかけた10分後、再び体力をカラにするまでビームを撃ち続ける、地獄の修業を行う真司の姿があった。


     ―――――――――――――――――――――――――


動きたい。

動きたくて動きたくて仕方がない。

そんな衝動を理性で押さえつけ、宗司は胸の中心に意識を集中させる。

が、やはり動きたくなって集中が途切れそうになる。


「動かすなら肉体ではなく体内エネルギーにしろ」


宗司の隣から将軍が忠告した。

宗司は今4人が最初に集合した場所に残り、大の字になっている。

宗司の修業内容は、片時も動かず、体力の流れを感じ取ること。

補助として将軍が宗司の胸に手を置き、常に体力を送り続けているが、これたとても苦痛だった。

体のどこも動かしてはいけないのに動かすためのエネルギーは常に供給され続ける、これはかなり斬新な拷問だった。


「体力の流れを常に意識しろ。胸から入って体力がどこにどのくらいの濃度で流れていくのか。そして自分で制御し、胸から流れ込む体力を押し返してみろ」


将軍は軽々やってのけるが、それはとても難しいことだ。

体内エネルギー、体力を操作することは、内臓を自身の意志で動かすことに等しい。

動かしたこともない、そもそも動かせるのかも怪しい、それを動かすコツをつかむのは一朝一夕ではできない。

宗司はかれこれ1時間、指一本も動かさず体力を送られ続けている。

指一本でも動かせば動かした部位を内部から痛めつけられる。

体力を操る将軍にとってそれは造作もないことだった。


     ―――――――――――――――――――――――――


空が赤く染まり始めたころ、将軍は4人を最初の部屋に集めた。

4人は肉体的にも精神的にもへとへとになっていた。


「今日はここまでとする」


4人はあからさまにほっとした。が、宗司と凛花はすぐに思いなおし、将軍に抗議した。


「いや、まだまだいけます」

「そうです。まだ体力を操る感覚がわからないので、もう少しお願いします」


そういう二人の肩にポンと後ろから手を置いたのは正也だった。

正也は振り返った二人に向かって、首をものすごい勢いで横に振った。

その様子を見た将軍は二人を諭すように話した。


「焦る気持ちはわかるが、詰め込みすぎても逆に非効率だ。体力を認識、操るために注意しべきことは教えただろう。不安ならばそれを常日頃から意識すればよい」


その言葉に二人は「わかりました」と返事をし、その日は解散となった。

寮へ帰る途中、四人はそれぞれの修業内容と今日の成果について話し合った。


「みんな大変そうだね」

「お前が一番大変そうに見えるよ」

「仕方ないでしょ、これまでほとんど運動したことなかったんだから」


正也は日ごろの運動不足がたたって、真司に肩を借りないと満足に歩けなくなっていた。


「どう?体力使えそう?私はまだできなさそう」

「俺も無理だな」

「僕は流れる感覚は分かったけど操れそうもない」

「私はちょっとだけ操れるようになったかな」

「そうだよな、体力を操るってむずか、、、えっ?」


真司の答えに正也が少し遅れて反応し、3人は同時に真司のほうを見た。

真司は無言で、正也を支えていないほうの手を前に出した。

すると真司の手のひらから小さな光の玉が出たが、それはすぐに消えてしまった。

1秒に満ちるかという時間だったが、それは確かに体力を放出してできた光球だった。


「はあ、はあ、今は、これが、限界」


真司はその場に立ち止まって息切れを起こしてしまった。


「だ、大丈夫?」


凛花が心配そうに声をかけた。


「・・・もしかして、俺より重症だったりする?」

「・・・いや、ちょっと休めば、、、あっ」


正也は真司の肩から腕をどかして一歩離れた。

その様子はぎこちなかったが、明らかに真司よりは余裕があった。

正也の腕が離れ、真司が両手を膝の上において一呼吸置き、歩き出そうとしたときに何もないところでつばずいてしまった。


「おい」「ちょっ」


3人は真司を支えようと動こうとしたが、疲れがたまってうまく反応できなかった。

そのまま真司が転びそうになったとき、後ろから真司に肩を貸す人かげがあった。


