9話 サクラ、政界財のドンに会ってきました
調査の結果、ある人物の返答次第では、神の雷を落とそうと、サクラは考えていました。その人物とは、ハヤト・マッキンリーと言い、政財界を牛耳る闇のドン。まあ、この星の魔王でしょうか?
3年経っても、一向に好転しません。壊滅のカウントは、そのまま進んでおります。
「サクラちゃん、どーんとやろうよ」
「うーん。大量破壊兵器の製造や、戦争をやろうとしている組織の上の方に、話をしてこようと思うのですが」
「いや、神が下界に降りて、交渉をするなど。いやいや、やめた方がいいよー」
「そこで、話がつかなければ、『神の雷』をくれてやりますわ」プンプン
そこは、都心から50キロメートルほど離れた郊外にありました。茅葺の小さな家。直径500メートルほどの円形の芝生の中に、ぽつっと建っていました。家の前には、枯山水の庭があって、一人の老人が縁側に座っております。
私、サクラは、車でやってきました。厳重なのかどうか、ちょっと微妙ですが、門の両脇には厳つい門番が立っています。横に有る駐車スペースに車を止めて、門番に来訪の旨を伝えました。
老人の名は、ハヤト・マッキンリー。5年前までは政財界のドンと言われた男です。今は、この郊外で、メイド2人と6人の警備員で、静かに暮らしているようです。たまに、来訪してくるものがいるそうです。裏の実力者です。
私サクラは、小さな山門のそばに姿を現しました。
「ナナミ・サクラと申します。今日14時からお会いできるとお聞きしてやってまいりました。あっ!、ボディチェックで身体を触る場合は女性を要望します」
「いや、この金属探知機をお通りいただくだけよろしいので、どうぞ前にお進みください」
(いかつい顔の割には、言葉も声も軟らかいよ)
和服姿のメイドさんの案内で、こぢんまりした和室に通されました。和室にテーブルと椅子はミスマッチな気がしましたが、まあいいでしょう。しばらくすると障子が開かれ老人が入ってきました。
「ナナミ・サクラと申します。お会いできて嬉しく思います。この惑星の神をやっております」
(一瞬、老人の目が細くなったが、『神』という言葉はスルーされました)
「ハヤト・マッキンリーじゃ。要件は、聞いておる。早速、説明してくれるかな? 」
私は、上座に縦1メートル横2メートルのスクリーンを現わしました。
「まず、この映像を見ていただきます。この惑星が12年後に迎えるであろう惨劇です。西国側にある小さな国から、一発目の核ミサイルが発射されます。後は東西から大量破壊兵器の応酬となります」
「もちろん、回避策をシミュレートしてきました。ただ、この星の皆さんの協力があってこその案です。ハヤト様も、子供たちに、この星の最後を経験させようと、お思いでしょうか? 」
「それで、わしに何の用かな? 」
「あなたとあなたの周りは、この壊滅の原因の20%を占めております。政財界のドンとしての立場からの引退を勧めに来ました」
「面白いことを言うな! ワシは、これまで、この国の発展のために尽くしてきた。余生もあと少しで、名誉国民として歴史に残る算段だ。断る! 」
「そうですか、残念です。神に逆らうのですね」
ハヤト・マッキンリーと、その家の周り10キロメートルに『神の雷』を落としました。プンプンです。
「お昼のニュースをお伝えします。先ほど、郊外に雷が落ちて、直径10キロメートルほどのクレータが出現しました。そこには、ハヤト・マッキンリー氏が住む屋敷と庭があったとのことですが、跡形もありません」
「サクラちゃん、思い切ったことをしたね」
「そういう、ホーソンさんに任せると、この星全部に落とすでしょうから!」
東国のグラム宮殿にいる、ゴーガン総帥にも同様に会いにゆき、神の雷を落としてきました。市中は、新兵器が落とされた、どうも人ならざるものの仕業ではないか、魔王が出てきたなどと騒ぎました。
そのように6人ほど潰して2年が過ぎました。そして、壊滅原因の60%を潰すことができたのです。
順調に壊滅対策が功を奏していると思っていましたが、残念なことに3年たつと、元に戻ったのです。
広く、人々の中に、社会の中に根差したものは、上を摘み取っても、摘み取っても、時間がたてば元の状態に戻ってしまうのですね。
「サクラちゃん。これはどうしようもないよ。やはり社会が、良い意味ではないが醸成された結果なのだろう。さあ、いっそ、全部更地にしようか!」
「待って、待って・・・。もう少し様子見を・・・」
そんな、神様のやりとりを、下界の人たちは露とも知らないでいました。各地で起きた『神の雷』は見事にスルーされたのです。
「ぬるい! このままでは壊滅に突入するよ 」
「いいじゃない。僕はどちらでもいいけど 」
私サクラの努力は、報われないのでしょうか。
人口は着実に減ってきています。10年かけて、13億が10億人になりました。
神ヤシロへの参拝も増え、霊脈も徐々に末端まで行き届くようになりました。
一方で、壊滅に関与する者たちの粛清もやってみましたが、元の木阿弥になっています。
世界樹は一向に開きません。閉じたままです。
「だから、言ったじゃない。どーんとやっちゃおうよ」とホーソン神は自分が楽しめれば良いとするスタンスを変えていません。