10話 白波専門学校、入学
「ここが」
「白波専門学校」
4人は、今日から通うことになった学校、白波専門学校の正門前にいた。その門の大きさと校内の広さに圧倒された凛花と正也が思わずつぶやいた言葉が今の言葉だ。
「今更だけど、私この学校に通っていいのかな?20超えているんだけど」
「俺も、元の世界では引きこもりの中学生だったし」
もとの世界ではすでに働いている真司や、満足な中学生活を送れていなかった正也は、いまさら自分たちが学校に通うことに不安を抱いている。
そんな真司と正也に呆れた宗司は、かなり適当で、適切なことを言う。
「何かあればナガツカ将軍に言えばいいでしょ」
学校の正門をくぐると、正面には本校舎と思われる建物があり、その前に魔法でできているであろう掲示板が置かれ、多くの人が群がっている。
そこは、自分のクラスを確認する場所のようだ。掲示板には学生番号と個人の氏名が書かれており、一番上にはクラス番号が書かれていた。
「私1組だ」
「俺も」
「僕は3組」
「私もだ」
4人がそれぞれのクラスを確認すると校舎に入ろうとした。後者に入るための玄関では少し列ができており、そこで学生番号を回収していた。
無事に後者の中に入り、凛花と正也は1組へ、宗司と真司は3組へと向かった。
宗司は校内の案内に従って3組にたどり着き、教室の引き戸を開けた。しかし、宗司は普通にあけたつもりだが、思ったより、床とドアの間に摩擦が少なかったため、ドンッ、と大きな音を立ててしまった。
「「!・・・」」
「「「「―――」」」」
にぎわっていた教室は静まり返り、数人の視線が二人に注がれた。しかし、宗司が何事もなかったかのように教室に入ると、教室内はまた、数多の声に包まれた。それを見て真司も緊張が解け、教室に足を踏み入れた。
黒板に表示されている席順に座り、宗司は、このクラスの人数と名前をぼんやり見ていた。どうやらこのクラスはおおよそ男女半々なようだ。こういう機械系の専門学校は、ほとんどが男子の割合が占められているものと思っていたので、宗司は心の中で、「珍しいな」と思った。まあ、だからどうということはないのだが。
それからもう一つ気づいたことなのだが、この国では名前、苗字という文化がないようだ。黒板には下の名前しか書かれておらず、宗司と真司が目立っている。
「・・・君がイチジョウ ソウジ君?」
宗司がぼんやりと黒板を眺めていると、横から名前を呼ばれた。
振り向くと隣の席に、だいたい宗司と同じくらいであろう年齢の男子がいた。顔が整っており、金髪の子だ。服も落ちついており、なかなかセンスがいい。そういえば、ホテルや量の洗濯機は乾燥まで30分くらいで行ってくれるため、毎日同じ服を着ていたが、さすがにそれではまずい。宗司は帰ったら買うものを、頭の中のメモに追加した。
「・・・君は?」
「ああ、俺はスズキ。よろしく」
「よろしく。僕は一条宗司」
「珍しいよね、苗字があるって。ねえ、どこから来たの?」
「ちょっと遠めの国から。マイナーだから聞いてもわかんないと思うよ」
宗司は即答した。昨日のうちにこの手の質問にどう答えるかは決めておいた。この世界での異世界という存在の立ち位置が不明な以上、下手な印象をつけられるのを避けるために、宗司は異世界という単語を避けた。
「そうなんだ。・・・”マイナー”って何?」
「あまり有名じゃないってこと」
どうやらこの世界では元の世界のカタカナは通じないようだ。とおもっていたら、
「お前そんなことも知らねーのかよ」
「しゃーねーだろ、方言は苦手なんだよ」
スズキの近くにいた人が話に加わってきた。どうやら一部の英語や和製英語はこの世界では方言というくくりになっているらしい。
「おらーマブナってんだ。よろしく」
「よろしく」
「なあなあ、ステ交換しようぜ」
「あ、俺ともしてくれ」
初めて聞く”ステ交換”という単語に宗司は疑問符を浮かべていると、二人はステータス画面を開いた。
「・・・?開かねーの?」
「ごめん、”ステ交換”って何?」
「あ、ステ交換知らねーの?」
宗司の反応に二人は軽く驚き、ステ交換について教えた。
「ステ交換ってのはステータス画面の魔力を交換して交換した相手といつでも連絡を取れる状態にすることだよ」
「・・・ごめん、よくわからないからやりながら説明してもらってもいい?」
説明を聞いてもよく分からなかった宗司は二人と同じようにステータス画面を開いた。
スズキとマブナは宗司のステータス画面が見える位置に移動し、宗司のステータス画面を見て驚いた。
「ソウジのステータス画面、初期設定じゃん」
「ほんとだ、今まで使ってこなかったん?」
スズキとマブナのステータス画面を見せてもらうと、二人とも画面の形や背景画、レイアウトが工夫されていた。
「いや、親があまりステータス画面使うなっていうから」
宗司は周りから悪目立ちしないよう、それっぽい言い訳を即興で考えた。