「おいおい、大丈夫か?」

「・・・マブナ?」

「おう、昼間ぶり」


宗司が真司を支えた人物、マブナの名前を呼ぶと、彼は明るく返事をした。


「おめーは元気そうだな」

「佐藤、鈴木、紹介するよ、こっちは僕のクラスメイトのマブナ。マブナ、こっちは友人の佐藤凛花さんと鈴木正也さん」


紹介された正也と凛花は「どうも」と軽く会釈をし、マブナは元気に自己紹介した。


「おらー宗司と真司のダチのマブナだ。よろしく」

「友人って、出会ってまだ一日目なんだけど」

「細け―ことは気にすんな。はげるぞ」


あはは!と明るく笑うマブナを見て凛花と正也は、とりあえず危険な人ではないなと判断した。


「そういえば何でここに?」

「日課のジョギングだよ」

「ジョギングって、こんなところまでか?」

「え?そんな遠くまで来た?」

「僕らの最寄りの駅が学校から二駅隣で、お前反対方向の電車に乗ってたでしょ?」

「あ~そういやそうだな、ちょっとまてや」


マブナはそういうとステータス画面を開いた。


「大体20キロくらい走ったのか。まあ、そんなもんか」

「そんなもんって、ハーフマラソン、、、いやいいや」


常識外れの距離に突っ込もうとした宗司だったが、凛花と正也の話から言っても意味がないことを悟り口を閉じた。


「そんで、真司はどうすりゃいいの?病院?家?」

「近くに住んでるから、そこまで運んでもらえると助かる」

「おけ」


真司はそれだけ言うとぐったりとうなだれてしまった。マブナはその真司を負ぶって3人とともに寮へ向かった。


「シンジ体力全然感じないな。何してたん?」

「それは・・・」


宗司はなんて説明しようか一瞬考えたが、もうそれらしい創作を考える余裕もなかったので、ありのまま答えた。


「へぇ~異世界から。そりゃ苦労するね」


宗司の話を聞き終わったマブナは特に大きく驚きもせず、世間話でも聞いたかのような反応だった。


「ずいぶん軽い反応ですね」


そんなマブナの様子を凛花が不思議そうに尋ねる。


「こちらから言っておいてなんですが、異世界を渡るのは禁忌と聞いていたので、馬鹿にされるか、ものすごく驚かれるものだと思っていました」

「今の反応で”本気にしていない”と判断しないあたり、君は育ちがいいね。それとも疲れてるのかな?」


マブナの返事に凛花は小さく「あっ」と声を漏らした。


「ま、それはともかく、禁忌をみんなが守って切れるなら警察も軍隊もいらないよね」


どうやら禁忌を平気だ破る国はそこそこいるらしく、政府は隠しているつもりだろうがまあまあの頻度で異世界から何かが来ていることはたいていの人が知っているらしい。


「毎年新種のワクチンが出ていればよほどの馬鹿でも気づくわって話だ。あははは!」

「あははは・・・」


マブナの笑いのポイントが分からず、乾いた笑いしか出せない3人だった。


「まあ、クラスのみんなもお前らは異世界から来たんじゃないかって噂はしてるし、あんま張り詰めんなよ」

「・・・え?」


マブナの衝撃的な発言に3人は固まってしまった。


「な、何で、、、」

「ステータス画面開けない人はいるけど、ステータス画面に関するあれこれを知らない人はめったにいねーからな。この世界に住んでりゃいやでも耳にする。あははは!」

「じ、じゃあ、何でそのときに」

「あ?なんか事情があんだろ?本人が言いたくねーのに深掘りはしねーよっと、ここか?」


5人はいつの間にか寮の前にたどり着いていた。

マブナは真司を3人に預けると、薄暗くなりかけている街の中へと消えていった。

4人は各々の部屋に戻り、明日からのことについて考えようとした。

異世界から来たことを多ぴらにするべきか、体力はいつまで修行すれば扱えるようになるのか、体力も使えず、明日からの学校生活は大丈夫だろうか、考えることは山ほどある。

が、疲労からくる睡魔には勝てず、4人は晩御飯も食べるのも忘れて夢の中へと旅立っていった。

この日は、晩御飯前に流れるけたたましい音楽すら耳に入らなかった。

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