第76話 知った
昔聞いた話によると、とある、まぁまぁ人気のお化け屋敷を設備する遊園地の話で、本当は怪奇現象なんて起こってすら居ないのに、画像や動画加工で、本当のように思わせて人を呼んだという話がある。
人間は心理的に、人が大勢信じることを信じ、同じ気持ちになるよう感化されやすい。自分には信念がある。と言っても、マークシートで同じ数字が5回連続で続いたら不安になるように、絶対な信念なんて皆無なのだ。
だから、ここに来る人も、揃って普通かそれ以下のお化け屋敷という気持ちで足を踏み入れる。恐怖心は少なくて、そんなにおばけに対して居る居ないの気持ちは、高くない。
だからどう驚かせるか、それは声量と見え方だ。無音から突然、目の前に人間が逆さに出てきたらどうだろうか。暗闇の中で、暗順応した目は確実にそれを捉える。そしてすぐ、本能的に危険を察知して叫ぶだろう。
それが狙いなのだ。だからここでは、神出鬼没よりも、猪突猛進が勝つ。
「俺、才能あるからな」
「聞かなかったことにする。お前のフラグは回収されるのが当たり前だからな」
「今回は違うね」
「変わんない」
何かしらの特別な薬でも飲んだわけでもあるまい。いつも通りアホで抜けた部分のある翔が変わるわけもなく。
「どれだけ驚かせるか勝負するか?」
「だから、俺負けるって」
「ノリ悪いな」
「絶対負けの勝負に、首を縦に振るほどバカじゃない」
癖なのだろう。翔はよく、何かと勝負を吹っかける。自分が不利でも、楽しければそれでいい精神らしく、勝ち負け関係なく。
「そうかよ」
少し残念そうに、まだ幼い子供の感性を持っているのか、落ち込む姿は同い年とは思えない。顔も体躯も、性格を除けば高校生より上に見えてもおかしくはないのに。
そんな翔を見ていると、ふと思う。
こいつは、恋愛を知っているのか、と。
日々、悠々自適に過ごしているようで、女子とも遊んでいる姿はよく見かける。彼女は居たことがないらしいが、それが意図的なものか、更には鈍感だから気づいてないだけか、それを確かめるにもいい機会かと思った。
「なぁ、翔」
スッと出たようにも思えたが、自分の中では結構時間が必要だった。恥らい?があって、普段恋愛なんて、俺からは懸隔した話を出すのは抵抗があったから。
でも、そんな俺のことは見ず知らず、友人だとしても少しの変化にすら気づかない翔は言う。
「ん?勝負する気になったのか?」
「いや、そんなことはないけど、少し聞きたいことがあって」
「何々?改まってる感じ、少し怖いんだけど」
慣れない聞き方。これまで翔に、気になることがあるかとか、聞きたいことがある、なんて言ったことはない。そんなことが、俺の中でこれまでの人生でなかったから。だから俺は、頬をかきながら、無意識に赤らめて聞いていた。
「お前って、恋したことあるのか?」
「恋したことあるのか?って?これまた珍しいな。お前の口から恋とか」
だろうな。無縁だったから。
翔はそんな質問に対して、目を見開きながらも、「んー」と悩んでいた。聞かれたら答える。当たり前のこととは思わないが、いつも通り巫山戯ていじり返さないのは、少し違和感だった。
「好きな人は、これまで出来たことはないな。多種多様に男女関係なく友人になると、そんな恋愛とか興味なくなるし、何よりも友人として遊ぶことで満足してたから、特別な人っていうのは作らなかったな」
淡々と、自分の過去を思い出しながらも、恋をしてないと言う。
特別だと思う人。それが翔の考える好きな人、なのかもしれない。満足してたから、それ以上を求めなかった。まさに俺と対の存在。埋められた、あまり不自由のない感情で、生きてきただろう翔。
それでも、何となく理解はした。
「それじゃ、好きってことは?」
「何?好きな人でも出来たのか?」
「いや、気になることを解決したいから聞いてる」
「ふーん。なんか、風帆じゃない風帆に聞かれてる気がする」
不思議だな、と。一言後につくような言い方。人気の容姿に性格、そんな人のアドバイスは俺からすれば不思議だ。
「けどまぁ、好きについては、俺も分かんね。人それぞれって言うだろ?だから何しても何言っても、それはその人のアドバイスの欠片にしかならない。だからどう活かすかはお前次第だけど、好きってのは多分、その人に寄り添いたいと思うことだな」
「寄り添いたい?」
「相手に悩み事があれば解決したいと思って、楽しみたいと思えば協力したくて、とにかく側にいて、相手を支えたいと思うのが好きってことなんじゃね?」
お決まりの、「知らんけど」を最後に吐いて、無関係ですよとアピールをする。しかし、何となくだが俺にはそれの意味が理解出来た気がする。
好きなんて結局は人がどう思うか。それはそうだった。けれど、誰にも共通することもあったのだ。それが、相手のために、そして相手と一緒に幸せを得たい気持ち、だ。
寄り添いたいと思うのは、相手に同情して仕方なく、ということもある。だから一概にとは言えないのは確かだ。しかし、その上で相手と幸せを紡ごうとするのは、それは一線を超えたいということなのだろう。
ってことは俺は……。
頭の中はこれまで混乱していた。嵐吹き荒れる中で、答えを求めて彷徨っていた。しかし、その嵐も過ぎ去った今、明るくもジメッとした空気感が、俺の中で答えへともう一歩だった。
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