「あ~いるいる、お前は武の達人かよって人」
「大変だったな」
苦しい言い訳かと宗司は思っていたが、どうやら一定数そういう考えを持つ人はいるようで、宗司は胸をなでおろした。
「それはいいから、ステ交換のやり方教えて」
「ああ、はいはい」
二人とステ交換をしたことで、この世界のステータス画面の立ち位置が大方理解できた。それは元の世界でいう、スマホやパソコンだ。そう考えれば、戦闘中にステータス画面を開く行為は戦闘中にパソコンを起動するようなもので、危なっかしいことこの上ないし、他人に鑑定やステータス画面を使用する行為は、どれだけ軽く見積もっても盗撮に等しい行為といえる。
そもそも『鑑定』を持っていない人が他人のステータス画面を見るには、対象に触れる必要かあるので、見る以前にアウトだが。
「ん?」
宗司はステータス画面に追加された連絡用アイコンが点滅していることに気付き、アイコンを開いた。このときはじめて知ったのでが、アイコンは「開こう」と思っただけで開けるらしい。
アイコンを開くと、元の世界でもよく見た連絡形式の画面の中に知らないキャラクターのスタンプが張られていた。
そのスタンプの送り主、マブナのほうを見ると、グッドサインを宗司に向けていた。
そのマブナの様子に呆れ笑いを浮かべ、宗司はふと、斜め後ろにいる真司の様子をうかがった。
真司はあれだけ年の差を気にしていた割にはすでに何人かと雑談して楽しそうにしていた。
しばらく捨て、クラスの全員が集まり、各々雑談をやステ交換をしていると、また、ガラガラと音を立てて扉が開いた。
教室に入ってきたのは50~60歳くらいの年より?だった。なぜ”?”をつけたかというと、とても50~60歳には見えない体つきをしていたからだ。
体は大きく、筋骨隆々で、腕の太さが普通の人の首の太さくらいあるのではないだろうか。かろうじて頭の白髪と顔のしわで、おおよその年齢は特定できたが、それがなければ30代といわれても信じてしまうだろう。ちなみに髭は生えていない。
「ほら新入生ども、席につけい」
その老人の号令で、クラス内の生徒は全員自分の席に着いた。
それを確認した老人が自己紹介を始めた。
「わしがこのクラスの担任、オルカじゃ。よろしく」
老人の声は大きく、宗司は後方に座っていたので大丈夫だが、前方の一部の人は耳をふさいでいた。
「早速じゃが10分後に校長からの挨拶じゃ、心して聞けい。それまで自由じゃ」
それを言うとオルカ先生は教卓のいすにドッカリと座った。
座った瞬間の教室は実に静かなものだったが、数秒すればまた生徒の声で教室はあふれかえった。
中には先生に話しかける生徒もおり、先生も楽しそうに話していた。
ただ、先生の声は大きいので、話している内容が嫌でも耳に入る。まあ、話している内容はもっぱら筋トレか、体づくりの話なのだが。
9分後、オルカ先生は教室全体に通る声で「座れい」といい、生徒はそれに従って席に座った。
そして校長先生の話が始まった。というより、それがこの学校の入学式らしい。入学式は教室で校長先生の話を聞く、何とも味気のないものだった。
「本日はお日柄もよく、無事に皆さんをこの白波専門学校に迎えることができ、喜ばしく思います。思えばこの学校が始まり50年。これまで様々なことが―――」
と校長先生の話の途中で放送の音が途切れた。
「つまらん」
切ったのはオルカ先生だった。
「それでは今からお前らに教科書を配る」
そしてそのまま何もない空間から教科書の入ったカバンを取り出し、生徒に配ろうとした。
「ちょっと待ってください」
その様子に前方中央に座っていた生徒が手を挙げて止めた。
「なんじゃい」
「いいんですか、校長先生の話を聞かなくて」
「あいつの話はつまらん上に毎年同じことを言いておる。どうせ今年もこの学校の歴史と生徒がこの学校でどう過ごすべきかを30分くらいかけてやるつもりじゃろう。話の入りでわかるわ。そんなつまらんことを聞いている時間はお前たちにないわ」
そういうとオルカ先生は一人一人の机に回って、教科書の入ったカバンを置いていった。教科書問題集あわせて15冊ほど入ったかばんはかなりの重さだ。一番上には時間割表が置いてあった。
「お前ら、ステータス画面を開けい」
全員に教科書を配り終わると、先生は生徒にステータス画面を開かせた。学校で使われている専用連絡ツール「白波サイト」に登録させるためだ。この学校では、授業や学校に関しての連絡をそれを通じて告知しているという。
全員の白波サイトの登録が完了すると先生は時計を見て考えた。
「よしお前ら、適当な教科書を10分黙読しろい」
急な先生の指示に、生徒たちは手を挙げて質問する。
「どの教科書ですか?」
「なんでもいいわい」
「なんで10分なんですか?」
「あと10分したら入学式が終わる。それまでお前たちを帰すわけにはいかん。そして騒がれるわけにもいかん。それをやられるとわしが校長に怒られちまう」
それを聞いてクラス一同があきれ返った。とはいえほかにやることもないので全員興味のある教科書を開いた。
宗司が手に取ったのは体気力学の基礎に当たる教科書だった。そこには体内には「普段は使われていないエネルギーがある」だの、「座禅や瞑想をすると、それらを引き出しやすくなる」だの、宗教家、小説のようなことが書かれていたので、宗司は、小説を読むつもりでその教科書を読んだ。
それを読んで宗司が思ったことは、「この学校やべえんじゃねえか」ってことだった。
ただ、この本に書かれている内容は一貫しているので、宗司はこの本を飽きずに読んでいた。
「よし、10分たった。各自解散!」
先生はそう言うと教室から出て行った。それに合わせて、生徒たちも教科書を閉じ各々帰り支度を始めた。
宗司も例にもれず帰りの準備を始めた。
帰り支度を済ませ真司のほうに振り返ると真司はまだ教科書を読んでいた。
「僕はもう帰るけど、どうする?」
宗司が真司に話しかけると、真司は少し悩んだ後教科書を閉じた。
「そうだな、私も帰るとするか」
「なあなあ、シンジ、ソウジ」
そうして二人が帰ろうとすると、男女4人の手段に話しかけられた。そのうち二人はスズキとマブナだったが、後の男女は宗司には分からなかった。しかし、真司は二人のことを知っているようだ。
「おお、エンゼル、ソウハチ、あと、、、えっと、、、」
「俺スズキ」
「おらぁ、マブナ」
「おう、よろしく。それで、どうした?」
どうやら女子がエンゼル、男子がソウハチというらしい。真司はスズキとマブナにあいさつすると、ソウハチという子が話し始めた。
「あのさ、学校の近くの武器屋に【名刀・春風】が入荷したらしいんだよ。一緒に見に行かね?」
ソウジと真司は耳を疑った。この世界では学生でも知ってるくらい武器屋が普通に存在し、それが学校の近くにあり、そんな店に名刀が来ることがあるのか。元の世界では考えられないことだ。
今の時間はまだ10時前。せっかくだから見に行こうということになった。
宗司が武器屋に着いて驚いたことがいくつかあった。まずはその近さ。正門を出て10分ほど歩いたところに武器屋はあった。
武器屋の前はガラス張りになっており、その中に名刀があった。そのガラスの周りには人だかりができていた。男性が多かったが、少数の女性も含めて、皆その名刀にくぎ付けになっていた。
そして、驚いたこと二つ目だが、町の人が、武器を持ってその店に入って行ったり、手ぶらで入っていった人が武器を持って出てきたりしていた。
現代日本では考えられない光景だ。町ゆく人は、小刀から拳銃、鞭やライフル、日本刀まで、多種多様な武器を携えている。昨日まで気づかなかったのが不思議なくらいだ、と思っていたら、太刀やライフルなどを持って人は空間や自分の影の中にそれをしまい込んだ。
「ついでだし、なんか買っていくか」
そう言って、マブナは店に入ろうとした。そしてそれに続いて3人も入っていこうとする。
「俺、調整してもらわないとだった」
「いいのあるかな」
そう言って、玩具屋かファストフード店に入るように武器屋に入ろうとする4人に宗司と真司は固まっていたが、真司が正気を取り戻し、4人にたずねた。
「え、武器って買えるの?」
その質問に4人は振り返り、ソウハチが当然といわんばかりに答える。
「うん、16歳以上なら買えるよ」
「君たちの国では買えなかったの?」
「もちろん」
エンゼルの質問に真司は肯定した。もちろん、元の世界全体で見た時には武器を持てるところもあったが、日本ではもたないのが当たり前だ。第一、
「なんで武器買うの?高くないの?」
「武器持ってたほうが安心しない?」
「持ってれば何かあった時対応できるでしょ」
「刀使えるのってかっこいいから」
「銃のあのフォルムがいいじゃん」
真司の質問にエンゼルとスズキが自衛のため、マブナとソウハチがかっこいいからと答えた。
その考えに共感できないことはないが、だからって武器を買うという発想にいたることが真司には分からなかった。
「あ、もしかして、財布持ってきてない?」
「う、うん。持ってない」
「あ~、じゃあ今日は買うのはやめにして帰るか」
武器を買うお金がないことが分かると、ソウハチは武器屋に入るのをやめた。そしてほかの3人も同じように、真司と宗司と帰ろうとした。
「いや、次来た時に買いうものの参考にしたいからみんなが選んでいるのを見てもいい?」
しかし、宗司はそんな4人を止め、武器屋に入ろうとする。
その様子に真司が驚いていると、宗司は真司に近づき、耳打ちした。
「周りが持っているのに僕たちだけ持っていないのは逆に危ないだろ。郷に入っては郷に従えだ」
宗司の言葉に、戸惑いながらも真司は店に入ることに決めた。
真司がこんなに緊張するのは、就活で初めて面接をした時以来だった。




